影の現象学 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061588110

作品紹介・あらすじ

影はすべての人間にあり、ときに大きく、ときに小さく濃淡の度合を変化させながら付き従ってくる。それは、「もう1人の私」ともいうべき意識下の自分と見ることができる。影である無意識は、しばしば意識を裏切る。自我の意図する方向とは逆に作用し、自我との厳しい対決をせまる。心の影の自覚は、自分自身にとってのみならず、人間関係の上でもきわめて重要であり、国際交流の激しくなってきた今日においてはますます必要である。

感想・レビュー・書評

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  • 個人的には、河合隼雄氏の数ある著作の中でも一番の名著ではないかと思う。これはしっかりと、学術文庫で出すレベルの内容になっている。

    人はそれぞれ その人なりの生き方や人生観をもっているが、抑圧されたか、取りあげられなかったか、ともかく、その人によって生きられることなく無意識界に存在していながら、その人によって生きられなかった半面を、その人の「影」と呼んでいる。私たちは、いつかはその自分の「影」の存在を自覚し、向き合わなければ、人として成長できないのだ。

    「われわれはこの世に生まれた瞬間から、常に死の可能性をはらんで生きている。「生」は「死」に向かって進行しているのであり、生きることとは、すなわち、死につつあることである。生に対して常にその反対方向の死という裏づけをもってこそ、われわれの生がダイナミックな弾力性をもつのであろう。」
    このあたりは、アルフォンス・デーケン、エリザベス・キューブラー・ロス、日野原重明あたりを読んでいれば、胸にストンと落ちてくる。
    こうして生きていることが「死につつある」ことを、今一度、思い出そう…

    決してなくなることのない自分の「影」を自ら背負って生きてゆく。向き合う。それがだいじ。。

  • 「現象学」というタイトルがついているけれど、河合さんの専門であるユング等の世界の話を「影」という観点から考える論考集で、やはり心理学にカテゴライズされるでしょうか。「現象学」というタイトルはあとがきで河合さんが触れてますが、出版社の要請でやむなくつけたのだとか。

    そんな事情もある本ですが、心理学というよりは、文学論としても読めます。中に例えとして引かれる本は、シャミッソーとかホフマンというような岩波の赤帯に入っていそうな本たちで、そのことも個人的には好みでした。『影の現象学』の中で例として引かれる小説は、それらに通低するメッセージをしっかりとご自分の観点でとらえた河合さんによるまじりけのない印象が入っている、と感じられ、自説を強調するために、その例として(小説からしたら)いやいや引っ張ってこられた、というような仕上がりになっているような雰囲気はありません。そのため、これらもまた内容を確認してみたくなります。特に自身興味深かったのはマーク・トウェインの『不思議な少年』の読み解き。『不思議な少年』というのは、明るい作風と思われがちなトウェインからすると、確かに「不思議な」位置づけの作品だなあ、とは思っていたので、人間の影の部分で説明しようとする流れは、素直に腑に落ちます。

    4章、5章が特に興味深く、個人的には、人間は「影の部分」と上手く折り合いをつけていくことが大事なのではないか、というメッセージを読み取りました。「日本人とは…」という言い方はあまり好きではないのですが、光の部分と影の部分、というような人間の多面性、という観点から「日本人」というイメージが浮き彫りになることがあるのかもしれない、と、かすかにですが、思ったこともとどめておきたいと思います。

    確かに「影」をめぐる物語には魅力的なものが多い!

  • ユング派心理学者が、人間の影の部分=オルターエゴを考える。


    本書では〈影〉を研究にするにあたって基本的には小説や過去の心理学者が発表したものを例に取り、自身が臨床医として接した具体例には詳しく触れていないが、クライアントが見た夢はたくさん紹介されていてそれが面白い。「影の逆説」の章に載っている狼の夢などはよくできた昔話みたいだし、ユングが報告しているという真っ黒な装いの「白の祭司」と全身真っ白な「黒の祭司」の夢なんか象徴主義の絵のように謎めいて美しい。
    よく「他人の夢の話を聞いてもつまらない」と言ったりするけど、多分それは映画やアニメーションで〈他者の夢〉を見ることに慣れてしまった現代人の感覚で、昔の人は解釈の分かれる幻想小説のように楽しく聞いていたに違いない。子どもに聞かせるには残酷に思えるような展開のおとぎばなしも、夢という〈影の世界〉からやってきた物語として受け入れていたのじゃないだろうか。
    本書のまえがきには遠藤周作『スキャンダル』への言及があり、解説も遠藤が担当しているのだが、そのなかでキリスト教の教義とドッペルゲンガー、二重人格の関係性を実体験と共に語っている。河合は本文中で、西洋で生まれた心理学を日本人の心に適用するためのヒントをちりばめているが、日本人かつキリスト教徒の遠藤の文章によってもうひとつ大事な補助線が引かれているように思う。学部生時代にゼミで『スキャンダル』を取りあげたことがあったのだが、当時本書と遠藤の解説にたどり着くことができなかったことを残念に思った。

  •  もとは1976(昭和51)年に単行本として刊行。
    「トリックスター」について調べていて田熊友紀子著『現代のトリックスターと心理療法』(2021)で本書がけっこう言及されていたので読んでおくことにした。
     ユング派の精神分析医・研究者の河合隼雄さんの本は昔から何冊か読んできた。が、どうもユングやユング派の心理学は物語志向が強く、「文学」になってしまいがちな危うさを感じてしまう。ユングを面白がる人も多いのだが、私の場合、どうも良いタイミングでユングに出会えなかったようだ。
     本書は、それでも平易すぎるほどでもなく、臨床例がしばしば具体的に挙げられているので、ずっと興味を持って読み通すことができた。トリックスターについてはごく短い章で簡単に触れられている程度だが、それでも本書のテーマ「影」(たとえば、認めがたい自己の半身)はだんだんと面白くなってきたし、読み応えがあった。

  • 人は誰しも影を持っている。光に照らされると壁に、或いは地面に描き出される物体としての影。それとは別に己の内界に存在する暗い領域、無意識としての影。「影」が古来より生命や魂と結びつけて考えられてきたことを繙きながら、ユングの「影」の概念や「影」が齎す心の病理を実例や神話、文学作品から引用して説きつつ、また「影」の世界として機能していた地獄の有用性や意義、「影」の逆説として存在する道化についての論考、最終章は「影」とどう向き合うかについて述べられています。影は正しく、切っても切れない関係であり、影は内界での、通過儀礼としての死の門として存在し、また創造の生まれでる場所でもあると著者は言います。全体を通してとても興味深く読みました。光と影、意識と無意識、自我と自己、二つの世界が持つ複雑で奇妙に相互作用し、または反発し合うこれらのものが一人の人間の内側に折り畳まれていることに何か途方もない、気が遠くなるような感じを覚えます。裏を返せばそれだけ人は未知なる可能性を秘めているとも言えそうです。絶えざる破壊と創造、死と再生は影なくしてはあり得ないもの。人の最も暗い部分に生きる力が眠っている――そんな気がしました。解説が遠藤周作なのも豪華。

  • 2014年37冊目。

    「影」の存在の恐ろしい面ばかりに囚われている人は必読だと思う。

    世界的・歴史的に「影」はどのように扱われてきたのか、というそもそも論から丁寧に始まり、
    心理学的に「自我」に対して「無意識」に潜む「影」の正確をもの凄く分かりやすく解説する。
    病的な症例から見られる「影」、そして神話や文学作品の中に見られる「影」の具体例が豊富かつ的確に示されてゆき、
    「影」に潜む創造性を手にする可能性を示してくれる。
    (もちろん、「影」との接触の危険性も十分に論じながら)

    この本のおかげで、自分の中でいくつかの扉が開いたのを感じた。
    何度も戻ってきたい素晴らしい名著。

  • 村上春樹の作品と合わせて読むと尚面白い。
    もはや解説本みたいに思えてくる。

    読んでみて、自分を捉える視点が増えた気がする。
    影の存在を認めながら、道化の言葉にも耳を傾けて、柔軟に自分と向き合っていきたい。

    河合隼雄の他の作品も読んでみたくなったし、ユングのことをもう少し知りたくなった。

  • ユング心理学で語られる無意識構造の中に存在する「シャドウ」、その影の存在にフォーカスした本書。

    影の概要から、それが原因となる病理、そのタイプ・事例、立ち向かい方を記述されている。

    中身は興味深く面白かったが、先生も記述されているように引用が実際の臨床ではなく、過去の文学作品からが多かったのであまり現実との接点が感じられなかったのが少し残念だった。

  • 河合隼雄と言えば(まー言うまでもないですが念のため)、日本におけるユング心理学の第一人者です。今作はユングが編み出した「影」という概念に焦点を絞った一冊。心理学、文学に興味がある方なら間違いなく楽しめると思います。とても刺激的な読書体験でした。

  •  河合隼雄が語る影について。

     無意識、表と裏の裏。言葉は様々だが人は影の部分を持っている。その影はなくなっては困る(死ぬ?)。ほどよく影と対決したり調和したりしていき、人は問題を改善させていく。
     そういった説をカウンセリング等で語られる夢や物語の中から説いていく。この流れがいかにも河合隼雄的というか今読むと懐かしい感じがした。
     巻末の解説はなんと遠藤周作! 

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