- Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061587397
作品紹介・あらすじ
本書は、江戸後期から明治中期に亙る実学観の変遷を辿り、多義的で、時に相対立する内容を含む実学概念の背後にある思想の歴史的展開を体系的に捉えたものである。即ち、実学概念を統一概念として把握するに、虚学・偽学という概念を対置しつつ、梅園・蟠桃らの開明思想家から幕末志士の行動のバックボーンとなった象山・小楠・松陰らの思想を通じて、維新遂行の母胎を成した実学思想の遠因と展開を解明し、維新史の新解釈を提唱する。
感想・レビュー・書評
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日本近世の実学思想にかんする著者の論文や講演などをまとめた本です。
三浦梅園、山片蟠桃、海保青陵、本多利明など、一般的に「実学」と呼ばれることのある人びとの思想を簡明にまとめて紹介しているのはもちろんですが、著者は後期水戸学派の思想家たちや佐久間象山、横井小楠、吉田松陰といった幕末の志士たちといった現実の変革をめざす思想も「実学」のうちに含めて考察をおこなっています。さらに、そういった思想が明治以降の近代化にどのようにつながっているのかということについても議論を展開しており、福沢諭吉の教育思想と、実用主義の文学を批判した北村透谷にかんする論文が収録されています。
「あとがき」によると、本書は『実学と虚学』(1971年、富山県教育委員会)を増補したもののようです。著者は、日本の実学思想のあゆみについての研究が、アジアをはじめとする非西欧圏の近代化にまつわる問題に光を投げかけるのではないかという期待をいだいており、本書の意義をあらためて見なおすことになった経緯が語られています。こうした「近代化論」という視点からの考察は、現在となってはやや古びたテーマのようにも思えますが、本書における近世思想史にかんする議論自体はいまでも有益な内容を含んでいます。詳細をみるコメント0件をすべて表示