「普通がいい」という病~「自分を取りもどす」10講 (講談社現代新書)
- 講談社 (2006年10月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061498624
作品紹介・あらすじ
あなたの思いこみ、精神科医が治します。自分を取りもどす10講。
感想・レビュー・書評
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尊敬している精神科医の泉谷閑示さんの本。
日頃から人間を徹底的に見つめ、深く洞察されている結晶が、沢山書かれていた。
特にまえがき、第二講、四講はハッとさせられた。
第2項の、パブリックな言葉と内的な言葉について。個人的に、言葉に対するこだわりが割とある方なので、独自の意味を帯びさせてしまっているきらいがある。そんな内的な言葉を、時々そう親しくない人にも使ってしまうことがたまにある。ゆっくりと話して、その言葉について説明できるときは良いのだが、そううまくはいかないので、相手に誤解されたまま、ときには失礼にあたるまま会話を終えることになり、確かに内的な言葉を使う時や場所、相手を考えなければいけないなと反省した。
そして、この2つの側面のある言葉の使い分けをうまくできなくなっているという指摘は、現代をとてもよく表してるなと思った。
覚えておきたいことが多すぎる。でも、忘れてしまうので、備忘録として…
まえがき
人間の特性を理解し、その上で「自分で感じ、自分で考える」という基本に支えられた生き方を回復しなければいけない。
正常と異常の境界線上にあるような視点や言葉が今の時代では失われている。
鬱が治るとは、実際は、「あるべき悩みを悩むようになること」
第二講
言葉には、(内的言語:自分の内側を把握するのにも使われる)と(公共性を持つ言葉)の二つの側面がある。この2つの使い分けができない人が増えてきた。それは、自分と他者が違う内界を持ち、違う価値観で、言葉1つにも自分とは違う意味合いを載せているかもしれないということが想像できないから。
この想像は、自分はこう感じるが、この子はどう感じるか?など、丁寧に観察し、擦り合わせが行われるなど、子育てにも役に立つ。
第四講
『エミール』ルソーより
子供につけさせなければならないただ一つの習慣は、どんな習慣にも染まないという習慣です
お腹が空いていないのに、習慣で3度食事を取る、天候やホルモンなどにより体調は変わるのに、毎日同じ時間に起き寝るなどの習慣は、本来の体の声を聞いていない。
自己形成のイメージ、
あるべき自分になるように足りないところを身につける(粘土や石膏をくっつけていくイメージ)
ではなく、
本来の自分を削り出す(彫刻のイメージ)
をすると良い。
第5講
心由来の深い感情の場合は、それを大切にし、頭由来(しかも心由来のように見せかけている)の場合は、それに振り回されないようにする必要がある。
意識と無意識の間には、浅いところから怒・悲・喜・楽の順に感情の井戸があり、古い怒りから吐き出していかなければ、その先にある本当の楽は発せられない。
三様の変化
駱駝(従順さ、忍耐、努力、勤勉さ)
→獅子(窮屈であることに気づき、怒りが爆発し、1人称の自分の誕生)
→小児(全てあるがままに。創造的な遊びに没頭する)
第六講
角を矯めて、牛を殺す(少しの欠点を直そうとして、かえって全体をダメにしてしまう)
欲望を大欲(より深く本質的な魂の満足に向かうこと)に膨らませていくことにより愛になる。
第七講
絶望とは、残していた一抹の期待をきちんと捨てることである。しっかり執着を断つことによって、真の絶望が訪れ、自由に解放されていく。
繊細で神経質な人が感じていることを、感じないようにすることはできない。無理にやれば離人症になる。
ガラス細工のような壊れやすい純粋さから、螺旋状にグレードアップしながら変化成熟していき、強化ガラスのような強さと純粋さを手に入れる。
第八講
森有正の経験と体験の考え方。
「苦労が身になる人」と「苦労が勲章になる人」の違い。
第九講
すべての良い仕事の核には、震える弱いアンテナが隠されている
第十講
人生の目的を考える→あるところから先へ行くと、目的や目標というものは、ある種の導入に過ぎなかったことがわかる。→目的に向かって、生きることの貧しさや窮屈さもわかってくる→何か大きな流れが私たちを運んでいると感じられてくる。
つまり、自分らしく生きることを追いかけていくうちに、主語の(自分)が消え、天命とでも言うべき、大きな力が自分を動かし生きていることに気づく。
[十牛図]禅の考え
ある者が、牛(本当の自分)を探し、手なづけ、遊び、また牛(牛と自分:本当の自分とそれまでの偽りの自分)はいなくなり、無になり、自然の一部としてあるがままになり、仙人のように暮らし、また人里に下りて、若者に会い、その若者に影響与え、若者がまた牛を探すようになる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
軽やかな筆致で掘り下げられる、人間の生き方。
おもしろかった。
高校生のころ、若い人を主人公にした成長の物語ってたくさんあるけど、中年以降はどうなるのだろう?とずっと不思議に思ってたけど、その問いに答えてくれた。
「敏感で太い」自分、経験は未来に向かって開かれる、螺旋の旅路、十牛図など、印象的な言葉やイメージもたくさん。
西洋東洋、古典と現代作を問わず引用される文献も魅力的で、読みたい本がまた増えてしまった。
読みたかった本を一冊読むたびに、新たに読みたい本が三冊くらい出てきて、雪だるま式に心の積ん読リストが増えていく現象、なんとかならんものかな……。-
snowdome1126さん
こんにちは。
「中年以降はどうなるのだろう?」という、問い、確かに若い頃ありましたありました!とくに、成長物...snowdome1126さん
こんにちは。
「中年以降はどうなるのだろう?」という、問い、確かに若い頃ありましたありました!とくに、成長物語読み終わったあと。
若い頃は中年になった自分なんて、「遥か彼方」…地上から中腹を眺める感じ。未知の世界でしたね。紹介してくれたこの本、読みたくなりました!
ちなみに。
ゲド戦記シリーズで、自分が一番好きなのは「アースーシーの風」ゲドが年取ってからの話。沁みます。2023/02/23 -
workmaさん
共感いただけて嬉しいです〜!
そうそう、まさに、遥か彼方の未知の世界。
遠すぎて、自分の想像が及ばなかったり、関連する物...workmaさん
共感いただけて嬉しいです〜!
そうそう、まさに、遥か彼方の未知の世界。
遠すぎて、自分の想像が及ばなかったり、関連する物事を感じ取る力が充分でなかったのも、あったのかなあ(高校生だから当たり前か……)。
ゲド戦記、子どもの頃に『さいはての島へ』までを読んだきりなんです〜。
続編気になりつつ、未読でした。
わー気になります!!
素敵なおすすめありがとうございます!
『「普通がいい」……』はもともとカウンセラーの武田友紀さんがご著書でおすすめされていて気になったのがきっかけなんですが、いろんな角度で、ヒントが散りばめられている感じなので、機会ありましたら気軽にぜひ^^2023/02/24
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友人の、「あなたは『普通』でないのに、『普通』になりたがっている」という指摘を受けて、
それがそのままの題名になっている本書を手に取った。
現在私は、メンタルクリニックに通院している。
それは、仕事で続いた嫌がらせの為に、
自分を自分として保っていられなくなってしまったからだ。
そんな私のたったひとつの願いが、「普通に戻りたい」であった。
毎日、日記に「普通でいたい」と書き綴っていた。
しかし本書を読んで、考えが変わった。
「頭」で「心・身体」をコントロールできると思っていた自分がいかに思い上がっていたか。
そもそも、一人一人が違った存在であるはずの人間に、「普通」というマジョリティが存在することの不自然さ。
そして、マジョリティ=良いことという盲信は正しいものなのか?という疑問の提示。
知らず知らずのうちに、自分で自分を苦しめていた理由が少しわかった気がした。
わかりやすい題名に、本書を読むまでは何も期待はしていなかったが、
ページを進めるごとに、哲学・宗教・詩集など、幅広い分野からの引用で、
すっと腑に落ちる平易な文章で「自分とは」「普通とは」何だったのか考えさせられる、
『言葉の手垢を落と』し、自分と向き合うきっかけを付与してくれた良書だったように思う。 -
COURRIER JAPON
著名人の本棚
山口周さんの推薦図書より
頭と心と身体の関係について。
ああ、良い本に出会えた。
読むとするすると思考がほぐれて、心がふわふわと軽くなっていきます。。
精神科医であり思想家でもある筆者は造詣が深く、詩、哲学、宗教などの様々な分野からの引用も多く、多面的な論ですっと腑に落ちる。
頭で認識するというより、身体に落とし込まれ染み渡るような感覚の読書体験。
引用されている古今東西のあらゆる言葉たちをこんな風に咀嚼して編み上げ、自らの論旨の説得材料にするのは素晴らしいと感じた。
本を読む、とはこうやって自在に言葉を操る域まで至ること。私はまだまだまだまだ。
読んでいて学びと思考がより深まった。
先人の考えに触れ、いつの時代も人間は普遍的な問いに悩み、考え、感じ、悟り、世界を生きているのだと感慨深い。
名付けられた病は、精神病とカテゴライズされた重苦しい苦難というよりも、あるひと時の心と身体の状況なのだなと考えると、浮き沈みに思える。
頭で考えず、心の声に耳を傾けると、きっと浮いてこれる。
十牛図は見たことがあるが、このような意味を持つのかもしれないと思うと、先人達の生きる知恵を感じる。
愛に溢れた本。
疲れた心に優しく響いていく。
思考の力はすごい。ものは考えよう。
見方を変えたら生きやすく、楽しく、軽やかに。
全日本人に読んで欲しい。 -
今自分が悩んでいる過程がどういうものなのか、またなぜこんなに悩んでいるのかが、この本の文と図で分かりやすく理解出来た。もっと感情を引っ張り出したい。また哲学を学びたいとも思えた。
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子供のころから、人生の意味を考えるタイプの性格だったけど、会社員という駱駝になって、ますますこのままでいいのかなと思っているところに、たまたまこの本に出会えて、目の前の霧が晴れた実感がした。
大通から外れてもいい。自分を満たしてあげることで何者でもない「自分」として、私の小径を、生きるがゆえに生きていきたい。 -
タイトルはよくある自己啓発本ぽいし、論じられている事柄もそれっぽいんだけど、しかし、中身はかなりしっかりしていると思いました。これは、なかなかいい本なのでは? 私は、けっこうこの本気に入りました。この本で論じていることがすべてそのとおりとは思わないし、もうすこし思想の体系性みたいなものがあったほうがいいとも思いましたが、”常識”にはまりこんで硬直化した思考を揺り動かす力をもっていると思います。【2022年11月9日読了】