ミケランジェロ (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061589674

作品紹介・あらすじ

ダ・ヴィンチ「二重人物像」の秘密を鮮やかに解明し、本場西欧の美術史界を瞠目させた俊英が、レオナルドの若き好敵手ミケランジェロの人生と芸術の謎に挑む。プラトン=レオナルドによる異教的人間愛の美と対決し、神に祝福された真実の愛の芸術を構築するまでのミケランジェロの思想的戦い。あくまで作品中のフォルムに即しつつ独創的な手法により隠れていた真実を剔抉する。手腕が冴る画期的な書。

感想・レビュー・書評

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  • ミケランジェロとダ・ビンチの2人の巨匠の思想上の対決を作品説明を通して再現してくれており、興味深いものがありました。2人の幼少時代の母を亡くす、或いは母に捨てられるという似た原体験を持ち、ある意味で親近憎悪に近い関係から、20年ほど後輩のミケランジェロが偉大な先輩を意識せざるを得なかったことは理解できます。当時隆盛したネオ・プラトニズムの影響を多大に受けたであろうダ・ビンチの「愛」重視に対して、ミケランジェロは「肉体」の美しさを最大表現しようとしたことにキリスト教画家らしさとしての矛盾した2面性を見る思いがしました。当時の歴史を広く読みたいという観点からは専門的過ぎてやや難しかったように感じました。時代背景を大まかに知るには塩野七生さんの本が良いかも知れません。

  • イコノロジーの手法による絵画のテーマについての探究を踏まえつつ、そうしたテーマを選び取るに至った芸術家の個性的なドラマに迫る試み。

    著者は「ドーニ家の聖家族」を手がかりに、ミケランジェロとレオナルド・ダ・ヴィンチとの対決を解き明かしている。当時のフィレンツェの芸術家たちは、フィチーノの新プラトン主義の思想から大きな影響を受けている。フィチーノはプラトンの『饗宴』で語られている、人間が二つに分かたれることで男女が生まれ、互いが元の半身を求めるようになったというミュトスに、独自の解釈を施した。プラトンがこのミュトスによって語ろうとしたのは、男女や同性の間に生じる「愛」の起源だった。だがフィチーノは、二つに分かれた人間は対等ではなく、魂の超自然的な光と自然的な光の二つに分けた。そして、自然的・肉体的な存在は超自然的な光を追い求める存在であり、これこそが神を「愛」する人間を意味すると考えたのである。つまり彼は、このミュトスに語られている「愛」をギリシア的なものからキリスト教的なものへと読み替えたのである。

    著者はレオナルドの絵画を読み解くことで、彼の作品がフィチーノの思想よりもギリシア的な「愛」を表現するものだったことを明らかにしている。レオナルドは何よりも男性の同性愛に理想的な「愛」の形を見たのであった。これらの作品を目にしたミケランジェロは、キリスト教的な「愛」を表現することで、レオナルドとの対決をおこなった。「ドーニ家の聖家族」の後景は、プラトン=レオナルド的な人間の至福を表現し、これを乗り越えるフィチーノ的な超自然的光を求める魂を聖母と聖ヨハネのまなざしによって示そうとしたのである。

    さらに著者は、若きミケランジェロの作品の中に、ディオニュソス的な「若さ」と父の影を宿す「老人」との戦いを見て取り、また「ユリウス二世墓廟」「システィナ礼拝堂」「メディチ家礼拝堂」の3作品に、西洋思想における「四大元素」のテーマと、それらを統合する原理へと向上する志向を読み取っている。

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著者プロフィール

昭和17(1942)年東京生まれ。東京大学文学部仏文科、美術史学科卒。ストラスブール大学に留学しドクトラ(博士号)取得。文学博士。東北大学名誉教授。フランス、イタリア美術史研究の第一人者として活躍する一方、日本美術の世界的価値に着目し、精力的な研究を展開している。また日本独自の文化・歴史の重要性を提唱し、日本国史学会の代表を務める

「2024年 『日本国史学第20号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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