ゲーム的リアリズムの誕生~動物化するポストモダン2 (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061498839

感想・レビュー・書評

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  • 2022/2/10読了。
    短期集中独学講座「ライトノベル概論」の七冊目として読んだ。たぶん初版当時以来の再読。オタクデータベース消費型ポストモダン文学としてのライトノベル/美少女エロゲーの「環境分析的読解」というのは今読んでも面白かった。
    ただ、分析されている対象のコンテンツにはあまり魅力を感じなかった。環境分析的な読み方を批評家がするのを横から見てる分には面白いけれど、まずは普通に自然主義的な読解のレベルでエンタメ読書を楽しませてくれないと、僕などは困ってしまう。『All You Need Is Kill』はともかく(あれは実際読んでなかなか楽しめた)、他の美少女エロゲーにはまったく楽しめそうな期待が持てない。なぜだろう。
    むろん、僕がそのデータベースを共有していないから、そこにアクセスできないからに決まっている。
    要するに僕がオタクじゃないからだ。あるいは半端なオタクだったからだ。これでもライトノベルのゆりかごとなった80年代90年代のオタクカルチャーのいくつかや、スニーカー文庫ならぬソノラマ文庫のような小説や、ゲームのような小説ならぬゲームブックなんかに関しては割とアーリー・アダプターなつもりだったんだが、美少女エロゲーをまったくカバーしていなかったのが致命的だったんだろう。絵よりも生身の女の子と仲良くなることにばかり興味関心性欲を向けていたのが、ポストモダン下ではきっと致命的に不健全な思春期の過ごし方だったに違いない。
    僕がライトノベルを読むときに感じるあの生理的な不快感とは、この「オタクデータベースからの疎外感」によるものなのだろうか? 違うだろうなあ、という気がするのだ(この短期集中独学講座を始める前からそういう気はしていた。あとエロゲー的だったりBL的だったりといった自分と異なるセクシャリティを持つものに対する抵抗感だとか、オタク嫌悪だとかいった陳腐で単純な答えでないことも前から知ってる。そこは区別して考えている)。
    著者の言う大きな物語に取って代わったデータベースが小さな物語を量産する状況がさらに進んで、小さな物語から生まれた要素が元のデータベースに還元されずに別の小さなデータベースを量産するような、データベースと物語が互いを細かく切り刻みながら縮小再生産を続ける負の循環、データベース規格の乱立・分断・島宇宙みたいな状況に陥っているとすると、僕はもうデータベースにアクセスできないどころか個々のデータベースの存在すら知らない。それどころかデータベース規格をいくつも切り替えながらでないと生きていけないことすら知らないような、そんな旧世代なやつにライトノベルを読む資格はないし、ライトノベルのDNAが広く拡散してしまった現代のエンタメ小説を読むときにも、多かれ少なかれその困難を我慢しなければならない。ということはあり得る。
    でもそういう状況で知らないデータベースを背景に持つコンテンツに対して僕が示すのは、せいぜい「無関心」「何が面白いのか分からない」「放置」の態度であって、フィジカルな反応を伴う生理的な不快感ではないはずだ。僕は短期集中独学講座を始める程度にはライトノベルに関心を持っている。僕だってライトノベルの面白さが分かるといいなと思っているのだ。ライトノベル的な臭いのするエンタメ小説を臭いを気にせず読むためにもこれを放置しておくわけにはいかないのだ。
    猫が好きなのに猫アレルギーみたいな、なんだこれ。大塚英志に聞いても東浩紀に聞いても教えてくれないなら、誰に聞いたら分かるんだろう。

  • 動物化するポストモダンの延長で今それを体現している文学について書いてある本。ライトノベルや今の前衛的な作品のメタさゲーム世代の感覚や感性がよくわかると思う。結構な射程のある本だと思うし随分とスッキリした。

  • オタク世界をちょっとかじっただけの自分でしたが、「なるほどなぁ」と楽しく読めました。
    舞城王太郎さんを知るきっかけにもなった一冊です。
    「九十九十九」の最後の方の見立てのくだりがすごく好きです。


    ん、これは「九十九十九」の感想になっている…?



    この本のおかげで
    →メフィスト賞巡礼
    →西尾維新


    って読書領域が広がりました。
    そう考えるとなんとなく懐かしい気分。

  • 本書にも言及のある通り、社会と物語との関係について述べたもので、ラノベや美少女ゲームが考察の中心。
    キャラクター小説、データベース消費、まんが・アニメ的リアリズム、ゲーム的リアリズム、想像力の二環境化、自然主義的読解、環境分析的読解、コンテンツ志向、コミュニケーション的志向、文体の半透明性。
    本書で言及される世界に初めて立ち会う人でも分かるくらい説明が丁寧でありつつ、その主張は斬新。
    前半の理論編は個人的にかなり参考になった。
    背景知識が豊富な著者なので説得力がある。宇野氏がゼロ想で批判していた点も見直してみたい。

  • 思想的背景からサブカルチャーを理解する手がかりとしてお勧めだと思います。

  • 前作よりも刺戟的。
    なるほどキャラクター小説の読み方とはこうか、とひざを打つことしばし。
    もちろん作品の選定に偏りはあるとはいえ。
    さすがあずまん。

  • 「物語」は不定形なものであり、書き方も、読み方も、それが姿を現す場所も、昨今においては、確率論でしかないように僕には思えていたのだけど。

    その考えを大きく覆してくれた、『ゴーストの条件〜クラウドを巡礼する想像力〜』(村上裕一)から遡ることで、本書へと辿り着いた。

    これはもう、東さんかっけー! という気持ちしかない。

    美少女ゲームやキャラクター小説も、実際に自分で触れ、しかもかなり深いところまで入り込んでいるため、統計データで語られるものとは、言葉の熱もまったく違う。

    読んでいるこちらのテンションが上がってくるのは、全体を通して、肯定的な目線で先を見据えて書かれているからだろう。

    本書で説明される、「自然主義的読解」と「環境主義的読解」については、さまざまな作品を理解し楽しむうえで、たしかに両方が必須になっていると感じる。

    そして、純文学だエンターテイメントだ萌えだゲームだと、分別している場合ではないと、より強く思った。

    説明もていねいで、具体的な作品の読み解きも熱く、面白すぎて息切れした。

  • 「80年代生まれの第三世代オタク」をライトノベルや美少女ゲームあたりから論じていたもの。
    今のその辺がはやってる状況だから、必然的にその消費世代への言及が多かったんでしょうか。

    ちょうど自分の世代の話(どちらかというと男性向けの話が多めでしたが)で面白かったです。
    遥か3の時空跳躍な設定は、男性向けのあたりを参考に作ったのかも知れませんね、と思ったり。

  • 僕の思考はまずDBを経由して、架空の物語を形作る

  • 前作より批評寄りな気がした。しかし読み物として非常に面白い。 ナイス!

著者プロフィール

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』など。

「2023年 『ゲンロン15』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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