科学史の逆遠近法―ルネサンスの再評価 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
4.00
  • (3)
  • (2)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 54
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (323ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061591639

作品紹介・あらすじ

科学革命以後の近代科学を絶対普遍とみなし、科学史を単線的進歩の過程と捉える硬直した歴史観と対決することは、科学史の第一人者である著者の終生の課題である。魔術・錬金術・占星術など、従来は擬似科学としか評価されなかった西欧中世のオカルト・サイエンスを厳密な方法論により分析。科学革命前夜の神秘思想やヘルメス主義の諸相を論じ、謎に充ちたルネサンス期科学を照射した画期的論考。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  ある年齢に達してから哀しいと美しいは同義の場合があると思うようになった。完璧に造られた世界=作品は美しく、哀しい。更に美しく哀しい世界があるというのに、どうして現実世界は斯くも醜いのかと思うようになり、何だか拗くれた二重世界を生きている気がしていた。10代とか20代の頃の話。
     我々を救済するのではなく、我々が如何に神を救済するかが問題だと記されている。そして神を救済するため我々は速やかに死ななければならない、とも。エックハルトは聖の称号を得ることがなかった中世の神学家だ。説教集には「神の他に蠅一匹しかいなくとも、その一匹の蠅のために神は絶望」すると、ある。先述の醜い現実世界云々と繋がってしまうな。しかし神が全てを造り給うとのだとすれば、どうして絶望されるような世界を造られたのか。世界が絶対的完全性を持たないということは、彼の不在を証すことになる。
     二重世界は何もバロック後期特有のものではない。宇宙船も人工衛星もニュートン力学に沿って飛び、コンピュータもライプニッツ形而上学の応用の下にあるる。単に言葉遣いが変わっただけで、21世紀もバロック的世界の延長線上にある。
     たまたま「運命」とか「恋」とか「輪舞」という言葉で語ることを止めただけ。エックハルトが言う蠅一匹にも絶望するだろう神を慰めるため、この世界の完全さを証明し、神は決して不完全ではないことを示そうとしているのではないだろうか。
     「運命」や「恋」という言葉ではなく、人間性が否定されたかのような数式や化学式で表すこと。それって当にエックハルトが神の救済のために死ななければならない、とリンクしているような気がしてならない。村上陽一郎『科学史の逆遠近法』 (講談社学術文庫):を読みながら思ったことでした。

  • 1995(底本1982)年刊。
    著者は東京大学先端科学技術研究センター教授。


     近代科学の雄ダーウィンが錬金術に没頭し、また天文学者ケプラーは占星術師だったのは割と知られている。
     かように近代科学の合理的思考とは対極の指向性を同居させた科学者の存在は説明できるのだろうか?。

     他方これは、キリスト教的非合理性では説明が難しい。けだし占星術や錬金術は、キリスト教とは異質な、悪魔信仰や神秘主義から生まれ出たものだからだ。

     結局この点は、従来の歴史研究における「現在」の過度の重みづけと、その誤謬を知ることなしには解き得ない問題点である。


     著者は言う。過去を現在との関連において研究することを勝利者史観と。
     他方、現在を起点に過去の事象・事情を遡及していく際、恣意的に(時に目的論的)に取り上げて検討してしまうことを方法論的遡及主義であると。
     これらは現在に軸足を置き過ぎで、過去の出来事を、同時代史的観点で論じれなくなり、結局のところ事実を見逃してしまうと。

     その極端な例が科学史研究にある。それは、科学史の場合、現代の方が過去よりも圧倒的に正しく、現代までの発展・進歩が直線的に生じたと誤解しやすい領域だからだ。


     正直なところ、政治史や社会史は同時代史的視点。つまり関係領域との比較、過去の事象よりもさらに過去からの演繹的な視座、現代からの帰納的視座を行きつ戻りつ、多面的に検討していることが多いように感じるが、流石に科学史の場合は、現代の正しさが圧倒的であるため、著者の指摘は十分頷くことができる。

     とはいえ、納得はできたとしても、本書の内容は簡明とは程遠い。いや難解である。
     具体的に言うと、同時代史における思想や科学研究、科学研究に類似した各種研究の関連事実、あるいは宗教面における中世の主流的思想とその対抗思想の内実。中世の諸学問の古代哲学との関連性など、様々な前提事実を何の衒いもなく提示し、注釈も少ない。

     そのため、私のように、これらの基本的知識がないと、読み通すにあたり、彼方此方で詰まってしまうことになる可能性大なのだ(現に私はそうであった)。

     しかし捨て置くことも是とは言えまい。
     占星術や錬金術が神秘思想と通底しており、その神秘思想が悪魔信仰(正統派のキリスト教からは忌避的)とも結びつくこと。
     その神秘思想の一つの淵源が、プラトン(中世ルネサンス当時は、ネオプラタナティズム)にある点。
     古代学問体系が無力であった黒死病被害が齎した、新たな学問や原因論への希求姿勢。
     これらは、近代と連続性を有している中世、その中世に関する同時代史的検討を詳述したところである。
     かような詳しい分析を内包する本書において、読み応え感を否定することはできそうにない。まして、難しいから読むのはよせ、などと言えるはずはないのだ。

  • 以前著者から受けた科学コミュニケーションの講義で、呪術や占星術は科学と密接な関連がある、という点がごく簡単に紹介された。このときは、私自身の力量不足から、それ以上深く考えなかった。本書を読んで、占星術や錬金術は、自然を認識する方法であり、近代科学はこれら抜きでは発展しなかったということが理解できた。

  • 今、読み中だが、、、かなり難しい。というより、科学系の思想史の予備知識が相応に無いと読めないと思う。

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

東京大学名誉教授、東洋英和女学院大学学長

「2012年 『「こころ」とのつきあい方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

村上陽一郎の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
レイチェル カー...
ウィトゲンシュタ...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×