生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 1328
  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061498914

作品紹介・あらすじ

生きているとはどういうことか-謎を解くカギはジグソーパズルにある!?分子生物学がたどりついた地平を平易に明かし、目に映る景色をガラリと変える。

感想・レビュー・書評

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  • 20世紀の科学は、生物と無生物を分けているものは何か?という問いへの答えの一つとして「自己複製を行うシステムである」というものを与えた。この定義の下では、ウイルスも生命と分類される。しかしながら、ウイルスは一切の代謝を行わず、たくさん集めれば結晶化することさえできる。これは一般の細胞とは明らかに異なる特徴である。ならば、生物と無生物を分ける定義は、他にどのようなものがあるだろうか?

    この問いに対して、DNAの二重らせん構造の発見とその後の生命現象へのさらなる理解の経緯、はたまた著者の経験したアカデミックな世界の裏話などを交えながら考察していくという内容だった。もっとお堅い内容かと思っていたが、とても読みやすかった。

    著者の通っていたロックフェラー大学には野口英世のブロンズ像があるが、米国での彼の評価は伝記や教科書に載っているような偉人的なものとは異なる(このあたりを詳しく書いてあるという『遠き落日』も読んでみたい)ということや、研究室の技術員とバンドの二足の草鞋を履く同僚の話、最近話題のPCR法の原理や、それを発明した化学者のエピソードなどの小話が非常に読んでいて面白かった。「死んだ鳥症候群」のくだりはアカデミックな世界だけに留まらず共感する人も多いのではなかろうか。

    専門的な内容もかみ砕いて説明してくれており、この手の話に詳しくない人でも楽しんで読むことができると思うので、「自己複製するもの」という定義以外に生物と無生物を分けるものは何かという表題への答えは、是非読んで確かめていただきたい。

  • 2007年の大ベストセラーで、新書大賞、サントリー学芸賞を受賞。
    長年、私の本棚に積読状態にあったが、かつての名著を読んでおこうと思いたち、読み始めたら、無性に面白く、分子生物学という特殊な分野にしては、比較的分かり易く書かれています。

    「生物と無生物のあいだ」というタイトルは内容について誤解を招くかも知れません。タイトルからは、無生物に近いウイルスの話と勘違いされそうだが、本の内容は「生命とはなにか?」ということを、著者のアメリカでの研究生活と、遺伝子を含めた分子生物学の歴史の変遷を交えながら説明したものです。

    著者がアメリカでの研究のスタートを切ったニューヨークにあるロックフェラー大学を知る人は少ない。設立当初はロックフェラー医学研究所と呼ばれており、世界各地から人材を集め、基礎医学と生物学に特化し、次々と新発見を打ち出し、ヨーロッパ中心だったこの分野をアメリカに引き寄せた。野口英世もかつてはここで研究をした。

    話は脱線するが、野口英世について。
    日本人なら誰でも知っている偉人伝ストーリーの人物だが、アメリカでの評価は全然違い、今では誰も知る人はいない。
    彼の業績、つまり梅毒スピロヘーターの純粋培養、ポリオ病原体特定、狂犬病病原体特定、黄熱病の研究成果等々は、発表当時は評価を受けたが、多くの結果は、病原体がウイルスであったりして、今日では否定されて、全く顧みられることもない。むしろヘビードリンカーであり、結婚詐欺まがいの行為を繰り返したりする生活破綻者に近いと評価されている。(「遠き落日」のモデル。著者:渡辺淳一)
    パスツールやコッホの業績は時の試練に耐えたが、野口の仕事はそうはならなかった。野口の研究は単なる錯誤か、故意によるデータ捏造なのか、はたまた自己欺瞞により、何が本当なのか見極められなくなったのか、今となっては確かめるすべがないと、著者は述べている。
    これを読んで、2014年の理化学研究所の小保方晴子の「STAP細胞」の論文事件を思い出す。

    話を本題に戻します。
    「生命とは何か?」それは「自己複製を行うシステム」であるというのが、20世紀の生命科学が到達したひとつの答えだった。
    1953年、科学専門誌「ネイチャー」にたった2ページの小論文が掲載された。ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックによる、20世紀最大の発見と言われるDNAの分子構造「二重らせん」の発見がそれだった。

    ただこの発見には、ロザリンド・フランクリン(英国の女性研究者)の研究成果を盗み見たという「暗い陰」というか、「20世紀最大の発見にまつわる疑惑」がある。彼女はワトソン達がノーベル賞を受賞したことも、そして自身のデータが彼らの発見に決定的な役割を果たしたことさえ知ることもなく、彼らのノーベル賞受賞の4年前に37歳の若さでこの世を去った。
    この例だけに限らず、大発見の裏側には、数知れないアンサング・ヒーロー(an unsung hero≒縁の下の力持ち)がいる。

    「二重らせん」の発見で定義づけられた「生命とは自己複製を行うシステム」という提議から、筆者の理論はそこからさらに展開する。

    海辺で貝殻をみたとき、そこに石には無い生命の息づきを感得できるのは、「複製」とはまた違った何かであり、その貝殻の模様は動的な生命のみが生み出せる秩序で、その動的な秩序にこそ生物の本質がある、という論旨だ。
    すべての物理的プロセスは、物質の均一を目指しランダムに拡散するようにエントロピー最大の方向へはたらき、それに達して終わる。これをエントロピー最大の法則と呼ぶ。
    それでは、生命体におけるエントロピー最大の状態とは、すなわち生命というシステムの死を意味する。
    それでもなお生命がエントロピー最大の状態に入り込むことはなく成長し、自己を複製し、長く生命活動を行えるということは、その自身の持つ秩序を維持する能力と、秩序ある現象を新たに生み出す能力を持っているということが言える。その死への法則に抗う唯一の方法とは、生命というシステム自体を流れの中に置き、その内に発生するエントロピーを排出することだ。やがては崩壊する構成成分をあえて先回りして分解し、再構築を行うことで、その秩序を保つのである。そのような動的な活動を通して我々生物の生体システムは常に流れの中にあり、秩序を維持できている。

    このような観点から筆者は「生物とはなにか」を次のように再定義する。
    「生命とは動的平衡(dynamic equilibrium)にある流れである」

    最後の部分は私なりに咀嚼できていないので、分かりづらいと思います。
    それは私の説明能力の不足なので、詳細はやはり本書を読んでいただくしかないと思います。

  • 細菌とウィルス、DNAの二重らせん構造、そして福岡先生の動的平衡。これら生物学での発見についてのストーリーを、学会の構造や大学での生活などのエピソードも交えつつ語った作品。2007年と少し前の作品だが、当時のベストセラー。生物のしくみのなんと巧妙なことか。それを語る、研究者とは思えない福岡先生の見事な文章にも惹かれる。

    コロナウィルスに挑む今、巷にあふれる様々な情報に流されないために、本書に書かれている基本的な生物学の知識は役に立つ。

  • これは一つの命題に対する「界面の物語」、なのでしょうか。
    普通に店頭で見かけても、スルーしていただろうなぁ、、との一冊。

    エビカツ読書会でご紹介いただき、縁あってお譲りいただいて、拝読いたしました。
    完全な理系の世界のお話しなのですが、とてもわかりやすく読めました、多謝。

     ”それは自己複製を行うシステムである。”

    「生命とは何か?」、冒頭で既に出ている答えの一つは、
    自己複製を行うシステムであるとのこと、、ですが、続きがあります。

    もう一つのファクターについて、著者の過去を含めて、
    その思考経路をたどりながら、追い求めていく事になります。

     ”生命とは動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)にある流れである”

    ん、以前、ドラマか何かの恋愛ネタで「DNAレベルから引き合っている」、
    なんてフレーズを見た覚えがありますが、なんとなく実感したりも。

     ”生物には時間がある。”

    ラスト、なんとも哲学的なフレーズに行きついた上で、解きほぐされていきます。
    時間という概念と、その不可逆性が指し示す「生命」とは、、さて。

    どこかミステリーのようでいて、でも、システマチックなガイア理論をも喚起させたりと、
    時間という絶対者から、生命として生まれた時に付与されたその「絶対の概念」の行きつく先は、、

    生命とは何か?、ある種の哀切さが残る読後感でした、だからこそ美しいのでしょうけども。

  • このサイトだけでも、およそ9000人の方が登録していて感心した。
    む。難しかったけどなー。

    きっと、良いレビューは他に沢山あると思うので、私は自分勝手な感想を。

    そもそも、「生命」とは何か。
    この問いにp167でこう答える。

    「生命とは動的平衡にある流れである」

    なるほどー!っと思えるなら素養がある。
    更に調べてみた。「動的平衡」とは何ぞや。
    「互いに逆向きの過程が、同じ速度で進行することにより、系全体としては時間変化せず平衡に達している状態。」んー。
    状態としては変わらないが、中身は常に新しくなっているということ。
    その「流れている」という状態を常に保ち続ける秘訣とは何か、という話なのでしょう。

    ある程度の曖昧さの中でも修復可能な面があるかと思いきや、一度折りたたまれるとやり直しの効かない面もあって、なんというか不思議の一言。

    詳しく分かったか、と言われると微妙だけれど、どのように迫っていくと何が分かるかという過程の面白さはあるように思えた。

  • 細胞の外側が内側になって、それから外に、というインシュリン生成のお話は実に興味深かったです。思いつきもしない、そして洗練されたメカニズム。こんな仕組みが自然発生的に作られるものだろうか・・・(けっして神を信じているわけではありません)
    あとがきのエピローグ、とてもいいです。

  • take out:
    生命の定義は、自己複製するシステム、動的な秩序(エネルギー的要求とは無関係に、生命は食事によって体内の分子の入れ替わりを行っている。生命とは代謝の持続的変化である)

  • 「私たちは、自然の流れの前に跪(ひざまず)く以外に、そして生命のありようをただ記述する以外に、なすすべはないのである」(エピローグより)
    センス・オブ・ワンダー。その言葉がこの本に一番似合う。作者と、そして幾多の生物学者たちが丹精を尽くした奇跡と、そこから生まれる美しい発見がドキュメンタリーとしてまとめられている。とても内容の濃いNHKスペシャルという感じ。真理に触れたような、まぶしい読書体験だった。

    常に「新陳代謝」する。それこそが生命であり、生きるということ。だとすれば、その集合体である地球という巨大な生命も代謝こそが要であり、その中間レイヤーに位置する人間社会という生命も代謝が要なのかもしれない。
    なんて、自分ゴト化するように拡大解釈してみたけど、そもそも社会なんていうシステム自体もひと時の現象であり取るに足らないことだとも思えて、自分の生きる軸をどこに設定するかを考えさせられる。とある先輩が将来の夢を「地球と一体化すること」と語っていたのを思い出す。


    以下は気づきmemo

    なぜDNAは二重らせん構造なのか?それはA=T、C=Gという4つの文字が凹凸関係になっていて、どこか片方が欠けても対関係から修復できるし、かつ二重らせんがそれぞれ分かれて自己複製できるためなのだ。

    なぜ原子はこんなにも小さくなくちゃいけなかったのか?それは拡散という物理現象おいて粒子が多ければ多いほど秩序の精度を高めることができるから。だから原子はこんなに小さい、つまり生命はこんなに大きい必要があったのだ。

    生命はなぜ代謝を繰り返すのか?「エントロピー(乱雑さ)増大という物理法則は容赦なく生体を構成する成分に降りかかり、高分子は参加され分解され、集合体は離散し、反応は乱れる」だからこそ「やがて崩壊する構成成分をあえて先回りして分解し、乱雑さが蓄積する前に再構築を行う」つまり「エントロピー増大の法則に抗う唯一の方法は、システムの耐久性を強化することではなく、その仕組み自体を流れの中に置くことなのである」。それこそが「動的平衡」ということ。

    なぜ生命は絶え間なく壊されながらももとの平衡を維持できるのか?それはジグソーパズルのピースのように相補性を持っており、新しく生まれたピースは必ず収まるべき場所が決定しているのだ。

  • めちゃめちゃ面白く完成度が高い。生物学の本でありつつ生物の神秘性を柔らかいながらも直球で感じさせてくれる。読んで損はない本。

  • 2007年刊の、言わずと知れた大ベストセラー。
    それを今になって読むか! と思わないでもないけれど、読んでよかった。

    筆者の専門である分子生物学にかかわる話は、この人一流の卓抜な比喩でイメージとしては伝わるのだが、やはり難しい話には違いない。
    学問領域としても若い分野だからこそ、なのか、そこに福岡さん自身の研究者としての歩みを重ねて叙述されている。

    『二重らせん』で栄光をほしいままにしたワトソンらの陰に隠れてしまったローズ・フランクリンの話は、痛々しい。
    ポリメラーゼ連鎖反応という原理を使って、任意の遺伝子を増やす方法を思いついた技師のマリス。
    興味深い人たちが次々と出てくる。
    そして、シュレーディンガーの問い。
    物理学の人だとしか認識していなかったけれど、生物学にとっても重要な人だということを初めて知った。
    なるほど、「分子」生物学を開くきっかけになるはずだ。

    12章以降は筆者の研究に関わるところ。
    細胞膜の中で、外に出されるたんぱく質が小胞体に送り込まれ、ある場所まで運ばれた小胞体は細胞膜と触れ合うと、癒着して内部のものを出す。
    こんなメカニズムがあるのか、と驚嘆した。
    GP2というたんぱく質を完璧に持たないよう遺伝子操作
    したノックアウトマウスの実験は、難しいながらも、それでどうなるの?と、思わず引き込まれた。
    その結果わかったことも、考えさせられる。
    すべてのタンパク質分子を欠落させるより、部分的な欠落や改変の方が、生命にダメージを与えるのだ、と。
    生命は、自分を守るために、驚くべき解決方法を作り出す。
    ただただ驚嘆である。

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著者プロフィール

青山学院大学 理工学部 教授

「2019年 『マッキー生化学 問題の解き方 第6版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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