私の個人主義 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061582712

作品紹介・あらすじ

文豪漱石は、座談や講演の名手としても定評があった。身近の事がらを糸口に、深い識見や主張を盛り込み、やがて独創的な思想の高みへと導く。その語り口は機知と諧謔に富み、聴者を決してあきさせない。漱石の根本思想たる近代個人主義の考え方を論じた「私の個人主義」、先見に富む優れた文明批評の「現代日本の開化」、他に「道楽と職業」「中味と形式」「文芸と道徳」など魅力あふれる5つの講演を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 夏目漱石の創作というより、講演録です。

    夏目漱石の作品もこれまでいくつか読んできましたが、いつもぼんやりまともに働いていないような暮らしを描くので、あまり好きではありませんでしたが、講演は面白かった。

    自分たちが自由になる場合には、相手にも自由を与えなくてはならない。自分の価値観を押し付けていないか、検証すべきというのはとても良く理解できました!

    • 林田力さん
      漱石が英国に留学して個人主義を肌で感じたことが良く理解できます。
      漱石が英国に留学して個人主義を肌で感じたことが良く理解できます。
      2023/04/17
    • hibuさん
      林田力さん、おはようございます!
      確かにその通りですね。
      この講演録で夏目漱石のことを見直した感じになりました^_^
      林田力さん、おはようございます!
      確かにその通りですね。
      この講演録で夏目漱石のことを見直した感じになりました^_^
      2023/04/17
  • 私の個人主義
    著:夏目 漱石
    紙版
    講談社学術文庫 271

    夏目漱石の講演をまとめたものであるが、かなり読みにくい。けっこう難渋しました。
    複文、重文のかたまりであり、かなり時間がかかりました。

    明治という、近代化を始めたばかりの日本にある、自立と開化の雰囲気がよいとおもいました。

    気になったのは以下です。

    ■道楽と職業

    ・こと昔の道徳観や昔気質の親の意見やまたは一般世間の信用などからいいますと、あの人は家業に精を出す、感心だと褒めそやします。いわゆる家業に精を出す感心な人というのは取りも直さず真っ黒になって働いている一般的の知識の欠乏した人間にすぎないのだからおもしろい

    ・職業というものは要するに人のためにするものだという事に、どうしても根本義をおかねばなりません。人のためにする結果が己のためになるのだから、元はどうしても他人本位である。

    ■現代日本の開化

    ・要するに、2つの乱れたる経路、すなわちできるだけ労力を節約したいという願望から出て来る種々の発明とか器械力とかいう方面と、できるだけ気儘に勢力を費したいという娯楽の方面、これが経となり緯となり千変万化錯綜して現今のように混乱した開化という不思議な現象ができるのであります

    ・現代の日本の開化は前に述べた一般の開化とどこが違うかというのが問題です。
    西洋の開化は内発的であって、日本の開化は外発的である。
    ここに内発的というのは、内から自然に出て発展するという意味でちょうど花が開くようにおのずからつぼみが破れて花弁が外に向かうをいい、また外発的とは外からおっかぶさった他の力で已むをえず、一種の形式を取るのを指した積なのです

    ・もう一口説明しますと、西洋の開化は行雲流水のごとく自然に働いているが、御維新後外国と交渉を付けた以後の日本の開化は大分勝手が違います。

    ・学者は解ったことを分かりにくく言うもので、素人は分からない事を分かったように呑込んだ顔をするものだから非難は五分五分である

    ■中身と形式

    ・相手を研究し相手を知るというのは離れて知るの意でその物になりすましてこれを体得するのとは全く趣が違う。いくら科学者が綿密に自然を研究したって、必竟するに自然は元の自然で自分も元の自分で、決して自分が自然に変化する時期が来ないごとく、哲学者の研究もまた永久局外者としての研究で当の相手たる人間の性情に共通の脈を打たしていない場合が多い

    ・なおこの理を適当に申しますと、いくら形というものがはっきり頭に分かっておっても、どれほどこうならなければならぬという確信があっても、単に形式の上でのみ纏まっているだけで、事実それを実現してみない時にはいつでも不安心のものであります。

    ・要するに、形式は内容のための形式であって、形式のために内容ができるのではないというわけになる。
    もう一歩進めていいますと、内容が変われば外形というものは自然の勢いで変わってこなければならぬという理屈にもなる

    ・一言にしていえば、明治に適切な型というものは、明治の社会的状況、もう少し進んで言うならば、明治の社会的状況を形作るあなた方の心理状態、それにピタリと合うような、無理の最も少ない型でなければならないのです。

    ■文芸と道徳

    ・近年文芸の方で、浪漫主義及び自然主義、すなわち、ロマンチシズムと、ナチュラリズムという2つの言葉が広く使われてまいりました

    ・今日の有様では道徳と文芸というものは、大変離れているように考えている人が多数で、道徳を論ずるものは、分限を談ずるをいさぎよしとせず、また文芸に従事するものは、道徳以外の別天地に起臥しているように独り極めて悟っているごとく見受けますが、けだし、両方とも嘘である。

    ■私の個人主義

    ・自力で切り開いた道を持っていく方は例外であり、また他の後に従って、それで満足して、在来の古い道を進んで行く人も悪いとは決して申しませんが、しかしもしそうでないとしたならば、どうしても、一つ自分のつるはしで掘り当てる所まで進んでいかなくってはいけないでしょう

    ・第一に、あなた方は自分の個性が発展出来るような場所に尻を落ち付けべく、自分とぴたりと合った仕事を発見するまで邁進しなければ一生の不幸であると。
    しかし、自分がそれだけの個性を尊重し得るように、社会から許されるならば、他人に対してもその個性を認めて、彼らの傾向を尊重するのが理の当然になってくるでしょう

    ・我々は、他が自己の幸福のために、己の個性を勝手に発展するのを、相当の理由なくして妨害してはならないのであります。

    ・私のここに述べる個人主義というものは、決して俗人の考えているように国家に危機を及ぼすものでも何でもないので、他の存在を尊敬すると同時に自分の存在を尊敬するというのが私の解釈なのですから、立派な主義だろうと私は考えているのです。

    目次
    この本によせて
    1 道楽と職業
    2 現代日本の開化
    3 中味と形式
    4 文芸と道徳
    5 私の個人主義

    ISBN:9784061582712
    出版社:講談社
    判型:文庫
    ページ数:170ページ
    定価:660円(本体)
    1978年08月10日第1刷
    2018年04月17日第81刷改版発行
    2020年09月15日第83刷

  • (2018年2月のブログ内容を2020年11月に転記したものです)

    夏目漱石は英文学を専攻し、学校は出たものの、文学とは何かということをつかめず、悶々とする日々を送っていました。幸いにも教師の職にはありつきましたが

    “「その日その日はまあ無事に済んでいましたが、腹の中は常に空虚でした。空虚ならいっそ思い切りが好かったかも知れませんが、何だか不愉快な煑え切らない漠然たるものが、至る所に潜んでいるようで堪らないのです。」。”

    そして、ついにはロンドンに留学したが、分からない。しかし、そうしているうちについに分かったのです。「文学とはどんなものであるか、その概念を根本的に自分で作り上げるより外(ほか)に」途(みち)はない。当時は文学といえば、外国の評論家が別な外国人の文筆家を批評していったことをそのままコピーして吹聴してまわってありがたがるということが多かったのです。

    逆に、漱石は、ついに、自分の文学は自分で作るという境地「自己本位」に行きついたのです。自己本位、自分が右だといえば、他人が左だといえども曲げる必要はない。といことです。ある評論家がある文学についてこうだといったからといって、自分が反対の意見を持ったとしてもよいし、むしろ、自分だけが持てる意見を大事にしなければいけないということに気が付いたのです。

    こういうと、「自分勝手」と誤解されてはいけないのですが、その点についても夏目漱石は論考しています。他の人が同じように自由に考えることを阻害してはならないという形でなされなければならない。

    “「我々は他が自己の幸福のために、己れの個性を勝手に発展するのを、相当の理由なくして妨害してはならないのであります。」”

    現代の私たちにとってはとても当たり前のことのように思えますが、実践できている人となると、どれくらいいるでしょうか。漱石は「妨害」してしまう要因として「お金」と「権力」を挙げています。そして、自分がこれを持つ立場になったときには気をつけよと論じています。人は生活するうえで、権力やお金をもつ立場に立ってしまうのは仕方ないものですが、そうした場合、知らず知らずのうちに、他人の「自己本位」を妨害してしまいかねない。これに気を付けてさえいれば、自分を自分の考えで満たすことに全力で取り組むべきであると、若者に向けて語っています。

    漱石はその後帰国した後、自分の思うように職が得られない時も、神経衰弱になった時も、この「自己本位」という言葉(概念)が胸にあったため、不思議と気に病むことなく、生活を送ることが出来たといいます。

    自分が何者なのか、見つけられるきっかけは突然訪れます。それを個人の経験に照らしながら、醸成していくのが、人生ということでないでしょうか。性自認に限ってみても、体と反対の性であるとか、性の境界であるといった場合の自分の位置づけは、なかなか定まるものではないでしょう。

    各々が作り上げて発信していく、その一端を担う仕事ができたら、それがわたしに直結する自己本位ということなのだろうと、思っています。

  • 著者は1867〜1916まで生きた人ですが、現代でも通用する「バランス感覚」と「先見性」がある人だと思い、この本を読んで、めちゃくちゃ好きになりました。
    とても参考になることが多く書いてあり、とてもいい本に出会えました!
    ぜひぜひ読んでみて下さい。

  • 思想家、夏目漱石。考えている。

    高校でも習った「現代日本の開化」をはじめとする文明論・文化論はお見事。100年以上経った今でも通用するような普遍的な議論が展開されている。最近進路のことで迷いが生じていたのだが、「道楽と職業」における職業論はよい視点を示してくれた。これは個人的な収穫。
    そして何より表題作「私の個人主義」が素晴らしい。大学在学中という今この時期に読めて本当に有意義だったと思う。あたかも自分が学習院生の一員となって耳を傾けているかのような気分になった。「出来るだけ個人の生涯を送らるるべき」学生たちに個人主義の必要を説く漱石。自身の体験談と絡めた論の運びには説得力があり、人生の先輩からのメッセージとして素直に受け取ることができた。漱石にこんなに勇気づけられることになるとは思わなかった。

    しかし先生、講演が上手いなぁ。抽象的な主張を、身近な例を多用して具体的な次元に落としこんでいく手腕が見事。難しいことを易しく。諧謔も交えながら、聴衆を惹きつける真摯な語り口が冴えている。あんまり分かりやすいから最初は内容も簡単であるかのように感じられたが、繰り返し読むと漱石の優れた先見性・深い分析が分かってきた。本当によく練られている。

    この時この場所にいて直に話を聞けたらどんなに良かっただろう。本書の最後に、「で私のいう所に、もし曖昧の点があるなら、好い加減に極めないで、私の宅までお出下さい。出来るだけはいつでも説明する積でありますから。」とある。今から伺ってもよろしいでしょうか、漱石先生。

    • kazuhaさん
      漱石好きなんですね。個人的には漱石の幅の広さがすごいなーと。こころを書いて、坊ちゃんを書く。で、しかも今でも読みやすい文体ですし。正直、漱石...
      漱石好きなんですね。個人的には漱石の幅の広さがすごいなーと。こころを書いて、坊ちゃんを書く。で、しかも今でも読みやすい文体ですし。正直、漱石と太宰はその普遍的な内容と、現代でも読める文章っていうのがあるから、たぶんこれからも読まれ続けるのだろうなと思います、とさりげなく太宰を混ぜました(笑)確かにこの時代の人って今よりずっと考えてるような気がしました。中江兆民読んだときそんな感想を抱きました。なんていうか、普遍性に挑戦しているから、それだけ普遍的なもの掴んでいるのかなって思います。今は普遍性というよりは大衆性と、マニアックの時代と言いますか、そういう印象ですね。あ、コメントありがとうございました、とお礼をするつもりがついつい長くなりました。本棚名はご愛嬌です(笑)
      2011/11/03
  • 自身の読解力が乏しく、どうもこういう昔の作品は読みにくく感じてしまい難しい。
    そんな中でも個人的におもしろかったのは「中身と形式」と「私の個人主義」
    「中身と形式」では、形式にばかり固執して頭でっかちになるのではなく、中身は変わっていくのだから時代に応じて柔軟に形式も変化させていかなければならない、「私の個人主義」では個人としての幸福の追求、ただそこにはそれなりの責任が伴ってくるという内容が言及されていた。
    この夏目漱石にしても、福翁自伝を記した福沢諭吉にしても、世の中を俯瞰して大局的に物事を捉え分析する力が素晴らしいと感じた。こういった人物が今の世の中に存在していたなら、きっと大きな成功を残す人になっていたのだろう。

  • アバタロー氏
    「私の個人主義」のみ
    1914年学習院大の団体に向けて講演会の内容

    《漱石が生きた時代》
    明治維新、文明開化
    西洋の形式だけをまねた外発的なもの
    老子思想に傾倒していた漱石
    おのずから自然とそうなるか、他からの影響かという概念を重んじていた
    この時代に違和感を感じ、民衆も心の拠り所を求めていた
    こうした問題意識を踏まえた上、講演で問題解決の糸口を示した

    《内容の一部》
    〇自分の道を見つける方法
    イギリス文学を学ぶことで文学の本質をとらえようとしていた
    西洋の作品を研究しても、漢学や俳句のように深く味わうことができないことに直面
    探究すればするほど文学がわからなくなり、精神的に追い詰められていった

    文学とはどんなものであるか、概念も根本的に自力で作り上げる以外ないと悟った
    他人本位から自分本位に切り替えるというシンプルな発想の転換だった
    答えを探すのではなく自分で答えをつくろうとした

    もし悩んでいるのなら、どんな犠牲を払っていても、ここだという所まで掘り当てるところまで進んでみたらよい
    国家や家族のためではない
    ご自身の幸福のためにそれが必要だと申し上げている

    《感想》
    上記の内容が私には刺さった
    本当は教師も留学もしたくなかった
    真面目でできる人がゆえに、文学の本質に悩み、自分が求めたいものと他者から求められるものの乖離で、精神的に病んでしまったのだな

    他の内容は、権力や金力など人間として至極まっとうなことを述べていた

    気苦労した人生であっただろうが、現代にまで語り継ぐ作品を数多く残してくれた功績は素晴らしい
    著書をまた読んでみたくなった

  • バイブル的存在の一冊。
    あくまで一つの考え方ではあるものの、物の考え方、姿勢の在り方は参考になる。
    今でも通用する内容なので人間の本質って変わらないという事か。
    本当の意味での個人主義とは自立、自律、寛容、責任、義務と深く結びついており、他者排除ではない。
    何度も読み返す価値あり。

  • まずは解説から読み進めていけば内容を理解し易いと思います。解説が良かった。

  • 漱石が自分自身を見つけるまでの話。
    100年以上前の講演にも関わらず、人間の本質を的確に捉えた言葉が私の心を勇気づけてくれる。漱石の悩みと自分の悩みがどこかで重なり、言葉の力で、何だかそれを乗り越えられるような光が指す瞬間があった。これこそ本を読む醍醐味。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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