狩猟と遊牧の世界―自然社会の進化 (講談社学術文庫 24)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061580244

感想・レビュー・書評

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  • 遊牧民の「軍事力」が一種の余剰生産物の表出技法であったと考える著者の説はとても興味深いと感じた。ただ、筆者の記憶違いでなければ、今日において、中国における遊牧民との戦争は気候などの観点からそれなりに飢餓が関係していたのではないかと考える説もあったはず。

    それと解説でも述べられていたが、語り口調が論文調ではない。そのため、著者の主張がどこにあるのか、またその根拠はなんなのかといった部分がわかりづらい。

  • やっとみつけた。しかも200円で。梅棹先生の本をあつめだして10年以上になるけれど、この本は絶対よみたいとおもっていた。で、中身はというと、ふーん、そうなんだ、というくらいで感動がすくない。ひとつには文体の問題があるとおもう。市民講座ではなされたもので、すごくていねいなことばづかいになっている。そのためか、どこまでが梅棹先生のつよい主張なのかがわかりづらい。それから、わたし自身の知識のなさがある。一般にどういう説が有力なのかをしらない。そのあたりのところは、谷先生の解説をよんでわかったというところです。ひとつなるほどとおもったのは、乳が完全食品であるということ。したがって、遊牧民は家畜のにくをたべようとするのではなく、乳製品をとっていたのだということ。どんどんころしていたのではかずが一気にへってしまう。いっしょに生活しながら、すこしずついただくという発想は現在につながるもののようにおもえる。さあ、これで梅棹先生のおもだったところでまだよんでいないのは女性論にかんするものくらいだろう。なんとしてもみつけてよみたい。
    1976年発行 講談社学術文庫にはさまれていたチラシを見ると、学術文庫の創刊第1回配本だったようです。そうそうたる名前がならんでいます。今西錦司、柳田國男、桑原武夫、吉川幸次郎、朝永振一郎・・・。

  • 狩猟、遊牧、農耕といった生活形式が、人類史の中でどのようにして生まれてきたのかという問題に取り組んだ本です。

    著者は、人類の生活様式を進化論的な観点から考察しようとします。ただし本書がめざしているのは、生物学の進化論を用いて人類社会の発展を説明することではありません。狩猟民族も遊牧民族も農耕民族も、形態的な差異はほとんどないに等しいのに、人類の生み出した文明の形は多様を極めています。著者がめざすのは、こうした人類社会の多様な発展を説明できるような、いっそう包括的な進化論です。そこには、今西進化論から著者が継承した問題意識が息づいているように思います。

    本書では、人類社会の進歩を単線的なものとして描き出したモルガン=エンゲルス理論が批判されています。人類史の大きなヴィジョンとして、(1) 自然社会、(2) 農業社会、(3) 産業社会という段階が見られることは事実ですが、自然社会から農業社会への発展を普遍的尺度に則った進化として理解するべきではないというのが、著者の立場です。

    著者は、アフリカ、ヨーロッパ、アジアの旧大陸を、ツンドラ、ステップ、砂漠(オアシスを含む)、サバンナという4つの類型に分けて、ステップでは北方から入ってきた狩猟民族が遊牧生活を営むようになったのに対して、砂漠・オアシスでは農耕民の一部が家畜を伴ってオアシスの周辺部で遊牧生活を始めたのではないかという推測を述べています。人類は、さまざまな生態学的環境の中で多様な社会形態を作り上げてきたのであり、それゆえ人類史は複線的なものとして描かれるべきだというのが、著者の主張です。

    200ページに満たない小さな本ではあるものの、人類社会の進化史という壮大なヴィジョンを描き出そうとする著者の雄渾な構想力が、存分に発揮されているように思います。

  • ・文庫版で本文わずか150ページ足らずの小さな本である。しかし小著だからといってスケールが小さいとは限らない。これは、サルやチンパンジーなどの「人類になるまえの最高段階まできた動物の生活様式」と、未開社会などの「人類のなかでの最低の段階にある民族の生活様式」(p30)とを調査、比較することによって、人類史の起源を辿ろうとする、素描ながらもたいへん壮大で野心的な試みである。

    ・現代文明の起源は例外なく全て農耕にあることを明らかにしたうえで、しかし、そのような高度の文明を有していたはずの農耕社会が歴史上幾度となく遊牧民による侵攻を許していたのは何故かと疑問を呈する。そこで著者は、牧畜社会には農耕社会に匹敵する文明があったのではないかという仮説を立て、両者が互いに対抗しながら帝国(例えば中華帝国とモンゴル帝国)を形成していくさまを描く。

    ・歴史資料に依拠した学問は、必然的に記録が残っている定着的な農耕民中心の歴史観を形作ってしまうだろう。梅棹は多様な非定着民(狩猟民・遊牧民)の暮らしを描くことによってそうした一面的な歴史観を根底から突き崩す。その意味において、どこか宮本常一にも通ずる問題意識が垣間見えた。

  • 講演録ということもあって、基本的な知識から丁寧に説明されている。前半は退屈なほど。後半の遊牧の4形態のあたりから読み応えが出てくる。50年前に、これだけの知識を組み立てて体系付けができていたと思うと、さすがの一言だ。

    ・タンザニアのハツァピ族(ティンディガ)は、ブッシュマンと同じ系統の狩猟民。
    ・古い栽培文化に伴って現れるのは、ブタ、イヌ、ニワトリなどの非牧畜的家畜。ウシ、ヒツジ、ヤギなどの牧畜的家畜は、新しい栽培文化と関係して現れてくる。
    ・牧畜民は4類型に分けられる:東シベリア、北満州、スカンジナビア北端のツンドラのトナカイ遊牧民、モンゴル、キルギスなど中央アジアのステップ遊牧民(馬、羊)、西南アジア、オリエント、北アフリカの砂漠とオアシス遊牧民(ラクダ、ヤギ)、東アフリカからスーダンのサバンナ遊牧民(牛)。
    ・ステップの遊牧民は農耕民との交渉をもつが、独立的で、優越的立場で臨んでいる。一方、オリエントの砂漠・オア指示型の牧畜民はオアシスの周辺部を占拠し、食糧の多くを農耕社会に依存している。
    ・中国古代史において、遊牧民が中国へ出撃するのは、飢えている時ではなく、草原が充実し、国力が充実しているとき。

  • (1982.03.10読了)(1982.03.01購入)
    副題「自然社会の進化」
    *本の表紙より*
    自然社会から農業社会をへて産業社会と進化してきた今日、地球上には今もそれらの社会が展開している。本書は現代社会の基盤を解明するため、狩猟、遊牧、農耕という三つの生活様式を地球史的規模で位置づけるとともに、旧世界の東北から西南に広がる乾燥地帯に生活する狩猟と遊牧民の社会に焦点を定めその起源を探る。ここには豊富な踏査体験の上にしか構築されえない著者特有の雄大な社会進化史の気骨が提示されている。

    【目次】
    まえがき
    一 狩猟と遊牧
    二 生活様式の諸類型
    三 生活様式の進化
    四 研究の方法
    五 自然社会
    六 ほろびゆく社会
    七 狩猟・採集民の生活
    八 狩猟・採集民の生活―つづき
    九 採集から狩猟への進化
    一〇 むれから家族へ
    一一 生活様式の進化における精神の役わり
    一二 牧畜がさきか、農耕がさきか
    一三 牧畜的家畜と非牧畜的家畜
    一四 原始農耕と家畜飼養
    一五 牧畜の起源についての諸学説
    一六 諸学説の批判
    一七 乳しぼりと去勢
    一八 牧畜民の四類型
    一九 ステップと砂漠・オアシス
    二〇 牧畜民の生活
    二一 多元的起源の可能性
    二二 歴史における牧畜社会
    二三 牧畜革命
    二四 牧畜社会の運命
    解説  谷泰

    ☆梅棹忠夫さんの本(既読)
    「文明の生態史観」梅棹忠夫著、中公文庫、1974.09.10

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著者プロフィール

1920年、京都府生まれ。民族学、比較文明学。理学博士。京都大学人文科学研究所教授を経て、国立民族学博物館の初代館長に。文化勲章受章。『文明の生態史観』『情報の文明学』『知的生産の技術』など著書多数。

「2023年 『ゴビ砂漠探検記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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