- Amazon.co.jp ・本 (374ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061590236
作品紹介・あらすじ
斑鳩の白い道のうえを、黒駒を駆って戦さに赴く聖徳太子。若き日の多感な太子の"血塗られし手"の経験こそ彼の人生の原点とみる著者は、同時に法隆寺創建や勝鬘経講経など、深く仏教に帰依した太子の姿を玉虫厨子に描かれてある「捨身飼虎」図と重ね合わせて、そこにまぎれもない捨身の思想を見出す。東アジア未曾有の歴史の転換期を生きた一人の古代知識人の華麗にして哀切な運命を描いた名著。
感想・レビュー・書評
-
『聖徳太子―再建法隆寺の謎』(1987年、講談社学術文庫)と同様に、法隆寺再建にかんする著者の主張を中心に据えつつ、聖徳太子の人物について掘り下げて論じている本です。
津田左右吉をはじめとする研究者たちは、蘇我馬子と物部守屋の戦いにおいて聖徳太子が活躍したという『日本書紀』の叙述を、当時の聖徳太子が14歳という若年だったことを理由に否定してきました。しかし著者は、物部氏の所領が聖徳太子にゆかりの深い法隆寺および四天王寺の領有となっていることから、これらの所領が戦いにおいて活躍した聖徳太子に対する論功行賞だったのではないかと主張し、聖徳太子の活躍は事実だったと結論づけています。
また著者は、蘇我馬子による崇峻天皇弑逆の背後に、のちに推古天皇となる炊屋姫の意志が存在していたと主張し、これらの血塗られた政争を目にしてきた聖徳太子が、「三輪山文化圏」と呼ぶ、古来の呪術的伝統に取り巻かれた世界から離脱して、仏教にもとづく新しい世界を築こうとする意志をいだいたのではないかと論じて、聖徳太子の内面にせまっていきます。さらにそうした聖徳太子の仏教理解が、玉虫厨子にえがかれた捨身飼虎図に示されているとみなし、それが聖徳太子没後の山背大兄王の悲劇にまで影を落としているという主張が提出されています。
神西清の「白い道のうへに」という古代幻想の記にもとづくタイトルをもつ本書は、著者の聖徳太子に対する熱量を帯びた叙述になっていますが、聖徳太子という人間の内面にせまるというアプローチで書かれている本書は、一般の読者の関心を惹きつけるものをもっているように思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示
上原和の作品





