スピリチュアルの冒険 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061498990

作品紹介・あらすじ

なぜ人は霊性を求めるのか!?「スピリチュアルはお手軽な幸福への近道ではない。先人のスピリチュアリストたちの豊饒な霊的メッセージに、その言葉に、耳を傾ける、この世界が本来持つ深みに触れるための格好な入門書」。

感想・レビュー・書評

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  • スピリチュアリティ(霊性)とはラテン語のスピリトゥスを語源としていて、息、霊感(インスピレーション)という意味がある、と述べられ、その意義を『創世記』のアダムによって説明されています。アダムは主なる神によって、息を吹き込まれ、生きる者となります。アダムの側からみると、神からの息を吸い込むことで、器でしかない肉体と霊魂が結び付き、生きる力を得たのです。
     また、人間の肉の愛(エロース)に対して、スピリチュアルなものとしての神の愛(アガペー)の優位を説く説がありますが、それを北村透谷は「想世界」と呼び、「恋愛」もそこにおいてとらえようとする、と言っています。もちろん、恋愛は「肉の愛」を前提としますが、それだけにとどまらないのです。「恋愛」の体験のなかで、「恋愛」という息を吹き込まれることで、「人は自分の心(内部)の固くとざされていた扉が開いていくのを知る」ことを経験する、と言います。スピリチュアルに触れることで、命がひらかれる、とでも言えばいいのでしょうか。
     しかし、私たちは偶像に霊性を託してしまい(貨幣、軍事力が例として挙げられています)、それにひざまずくことで、外部のものと接してしまい、霊性を直接感じ取ることができなくなっているのです。カルトなどに囚われるのも、スピリチュアルを吸い込むのではなく、それを礼拝するべき偶像としているように思われます。

  • 難しすぎる

  • 「霊性」と訳される「スピリチュアリティ」には、「息」という意味と、「霊感」(inspiration)という意味がある。『旧約聖書』には、「主なる神は土の塵で人(アダム)を形づくり、その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きる者となった」と書かれている。また、インスピレーションは、自分の内側から出てくるものではなく、外側から呼び起され、与えられるものである。こうした発想は、仏教においても見られる。空海は、「気息」の響きの中に「声」を起こし、それが「真言」となって万物の実相を明らかにすると考えた。

    本書は、近代以降に「スピリチュアリティ」の復権に関わった文学者や思想家を紹介するとともに、「スピリチュアリティ」の現代的意義を論じた本である。取り上げられてる文学者・思想家は、ドストエフスキー、北村透谷、内村鑑三、鈴木大拙、折口信夫、埴谷雄高、椎名麟三、三島由紀夫、田中小実昌などである。

    さらに、カール・バルトの「神学闘争」や、ハシディズムを現代に生かそうとしているA・J・ヘッシェルの試みを紹介し、スピリチュアリズムの現代的意義を見いだそうとしている。バルトは、人間の感情や意識、理性や論理によって「神」を捉えようとするキリスト教の「宗教」化を批判した。そして、そうした立場から、ドイツ民族を「神々」、「総統」を救世主の「神」とするナチズムおよびドイツ・キリスト者たちに対する「神学闘争」を展開した。著者が注目するのは、この神学闘争においてバルトが、ユダヤ教とキリスト教という「宗教」の枠を越えて、「神の民」としてのアブラハム以来のスピリチュアリティを共有することをめざしたことである。ここに著者は、互いの宗教の表面を手際よく語るだけで終わる「宗教間対話」を超える、スピリチュアリティの広がりと可能性を見ようとしている。こうした可能性は、アラブ人とユダヤ人との共生をめざすヘッシェルの試みの中にも見いだされている。

    著者は、鈴木大拙の「日本的霊性」を、排外的な日本主義のナショナリズムの対極にあるものと位置づけているが、おそらくここにも「宗教」の枠を超えるようなスピリチュアリティを見ようとしているのだと思われる。ただ、そうした可能性を論じるに際しては、「東洋的」な「無」ないし「空」の思想を、いわゆる「近代の超克」と結びつけた過去もあったことにも留意しておく必要があるだろう。

  • 江原さんとかあの世のお話とかは出てきません(笑)

    スピリチュアリティ(霊性)とは、目に見える価値や成果だけにとらわれずに、自己を超えたもの、社会の水平的な軸を超えた、超越的なものを感じる力を意味する。

    「霊」というのは魔何不思議な概念ですが、私たちの「生命」と深く関わっている大切なものです。
    形骸化した宗教や思想を内面から打ち破り根源に至るものとして、スピリチュアリティというのは大きな意味を持っているのではないでしょうか。

    かなり共感しインスパイアされました。

  • どうしても「真のスピリチュアリティー」というような言葉がなじまないが、最終のバルトは矢張り迫力がある。

  • [ 内容 ]
    なぜ人は霊性を求めるのか!?
    「スピリチュアルはお手軽な幸福への近道ではない。
    先人のスピリチュアリストたちの豊饒な霊的メッセージに、その言葉に、耳を傾ける、この世界が本来持つ深みに触れるための格好な入門書」。

    [ 目次 ]
    第1章 生命としての霊性(スピリットの語源 最初の冒険者 「霊」と「肉」は分けることはできるのか 「聖霊」と「精霊」の違い カリスを受けた人々 ドストエフスキーの悪霊論)
    第2章 日本のスピリチュアリスト(北村透谷の「恋愛」のスピリット 内村鑑三の霊的預言 鈴木大拙の日本的霊性 折口信夫と「神道」のスピリット)
    第3章 文学のなかの霊性(埴谷雄高『死霊』―霊性のミステリー小説 椎名麟三―「神」の道化師 三島由紀夫『英霊の声』―日本の神霊 田中小実昌「アメン父」―聖霊と言葉の力)
    第4章 二十世紀の神学と霊的闘争(「神の死」とカール・バルト ナチズムという悪霊との戦い 「万人の霊的覚醒へ」―A・J ヘッシェルの言葉)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 09007

  • 「オーラの泉」などに代表されるスピリチュアル・ブームはまだまだ衰退する気配を見せない。それは、他の流行とは異なり、スピリチュアル=霊的なものへの欲求が、人間に本能的に備わっているからだろう。どんなに物質的・経済的豊かさを得ても満たすことのできないものがあることを、このブームは明らかにしてくれる。しかしそのスピリチュアルなものへの求めが、伝統的な宗教ではなく、もっと曖昧模糊としたものへと向いている現実がとてももどかしい。その意味で本書は、真のスピリチュアリティーの存在へと読者を誘ってくれる手引書だ。新書でありかつ項目数の多さゆえに、内容の薄さは否めない。しかし、古来から人々を生かし世界を動かしてきた、「本物」に触れる機会が与えられれば、と心から願う。

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著者プロフィール

1957年生れ。文芸評論家、関東学院大学教授、鎌倉文学館館長。主な著書に『戦後文学のアルケオロジー』、『聖書をひらく』、『川端康成 魔界の文学』などがある。

「2020年 『遠藤周作 神に問いかけつづける旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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