鏡の中の物理学 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (129ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061580312

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  • 鏡の中の物理学
    著:朝永 振一郎
    講談社学術文庫

    ノーベル物理学者である著者の物理学講義である

    ■鏡のなかの物理学

    鏡の中の物理学という右と左とで異なる性質を持っている者があるとの話から入る

    物理学者には、やはり、興味を持つ人が非常に多いようで、鏡の向うの世界と現実との間の関係が物理学者の興味の対象となるのです。
    この世の中には、鏡にうつったものが存在しないという、そういうような例がいくらもあるわけです。

    下等生物のなかには、まったく左右のちがいのないものもあるように見えますが、DNAのらせん構造までゆくと必ず右巻きしかないようです。

    物の運動、つまり力学の現象というのは、直接目で見ることができるわけですけれども、物理学の中には、直接目で見ることができない、いろいろなことがあるわけです。
    たとえば、ここでプラスの電気がおこっているという場合に、それが鏡にうつったときも、その電気、それはマイナスなのか、プラスなのか、というような議論は目で見たんではわからないのです。
    力学の場合より、ちょっと複雑になりますけれども、電磁気現象は、やはり、鏡の向うがわの現象とこちらがわの現象とは同じ法則に従う。ことは、を換えると、力学で電磁気学に関するかぎり、鏡の向うの物理学と、こちらの世界の物理学とは、同一だといえるのです。

    ある現象を映画に撮って、そしてそのフィルムを、今度は逆に回して映してみるのです。そうすると、こちらがわでひとつの現象が先に起こりもうひとつの現象があとに起こった、というのがすっかり逆になります。
    鏡、つまりいまの時間の鏡にうつして、時間の前後を逆にしたときに、そういう現象がこちらでもやはり起こりうるというものと、そういうのはこちらでは起こらないという、そういう二種類の現象があるということがわかります。

    上から下へ物が落ちるという現象が実際起こるとともに、これを下から上へ投げてやる、投げますと、ずうっと上げって、だんだんおそくなって、どこかでとまるという現象も実際起こりうるからです。
    ところが、現象の中には、フィルムを逆に回すと、見ていてとても奇妙に見える、そういう現象が少なからずあるんです。コップが下へ落ちて、粉々に割れて飛び散るというような、そこまでうつしますと、それを逆にまわすとどういうことになるかといいますと、こなごなのかけらがだんだん集まって、うまくコップの形にまとまって、そうして、それが上へすうっと上がっていく。で、こなごなのものが集まってコップになるということは、どう考えてもこちらがわでは起こりっこない

    時間を逆にしたときに見える現象はこちらがわでは起こらない―そういう現象がたくさんある。
    人間とかぎらずあらゆる生物は、生まれたとき、ちっちゃなからだがだんだん生長して大きくなる。そのうちに年をとって死にます。

    結論から申しますと、熱の現象が時間の逆方向に進行しないという事実と、力学の現象は逆方向に進行できるという事実とは矛盾しない。なぜなら、分子の運動をコントロールするバッティング・マシンをうまく作れば、力学の法則に従って分子運動の逆行ができるけれども、バッティング・マシン自身はまた分子からできてるから、そうであるかぎり議論は循環して、結局そういうことはありえない、ということになるんです。

    物理学の法則には、ミクロな法則と、マクロな法則の2種類があります。
    ミクロな法則とは、原子や分子1つ1つを支配する法則
    マクロな法則とは、原子や分子の巨大な集団である物質の性質を支配する法則 です

    科学が本当にわれわれの生活を豊かにしているだろうかという、そういう考え方もあるわけです。
    実際、科学がかえってわれわれの生活を悪くしているのではないか、そういう見方もありうるわけです。

    ■素粒子は粒子であるか

    量子論へいざない、粒子でもあり、波でもあるということ、光子の子というのは、光の小さな粒、小さな物という意味で、波動でもあり、粒子でもあるという話

    素粒子は、ある点では通常の粒子ににているが、他の点では全く似ていない
    まず、素粒子は、1つ2つと数えることができるという点で、通常の粒子と似ている

    素粒子はその1つ1つが、自己同一性をもっていないという点で粒子と異なっている
    自己同一性とは、1つ1つの粒子を区別することができるということである
    素粒子とは電光ニュースの上に現れる光点のように場に起こる状態の変化として現れるものである
    ひとつの素粒子について、その位置がこれこれであり、かつ運動柳雄がこれこれであるということはできない。
    簡単にいえば、素粒子とは位置と運動量を同時にもつことのできないしろ物である

    場の考えと、状態ベクトルの考えとを、うまく合わせて素粒子の理論を作り上げる、それが現在の粒子論である。

    目次
    鏡のなかの物理学
    素粒子は粒子であるか
    光子の裁判 ――ある日の夢――
    解説 伊藤大介

    ISBN:9784061580312
    出版社:講談社
    判型:文庫
    ページ数:129ページ
    定価:720円(本体)
    発行年月日:1976年06月30日第1刷
    発行年月日:1991年08月05日第21刷

  • ノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎氏の著作。第一刷は1976年発行。
    鏡のなかの物理学、素粒子は粒子であるか、光子の裁判、の3遍からなる。約130ページの薄めの本で、かなり平易に、数式を使わずに書かれた素粒子論入門、とのこと。目に見えない粒子と、古典力学に沿わない事象をイメージするのが難しくさらっとは読めなかった。1週間ほどかけて読み、なんとなくわかったような気にはなれたので、同分野の他の入門本や、同著者の他の作品も読んでみたいと思った。言葉遣いはそれなりに古いが、文章が読みやすかった。 

  • 量子力学は難しい本を読んでなんとなくわかった気になったりしてみるものだけど、こうして丁寧に噛み砕かれると、ちょっとした齟齬とかに気付く

    知らない話は出てこないけど、それをやたら難しく書かずこんなにサラッと話されると、あ、そういうことだっけか、と、色々と考え直すこと多々

    ctp対称性とか、相対性理論とか、量子力学とかの楽しい話がとてもわかりやすく直感的

    めちゃ薄いし。

  • 「鏡の中の物理学」は、自然法則の対称性について。「素粒子は粒子であるか」「光子の裁判」は量子力学について解説している。
    量子力学について、はじめて少し理解できたと思えた。素粒子というのは普通の粒子にはない不思議な性質を持っている。私たちの常識とは目に見える限られた世界の常識にすぎないんだなぁと改めて思った。

  • 著者は「鏡」を端緒に物理学は何であるかを問い始める。力学的な鏡、時間的な鏡、熱力学的な鏡・・・という具合である。取るに足らない議論のように思えるものの、示唆を与える。熱力学では、力学のように元に戻ることはありえない。
    また力学において、動いてる電車の中でも止まっている電車の中でも、ボールを落としても同じように下に落ちる。それでは光ではどうか、光は波であるとする考え方があり、それならば、自転および公転方向と同じ向きに発射した光と、直角方向に発射した光とでは差が出るはずだ・・という実験をした。しかし、結果は同着であった。どのような状況であれ、光の早さは同じなんだ、それがアインシュタインの相対性理論である、とする。

    またすべての物質はあらゆる素粒子(電子、原子、中性子など)からできていることはしられているが、これに関する記述は、甚だ我々の常識とは異なる。色や自己同一性を持たない、方向性や運動を持たない、はてさてどんなものか?著者は「電光掲示板のLEDのようなものだ。LEDが次々と点灯すると粒が動いているように見えるが、実際はそういうものがあるわけではない。」とする。

    本自体はそれほど厚くはないし、簡単に読むことができる。

  • 推薦理由:
    1965年にノーベル物理学賞を受賞した著者が、物理学の基本的な概念や、科学を研究することの意義を、平易な表現でユーモアを交えながら説いている本書は、物理学入門の名著である。

    内容の紹介、感想など:
    本書には表題作「鏡の中の物理学」を含む3篇が収録されている。表題作では、自然の法則は、一般的な3次元に時間の次元と粒子・反粒子の次元を加えた観点から見れば完全な対称性をもつ事を、3種類の鏡を使って説明している。2編目の「素粒子は粒子であるか」で、量子力学において電子や光子などの素粒子がどのようなものと考えられているかを説明する。最も面白いのは最終編「光子の裁判」である。不可分のひとりの人(?)でありながら2か所の窓から同時に部屋に忍び込んだと主張する「波乃光子」被告の裁判で、論理的にありえないと断ずる検察官に対して、量子電磁力学の創始者ディラック弁護士が、様々な実験をしながら、光子が波動と粒子の二重性を持つことを証明するという裁判劇を描いたもので、具体的につかみにくい量子的粒子の概念を、擬人化により見事に説明している傑作である。

  • 物理学の短編集。

    「鏡の中の物理学」
    鏡が物理学理解の鍵だと分かりました。

    空間の鏡と、時間の鏡。
    対称性に着目することが、問題を解く鍵のひとつだと分かりました。

    「素粒子は粒子であるか」
    位置と運動量の両方を同時には定められないという事象を丁寧に説明している。

    「光子の裁判」
    古典的な物理の知識だけで、光子に法律を適用しようとすると矛盾がおきることを、
    裁判形式で展開している。

    物理学が苦手な人が読むとよい。

    こんなに面白い本を、読んでいない人がいるのは残念。

  • 状態を変えること無く観測できないという量子が、今暗号通信に利用されようとしているが、その辺りにも触れられていた。魅力的な世界です。2007/10/21

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