とはずがたり(上) (講談社学術文庫)

  • 講談社 (1987年7月6日発売)
4.09
  • (9)
  • (8)
  • (4)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 97
感想 : 9
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

Amazon.co.jp ・本 (434ページ) / ISBN・EAN: 9784061587953

作品紹介・あらすじ

鎌倉時代前期、武家階級に活力ある政権を奪われた京都では、古来の政治・経済の基盤を失いかけた貴族たちは退廃的な生活にひたっていた。この風潮の中で、家柄と容色と才智にめぐまれた、久我(こが)雅忠の女(むすめ)がその異常な生涯を自らの手で記したのが『とはずがたり』である。14歳の春、無理に後深草院の後宮にされて一皇子を生みながら、複数の男性とも愛欲の生活を続ける大胆・奔放な生き方・体験を露骨に記述する文学史上特異な作品。

AIがまとめたこの本の要点

プレミアム

みんなの感想まとめ

大胆で奔放な生き方を描いたこの作品は、鎌倉時代の貴族社会における女性の心情や愛憎を赤裸々に綴っています。特に、主人公が自らの不貞や宮廷の乱倫を臆することなく記述している点が、読者を惹きつけてやみません...

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 鎌倉時代の貴族・久我雅忠の娘、後深草院二条(1258 ~?)が描いた日記文学。重臣だった父の縁で四歳のころから後深草天皇(1243~1304)に可愛がられて育ち、14歳に後深草院の寵人となった彼女の14歳~49歳までの波乱万丈の日々を綴る。

    この作品、なんと長いこと宮内庁に秘蔵されていたようで、1950年に活字化されて以後、一躍話題になった新しい古典。愛欲や暴露本のように感じて秘匿されてきたのかしらん? もしそうなら、性愛描写もない、この程度のお家騒動で貴重な文学遺産が秘蔵されてきたのはびっくりするけれど、なんだか新種の生き物が発見されたような物珍しさとおかしみもわいてくる。

    鴨長明や藤原定家といった平安末期~鎌倉初期の不安定な時代よりさらに時は進み、ちょうど鎌倉中期~末期を背景にしている。栄耀栄華を極めた宮廷政治も凋落し、武家が台頭してきた時代にこんなにおもしろい作品があったとは! いや~世の中は驚きの連続だな。

    後深草院の寵人となった彼女には、それ以前からひどく心を寄せていた「雪の曙」(西園寺実兼)がいた。彼との切ない恋はその後も途切れることなく続いていく。そうこうしているうちに、後深草院の異母弟「有明の月」(性助法親王)にも情熱的に迫られて……『源氏物語』を彷彿とさせる自伝的作品でぐいぐい読ませる。彼女が孕んだ子はほんとうのところ誰の子なの?

    後深草院は紳士的で優しいものの、むら気はひどく、アブノーマルなところも手伝って、モノのように扱われる彼女はあはれだ。と思いきや、プライドは高く、自己顕示欲も旺盛、才気に満ちた快活な彼女は見目麗しい。その美貌と才能をフルに活かして大胆な恋をしているではないか! まるで才気走った恋多き和泉式部のようで、堅物の紫式部あたりがみたら、うぎゃーーっ! となりそうな、ファンキーで男好きする、同性のやっかみを受けやすいキャラなのだ。

    とはいえ、2歳のころに母を亡くし、15歳のころに父も亡くし、さらに叔父も他界。寄る辺ない孤独な身の上を思えば、心の底から愛に飢えていたのかもしれないが、それが真の愛なのか愛欲なのか、そんな区別は現代の目からのものにすぎないし、そもそも区別のしようもないうえに、さほど意味もないかもしれない。なにせ燃えあがる情熱と危うさと哀愁をはらみながら、読者は荒ぶる川に流されていく「浮舟」(『源氏物語』)をみるように見守るしかないのだ。

    と思い、どきどきページを繰ると、ありゃ? いきなり場面は転換する。
    この物語が特異なのは、後半は彼女の行脚と歌枕や社寺・陵墓を訪ねる壮大な旅紀行になっていることだ。頽廃した宮廷をうち捨てて、信濃・奈良・伊勢・鎌倉・四国など全国の旅を重ねる。お~これは女性版「西行」、かっこいいな! 

    なんと家系上、武家との繋がりもあったようで、それらを機縁にひたすら歩いて功徳を積んでいく、そんな彼女の行動はしなやかで痛快。京(みやこ)の衣装や着こなしのセンスをかわれて地方豪族に指南したり、絵を描いてみたり、歌会に招かれれば和歌や連歌を披露する、芸は身を助ける華麗さだ。とはいえ、草を枕にしながらも、後深草院を思慕する彼女の姿は哀愁にみちてあはれだな……。

    作者の文章はこなれていて読みやすい。皇室の激しい後継者争い、公家の権力闘争や不穏な世上も端的に描写されていてクールだね。和歌は技巧やてらいもなく平明、なんといっても『源氏物語』や西行の影響が色濃く出ているから楽しい。もちろん現代語訳だけ読んでも楽しめる。でも彼女の文章は易しく、生きいきしていて、とりわけ章の冒頭は素敵なので、ちょっと眺めてほしい。

    それと並行して、訳者の注釈は『源氏物語』をはじめ和歌集や漢詩などの出典も丁寧だ。現代語訳は原文と歩調をあわせるようにシンプルで読みやすいし、章ごとの短い解説も楽しい。これらすべてが続きで掲載されているので、よくある巻末の注釈や解説を改めて探す必要はないから読みやすい。おかげで楽しく読み終えることができて感謝している。

    つくづく時の流れに朽ちることのない素敵な作品に出会えて嬉しい。まさに一期一会の幸せだ。これからあとどのくらい出会えるだろう……歳の暮れはいつもちょっぴりもの悲しく、ちょっぴりわくわくした心もちになってくる(2022.12.3)。

    • 地球っこさん
      アテナイエさん

      こんな面白そうな本を知っておられる本読みの先輩が、お側にいらっしゃるなんて、羨ましです。

      うふふ、はい、『源氏物語』です...
      アテナイエさん

      こんな面白そうな本を知っておられる本読みの先輩が、お側にいらっしゃるなんて、羨ましです。

      うふふ、はい、『源氏物語』です。あと紫式部の「うぎゃーーっ!」が気になりすぎます。和泉式部も!

      素敵な作品との一期一会。
      ほんとそんな幸せにあと何回出会えるのでしょう。
      今年読みかけのものを全て読了して、来年のはじめの一冊はこの本になりそうです。
      うふふ、年始めから刺激が強すぎるかしらん。
      2022/12/04
    • アテナイエさん
      地球っこさん

      こんばんは!

      本読みの友人のみなさんや、地球っこさん、ブクログのみなさんから、いつも多くの楽しい本を紹介してもらっ...
      地球っこさん

      こんばんは!

      本読みの友人のみなさんや、地球っこさん、ブクログのみなさんから、いつも多くの楽しい本を紹介してもらっていて、すごく嬉しいです。まったくお返しにはならないですが、さほどメジャーではなくても、おもしろい本のレビューを、のらくら書いていますので、これからも宜しくお願いしま~す。

      ということで、『源氏物語』のように世界文学のメジャー級ではないですが、知る人ぞ知るこの本もそうです。作者は『源氏物語』と西行を私淑しているようで、読んでいると、びっくりするほど好き好きオーラを発していますので、多少脚色はあるかもしれません。でも描写がかなり具体的で焦点がピタッと合っていますので、やはり経験則なんだろうな~と思います。わりとクールな筆致ですね。

      源氏にしても西行にしても、わたしの好きなところですから、読んでいて余計おもしろかったです。しばらくしたら、違う版も眺めてみようと思います。

      >あと紫式部の「うぎゃーーっ!」が気になりすぎます。和泉式部も!

      さすが目のつけ所が(大笑)! 
      もうぜったい紫女なら後深草二条も「うぎゃーーっ!」でしょうね。
      また和泉式部は『和泉式部日記』をながめると、これまたすごい恋を経験しています。それよりもなによりも、この人は天性の歌詠みで、惚れぼれします。

      地球っこさんの本リストはどんどん長くなっていく一方でしょうが、年明けから楽しんでみてください~。
       


      2022/12/04
    • 地球っこさん
      アテナイエさん

      そうなんですよ、読みたいリストがすごいことに…!
      アテナイエさんのコメント
      から西行も気になってきましたよ。メモメモメモ…...
      アテナイエさん

      そうなんですよ、読みたいリストがすごいことに…!
      アテナイエさんのコメント
      から西行も気になってきましたよ。メモメモメモ……

      ブクログの皆さんの本棚も眺めてるだけで楽しいし、本当にアテナイエさんのレビューにはいつも刺激をいただいてます!
      こちらこそ、これからも宜しくお願いします♪
      2022/12/04
  • 高校のときの古文の授業があまりにも退屈で、それ以来古文なんて読む気しなかった。だけど偶然この本の内容を何かで読んだとき、一気に引き込まれた。
    「レイプ」「二股」「妊婦プレイ」「ストーカー被害」「コスプレ」「愛人に別の女とのセックスを見せつけて興奮」…
    これ、ライトノベルの話じゃないよ。700年前の日本で書かれた、れっきとした“古典文学”。

    でも、内容はもちろん、それだけじゃない。
    作者は早くに生みの母を亡くし、権力争い熾烈な父と、時の最高権力者の院との間の黙契により、14歳で院に処女を奪われる。
    その父もその後すぐに早世し、作者は天涯孤独となり、まだ十代の彼女は疾風怒濤のごとく、人間の欲望の坩堝にさらされる。
    院は男女関係としてだけでなく、自分の後見人でもあり、女性として見限られることが即ち生活のすべを失うという外的な複雑さに加え、彼女自身の権勢欲、プライド、そして恋愛感情と性的欲求がくっついたり離れたりといった彼女の内的な複雑さが絡み合う。
    そのためだろうか、作者の行動基準は「自分の感情に従っているかどうか」この一点だ。
    他人の言動がどうとか、他人にどう思われるかなんて、端から眼中にない。

    だから、いくら院の愛人となった後、幼馴染で相思相愛だった“雪の曙”と逢引しようとも、僧侶で聖職者のはずの“有明の月”にレイプされて、でも、贈られた歌のセンスの良さに惹かれようとも、院に愛人である自分を他の貴族に抱かせるように仕向けられ、拒絶したものの体を奪われ、屈辱や不信と同時に、女としてその男の余韻が忘れられず「わが心ながらおぼつかなく侍りしか」という感情が沸き起ころうとも、彼女にブレはない。
    あくまで自分の感情に素直に従った結果だ。

    一方で、雪の曙との性に溺れた結果、子を授かり、生まれた女の子を抱いたその途端に手から離され生き別れになったとき、「人知れぬ音をのみ袖に包みて(誰にも聞こえないように顔を袖で覆って声を殺して泣いて)」という描写は、現代人の読者であっても感性に強く響くものだ。

    私は男なので、作中で縷々と紡ぎ出される彼女の感情をすぐに頭で理解はできないが、いわば心理小説を読み進めるような(もちろん仏文学のような完成度は望むべくも無いが)高揚感を感じた。

    一見、日記もののようだけど、作者も実体験のありのままの記録なんて芸のないことをするつもりはなかったようで、源氏物語を手本としつつ、自己の感情に焦点を当てることで作り物の感情描写を排した“リアルな源氏物語”を書こうとしたように思われ、それがこの作品の文学的香気を高める結果となったのだろう。
    機会あれば、この物語の解説を荻野文子先生から聞いてみたい。
    (2013/1/25)

  • おもっっっしろい。
    夢中になって読む古典作品に久々に行き当たった。
    平安女流文学とは一線を画す読み心地で、次の展開が気になって、ページを捲る手が止まらない。
    男性への愛憎が綿々と綴られるところは『蜻蛉日記』に似ていなくもないけれど、みずからの不貞(だよね?)や院の乱倫ぶりをこうも露骨に記して臆すことがないっていうのは、どういう心情なんだろう?どうしてこれを書こうと思ったのか…
    現代だったら暴露本にあたる内容だけれど、瀬戸内寂聴さんに近いものがあるのかな(とはず…の方が激しいけど)。
    とすると、自分の生き様に何か文学的なものを感じていたというか、書き残すべき何かを感じていた?あるいは書き残さずにはいられない文学的衝動があった?
    それにしても、宮廷の醜聞を包みも隠しもしなさすぎというくらい露骨に書いている一方で、一人称視点だからこその、何を書かずに済ませてるんだろうミステリーが差し込まれてきて、ますます興味深い。
    いやぁ、すごいな、これ。
    この先、後深草院、雪の曙、有明の月、大殿に亀山院まで絡んでくるらしい。一体、どうなってしまうのやら。下巻が楽しみ。

  • 全体的に暴露本みたいですが、歴史好きな私には面白かった。南北朝時代に繋がる歴史の始まりの頃で、その頃の朝廷での政治的なやりとりも、二条の観察眼によって描かれています。
    人物の没年など意図的に変えられているようですが、どうもそれにも意味があるようです(『後深草院二条』)。また、出来事の年時や時間的間隔も操作されているようですが、物語を効果的に運ぶためのようで、彼女がかなり聡明で才能があったともいえそうです。
    いわば、実際にあったことを再構成して効果的に自分の伝えたいことを伝えた、と言えますかね。

    ん?伝えたいこととは?

    前に読んだ『後深草院二条』では、歌詠みの家に生まれた自分の歌を残すことも目的にあったのでは、というようなことが書かれていたのですが、それだけだったら、こんなに赤裸々に書かないよなぁ、とも思います。
    下巻にまだ続きがあるので、読んでから考えよう。

    二条は高貴な出自であり、きらびやかな後宮に生き、高貴な人々に囲まれて、もてはやされましたが、あまり幸せではない、と言っているようです。出家への願いが所々顔を出しますし。父母は早くに亡くなり、後見の祖父とはうまく行かず、院はじめ男性には意思とは関係なく契らされることも。しかも、院は二条に他の女性との手引きをさせられたり、と滅茶苦茶です。初恋の人雪の曙とはまっとうな恋愛のように見えるけど…。この関係の記述がなかったら、荒んでいてちょっと読むのがつらいかも。

    ただ、男どもにいいように翻弄されているなら気の毒なだけです。けれど、有明の月とは、関係を突っぱねることも容易にできる状況なのに、院に隠れていそいそと彼のもとにいって情事を重ねているようなので、やっぱり、本人がこの不幸を呼び寄せたところはあるのでしょう。

    他の後宮の女性たちのようにうまくかわしたり、身を守ったり、出家してしまえばいいとも思ったりします。でも、本人は名家の出というプライドがあり、華やかなことに魅力を感じる。なのにしっかりした後見が無く、立場が不安定。そんなところにつけこまれた面もあったかな、と思います。


    彼女の不幸に関して一番同情したのは、彼女の出産、子供との別離に関する場面です。生んだばかりの女の子と引き離されてしまうところはさすがに可哀想で。二人産んで、どちらも手元に置けないのですから気の毒です。

    下巻もおもしろそうですね。



  • 想い人の雪の曙がいるにもかかわらず、後深草院の寵を受ける。院の子を産む。しかし、雪の曙との関係も続いて、ついには雪の曙の女児を産むが、他の所にやり生き別れる。
    その後、粥杖騒動と贖い。有明の月に迫られて契る。女楽で祖父の兵部卿・四条隆親と衝突し、近衛大殿と心ならずも契ることになる。自分の思い通りにならない作者はさぞ辛いでしょうね。

  • 資料番号:010712339 
    請求記号:915.4ゴ

  • とはずがたりの研究者としても知られてる方です。
    解説がわかりやすいです。
    ファンなら、この方の本も読むべき。
    ただ、一冊にまとめてほしかった・・・

  • 967夜

  • ワタシの卒論。
    ファッション、恋愛、宗教、日本文化。。。とワタシの大好物がてんこもりな素晴らしい作品です。
    だいすき!

全9件中 1 - 9件を表示

次田香澄の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×