民俗学の旅 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061591042

作品紹介・あらすじ

自らを「大島の百姓」と称し、生涯にわたり全国をくまなく歩きつづけた宮本常一。その歩みは同時に日本民俗学体系化への確かな歩みでもあった。著者の身体に強く深く刻みこまれた幼少年時代の生活体験や美しい故郷の風光と祖先の人たち、そして柳田国男や渋沢敬三など優れた師友の回想をまじえながら、その体験的実験的踏査を克明かつ感動的に綴る。宮本民俗学をはぐくんだ庶民文化探究の旅の記録。

感想・レビュー・書評

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  • 宮本常一が晩年に綴った自伝。父からの教え、渋沢敬三との交流がとくに印象に残った。また、1965年に58歳で武蔵野美術大学に就職して以降の、学生や若者との交流についても、じつに熱っぽく書かれていて、「私の若い頃にくらべてみると、実にエネルギッシュである」と高く評価している。宮本自身が亡くなるまでエネルギッシュだったからこそ、こうした学生が集まってきたのだろう。

  • 宮本常一が父親から故郷を離れるときに送られた言葉「旅の10か条」と言うものがあります。私もこれを読んで出来るだけ真似したいと思っているのですが、凡人なのでなかなかです。でも高いところは出来るだけ登ろうとしていますし、車窓から見える屋根の形などはいつも気をつけています。韓国では江陵からソウルに向かう途中、一山を越えると屋根の形が綺麗に変わったのが印象的でした。村で屋根の形が統一されているということは、その村の求心力が強いということです。都会に近づくとばらばらになったのでした。

    旅の10か条
    (1) 汽車に乗ったら窓から外をよく見よ、田や畑に何が植えられているか、育ちがよいかわるいか、村の家が大きいか小さいか、瓦屋根か草葺きか、そういうこともよく見ることだ。・・・

    (2) 村でも町でも新しくたずねていったところはかならず高いところへ上ってみよ、そして方向を知り、目立つものを見よ。・・・

    (3) 金があったら、その土地の名物や料理はたべておくのがよい。その土地の暮らしの高さがわかるものだ。

    (4) 時間のゆとりがあったら、できるだけ歩いてみることだ。いろいろのことを教えられる。

    (5) 金というものはもうけるのはそんなにむずかしくない。しかし使うのがむずかしい。それだけは忘れぬように。

    (6) 私はおまえを思うように勉強させてやることができない。だからおまえには何も注文しない。・・・しかし身体は大切にせよ。・・・しかし三十すぎたら親のあることを思い出せ。

    (7) ただし病気になったり、自分で解決のつかないようなことがあったら、郷里へ戻ってこい、親はいつでも待っている。

    (8) これからさきは子が親に孝行する時代ではない。親が子に孝行する時代だ。そうしないと世の中はよくならぬ。

    (9) 自分でよいと思ったことはやってみよ、それで失敗したからといって、親は責めはしない。

    (10)人の見のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大事なものがあるはずだ。あせることはない。自分のえらんだ道をしっかり歩いていくことだ。

  • 大山先生と言う人が戦後の先を見通している言葉に感銘を受けた
    本当に賢い人は先を見通してさらに行動する事ができる
    大山先生は素晴らしい
    そしてそういった人たちに支えられた宮本先生も素晴らしい人だったのだろう


    食料自給率の低下については問題視されて久しいが、何故食料自給率を上げなくてはならないのか。
    自分の中で一番しっくりくる答えを宮本先生は与えてくれました。

    前半の幼少期の話が読みやすく、興味深かった。
    後半は専門知識の分野もあり少し読みにくいが、全体を通して面白い内容でした。

    おすすめします。

  • 決して歴史の教科書では取り上げられない、何者でもない人たちの普通の生活が大変尊いものに感じられる。自分が今いる環境、生活を認めること。日々の進歩を感じるとともに、日々の反省を忘れないこと。

    読者をすごく「地に足をつかせてくれる」一冊。

  • 宮本常一が自身の幼少からの歩みと体験、出会いを回顧し綴った自伝。
    彼が民俗学という道に進んだ理由にはふるさとがあり、渋沢や柳田といった恩師との出会いがあり、そして時代も要因であったように感じました。
    特に渋沢敬三は先見の明もさることながら、後進の育成や自身の探究にも熱心で感動しました。宮本が語る渋沢の言葉も印象的なものばかり。
    宮本の残した膨大な記録は「大島の百姓」である彼でなければ成し遂げられなかった偉業だと痛感します。

  • 著者の民俗学的自伝。途中まで読んで放置していたのだが、たまたま手に取って読み始めたらなんだ面白いじゃないか。最初のほうは読んだはずなのに全然覚えておらず(-_-;)。生い立ちとか戦争前後あたりが特に面白い。そういう世界があったということの認識を新たにした。こういうバイタリティは今の世の中にはあまり見られなそう。ネット万能の世の中とは正反対か。でも意外に使いこなしていたりして。
    とにかく宮本常一の民俗学を再認識させた本であった。

  • 29ページ。「たとえば日常はまずいものをたべ、祭りや祝い事のあるときは御馳走を鱈腹たべ、腹をこわす者が多いが、休日は普通のものをたべて暴飲暴食にならないようにし、むしろはげしく働いているときにこそ、栄養のあるういまいものをたべるべきである、という信条を持っていた。」

  • 1993年(底本1978年)刊。
    著者は武蔵野美術大学教授。

     漂泊の(いや、日本全国踏破の)民俗学者である著者の自叙伝である。

     これは凄い、と頁を繰る手が止まらずに一気に読破。

     凄い点は2つ。
     一つは家族を全く顧みることなく、金になることをしないで生活し、それを完遂したという事実だ。妻子の苦労はひとかたならぬはずと推察する。
     もう一つは、何を調べ解明するかという基本的な幹をことさら持たないまま、調査をし続け、記録をし続けた。その姿勢自体が、そのまま宮本流の学風と化すという逆説的な研究姿勢だ。
     ここまで徹底するのは空恐ろしい。しかもそれを楽しんで実行しているのも空恐ろしい。これが伝わってくる辺りが、またまた凄いのだ。

     加えて、この生きる姿勢、学ぶ姿勢から、「人は、その気があれば、どこででも、誰(人のみならず本、語りも)を師匠にしても学ぶことができる」と確信できることだ。
     勿論、これが容易な業ではないことは百も承知であるが、こういう実践例を見せ付けられると、何か心に奮い立つものが生まれ、また、自らに対する期待というものも生まれ出そうだ。

     ともあれ、とある生涯学徒の持つ学びに対するエネルギーにあてられたいなら、読むに如くはない逸品である。


     さて、本書には、著者の戦前の調査記録が「戦災」で焼失したとある。
     これは返す返すも惜しい。日本社会の一面が戦災で消えてしまったというのに等しいと言えそうである。まったく取り返しのつかない愚を来してしまったものである。

  • 民俗学者宮本常一が、自伝的に自分の一生を描いた一冊。その記述には宮本常一の視線を通した多くの民俗事象が描かれている。
    渋沢敬三の弟子として、在野研究者として長い時を過ごした宮本は、百姓出身であるため他の民俗学者、文化人類学者とは違う切り口で民俗を捉えている。宮本は、柳田国男の民俗学を受け継いだ民俗学者の研究に多くある、基層文化にある信仰を追求する視点とは別の、民衆の生活に必要であったと考えられる民衆の発想を追求しているといえる。多くのフィールドを経験したために得られた分析視点は、彼の父が言った「人の見残したものを見るようにせよ」という教えを忠実に守り、実行していったことにより構築されていったのではないだろうか。
    民俗学を嗜好していく上で、多くの視点を与えてくれる素晴らしい本の1つだと思う。

  • 日本人への理解を深めていきたい。

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著者プロフィール

1907年(明治40)~1981年(昭和56)。山口県周防大島に生まれる。柳田國男の「旅と伝説」を手にしたことがきっかけとなり、柳田國男、澁澤敬三という生涯の師に出会い、民俗学者への道を歩み始める。1939年(昭和14)、澁澤の主宰するアチック・ミューゼアムの所員となり、五七歳で武蔵野美術大学に奉職するまで、在野の民俗学者として日本の津々浦々を歩き、離島や地方の農山漁村の生活を記録に残すと共に村々の生活向上に尽力した。1953年(昭和28)、全国離島振興協議会結成とともに無給事務局長に就任して以降、1981年1月に73歳で没するまで、全国の離島振興運動の指導者として運動の先頭に立ちつづけた。また、1966年(昭和41)に日本観光文化研究所を設立、後進の育成にも努めた。「忘れられた日本人」(岩波文庫)、「宮本常一著作集」(未來社)、「宮本常一離島論集」(みずのわ出版)他、多数の著作を遺した。宮本の遺品、著作・蔵書、写真類は遺族から山口県東和町(現周防大島町)に寄贈され、宮本常一記念館(周防大島文化交流センター)が所蔵している。

「2022年 『ふるさとを憶う 宮本常一ふるさと選書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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