私の個人主義 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061582712

感想・レビュー・書評

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  • 思想家、夏目漱石。考えている。

    高校でも習った「現代日本の開化」をはじめとする文明論・文化論はお見事。100年以上経った今でも通用するような普遍的な議論が展開されている。最近進路のことで迷いが生じていたのだが、「道楽と職業」における職業論はよい視点を示してくれた。これは個人的な収穫。
    そして何より表題作「私の個人主義」が素晴らしい。大学在学中という今この時期に読めて本当に有意義だったと思う。あたかも自分が学習院生の一員となって耳を傾けているかのような気分になった。「出来るだけ個人の生涯を送らるるべき」学生たちに個人主義の必要を説く漱石。自身の体験談と絡めた論の運びには説得力があり、人生の先輩からのメッセージとして素直に受け取ることができた。漱石にこんなに勇気づけられることになるとは思わなかった。

    しかし先生、講演が上手いなぁ。抽象的な主張を、身近な例を多用して具体的な次元に落としこんでいく手腕が見事。難しいことを易しく。諧謔も交えながら、聴衆を惹きつける真摯な語り口が冴えている。あんまり分かりやすいから最初は内容も簡単であるかのように感じられたが、繰り返し読むと漱石の優れた先見性・深い分析が分かってきた。本当によく練られている。

    この時この場所にいて直に話を聞けたらどんなに良かっただろう。本書の最後に、「で私のいう所に、もし曖昧の点があるなら、好い加減に極めないで、私の宅までお出下さい。出来るだけはいつでも説明する積でありますから。」とある。今から伺ってもよろしいでしょうか、漱石先生。

    • カズハさん
      漱石好きなんですね。個人的には漱石の幅の広さがすごいなーと。こころを書いて、坊ちゃんを書く。で、しかも今でも読みやすい文体ですし。正直、漱石...
      漱石好きなんですね。個人的には漱石の幅の広さがすごいなーと。こころを書いて、坊ちゃんを書く。で、しかも今でも読みやすい文体ですし。正直、漱石と太宰はその普遍的な内容と、現代でも読める文章っていうのがあるから、たぶんこれからも読まれ続けるのだろうなと思います、とさりげなく太宰を混ぜました(笑)確かにこの時代の人って今よりずっと考えてるような気がしました。中江兆民読んだときそんな感想を抱きました。なんていうか、普遍性に挑戦しているから、それだけ普遍的なもの掴んでいるのかなって思います。今は普遍性というよりは大衆性と、マニアックの時代と言いますか、そういう印象ですね。あ、コメントありがとうございました、とお礼をするつもりがついつい長くなりました。本棚名はご愛嬌です(笑)
      2011/11/03
  • 夏目漱石の博学さに触れられる貴重な一冊 私の個人主義では、今後自分の人生に活かせることが漱石自身の言葉で一杯一杯書かれており、人生のバイブルになること間違いなしの一冊だった。

  • 私が夏目漱石を好きになるきっかけになった本。
    講演集であり毎回前置きが入る。その前置きがまた面白い。講演内容を考えることを先延ばしにし、ついに今日になってしまい困っているだとか、田舎で人がいないと思ってが、講演が始まるとどこからともなく人が集まってきたなど書かれている。また漱石自身も学者という顔を持っているためか学者についての言及も多い。私は学者を目指したいので(あくまで目指したい)どうしても学者についての記述が目に留まってしまう。
    「道楽と職業」では学者を最も不具な存在と位置付ける。不具を3回重ねたユニークな表現は漱石らしいと感じる。また漱石自身も不具の1人であるという自虐も入り、漱石のユーモアを感じる。一般的に仕事は他人のためにすること=職業だが、学者は自分が好きなことを仕事にしているので、職業ではなく道楽と言うことができ、そして学者は自分のためにするのではなければ成功しないと書かれており、私もそうあろうと思わせてくれる。
    「現代日本の開化」でも学者について言及がある。学者は定義を作るが、そもそも定義とは作るのが難しく内容はしばしば流動的であり、無理矢理あてはめるのはよろしくないということである。また学者を真面目にやると神経衰弱に陥るとも書いており、そりゃそうだと思った。考えるということは楽しいが、同時に相当気力体力を消耗すると私は感じるからである。最後には日本の近代化は内発的ではなく、外発的なものであり日本人は神経衰弱になるだろうと述べられ、その解決策はないと結論づける。このような結論に至るならかえって考えないほうが幸せだったのては無いかと漱石は言っているが、私はそうは思わないし、漱石も本当にそう思っていたのかはわからない。あくまで私の想像ではあるが、漱石はこの結論を知らないより知っている方がいいと思っていたのではないかと思えてならない。何かを知るということは自己破壊であり、知らないことは「おめでたい」ことであると、私の大学の先生がおっしゃったことが思い出された。私はこのペシミスティックな結論がなぜか好きである。それはフロイトの死の欲動の概念と似ているからかもしれない。
    「中味と形式」学者は対象を客観視する傾向がありしばしば中身に合わない形式をつくることがある。対象を実際に経験し、対象を中から捉えるやり方でしか捉えられない中味もある。精神分析において、ある理論はその人の経験から出発しているので通ずるところがあると感じる。
    「私の個人主義」ではもし自分の進むべき道が分からず懊悩しているならば、自分が納得できるまで自分の道を探し続けなさいと若者へエールを送っている。今まさに自分の道を模索中の私にとっては心にささった文章であり、この本がお気に入りになった1番の理由である。
    ‪漱石は職を競った相手の名前を思い出せないことに対して悔しくないからであると書いていたが、精神分析的には悔しいから忘れたのだと言うことができる。自分の勉強している学問の視点が少しでも身についていると思うと嬉しい。‬

  • 皆様ご存知の通り、夏目漱石は明治に生きた小説家です。彼が幕末生まれであることはつい最近知ったところです。

    この本は晩年の漱石が行った講演を5つほど収録したものであり、急速に近代化してゆく激動の時代を生きた当時の漱石の思想が彼の独特な語り口とともにまとめられています。
    その内容はどれも現代に通ずるものであり、およそ100年前の話とは思えないような鋭い見識に驚かされます。

    中でも表題にもある「私の個人主義」は印象深く、道を切り拓かんとする若人に「自己本位」というものを強く訴えかけます。不特定多数との交流が盛んな現代社会において、ともすれば他人の評価を気にしてしまい、苦悩し続ける人々にきっと新たな視点をもたらす事と思います。

    講演集なので一つ一つの話が短く、普段あまり本を読まない方でもすんなりと読めてしまうでしょう。学生である間に是非ともご一読頂きたい一冊です。

  • 父親に就職と同時に渡されて手に取る。
    人から勧められた本を読んだのはいつぶりだろうか。

    漱石の講演6本のまとめ。
    100年以上の年月を経ても色あせず、
    この十数年で大学の学者が唱えていることをすでに当時から予見し独自の観点から意見しており、
    世の中や世間を観察し自らの知見に落とし込む能力の高さに驚嘆する。
    現代の人々、とりわけ変化の激しいこの十数年を生きる人々にも共感され、なお色あせない点からも一読の価値はあると思う。

    講演の中で用いられる語彙の豊富さからも聡明な印象を受けることは必至であると思う。


    内容は、現代を生きる人々に対して、「職業」、「個人」、「他者」、「国家」との関係性を明瞭にすることで生きる上でのエッセンスを与えるもの。

    その内容は社会科学者のそれそのものだと思うが、
    現代のように統計データが得られることがなく、
    社会を洞察し、文学作品を創作することで到達したアプローチは、やはり社会科学者というよりは
    文学者、哲学者、アーティストの様相を強く感じられる。


    特に影響を及ぼした内容は以下。


    1.他者と自分との関係性を捉えずして、対価の高い見返りを得ることはできない。

    極めて当たり前のことであるが、
    職業においてのみならず、人間関係の構築や道楽に関しても他者と独立したものは結果として自分の満足する対価を得られないだろう。

    社会や他者との関係性に注意を払い高い対価を得るのか、
    はたまた自己満足を正当化するのか、
    どちらが自分にとって幸せなのかを改めて考えさせられることになった。

    大学の卒業式の講話や研修、
    そして自分が大学院の途中からマインドセットとして特に意識し始めたことをさらに口をすっぱく言われた気分である。

    「自分の知識を社会とは無関係のただの自己満足で終わらせることは極めてアンフェアである(卒業式の総長より)」

    「一般論は真面目な正論を振りかざすだけで成立する(後輩より)」

    「ある程度の修養を積んだ人でなければ、個性を発展する価値もなし(本文より)」


    近年はマーケット(ニーズ)よりの考えだったり、
    デザイン志向(シーズ)よりの考えが社会に一般常識のように浸透しているが、
    どう重心を置くかは目的や組織、立場等で決定されると思う。

    が、誤解してはならないのがどちらも社会との関係性を切り離してはいない点。

    このようなニーズ・シーズの関係性は個人にもほぼ同じように適用できるため、
    時間に制約が生じ始め、他者との関係性が自分の利益や幸福度に直結する立場の社会人が、
    自分がどう評価されるのか(結婚相手や恋人、職場での評価)、
    自分の職業としてどのような専門性を身につけるべきか、
    その方法はどういう考えに基づくべきかを改めて整理することができる本です。


    やば、また一般論しか言えなかった。。。

  • 夏目漱石の講演集。
    「道楽と職業」、「現代日本の開化」、「中味と形式」、
    「文芸と道徳」、「私の個人主義」の5篇が収録されている。

    「中味と形式」、「私の個人主義」が面白かった。
    夏目漱石は、真面目で誠実で、信頼できる人物だと思う。
    それに諧謔味に富んでいて軽快。

    「中味と形式」
    P74
    「すべて政治家なり文学者なりあるいは実業家なりを比較する場合に誰より誰の方が偉いとか優っているとかいって、一概に上下の区別を立てようとするのは大抵の場合においてその道に暗い素人のやることであります。専門の智識が豊かでよく事情が精しく分かっていると、そう手短にまとめた批評を頭のなかに貯えて安心する必要もなく、また批評をしようとすれば複雑な関係が頭に明瞭に出てくるから中々「甲より乙が偉い」という簡潔な形式によって判断が浮かんで来ないのであります。」
    身近な例だと、一見面白くて的を射ているようだけどそうでもない
    レッテル貼りのことを思い出す。

    「私の個人主義」
    P134
    「けれどもいくら人に賞められたって、元々人の借着をして威張っているのだから、内心は不安です。手もなく孔雀の羽根を身につけて威張っているようなものですから。それでもう少し浮華を去って摯実に就かなければ、自分の腹の中はいつまで経ったって安心は出来ないという事に気がつき出したのです。」
    P136
    「私はこの自己本位という言葉を自分の手に握ってから大変強くなりました。彼ら何者ぞやと気概が出ました。今まで茫然と自失していた私に、ここに立って、この道からこう行かなければならないと指図をしてくれたものは実にこの自己本位の四字なのであります。」
    P137
    「その時確かに握った自己が主で、他は賓であるという信念は、今日の私に非常の自信と安心を与えてくれました。私はその引続きとして、今日なお生きていられるような心持ちがします。」
    P138-139
    「行けないというのは、もし掘り中てる事が出来なかったなら、その人は生涯不愉快で始終中腰になって世の中にまごまごしていなければならないからです。私のこの点を力説するのは、全くそのためで、何も私を模範になさいという意味では決してないのです。私のような詰まらないものでも、自分で自分が道をつけつつ進み得たという自覚があれば、あなた方から見てその道がいかに下らないにせよ、それは貴方がたの批評と観察で、私には寸毫の損害がないのです。私自身はそれで満足する積りであります。」

    他人のものさしで自分の人生をはかることをやめた、
    と言っているように受け取った。自分の人生を自分のものさしで見て、
    十分満足いくように進んで行けば、それでよい。
    その、ものさし、というか価値観を自分の手で掘り当てることが重要。
    そしてその価値観を得たからと言って、他人に強要することのない、
    謙虚さがある。

  • 夏目漱石の講演集であります。いやあ面白い。
    面白いといふと語弊がございますか。
    鹿爪らしい顔をして気取つてゐる有名な写真がありますが、実際にはきつと茶目ツ気のある人なのでせう。

    「道楽と職業」に於ける道楽とは、まあ学者とか芸術家とか、さういふ職業のことを指してゐます。
    官吏や会社勤めと違ひ、自分の匙加減で仕事をする人たち。やくざな職業と思はれてゐたのでせう。
    それにしても明治44年当時、漱石はすでに職業の細分化に触れてゐます。
    「現代日本の開化」では、「開化は人間活力の発現の経路である」と定義します。何だか良く分かりませんね。
    そこで積極的な活動と消極的な活動に分類して論を進めるのですが...漱石は現代日本の開化は上滑りの開化と断じ、日本の行く末は悲観的だと嘆いてゐます。当時こんなことを公で発言しても大丈夫だつたのでせうか。日露戦争が終つてまだ間がなく、やあ日本はあのロシヤに勝つたのだ、世界の一等国だなどと浮かれてゐた頃でせう。
    「中身と形式」を見ますと、明治維新からまだ50年に満たない中途半端な時代を感じます。一般大衆に於ける善悪美醜の複雑化が窺へます。
    「文芸と道徳」では、当時の文学の主流である浪漫主義・自然主義と道徳の関係を説きます。自然主義文学に対して、案外寛容な物言ひですね。
    「私の個人主義」の主張は、危険思想扱ひされなかつたのだらうかと、心配になります。もちろん現代の私が明治の漱石を心配しても詮無いことでありますが。国家より個人が優先されるなどと説く漱石。カッコイイのであります。

    さすがにかつて千円札の顔になつただけありますね。大衆の味方。私は再び千円札に復帰して貰ひたいと祈願するものであります。現在の千円札の人は、偉い博士ですが、どうもあの親不孝ぶりが気に入らない...

    http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-80.html

  • 不安になると読んでる。

  • 夏目漱石の講演集。

    ・私の個人主義
    他人本位で生きてきた夏目漱石がロンドン留学を経て自己本位の生き方に気付いた。
    今から見ると別段新しいことはなく、「個人主義」という言葉自体に悪いイメージもないけど、この時代では偏った個人主義に悪いイメージが付きまとっていたことは容易に想像できる。その時代に「個人主義」という言葉を使って自己本位の生き方を説明したところに意義があった。

    言葉の上っ面だけの解釈は膚浅な解釈。


    ・道楽と職業
    やっぱり長い時間を費やす職業なんだから、自分の好きなことの延長にあったらいいなと思っていた。
    漱石の提出した職業観は、まず何もかもを自分でしていた時代に遡る。自分で米を作り、着物を織る時代。でも社会が成立するうちに分業体制になるのは、自分がしない仕事は他人に補ってもらい、自分の仕事は他人のしないことを補う、という流れにある。
    ということはどうしても他人本位にならざるを得ない。
    また、最初は道楽でやっていたかもしれないがそれが職業となると途端に性格が変わる。

    その理解の上で、科学者や哲学者、芸術家は本当に道楽=職業、自己本位でやってるレア物である。

    職業ってそんなものか、と思った。職業の性質はうまく言い当ててると思う。(まだ働いてないから何とも言えないけど)
    私は顕微鏡を覗く部屋から抜けられなくなりそうな気がしてたけど、その視野の狭さは私にとってはあまりよろしくないかもしれない。
    中庸やったり中道やったり、昔から人はバランスのいいところを目指して落ち着くのが理想と説かれていて、それが最もだと思うに至った(at高野山)。科学や哲学に傾倒してしまって他は受け付けない人がいることは分かっているけど、あくまで私としては中道を目指したいので。


    ・現代日本の開化
    西洋の開化は内発的であるのに対し、日本の開化は外発的で皮相上滑りの開化。酷評。

    その時代に生きながら、こういう俯瞰的な見方のできる人が賢いなぁと思う。

    • hilite10982さん
      中道・中庸を保つためにも、いっぱい知識増やして、考えてくださいまし。
      中道・中庸を保つためにも、いっぱい知識増やして、考えてくださいまし。
      2011/08/24
  • 様々な事柄に関して夏目漱石の考えが提示されています。
    講演をもとにしているので口語体で読みやすく、どの章も散漫に聞こえる聴衆への語りかけから本質に流れるように論説が進んでいく様は「すばらしい」の一言。特に「現代日本の開化」には明治の時点で日本を現在のような視点で案じていることに驚き、「私の個人主義」では個人的に生きる勇気をもらえた気がします。漱石先生は優れた思想家でもあるという発見ができました。

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著者プロフィール

夏目漱石(なつめ そうせき)
1867年2月9日 - 1916年12月9日
江戸・牛込馬場下(新宿区)生まれの小説家、評論家。本名は「夏目金之助」(なつめ きんのすけ)。1890年、帝国大学文科大学英文科に入学。1895~96年には『坊っちゃん』の舞台となった松山中学校で教鞭を執る。1900年、イギリスに留学。1905年、『吾輩は猫である』を俳句雑誌「ホトトギス」に連載し始め、作家活動を本格的に開始。1907年、朝日新聞社に入社。以降、朝日新聞紙上に『三四郎』『それから』『こころ』などの代表作を連載。日本の文学史に多大な影響を与えており、作品は多くの人に親しまれている。学校教科書でも多数作品が採用されている。

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