目に見えないもの (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (163ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061580947

作品紹介・あらすじ

わが国初のノーベル賞に輝く湯川博士生涯の記念碑的作品。本書は現代物理学の物質観を、そして同時に、今日の自然科学的なものの見方・考え方を、だれにもわかる平易な言葉で説いている。「目に見えないものの世界」への旅立ちを伝える諸篇には、深く豊かな知性が光り、「真実」を求めてのあくなき思索が生み出した珠玉の言葉には、ひとつの確かな思想がある。初版以来、学問に志す多くの若者達の心をとらえ続けてきた名著である。

感想・レビュー・書評

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  • 少し期待はずれ、内容は物理の教科書のような感じでそこに少し著者独特の見解を肉付けしたような内容。物理を人並みに勉強して来た自分からするとはいはいはい。と言った感じでした。

  • 湯川秀樹のエッセーは、たいがい素晴らしい。理論物理学者であるからといって、過度に抽象的な論理や言葉の綾を使ったりせず、真っ当な人の真っ当な言葉で素直に綴られている感じを受ける。

  • 「真実」という文章が大好きです。短い文章に、万事が詰まっているようで、胸がいっぱいになるのです。

  • 今週おすすめする一冊は、湯川秀樹著『目に見えないもの』です。
    理論物理学者であり、わが国初のノーベル賞受賞者である湯川博士
    の戦前・戦中の文章を集めた啓蒙書で、初版は昭和21年。ノーベル
    賞受賞の3年前に出版された博士の初めての著書でした。

    物理学の理論やものの見方を解説した文章を集めた第一部、自伝的
    的な文章をまとめた第二部、そして短めのエッセーと書評からなる
    第三部という構成です。いずれも一般向けの平易な文章なので、物
    理学の素養は全くいりません。

    湯川博士の専門は量子力学や素粒子物理学で、中間子という物質の
    存在を理論的に証明したことが評価されてノーベル賞を受賞してい
    ます。この中間子という物質は、原子よりも小さい上、観察しよう
    とすれば逃げていく、捉えどころのない存在です。まさに「目に見
    えないもの」なわけですが、この目に見えない極微の世界から見る
    と、あらゆるものが動きとエネルギーに満ちたものとして見えてき
    ます。それはいわば「可能の世界」です。

    私達を取り巻く世界も、私達自身も、この「可能の世界」を基礎に
    しているという事実。確固として見えるこの世界が、とても流動的
    で捉えどころのないものから成り立っているという不思議。大袈裟
    なようですが、この「可能の世界」を垣間見ることで、私達の物質
    観、世界観は大きく揺さぶられます。それが本書の第一の魅力です。

    本書の第二の、そして、多分一番の魅力は、この「目に見えないも
    の」なり「可能の世界」なりを考え続けてきた博士自身のものの見
    方、思考の一端に触れられることでしょう。優れた科学者は、同時
    に優れた詩人であり、宗教家であるとしばしば言われますが、研ぎ
    澄まされた言葉の一つ一つに滲み出る生き様の真摯さと感性の瑞々
    しさには、驚きを禁じ得ませんでした。

    根底にあるのは、この世界に対する開かれた好奇心とでも言うべき
    ものです。本書出版当時39歳という若さもあるのでしょうが、文章
    から迸るのは権威なぞとは無縁の、真理に対して開かれた真摯な姿
    勢と、飽くなき好奇心です。自我を捨て、真理に我が身を捧げる求
    道者の真摯さと、困難を顧みずに人跡未踏の地に踏み出してゆく冒
    険家の好奇心。きっとこの二つが揃った時に、創造の女神は微笑む
    のでしょう。

    創造的であるとはどういうことかを考えさせてくれる一冊です。
    是非、読んでみて下さい。

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    ▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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    科学の進歩は予想外の事実に直面すると、一旦停頓を余儀なくされ
    る。しかしそれはやがて人間の思考方法に対する新しい可能性を啓
    発し、科学の異常なる飛躍を誘起するのが常である。

    人間性に対する自覚と信頼とを離れては、哲学も科学もその存在意
    義を失ってしまうであろう。われわれは幾度もこの源流に立ちもど
    り、そのたびごとに自覚を新たにしたうえで、さらに遠い路を行か
    ねばならぬ。

    学問することの喜びがこの頃はことさら身にしみて感ぜられる。く
    る日もくる日も研究生活を続けていけるということは、「喜び」な
    どというにはもったいない、本当に有り難いことである。まして大
    学を出たての若い人達が私どものかわりに戦場に立っているのだと
    思えばなおさらである。

    ガラス細工が苦手で理論物理学に志した私は、新しい理論の建設が
    それにも増してむずかしいことを発見した。そしてそれと同時に、
    どんなに美しく且つ丈夫そうに見えている理論でも―-過去におけ
    る数多くの実例の示す通り――いつかは新しい事実に直面して、ガ
    ラス細工のように脆くも壊れてしまわねばならぬ運命にあることを
    悟ったのである。しかしそれなればこそそこに新しい道が開かれ、
    この学問は永遠にその若さを失わないであろう。

    一世代は本当に短かいものである。時は小川の水のように流れる。
    川の底に残るのはただ幾つかの小石である。美しい小石、人はこれ
    を思い出と呼ぶ。

    現実は痛切である。あらゆる甘さが排斥される。現実は予想出来ぬ
    豹変をする。あらゆる平衡は早晩打破せられる。現実は複雑である。
    あらゆる早合点は禁物である。
    それにもかかわらず現実はその根底において、常に簡単な法則に従
    って動いているのである。達人のみがそれを洞察する。
    それにもかかわらず現実はその根底において、常に調和している。
    詩人のみがこれを発見する。
    達人は少ない。詩人も少ない。われわれ凡人はどうしても現実にと
    らわれ過ぎる傾向がある。そして現実のように豹変し、現実のよう
    に複雑になり、現実のように不安になる。そして現実の背後に、よ
    り広大な真実の世界が横たわっていることに気づかないのである。

    学問が進歩すれば何でも予知し得るようになるであろうか。近代物
    理学は、未来のことははっきりとわからないのが本当だという。そ
    うだとするとわれわれの未来に対する冒険はいつになってもなくな
    らないと覚悟せねばならぬ。しかしそこにこそ希望があるわけであ
    る。

    われわれはある理論が過渡的であったという理由によって、その価
    値を過小評価してはならない。そしてまたある学者が保守的であっ
    たからといって、学問の進歩に対する貢献が少なかったと速断して
    はならない。

    水は凍ったときに初めて手でつかむことが出来る。それはあたかも
    人間の思想が心の中にある間は水のように流動してやまず、容易に
    捕捉し難いにもかかわらず、一旦それが紙の上に印刷されると、何
    人の目にもはっきりした形となり、もはや動きの取れないものとな
    ってしまうのと似ている。まことに書物は思想の凍結であり、結晶
    である。

    兎の毛自身がきわめて細いのであるが、そこのところどころに非常
    に小さな瘤がある。これが雪の結晶を人工的に作る際に最も良い核
    になることが、中谷宇吉郎博士の有名な実験によって知られている。
    私もまた出来るだけ凝縮された小さな核を中心として出来るだけ大
    きな、出来るだけ美しい結晶を作り上げたいと願う者の一人である。
    芥子粒の中に須弥山が蔵されているという喩えのように。

    それ自身としては生命を持たぬ脱殻の中にも、かつての蝉の姿があ
    りありと見い出されるではないか。そして時と共に成長し、脱皮し
    てゆく生命の中に、永久に変らぬ何物かがあるのを認め得るのでは
    ないか。(…)各々の瞬間に最も忠実に生きることが、やがて最も
    永遠なるものへの帰一でもあり得るのではないか

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    ●[2]編集後記

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    幼稚園でキッザニアが話題になっているらしく、娘が行きたいと言
    い出しました。ディズニーランドに続くブームです。

    何事も経験させてあげることが大事だとは思いつつ、お金を払って
    遊ぶのはまだ早いと思っているので、連れては行きません。ディズ
    ニーランドについては、大きくなってから恋人と行く場所だと説明
    して納得させましたが、キッザニアはまさに子どものための場所で
    すから、そういう理屈は通用しません。

    そこで「キッザニアでは、モスバーガーを作ったりするんだけど、
    家でハンバーガー作るってのはどう?」と提案してみたら、「それ
    がいい!」というので、早速、この週末に作ることにしました。

    で、ハンバーガー用のバンズを探しに行ったのですが、これがどこ
    にも売ってないのです。「需要がないから置いてない」とスーパー
    では言われました。自分が子どもの頃には普通に売ってたのに…。

    確かに、どこにでもハンバーガーのチェーンがあって、しかも100
    円で食べられる時代ですから、わざわざ作ろうなんて人は少数なの
    かもしれません。買って済ませることができる世の中でわざわざ手
    間をかけるのはよほどの物好きということなのでしょう。しかし、
    「買って済ませる」が当たり前で、「作って済ます」のは物好きか趣味人だけと
    いう風潮が支配的になるのもどうなのでしょう…。

    結局、パンズは諦め、マフィンで代用したのですが、ハンバーグを
    こねるところから自分でつくったハンバーガーの味は娘には格別だ
    ったようで、終始ご機嫌の日曜日でした。

  • ▼福島大学附属図書館の貸出状況
    https://www.lib.fukushima-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/TB00074030

    この本は、日本で初めてノーベル賞を受賞した物理学者の湯川秀樹博士が、物理学がどのような学問であるか、自分がどのように研究と向き合ってきたか、また、人生のいろいろな場面で感じたことや考えたことなどについて語ったものである。自分の一番好きな理論物理学の研究に日々打ち込むことができることに幸せを感じ、そのような境遇を与えてくれるすべての人々に対して感謝を忘れず、自分が世の中のためにすべきことを考えて生きる著者の姿勢に感銘を受ける。この本は有意義な人生を送るためのヒントを与えてくれるものであり、人生設計の真っ只中にある若者におすすめである。

    (推薦者:人間発達文化学類 根本 典子先生)

  • ・『学問することの喜びがこの頃はことさら身にしみて感ぜられる.くる日もくる日も研究生活を続けていけるということは,「喜び」などというにはもったいない,本当に有り難いことである.』:同じ気持ちを持っている点では,自分もアカデミア向きの人間なのだと思った.
    ・『大学に勤めているおかげで,若い純真な人たちと一緒に教えつつ教えられつつ研究していけることである.(中略)数多くの新しい弟を持ったような喜びを感ずる.』:企業で研究するか?大学で研究するか?この気持ちを持てるかどうかではないか.
    ・湯川先生が中間子論を発表したのは27歳の時で,同じ歳なのに,こうも差がついているのかと思うと自分の凡才を痛感する... 凡才なりにのんびり頑張ろう.

  • 中間子理論でノーベル物理学賞を受賞した著者のエッセイを収録している本です。

    20世紀における物理学の革命について、著者自身がそうした動向に触れたときの所感を交えつつ、わかりやすく語っています。また、著者の自伝である『旅人―湯川秀樹自伝』(角川ソフィア文庫)の内容を補完するようなエッセイも含まれており、両方併せて読むことで、著者のひととなりがより理解できるように思います。

  • 第1部は面白かったけど、第2部、第3部はまぁ割と平凡かな。

    観測とは選択すること、という量子力学的できごとのシンプルな表現がとても気に入った。

  • サイエンス
    思索

  • 目には見えない世界を探求する素粒子物理学の領域を専門とする湯川博士にとって、「真実」とはどのようなものだったのか、「科学」とはどのような方法なのか、といったものの見方、考え方がが、平易な言葉づかいで語られている。

    世界の捉え方が、神話の世界から、事象の背後にある仕組みを解明しようとする「自然哲学」の世界から、数学的な記述と実験による再現可能性を追求する「近代物理学」、そして我々の実在論的見解との共有関係から脱していく「現代物理学」の世界へと徐々に発展していく中で、それでも常に、「真実」とその表象である「現実」を真摯に見つめ続けていく姿勢を大切にするという筆者の根底的な考え方は、科学の道を行く多くの人々にとって、重要な指針になったと思う。

    本書に採録されている文章の多くが昭和一〇年代後半の戦時下において書かれたものであることを鑑みると、当時科学を学び、その道に志を抱いていた多くの若い学生たちに対する筆者の熱い想いも感じられて感慨深い。

    また、本来的には社会的な趣旨を読み取るべきではないのかもしれないが、現実を見つめ続ける中で真実へと辿り着く筆者の姿勢が、どのような時局化においても冷静さを失わないことの大切さにもつながるように感じられ、湯川博士の言葉の大切さに感じ入った。

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著者プロフィール

理学博士。専門は理論物理学。京都大学名誉教授、大阪大学名誉教授。
1907年に地質学者小川琢治の三男として東京生まれ、その後、1歳で転居した京都市で育つ。23年に京都の第三高等学校理科甲類(16歳)、26年に京都帝国大学理学部物理学科に入学する。33年からは大阪帝国大学講師を兼任し、1934年に大阪帝国大学理学部専任講師となる(27歳)。同年に「素粒子の相互作用についてⅠ」(中間子論)を発表。日本数学物理学会の欧文誌に投稿し掲載されている。36年に同助教授となり39年までの教育と研究のなかで38年に「素粒子の相互作用についてⅠ」を主論文として大阪帝国大学より理学博士の学位を取得する(31歳)。1939年から京都帝国大学理学部教授となり、43年に文化勲章を受章。49年からコロンビア大学客員教授となりニューヨークに移る(42歳)。同1949年に、34年発表の業績「中間子論」により、日本人初のノーベル物理学賞を受賞。1953年京都大学基礎物理学研究所が設立され、所長となる(46歳)。1981年(74歳)没。『旅人―ある物理学者の回想』、『創造への飛躍』『物理講義』など著書多数。

「2021年 『湯川秀樹 量子力学序説』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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