目に見えないもの (講談社学術文庫)

著者 : 湯川秀樹
  • 講談社 (1976年12月8日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (163ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061580947

目に見えないもの (講談社学術文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 今週おすすめする一冊は、湯川秀樹著『目に見えないもの』です。
    理論物理学者であり、わが国初のノーベル賞受賞者である湯川博士
    の戦前・戦中の文章を集めた啓蒙書で、初版は昭和21年。ノーベル
    賞受賞の3年前に出版された博士の初めての著書でした。

    物理学の理論やものの見方を解説した文章を集めた第一部、自伝的
    的な文章をまとめた第二部、そして短めのエッセーと書評からなる
    第三部という構成です。いずれも一般向けの平易な文章なので、物
    理学の素養は全くいりません。

    湯川博士の専門は量子力学や素粒子物理学で、中間子という物質の
    存在を理論的に証明したことが評価されてノーベル賞を受賞してい
    ます。この中間子という物質は、原子よりも小さい上、観察しよう
    とすれば逃げていく、捉えどころのない存在です。まさに「目に見
    えないもの」なわけですが、この目に見えない極微の世界から見る
    と、あらゆるものが動きとエネルギーに満ちたものとして見えてき
    ます。それはいわば「可能の世界」です。

    私達を取り巻く世界も、私達自身も、この「可能の世界」を基礎に
    しているという事実。確固として見えるこの世界が、とても流動的
    で捉えどころのないものから成り立っているという不思議。大袈裟
    なようですが、この「可能の世界」を垣間見ることで、私達の物質
    観、世界観は大きく揺さぶられます。それが本書の第一の魅力です。

    本書の第二の、そして、多分一番の魅力は、この「目に見えないも
    の」なり「可能の世界」なりを考え続けてきた博士自身のものの見
    方、思考の一端に触れられることでしょう。優れた科学者は、同時
    に優れた詩人であり、宗教家であるとしばしば言われますが、研ぎ
    澄まされた言葉の一つ一つに滲み出る生き様の真摯さと感性の瑞々
    しさには、驚きを禁じ得ませんでした。

    根底にあるのは、この世界に対する開かれた好奇心とでも言うべき
    ものです。本書出版当時39歳という若さもあるのでしょうが、文章
    から迸るのは権威なぞとは無縁の、真理に対して開かれた真摯な姿
    勢と、飽くなき好奇心です。自我を捨て、真理に我が身を捧げる求
    道者の真摯さと、困難を顧みずに人跡未踏の地に踏み出してゆく冒
    険家の好奇心。きっとこの二つが揃った時に、創造の女神は微笑む
    のでしょう。

    創造的であるとはどういうことかを考えさせてくれる一冊です。
    是非、読んでみて下さい。

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    ▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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    科学の進歩は予想外の事実に直面すると、一旦停頓を余儀なくされ
    る。しかしそれはやがて人間の思考方法に対する新しい可能性を啓
    発し、科学の異常なる飛躍を誘起するのが常である。

    人間性に対する自覚と信頼とを離れては、哲学も科学もその存在意
    義を失ってしまうであろう。われわれは幾度もこの源流に立ちもど
    り、そのたびごとに自覚を新たにしたうえで、さらに遠い路を行か
    ねばならぬ。

    学問することの喜びがこの頃はことさら身にしみて感ぜられる。く
    る日もくる日も研究生活を続けていけるということは、「喜び」な
    どというにはもったいない、本当に有り難いことである。まして大
    学を出たての若い人達が私どものかわりに戦場に立っているのだと
    思えばなおさらである。

    ガラス細工が苦手で理論物理学に志した私は、新しい理論の建設が
    それにも増してむずかしいことを発見した。そしてそれと同時に、
    どんなに美しく且つ丈夫そうに見えている理論でも―-過去におけ
    る数多くの実例の示す通り――いつかは新しい事実に直面して、ガ
    ラス細工のように脆くも壊れてしまわねばならぬ運命にあることを
    悟ったのである。しかしそれなればこそそこに新しい道が開かれ、
    この学問は永遠にその若さを失わないであろう。

    一世代は本当に短かいものである。時は小川の水のように流れる。
    川の底に残るのはただ幾つかの小石である。美しい小石、人はこれ
    を思い出と呼ぶ。

    現実は痛切である。あらゆる甘さが排斥される。現実は予想出来ぬ
    豹変をする。あらゆる平衡は早晩打破せられる。現実は複雑である。
    あらゆる早合点は禁物である。
    それにもかかわらず現実はその根底において、常に簡単な法則に従
    って動いているのである。達人のみがそれを洞察する。
    それにもかかわらず現実はその根底において、常に調和している。
    詩人のみがこれを発見する。
    達人は少ない。詩人も少ない。われわれ凡人はどうしても現実にと
    らわれ過ぎる傾向がある。そして現実のように豹変し、現実のよう
    に複雑になり、現実のように不安になる。そして現実の背後に、よ
    り広大な真実の世界が横たわっていることに気づかないのである。

    学問が進歩すれば何でも予知し得るようになるであろうか。近代物
    理学は、未来のことははっきりとわからないのが本当だという。そ
    うだとするとわれわれの未来に対する冒険はいつになってもなくな
    らないと覚悟せねばならぬ。しかしそこにこそ希望があるわけであ
    る。

    われわれはある理論が過渡的であったという理由によって、その価
    値を過小評価してはならない。そしてまたある学者が保守的であっ
    たからといって、学問の進歩に対する貢献が少なかったと速断して
    はならない。

    水は凍ったときに初めて手でつかむことが出来る。それはあたかも
    人間の思想が心の中にある間は水のように流動してやまず、容易に
    捕捉し難いにもかかわらず、一旦それが紙の上に印刷されると、何
    人の目にもはっきりした形となり、もはや動きの取れないものとな
    ってしまうのと似ている。まことに書物は思想の凍結であり、結晶
    である。

    兎の毛自身がきわめて細いのであるが、そこのところどころに非常
    に小さな瘤がある。これが雪の結晶を人工的に作る際に最も良い核
    になることが、中谷宇吉郎博士の有名な実験によって知られている。
    私もまた出来るだけ凝縮された小さな核を中心として出来るだけ大
    きな、出来るだけ美しい結晶を作り上げたいと願う者の一人である。
    芥子粒の中に須弥山が蔵されているという喩えのように。

    それ自身としては生命を持たぬ脱殻の中にも、かつての蝉の姿があ
    りありと見い出されるではないか。そして時と共に成長し、脱皮し
    てゆく生命の中に、永久に変らぬ何物かがあるのを認め得るのでは
    ないか。(…)各々の瞬間に最も忠実に生きることが、やがて最も
    永遠なるものへの帰一でもあり得るのではないか

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    ●[2]編集後記

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    幼稚園でキッザニアが話題になっているらしく、娘が行きたいと言
    い出しました。ディズニーランドに続くブームです。

    何事も経験させてあげることが大事だとは思いつつ、お金を払って
    遊ぶのはまだ早いと思っているので、連れては行きません。ディズ
    ニーランドについては、大きくなってから恋人と行く場所だと説明
    して納得させましたが、キッザニアはまさに子どものための場所で
    すから、そういう理屈は通用しません。

    そこで「キッザニアでは、モスバーガーを作ったりするんだけど、
    家でハンバーガー作るってのはどう?」と提案してみたら、「それ
    がいい!」というので、早速、この週末に作ることにしました。

    で、ハンバーガー用のバンズを探しに行ったのですが、これがどこ
    にも売ってないのです。「需要がないから置いてない」とスーパー
    では言われました。自分が子どもの頃には普通に売ってたのに…。

    確かに、どこにでもハンバーガーのチェーンがあって、しかも100
    円で食べられる時代ですから、わざわざ作ろうなんて人は少数なの
    かもしれません。買って済ませることができる世の中でわざわざ手
    間をかけるのはよほどの物好きということなのでしょう。しかし、
    「買って済ませる」が当たり前で、「作って済ます」のは物好きか趣味人だけと
    いう風潮が支配的になるのもどうなのでしょう…。

    結局、パンズは諦め、マフィンで代用したのですが、ハンバーグを
    こねるところから自分でつくったハンバーガーの味は娘には格別だ
    ったようで、終始ご機嫌の日曜日でした。

  • 前半の,物理学に関する論述は,わかりやすくかかれているものの,それでも素地のない者にとっては,難しい内容だった。
    後半の,随筆は,素晴らしいものが多かった。

    P.85「学問することの喜びがこの頃はことさら身にしみて感ぜられる。くる日もくる日も研究生活を続けていけるということは,「喜び」などというにはもったいない,本当に有り難いことである。」・・・以前の自分の状態を思い出すフレーズです。身に沁みます。

  • 二部構成。
    自伝的な部分と、研究者としての思いの詰まった部分と。
    中間子理論発見のまさにただなかに書かれたものであるだけに、新たなものを創造する時の息吹のようなものが感じられる好著だと感じた。

  • 物理学の内容をできるだけわかりやすく説明されている。湯川博士の人柄も感じられるような文章だった。

  • 初めて湯川秀樹先生の本(文章)を読んだ。

    終戦の数年前あたりに書かれたものをまとめたもの。
    学徒出陣した学生へ向けて「しばらくの伴侶となれば」などとあり、なるほどそういう時代だったかと改めて考えさせられる。

  • 科学者の思考や科学的態度といったものの一例を知ることができる。

    後半のエッセイで湯川さんが、周囲の人々や自らの生い立ち、境遇に対して「有り難いことである」とか「仕合わせである」という言葉で、感謝の念を度々述べているのが印象的だった。

  • 【読了レビュー】著者は科学だけではなく、文学や芸術、詞など様々なことに造詣が深かったということが良く分かった。
    また、太陽が何故こんなにも莫大なエネルギーを失いながらも、何億年も前から存在し続けていられるのか、地球の存在の奇跡性以前に、それがどれだけ奇跡的なことかが分かり、何かに深く感謝する気持ちが湧き上がった。
    ものがそこに存在している、ということは、それだけで、どれだけたくさんのエネルギーを秘めているということか。。神秘的でさえあると感じた。

  • (1993.12.14読了)(1991.08.23購入)
    内容紹介 amazon
    わが国初のノーベル賞に輝く湯川博士生涯の記念碑的作品。本書は現代物理学の物質観を、そして同時に、今日の自然科学的なものの見方・考え方を、だれにもわかる平易な言葉で説いている。「目に見えないものの世界」への旅立ちを伝える諸篇には、深く豊かな知性が光り、「真実」を求めてのあくなき思索が生み出した珠玉の言葉には、ひとつの確かな思想がある。初版以来、学問に志す多くの若者達の心をとらえ続けてきた名著である。

    ☆関連図書(既読)
    「旅人」湯川秀樹著、角川文庫、1960.01.15
    「人間にとって科学とはなにか」湯川秀樹・梅棹忠夫著、中公新書、1967.05.
    「宇宙と人間 七つのなぞ」湯川秀樹著、筑摩書房、1974.07.18

  • ノーベル物理学賞受賞の湯川秀樹博士のエッセイ集。科学と哲学についての話が多いが、今の俺には十分な理解はできない。これは戦前に博士が30代の頃の文章だというのに。頭の構造が違うと言っては元も子もないので、視座が高く、視野が広いのは学ぶべきところ。

  • 前回読んだ随筆の言葉遣いのきれいさにまた読みたくなって購入しましたがガッツり物理学についての解説風随筆。読むのがきつかった

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