私の個人主義 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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感想 : 156
  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061582712

作品紹介・あらすじ

文豪漱石は、座談や講演の名手としても定評があった。身近の事がらを糸口に、深い識見や主張を盛り込み、やがて独創的な思想の高みへと導く。その語り口は機知と諧謔に富み、聴者を決してあきさせない。漱石の根本思想たる近代個人主義の考え方を論じた「私の個人主義」、先見に富む優れた文明批評の「現代日本の開化」、他に「道楽と職業」「中味と形式」「文芸と道徳」など魅力あふれる5つの講演を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 思想家、夏目漱石。考えている。

    高校でも習った「現代日本の開化」をはじめとする文明論・文化論はお見事。100年以上経った今でも通用するような普遍的な議論が展開されている。最近進路のことで迷いが生じていたのだが、「道楽と職業」における職業論はよい視点を示してくれた。これは個人的な収穫。
    そして何より表題作「私の個人主義」が素晴らしい。大学在学中という今この時期に読めて本当に有意義だったと思う。あたかも自分が学習院生の一員となって耳を傾けているかのような気分になった。「出来るだけ個人の生涯を送らるるべき」学生たちに個人主義の必要を説く漱石。自身の体験談と絡めた論の運びには説得力があり、人生の先輩からのメッセージとして素直に受け取ることができた。漱石にこんなに勇気づけられることになるとは思わなかった。

    しかし先生、講演が上手いなぁ。抽象的な主張を、身近な例を多用して具体的な次元に落としこんでいく手腕が見事。難しいことを易しく。諧謔も交えながら、聴衆を惹きつける真摯な語り口が冴えている。あんまり分かりやすいから最初は内容も簡単であるかのように感じられたが、繰り返し読むと漱石の優れた先見性・深い分析が分かってきた。本当によく練られている。

    この時この場所にいて直に話を聞けたらどんなに良かっただろう。本書の最後に、「で私のいう所に、もし曖昧の点があるなら、好い加減に極めないで、私の宅までお出下さい。出来るだけはいつでも説明する積でありますから。」とある。今から伺ってもよろしいでしょうか、漱石先生。

    • カズハさん
      漱石好きなんですね。個人的には漱石の幅の広さがすごいなーと。こころを書いて、坊ちゃんを書く。で、しかも今でも読みやすい文体ですし。正直、漱石...
      漱石好きなんですね。個人的には漱石の幅の広さがすごいなーと。こころを書いて、坊ちゃんを書く。で、しかも今でも読みやすい文体ですし。正直、漱石と太宰はその普遍的な内容と、現代でも読める文章っていうのがあるから、たぶんこれからも読まれ続けるのだろうなと思います、とさりげなく太宰を混ぜました(笑)確かにこの時代の人って今よりずっと考えてるような気がしました。中江兆民読んだときそんな感想を抱きました。なんていうか、普遍性に挑戦しているから、それだけ普遍的なもの掴んでいるのかなって思います。今は普遍性というよりは大衆性と、マニアックの時代と言いますか、そういう印象ですね。あ、コメントありがとうございました、とお礼をするつもりがついつい長くなりました。本棚名はご愛嬌です(笑)
      2011/11/03
  • バイブル的存在の一冊。
    あくまで一つの考え方ではあるものの、物の考え方、姿勢の在り方は参考になる。
    今でも通用する内容なので人間の本質って変わらないという事か。
    本当の意味での個人主義とは自立、自律、寛容、責任、義務と深く結びついており、他者排除ではない。
    何度も読み返す価値あり。

  • 夏目漱石の演説をその言葉遣いのまま文字起こししたもの。

    漱石の言葉遣いの面白さを感じられる。
    内容も現代に通じるところがあるので、なお面白い。YouTubeに朗読版があるみたいなので、それも聞いてみたい。

  • 「私の個人主義」ほか、「道楽と職業」、「現代日本の開化」、「中身と形式」、「文芸と道徳」の5篇で構成。
    特に「道楽と職業」では、学芸に専心する者への励ましが、「私の個人主義」では、利己主義と一線を画す道義上の個人主義が、軽妙な語り口で綴られていて非常に読みやすく、内容がストンと胸に落ちる。

  • 標題の「私の個人主義」は大正三年、大病を患った後に学習院でおこなった講演の内容だが、今読んでもさすが漱石というか、構成もメッセージもすばらしい。青空文庫で読めるので未読の人はぜひ。

    講演として読むと、初めは前振りが長くいつテーマに入るのかと思うほどだが、気づくとすっとテーマに入っていて、それが最後のメッセージまでしっかりと繋がっている。

    前半は人生の指針としての自己本位主義、後半はその前提となる個人の自由とそれに伴う義務と責任、という内容。

    まず前半は、漱石自身の懊悩とその打破という経験を若い人たちへのメッセージに転化しているが、これによって人生の方向を決定された学生も当時いたのではないかと思う。この懊悩が普遍的であり、漱石が偉大であるだけに、この指針は説得力を持つ。

    一方の後半は、一転して、学習院という特権階級の学生たちに彼らの持ち得る力についての自覚を促し、それに伴う義務と責任を説く。「君たちは将来のリーダーだ」というメッセージはよくあるが、「君たちは特権階級だから責任を持ちなさい」というメッセージはもっと重要であるにもかかわらずあまり言われない。

    そして、すばらしいのは、前半の自由な自己追求の前提として、後半の倫理原則が説かれているところ。自由には義務と責任が伴う、という基本的な原則をこれほど見事に述べた講演も多数はないと思う。この講演を生で聞けた学生たちは幸福だった。

  • 何度も読み返すほど、元気をもらえる本。
    特に、社会に馴染めていなかったり、我が道を行かんとする方におすすめ。

  • 至極まともな意見。

  • (2018年2月のブログ内容を2020年11月に転記したものです)

    夏目漱石は英文学を専攻し、学校は出たものの、文学とは何かということをつかめず、悶々とする日々を送っていました。幸いにも教師の職にはありつきましたが

    “「その日その日はまあ無事に済んでいましたが、腹の中は常に空虚でした。空虚ならいっそ思い切りが好かったかも知れませんが、何だか不愉快な煑え切らない漠然たるものが、至る所に潜んでいるようで堪らないのです。」。”

    そして、ついにはロンドンに留学したが、分からない。しかし、そうしているうちについに分かったのです。「文学とはどんなものであるか、その概念を根本的に自分で作り上げるより外(ほか)に」途(みち)はない。当時は文学といえば、外国の評論家が別な外国人の文筆家を批評していったことをそのままコピーして吹聴してまわってありがたがるということが多かったのです。

    逆に、漱石は、ついに、自分の文学は自分で作るという境地「自己本位」に行きついたのです。自己本位、自分が右だといえば、他人が左だといえども曲げる必要はない。といことです。ある評論家がある文学についてこうだといったからといって、自分が反対の意見を持ったとしてもよいし、むしろ、自分だけが持てる意見を大事にしなければいけないということに気が付いたのです。

    こういうと、「自分勝手」と誤解されてはいけないのですが、その点についても夏目漱石は論考しています。他の人が同じように自由に考えることを阻害してはならないという形でなされなければならない。

    “「我々は他が自己の幸福のために、己れの個性を勝手に発展するのを、相当の理由なくして妨害してはならないのであります。」”

    現代の私たちにとってはとても当たり前のことのように思えますが、実践できている人となると、どれくらいいるでしょうか。漱石は「妨害」してしまう要因として「お金」と「権力」を挙げています。そして、自分がこれを持つ立場になったときには気をつけよと論じています。人は生活するうえで、権力やお金をもつ立場に立ってしまうのは仕方ないものですが、そうした場合、知らず知らずのうちに、他人の「自己本位」を妨害してしまいかねない。これに気を付けてさえいれば、自分を自分の考えで満たすことに全力で取り組むべきであると、若者に向けて語っています。

    漱石はその後帰国した後、自分の思うように職が得られない時も、神経衰弱になった時も、この「自己本位」という言葉(概念)が胸にあったため、不思議と気に病むことなく、生活を送ることが出来たといいます。

    自分が何者なのか、見つけられるきっかけは突然訪れます。それを個人の経験に照らしながら、醸成していくのが、人生ということでないでしょうか。性自認に限ってみても、体と反対の性であるとか、性の境界であるといった場合の自分の位置づけは、なかなか定まるものではないでしょう。

    各々が作り上げて発信していく、その一端を担う仕事ができたら、それがわたしに直結する自己本位ということなのだろうと、思っています。

  • 明治44年に関西でおこなった講演4本プラスその3年後の学習院での講演となる表題作。

    どうでもいいと言えばいいのだが、一連の講演旅行であった関西での4本が、多少重なり合うとは言えそれぞれ別々のテーマとなっているのは面白い。聴衆は当然、毎回違うわけだから同じ話を4回すればよかろうという気もするが。新聞への掲載、または事後の出版を前提としていたのか。

    最初の4本がどちらかと言えば聞き手を面白がらせる軽妙洒脱さに重きをおいているのに対して、「私の個人主義」はこう生徒たちに訴えかけるような重さがある。中身には大きな違いがないがトーン&マナーにおいてちょっと違う感じ。脈絡ないのだがマックス・ウェーバーを思い出した。

    「中身と形式」など100年後の日本企業社会に照らし合わせても大いに身につまされる。

  • 夏目漱石の博学さに触れられる貴重な一冊 私の個人主義では、今後自分の人生に活かせることが漱石自身の言葉で一杯一杯書かれており、人生のバイブルになること間違いなしの一冊だった。

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著者プロフィール

夏目漱石(なつめ そうせき)
1867年2月9日 - 1916年12月9日
江戸・牛込馬場下(新宿区)生まれの小説家、評論家。本名は「夏目金之助」(なつめ きんのすけ)。1890年、帝国大学文科大学英文科に入学。1895~96年には『坊っちゃん』の舞台となった松山中学校で教鞭を執る。1900年、イギリスに留学。1905年、『吾輩は猫である』を俳句雑誌「ホトトギス」に連載し始め、作家活動を本格的に開始。1907年、朝日新聞社に入社。以降、朝日新聞紙上に『三四郎』『それから』『こころ』などの代表作を連載。日本の文学史に多大な影響を与えており、作品は多くの人に親しまれている。学校教科書でも多数作品が採用されている。

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