生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

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  • 講談社
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本棚登録 : 9767
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061498914

感想・レビュー・書評

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  • 2007年の大ベストセラーで、新書大賞、サントリー学芸賞を受賞。
    長年、私の本棚に積読状態にあったが、かつての名著を読んでおこうと思いたち、読み始めたら、無性に面白く、分子生物学という特殊な分野にしては、比較的分かり易く書かれています。

    「生物と無生物のあいだ」というタイトルは内容について誤解を招くかも知れません。タイトルからは、無生物に近いウイルスの話と勘違いされそうだが、本の内容は「生命とはなにか?」ということを、著者のアメリカでの研究生活と、遺伝子を含めた分子生物学の歴史の変遷を交えながら説明したものです。

    著者がアメリカでの研究のスタートを切ったニューヨークにあるロックフェラー大学を知る人は少ない。設立当初はロックフェラー医学研究所と呼ばれており、世界各地から人材を集め、基礎医学と生物学に特化し、次々と新発見を打ち出し、ヨーロッパ中心だったこの分野をアメリカに引き寄せた。野口英世もかつてはここで研究をした。

    話は脱線するが、野口英世について。
    日本人なら誰でも知っている偉人伝ストーリーの人物だが、アメリカでの評価は全然違い、今では誰も知る人はいない。
    彼の業績、つまり梅毒スピロヘーターの純粋培養、ポリオ病原体特定、狂犬病病原体特定、黄熱病の研究成果等々は、発表当時は評価を受けたが、多くの結果は、病原体がウイルスであったりして、今日では否定されて、全く顧みられることもない。むしろヘビードリンカーであり、結婚詐欺まがいの行為を繰り返したりする生活破綻者に近いと評価されている。(「遠き落日」のモデル。著者:渡辺淳一)
    パスツールやコッホの業績は時の試練に耐えたが、野口の仕事はそうはならなかった。野口の研究は単なる錯誤か、故意によるデータ捏造なのか、はたまた自己欺瞞により、何が本当なのか見極められなくなったのか、今となっては確かめるすべがないと、著者は述べている。
    これを読んで、2014年の理化学研究所の小保方晴子の「STAP細胞」の論文事件を思い出す。

    話を本題に戻します。
    「生命とは何か?」それは「自己複製を行うシステム」であるというのが、20世紀の生命科学が到達したひとつの答えだった。
    1953年、科学専門誌「ネイチャー」にたった2ページの小論文が掲載された。ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックによる、20世紀最大の発見と言われるDNAの分子構造「二重らせん」の発見がそれだった。

    ただこの発見には、ロザリンド・フランクリン(英国の女性研究者)の研究成果を盗み見たという「暗い陰」というか、「20世紀最大の発見にまつわる疑惑」がある。彼女はワトソン達がノーベル賞を受賞したことも、そして自身のデータが彼らの発見に決定的な役割を果たしたことさえ知ることもなく、彼らのノーベル賞受賞の4年前に37歳の若さでこの世を去った。
    この例だけに限らず、大発見の裏側には、数知れないアンサング・ヒーロー(an unsung hero≒縁の下の力持ち)がいる。

    「二重らせん」の発見で定義づけられた「生命とは自己複製を行うシステム」という提議から、筆者の理論はそこからさらに展開する。

    海辺で貝殻をみたとき、そこに石には無い生命の息づきを感得できるのは、「複製」とはまた違った何かであり、その貝殻の模様は動的な生命のみが生み出せる秩序で、その動的な秩序にこそ生物の本質がある、という論旨だ。
    すべての物理的プロセスは、物質の均一を目指しランダムに拡散するようにエントロピー最大の方向へはたらき、それに達して終わる。これをエントロピー最大の法則と呼ぶ。
    それでは、生命体におけるエントロピー最大の状態とは、すなわち生命というシステムの死を意味する。
    それでもなお生命がエントロピー最大の状態に入り込むことはなく成長し、自己を複製し、長く生命活動を行えるということは、その自身の持つ秩序を維持する能力と、秩序ある現象を新たに生み出す能力を持っているということが言える。その死への法則に抗う唯一の方法とは、生命というシステム自体を流れの中に置き、その内に発生するエントロピーを排出することだ。やがては崩壊する構成成分をあえて先回りして分解し、再構築を行うことで、その秩序を保つのである。そのような動的な活動を通して我々生物の生体システムは常に流れの中にあり、秩序を維持できている。

    このような観点から筆者は「生物とはなにか」を次のように再定義する。
    「生命とは動的平衡(dynamic equilibrium)にある流れである」

    最後の部分は私なりに咀嚼できていないので、分かりづらいと思います。
    それは私の説明能力の不足なので、詳細はやはり本書を読んでいただくしかないと思います。

  • めちゃめちゃ面白く完成度が高い。生物学の本でありつつ生物の神秘性を柔らかいながらも直球で感じさせてくれる。読んで損はない本。

  • 茂木健一郎の帯を見て

    生物学分子生物学の歴史
    遺伝子の構造解析から
    現代の遺伝子地図に至るまでの
    発見応用とトピックス

    大変面白くよくわかる
    難しい内容を分かりやすく説明している

    野口英世の話はあちこちで引用されている
    けっこうメジャーなんだ

  • 私には難解な内容だったが、著者の美文に引き込まれて、あっと言うまに読み青えたという感じ。
    『生命とは動的平衡』という考えが良く理解出来た。
    率直に「生命を機械的に、操作的に扱うことの不可能性」と結論してしまう科学者の精神の強靱さには感嘆してしまう。

    些か的外れかも知れないが『生命の動的平衡』ということから、「いのちは個々に所有するものではなくて、大きなひとつで生物はそれを一定期間分け合っている」という仏教的な思想を思い出してしまった。

  • 「動的平衡」の福岡伸一教授が自身の研究とそれに関連する、DNAなどの重要なたんぱく質発見までの歴史をまとめつつ、「生物はなにか」という根源的なテーマに触れた一冊です。

    まず最初はロックフェラー大学における、野口英世のありのままのエピソードに始まり、日本人にとってのヒーローとしての像を覆します。

    そこでウイルスという、当時見つけようのなかった、「生物と無生物のあいだ」に位置する物質について、さらにはワトソンとクリックによりDNA発見の歴史の裏話、また別の「生物と無生物のあいだ」に位置する多種のタンパク質発見の変遷がわかります。

    研究室と言う狭い世界で、天才たちによって繰り広げられるドラマも描かれており、とても興味深いです。
    PCR発見のエピソードなど、とても感動しました。

    やはり福岡先生の文才はすごいなあと感じさせられます。
    オススメします。

  • 正直、何の話なのか、よく分からない。生物と無生物の違いについての話なのかと言えば、そうではない。もっというと、生物とは何か、どころの騒ぎではない。とにもかくにも、面白くて引き込まれ、あっという間に読んでしまった。著者は、なんとも計り知れない人だ、と思った。

    一体この本について、なにから書けばいいんだろう?野口英世についての意外な話、中盤のDNAをめぐる様々な登場人物、著者の研究にまつわるエキサイティングな経過と意外な結末、そこから導き出した「生命の本質」。四季折々のアメリカの風景、なにげないけど印象深い登場人物たちも、じわじわと大きな流れの一つとして沁みてくる。
    そうして見えてくる、動的平衡の実感・・・昨日の私と、明日の私は、同じ私ではない、という真実。深遠なる生物の仕組み。人間が生命を「いじる」ことの罪深さ・・・自分という存在が、とてつもなく不思議に思える。
    私たちは、生命の真理にたどり着けるのだろうか。。。

  • "素晴らしい著書。筆者は、科学的知識のない一般の人々に、見事なわかりやすい比喩を用いて生命の営みを伝えてくれる。小さな細胞、原子、核から生き物が普遍性を持って機能している仕組みを喝破する。
    本当に面白い。ただ、私はこの本の内容を正確に他人に伝えるまでには至っていない。
    理解した気分にいる程度。この本を読んだきっかけから科学者を目指す人がきっと出てきます。
    そんなことになったら著者が一番喜ぶのだろうなぁ"

  • 動的平衡より先に本書を読みました。
    私は文系なので、理系の知識は一切ありませんが、専門的な用語を無視して読んでも大変興味深い作品であると思います。
    福岡先生の文章の滑らかさは圧巻で、小説を読んでいるかのような錯覚に陥ります。
    また、理系の方ならではの着眼点や理論構成は、文系の方にとっても非常に勉強になるものであると考えます。

  • 自己複製を行う(第1~7章)、動的な平衡状態にある(第8~10章)、不可逆的な時間の流れの上にある(第11~15章)――
    生命とは何かという問いに対する一般的な答えから、もう一歩進んだ定義、そして生命観を支える生命の真髄へと迫っていく生命科学の本。

    肉付けはポスドク・シンイチが垣間見た世界の分子生物学研究室の歴史物語で、何度読んでも引き込まれる情感豊かな楽しい科学読み物です。
    また講談社現代新書の理念にある通り、中等教育程度の知識でも遺伝子の本体DNAや体の構成素タンパク質の深い理解を得られます。

    起こりうる各種の損傷に対して被害を避ける仕組みを備えていることが、生体の正常な働きを保証し、そして生物をミステリーの宝庫にしたのでしょう。

  • 生命の神秘。
    生命は動的平衡の中にその姿をとどめている。
    時間という流れの中に一回性を持って形をとどめおく。

著者プロフィール

福岡伸一 (ふくおか・しんいち)
生物学者。1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て、青山学院大学教授。2013年4月よりロックフェラー大学客員教授としてNYに赴任。サントリー学芸賞を受賞し、ベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)、『動的平衡』(木楽舎)ほか、「生命とは何か」をわかりやすく解説した著書多数。ほかに『できそこないの男たち』(光文社新書)、『生命と食』(岩波ブックレット)、『フェルメール 光の王国』(木楽舎)、『せいめいのはなし』(新潮社)、『ルリボシカミキリの青 福岡ハカセができるまで』(文藝春秋)、『福岡ハカセの本棚』(メディアファクトリー)、『生命の逆襲』(朝日新聞出版)など。

「2019年 『フェルメール 隠された次元』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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