宗教VS.国家 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061498747

作品紹介・あらすじ

権力をめぐって対峙するカトリック教会と"共和派"の狭間で、一般市民は、聖職者は、女性たちは何を考え、どう行動したか。『レ・ミゼラブル』などの小説や歴史学文献を読み解きながら、市民社会の成熟してゆくさまを目に見える風景として描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • フランスの女性参政権    -2007.04.18記

    1789年の人権宣言をもって革命の先駆をなしたあのフランスにおいて、女性の参政権が認められたのは、第二次世界大戦の終結を目前にした1944年であったという、工藤庸子の「宗教vs.国家」書中の指摘には驚きを禁じ得ないと同時に、おのれの蒙昧を嘆かずにはいられない。
    日本における女性参政権の施行が終戦直後の1945年なのだから、欧米の近代化に大きく立ち遅れた後進のわが国と同じ頃という、フランスにおけるこのアンバランスな立ち遅れはいったいなにに由来するのか。
    女性参政権において、世界の先陣を切ったのはニュージーランドで1893年。1902年にはオーストラリア。06年のフィンランド、15年のデンマークやアイスランドが続き、17年のロシア革命におけるソビエトとなる。
    18年にはカナダとドイツ、アメリカ合衆国は20年で、イギリスはさらに遅れて28年だが、
    1789年の革命において国民主権を謳い、1848年の二月革命によって男子の普通選挙を実現するという世界の先駆けをなしたフランスが、女子においては諸国の後塵を拝するというこのギャップの背景には、一言でいえばどうやら圧倒的なカトリック教会の支配があったようである。フランス国内にくまなく根を張ったカトリック修道院の女子教育などに果たした歴史的かつ文化的役割は、われわれの想像の埒外にあるらしい。
    1866年の調査によれば、フランスの総人口約3800万人のうち、3710万人がカトリックであると答えているという。
    プロテスタントは85万人、ユダヤ教徒は9万人にすぎない、というこの圧倒的なカトリック支配と、数次にわたる革命による共和制の進展が、どのような蜜月と闘争を描いてきたのか、その風景ははるかに複雑なもののようである。

  • 180616 中央図書館

  • フランス史はおろか世界史の基礎知識不足の読者(私)にもわかりやすい。それは著者の専門領域であるフランス文学を引用しながら、史実とその背景を読み解こうとする試みにあると思う。
    フェミニストらしく、「その時女性の立場は」という視点を必ずいれているのも好感。
    政教分離と市民社会について、新書の範囲でよくまとまっていると思う。それ以上は巻末の参考文献をあたればよい。

  •  現在は当たり前となっている「政教分離」の原則がフランスにおいてどのように成立したのかを論じた本。内容は第三共和制(1871-1940)の時代のことが中心になっている。

     フランスでは、ナポレオン3世の第二帝政期から政府とカトリック教会の対立が激化していた。第三共和制が成立すると、教会も市民社会の法律に従うべしという「反教権主義」が生まれ、フェリーなどの政治家は修道士を教育現場から排除するといった政策を採る。

     「国家の宗教からの自由」と言うと聞こえがいいが、教会は学校・病院での慈善活動や地域住民の福祉に大きく関わっていた。第三共和制の時代には国家と宗教の関係を巡って多くの血が流れた。

     フランスは国民の8割がカトリックを信仰する国だが、今はイスラーム系の移民が多く、宗教的理由からベールを纏って登校した女子生徒と学校の対立など、摩擦も絶えない。政教分離の原則とイスラーム教は相容れないと言っていい関係で、難しい問題であると思い知らされた。

     それを考えると、トルコはすごいな。フランスと直接関係ないけど。

  • [ 内容 ]
    権力をめぐって対峙するカトリック教会と“共和派”の狭間で、一般市民は、聖職者は、女性たちは何を考え、どう行動したか。
    『レ・ミゼラブル』などの小説や歴史学文献を読み解きながら、市民社会の成熟してゆくさまを目に見える風景として描き出す。

    [ 目次 ]
    第1章 ヴィクトル・ユゴーを読みながら(文化遺産としての『レ・ミゼラブル』;ユゴーは神を信じていたか ほか)
    第2章 制度と信仰(「市民」どあることの崇高な意味;ナポレオンの「コンコルダート」 ほか)
    第3章 「共和政」を体現した男(第三共和政の成立;ジュール・フェリーと環境としての宗教 ほか)
    第4章 カトリック教会は共和国の敵か(噴出する反教権主義;コングレガシオンへの「宣戦布告」 ほか)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  •  レ・ミゼラブル、フローベール、ゾラなどを読み解きながら当時の歴史事実とリンクさせて、フランスでの政教分離"laïcité"がどのようなものか?というのを歴史的に分析した本。ガチガチの学術書ではないから、それほどしっかりした分析が行われているわけではない。だから、入門書という位置づけが正当かな。フランス史を全く知らず、文学をあまり読んでいないから、雰囲気を知ることはできたくらいだ。残念。。

  • フランス第一共和政から第五共和政までの宗教と政治との関わり合いについて。同時代を扱った他の作品などを理解するための副読本として、理解しておくと良いのかな、という感じ。
    それにしても、鳩山首相のおかげで、友愛が耳慣れた言葉に変わってしまったなぁ

  • in 08/08/25
    out 08/09/16

  • 一読の価値アリ!!
    政教分離の問題、西欧(特にフランス)における宗教の扱いの近代史がわかりやすく解説されています。

    例のスカーフ事件も、フランスの歴史的な観点から解説されているのでなかなか興味深い。

    宗教問題というのは日本人には縁遠い感じなのでとっつき難い部分もあるかもしれませんが。

  • フランスに旅行したとき、意外にも黒人が多かったことに驚いた。フランスの移民の歴史については大学のとき学んだけど、まさかこれほど多いとは、と思った。民族問題と関わってくるのが宗教、とりわけフランスでは政教分離というスタイルだ。黒人移民は主にイスラーム圏からなのだが、それを象徴する事件として、少し古いが15年ほど前にあった、学校にスカーフをして登校したイスラームの女の子が、宗教を教育の場に持ち込んだとして学校に入れないという事件があった。さらにはスカーフ禁止法という法律まで成立させる徹底ぶり。なぜフランスはこれほどまでに政教分離に固執するのか。そのためにフランスの政教分離の歴史をみていくというもの。日本とはちがう国の政教分離の過程が知ることができる意義深い本だと思う。しかし、著者はイスラームの移民が厳格に宗教を守る姿をアピールするのには宗教上のみならぬ別の理由があると述べて本書を締めくくっている。その理由とは現在のフランスが抱える問題への彼ら、彼女らのシュプレヒコールでもあるのだ。

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著者プロフィール

フランス文学、ヨーロッパ地域文化研究。東京大学名誉教授。著書に、『ヨーロッパ文明批判序説──植民地・共和国・オリエンタリズム』『近代ヨーロッパ宗教文化論──姦通小説・ナポレオン法典・政教分離』『評伝 スタール夫人と近代ヨーロッパ──フランス革命とナポレオン独裁を生きぬいた自由主義の母』(いずれも東京大学出版会)、『政治に口出しする女はお嫌いですか?──スタール夫人の言論vs.ナポレオンの独裁』(勁草書房)。訳書に、『いま読むペロー「昔話」』訳・解説(羽鳥書店)、コレット『シェリ』(岩波文庫)。編著に『論集 蓮實重彥』(羽鳥書店)、共著に『〈淫靡さ〉について』(蓮實重彥、羽鳥書店)。他、多数。

「2019年 『女たちの声』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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