塩の道 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 56
  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061586772

作品紹介・あらすじ

本書は、生活学の先駆者として生涯を貫いた著者最晩年の貴重な話――「塩の道」「日本人の食べもの」「暮らしの形と美」の3点を収録したもので、日本人の生きる姿を庶民の中に求めて村から村へと歩きつづけた著者の厖大なる見聞と体験が中心となっている。日本文化の基層にあるものは一色でなく、いくつかの系譜を異にするものの複合と重なりであるという独自の史観が随所に読みとれ、宮本民俗学の体系を知る格好の手引書といえよう。

感想・レビュー・書評

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  • 本書では塩が題材になっているが、かつての日本の流通が、たとえば密林やサバンナの生態系、ヒトの腸内環境のような精緻なバランスを連想させる。それは当時の必要に応じた暮らし方の一部に過ぎないとも言えるのだけれど、現在の効率的なのに大量の廃棄物が出る社会にはない美しさだ。いたずらに過去を美化するわけにはいかないが、「必要なものを必要な分だけ」手に入れる良さを、少しでも維持していきたいという気持ちになった。義務感ではなく、そのほうが美しいと感じるから。

  • 日本の文化や歴史を、庶民の生活の視点から調べてまとめてある本は、とても貴重で、興味深かった。

    ・確かに塩はどこでも採れるわけではないけど、人体に必要不可欠であり、ないと生きていけない。当時の流通網を調べるには、とてもいい糸口だと思った。

    ・日本の人口は中国などと比べて、過去二千年の間に大きな増減をすることなく、緩やかに増え続けてきた。戦争をする者/食糧を生産する者が分けられていたからだ。

    ・日本の食糧自給が安定していた理由として、民衆が戦争から離れたところに存在していたことがあるが、民衆の生活の工夫が続けられてきたことも大きい。
    米だけではなく、その土地の特徴に合わせて新しい作物を民間レベルで積極的に受け入れてきたこと。
    トチやドングリなどの実のなる木を代々管理し続けて飢饉を乗り切ったこと。
    山間部で発達した発酵食品などの保存食の知恵などなど…長い間、民間で繰り返されてきた努力と工夫で、日本の文化はできている。

    現在は平和な世の中で飢えとは縁遠い生活をしており、生きるためというより、楽しむための食になっている。
    ただ、また戦争などでいつ自給自足の生活に戻らないといけない日がくるか分からない。そんなときのために、自分で生きていくための食糧を得るための伝統的な文化はある程度伝承していかなければいけないんだなと思った。

  • 2014.9記。

    生きるために欠かせない「塩」と、人々はどう関わり合ってきたか。
    著者はまず、「八百万の神」を祀る習俗の日本において「塩」そのものを祭った神社がない、という事実に着眼して筆を起こす。

    容易に塩を得ることのできなかった古い時代。山奥の人は薪を川に流す、川下の人はそれを拾って海水を茹で、塩に変える、それを山奥に返す。まさしく、流通経済が塩を媒介として育っていた。昭和初期くらいまでは薪のことを「塩木」と呼ぶ地域があったという。

    また、人々は山中で立小便をすることを厳しく戒めた。理由は、狼が塩をなめに来るため。以前読んだ「イマドキの野生動物」という本の中で、現代でも、野生のシカが道路凍結予防に散布される塩を舐めて大繁殖している、というエピソードが載っていた。我々は「立小便禁止」を近代的道徳の範囲でしか理解せず、古の知恵を失ってしまっているのかもしれない。

    最後に、結局回答が言及されていない「塩が祀られない理由」についての私個人の仮説。つまり、塩は一種の貨幣、「交換を媒介する手段」としての側面を持っていたから、という発想はどうだろうか。貨幣も、神社で神様として祭られているという話は聞かない。そして、網野善彦氏の歴史学の知見を借りれば、交換=経済を媒介するものは、モノと所有者との関係を断ち切る(「無縁にする」)性質を持っている(例えば市場)。
    「浄化」という機能も含め、塩には貨幣や市場に通じる交換手段としての「無縁性」があり、よって八百万信仰の外にあったのではないだろうか。なんか、我ながら結構いい線いっている気がしてきたが、多分違うしまあいいや。

  • 宮本民俗学なるものを一度くらい読んでみようと思って。話し口調で説明もわかりやすく、たいへん読みやすかった。

    塩水をそのまま煮詰める方法から揚浜式へ、石釜方式へ。
    山から材木を流してそれを海に行って焼く。材木と塩の物々交換。麻をさらすための軽い灰を売って塩を焼く。牛で塩を運ぶ。細い道の道草を食わせる。人の背で運ぶ、塩魚を売る。
    米の伝来、騎馬民族、壺の発達、畳の発明、一つ一つの営みを合理的に限られた中でやっていくことに、文化の繋がりや社会制度が見えてきて面白い。
    民俗学に詳しくないからこの見解がどこまで正しいのかわからないけど。

    P200
    それは、そこにいる人たちのたんなる美意識というよりも、そこにあるものを、長い生活の体験の中から見つけていって、そしてそれを美に転化していった。その美がたんなる美ではなくて、自分らの生活を守る強さをもつ美であった、ということを忘れてはいけないと思います。

  • 傑出した名著。宮本氏のたぐいまれな観察と失われゆく習俗への愛情にあふれている。

  • 塩が貴重だった時代、山に住む人にとっての塩。

    その塩を活用するための日本人が編み出した暮らしに密着する知恵と工夫。

    「日本人と食べもの」の内容に関心がありましたが、どの章をとっても、どの節をとっても、得るものが多かったです。

  • 民俗学の古典ともいうべき本ですね。
    勿論、今、読んでみると古臭いネタも多く、
    非現実的な話もあるのですが、(何故か三陸の人たちが自分たちのところで塩を作らず、わざわざ遠くから塩を調達しようとしてたり(´∀`;))
    戦後の時代にこの本にあるような論文が書かれたという事実を、
    時代背景を考えながら、読んでみると、やっぱり宮本常一という人は、
    凄くバイタリティに溢れていた人なんだろうなと思えます。

    そのような意味で元気の出る本ですね。

  • 塩がいかにして作られ、運ばれてきたのか。
    塩は神として祭られたことがないという話から始まり、山奥に住む人が苦労して塩を手に入れていた話や、塩を運ぶために道が作られたという話などが続きます。

    塩だけにとどまらず、日本の食べ物や道具や暮らしなど、興味を掻き立てられることがぎっしりと詰まっていました。

    宮本常一さんは実際に自分が見聞きしたことを書き記しているからか、文章に血の通っているような温かみがあって好きです。

  • 本の題は『塩の道』ですが

    Ⅰ塩の道

    Ⅱ日本人と食べ物

    Ⅲ暮らしの形と美   の3部から成る。


    塩を通して、また稲作を通して日本の成り立ちを読み解こうとする。


    塩は糖と違って、自分の体の中では生成できない。しかしながら、

    塩は循環機能を保つためには必須のものだから、この塩を手に

    入れるために古くから交易が行われていた。その塩の道をたどり

    暮らしの変化を見つめてゆく。


    稲作は稲の作り方だけが流布したのではなく、家族、技術や高床式

    の家と一緒になって日本にやってきた。それが後々の日本の文化と

    なって定着してゆく。単に食べるだけの自給ではなく、仕事をするた

    めに、その地で自給して生活をたてていくといったスタイルは古くから

    あったのではないでしょうか?といったところを探ってゆく。


    高床式の家はやがて、障子や畳といったものを生み出してゆく。生活

    様式は変化してゆくとともに、日本独特の美も生まれてゆく。


    もう一度、長い歴史の間に生み出されてきた独自の文化を再評価しよ

    うではありませんか?

  • 日本人の塩に関する歴史が詳しい。塩は世界中の人にとって重要。

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著者プロフィール

1907年(明治40)~1981年(昭和56)。山口県周防大島に生まれる。柳田國男の「旅と伝説」を手にしたことがきっかけとなり、柳田國男、澁澤敬三という生涯の師に出会い、民俗学者への道を歩み始める。1939年(昭和14)、澁澤の主宰するアチック・ミューゼアムの所員となり、五七歳で武蔵野美術大学に奉職するまで、在野の民俗学者として日本の津々浦々を歩き、離島や地方の農山漁村の生活を記録に残すと共に村々の生活向上に尽力した。1953年(昭和28)、全国離島振興協議会結成とともに無給事務局長に就任して以降、1981年1月に73歳で没するまで、全国の離島振興運動の指導者として運動の先頭に立ちつづけた。また、1966年(昭和41)に日本観光文化研究所を設立、後進の育成にも努めた。「忘れられた日本人」(岩波文庫)、「宮本常一著作集」(未來社)、「宮本常一離島論集」(みずのわ出版)他、多数の著作を遺した。宮本の遺品、著作・蔵書、写真類は遺族から山口県東和町(現周防大島町)に寄贈され、宮本常一記念館(周防大島文化交流センター)が所蔵している。

「2022年 『ふるさとを憶う 宮本常一ふるさと選書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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