文庫の整理学 (講談社学術文庫 706)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061587069

感想・レビュー・書評

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  • 85年の刊行とは思えない、非常に良い本だった。
    著者は評論家であり作家であり翻訳家。
    その上稀代の読書家としても知られる紀田順一郎さんの語るブックガイド。
    その数およそ1050冊もある。
    本屋さんに並ぶ「出版社別」「著者別」とは違う角度から見た膨大な文庫本の案内書だ。

    戦後の第一次文庫ブームでは古典や名著が中心だったが、徐々に教養書・ベストセラー・読み物類が加えられるようになっていく。
    小型で廉価であることも幸いして60年代には「知的中間層」の教養の底上げ的役割を果たしていた。
    しかしロングセラーだった古典や名著の文庫本も、80年代に入ってから様変わりする。
    新刊書類が主流となり、一般書とほぼ同様の流動的なものへと変化した。

    出版社の増加と共に膨大になり過ぎたきらいのある文庫を、Ⅰ.歴史と人間Ⅱ.現代 Ⅲ.生活と文化Ⅳ.文庫図書館の4部に分けて紹介。更に細かく分類し、 全体では30章。
    著者名と出版社、価格も明記してあるが現在ではだいぶ上がっているだろう。
    刊行当時は200円から500円くらいのものが多い。
    絶版となっている本もあるが、古書店やネット書店で入手できそうではある。
    エンタメ性を排除した選書群は、読んでいて心が和む。
    うん、そうそう、こういう本を教えてほしかったと、何度相槌を打ったことか。

    お勧めする本の引用もあり、切り取り方が実に上手い。
    どんな時代だったか、どんなことを考えていたか、鮮やかに浮かんでくる。
    一体前後にはどんな文章が書かれていたのかと、気になってたまらない。
    そんなわけで、読みたい本がどんどん出てきてしまった。
    特に「ことばと文化」「学問のすすめ」では、全て読みたくなり少し困っている(笑)。

    歴史・民俗学から「日本人の知恵」 文学関係から「漱石の思い出」
    自伝では「武家の女性」この三冊をまず入手したい。
    木村治美さんの「黄昏のロンドンから」「静かに流れよテムズ川」「イギリス交際考」は比較文化論として楽しく読めそうだ。
    寺山修司は「不思議図書館」なんて本を書いていたのね。ちょっとときめく。
    池田弥三郎の「日本故事物語」は図書館に在庫があった。
    音楽の本で「北の波濤に唄う」は、なんとしても読みたい。

    「笑い」の章では引用部分に大いに笑わせてもらった。
    「自伝文学中の別格的存在」として「福翁自伝」をあげ、古典文学のリストとしてサマセット・モームの「世界十大小説」をあげている。
    無駄のない文章は品があり、読んでいて飽きない。
    巻末に索引がないのが唯一困った点だが、それでも読み物として非常に楽しめる。
    文庫好きな皆さん、どうぞ手に取ってみてね。

    • 夜型さん
      書名は、
      岩波少年文庫のあゆみ
      です。
      忘れてました。アリーヴェデルチ!
      書名は、
      岩波少年文庫のあゆみ
      です。
      忘れてました。アリーヴェデルチ!
      2021/03/13
    • 夜型さん
      図書館の興亡 古代アレクサンドリアから現代まで
      の文庫本が出るそうです。こちらもぜひ。
      図書館の興亡 古代アレクサンドリアから現代まで
      の文庫本が出るそうです。こちらもぜひ。
      2021/03/13
    • nejidonさん
      夜型さん♪
      サンクス!
      岩波少年文庫はこれからもずっと私の友だちです。
      お勧めいただいた本、今日が刊行日なんですね。
      さっそくお気に...
      夜型さん♪
      サンクス!
      岩波少年文庫はこれからもずっと私の友だちです。
      お勧めいただいた本、今日が刊行日なんですね。
      さっそくお気に入りに入れますね。
      図書館の興亡は、類似本がいくつも出ていますが新しい視点があるのでしょうか。
      読んでみないと何とも言えません(*^^*)
      雨降りのせいか、にゃんこたちが大人しいです。
      2021/03/13
  • 稀代の愛書家である著者が、歴史や経済、文化などのさまざまなジャンルにおける文庫本を紹介しています。

    1985年に刊行されているので、紹介されている本が古いことはしかたがないのですが、もうひとつ注意しておくべきなのは、本書はそれぞれの学問分野の入門書を提示することが目的ではないということです。かつて文庫本は、古典や名著が中心でしたが、80年代からそれらの比重が下がり、実質的な意味での新刊書が主流になってきたと著者は語っています。それにともなって、現代社会を生きていくのに求められる情報を広く提供するような性格のものと、エンターテインメントの二つの方向に分かれたといい、本書では前者にあたるものがとりあげられています。

    たとえば歴史の本に梅原猛の『隠された十字架』や吉田武彦の『「邪馬台国」はなかった』が、日本人論では山本七平のさまざまな本が、あげられています。おそらくこれらの本で説かれている説は、現在のアカデミズムでは支持者はすくないと思われますが、それぞれのジャンルに興味のある読書人がたのしめるようなラインナップということができるかもしれません。そうした点に考慮すれば、現在でも有益な内容を含んでいると感じました。

  • 筆者の読書量はジャンルを問わず、半端ない。私も早くこのレベルになりたい。もっともっと読書しないとな。
    それにしても文庫本って日本が生んだ凄い画期的な本の体形だと思う。

    経済学が必ずしも実際向けの学問である必要はないが、少なくとも経済書は現実的な用途から読まれる。未来ということを問題にするバイも、ごく近い将来がターゲットになる。

    しかし、若い人たちで、これからいろいろなものを吸収しなければならないのに、本を買わない人たちが増えてきているのはまことに残念な話だ。

    高級車に乗っているからといって、必ずしも高級な人間とは限らないが、低級な車に乗っておるやつはまず確実に低級だと思って間違いないんだ。

    死の自覚のない文明は、はたして健康な文明であろうか。

    文庫本は読書の入門用とされていた。広く浅いからである。

  • 本祭り

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著者プロフィール

評論家・作家。書誌学、メディア論を専門とし、評論活動を行うほか、創作も手がける。
主な著書に『紀田順一郎著作集』全八巻(三一書房)、『日記の虚実』(筑摩書房)、『古本屋探偵の事件簿』(創元推理文庫)、『蔵書一代』(松籟社)など。荒俣宏と雑誌「幻想と怪奇」(三崎書房/歳月社)を創刊、のち叢書「世界幻想文学大系」(国書刊行会)を共同編纂した。

「2021年 『平井呈一 生涯とその作品』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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