- Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061591110
作品紹介・あらすじ
古来、軍人として、また文人としても高く評価されてきた古代ローマの英雄カエサル。彼は形骸化した共和政から帝政への道を拓いた大政治家でもあった。ケルト人やゲルマン人と戦ったガリア遠征の赫々たる戦果をもとに、中央政界での勢力を拡大したが、「一人支配」体制の完成直前に暗殺される。その波乱万丈の生涯は、歴史的転換期に変革を進めた人物の悲劇を物語る。ローマ史の泰斗による必読の好著。
感想・レビュー・書評
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講談社学術文庫
長谷川博隆 「 カエサル 」
カエサル伝記を多く翻訳した著者によるカエサル伝記。読みやすい。ゲルツァーやモムゼンの本を読みきる自信はないが、これなら読める
カエサルの凄さは、自軍兵士や敵に対して、宥恕的態度をとっても、権威が落ちないところ。カエサルだから君主政が許されたように思う。停戦交渉のタイミングも絶妙。
カエサルの野心のゴールは、ローマの世界帝国化という論調。独裁君主は目的でなく 手段であり、そのために ポンペイウスやクラッススを取込み、必要性のない ガリア戦争を仕掛けてお金を作り、歴史を変えるべく内乱に踏み切ったということになる
ルビコン渡河のカエサルのメンタリティは、自身を「運命の子」としながら「自分で運命の神の後押しをしなければならない」というもの。まさしく英雄
カエサルに対して否定的な論者もいるらしい。理解できない
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「賽は投げられた」という有名なカエサルの言葉があるが、これについての記述が興味深かった。
カエサルはただ運命の女神に丸投げしようとしてこの言葉を発したのではない。彼は自分が運命の寵児であることを確信していたが、それは運命の神にその身を任せきりにするのではなく、むしろ運命を動かしてゆかなければならないとまで考えていた。自分が運命の寵児であるという自覚があるからこそサイコロを投げ、また一旦投げてしまったからには全身全霊をかけて運命の女神の恵みに応えるようにしなければならない、と考えたことであろう。 -
タイトル通り、共和政ローマを終焉に導いたカエサルの伝記。
元々は中高生向けに出版された本の文庫改訂版で、原著自体は1967年のものとのこと。
それゆえ、あまり詳細な史料分析や先行研究紹介などは省いて、時系列に沿って著者の考えだけが結論的に示されていく。
読みやすいと言えば読みやすいが、すこし論証の論理が伝わってきづらいところもあるし、腹落ち度はあまり高くなく、分量の割に「読んだ」という納得感が乏しい。
一方、著者が示すカエサル像自体は興味深い点もあった。
一つには、カエサルは共和政ローマの伝統の「枠内」で、「一人支配」を実現しようとした、という見方である。
結果的には共和政の政体を破壊したために、本人も当初からその気でいたのかと思っていたが、カエサル本人が支配権を獲得する手法としては、
「(ローマの伝統である)クリエンテラ関係の輪を、カエサルを中心に限りなく広めていく」延長線上に、一人支配を実現しようと考えていたとのこと。
彼の政治家としての行動の特徴である、民衆への大盤振る舞いや政敵への寛恕政策も、全ては自分のクリエンテラ関係に人々を組み込もうという観点から整理できるとのことで、これは面白い。
もう一点は、上記との関連で、彼自身が生涯非常に孤独を感じていたのではないかということ。
つまり、周囲との関係は全て「与える者」と「与えられる者」の関係(そうでなければ敵対関係)の中に整理されてしまい、本当の意味で対等の立場で理解しあえる相手がいなかったのではないかとのこと。
本書の記述だけでその点を確証的に窺い知ることは難しいが、これも著者ならではのカエサル像であるように感じた。
カエサル入門として、バランスが良いかと言われれば微妙だが、面白いことは面白い一冊。 -
「歴史」と「伝記」の中間のような一冊。カエサルを肯定的に捉えた、と書かれてはいるが、カエサルの行動を「そうせざるを得なかった」あるいは「そうしなくてもよかった」というのが書かれているのは面白い。
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ローマ史入門編の傑作。
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日本語で読めてお手軽なカエサルの伝記です。塩野さんの本に比べると少々堅いですが、そこは芸風の違いということで。
学者の作品ですがまったく無味乾燥というわけではありません。最晩年のカエサルの肖像に浮かぶ憂いの色から彼の心のうちに思いを馳せる導入部。この部分で私は参ってしまいました。
政敵を討ち果たして並ぶ者なき地位に就いたというのに、喜びや自信の表情ではなく暗く疲れ果てた顔を肖像にしたのか。この疑問は本文中を通奏低音のように流れています。
塩野さんが陽性な天才肌のカエサルを描いたのなら、長谷川氏はもっと人間臭いカエサル像を描いたといえるでしょう。 -
歴史上屈指の名将にして、国家体制を覆した大政治家であり、文筆家としての名声も第一線級。おまけに、一国の国庫にも匹敵する借金をした大借金王でもあり、色恋沙汰でも流した浮名は数知れない。そんな人物はカエサルを置いて他にはいないだろう。
本書は、主としてカエサルの政治家としての側面を取り上げる。カエサルの政治活動を貫く原理は、領土とローマ市民権の拡大に伴うローマ共和政(実質的には貴族による寡頭制)の行き詰まりを、一人の人間への権力集中によって打破することである。注意すべきは、ローマには専制君主の横暴を打破して元老院による共和制を打ち立てたという過去があり、カエサルの目指す方向が、ローマ貴族社会に通底する共和政の伝統と矛盾するという点である。この点を読み違えると、キケロやカトーが単なる抵抗勢力のように見えてくる。そういった経緯もあり、政治家カエサルの評価は人や時代によって様々分かれるが、本書のスタンスは、「ローマ共和制の統治機構としての限界に自覚的だった数少ない大政治家」という好意的なものである。好意的ではあるが、無条件の賛美を与えるものではないので、ローマの歴史をまじめに知りたい人にとっては、面白い本だと思う。ただ、カエサルのもうひとつの魅力である将軍としての采配については殆ど記述がなく、最も有名な彼の著作である「ガリア戦記」についても、その政治的意義を論じるのみであるので、カエサルの魅力的な英雄譚を望む読者は、少々肩すかしをくらうかもしれない。それでも読み物としてはなかなか面白いです。 -
サイコロは投げられたり。
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http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/4061591118
── 長谷川 博隆《カエサル 19940210-19970220 講談社学術文庫》19940204
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カエサルをゼミで初めて調べるときに、いちばん最初の通説のつもりで読んだら引き込まれた。そうとう面白かった。そっからローマ人の物語も読みたいって思えたし、すごい楽しい。
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