ソクラテスの弁明・クリトン (講談社学術文庫)

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061593169

作品紹介・あらすじ

不敬神の罪に問われた法廷で死刑を恐れず所信を貫き、老友クリトンを説得して脱獄計画を思い止まらせるソクラテス。「よく生きる」ことを基底に、宗教性と哲学的懐疑、不知の自覚と知、個人と国家と国法等の普遍的問題を提起した表題二作に加え、クセノポンの『ソクラテスの弁明』も併載。各々に懇切な訳註と解題を付し、多角的な視点からソクラテスの実像に迫る。新訳を得ていま甦る古典中の古典。

感想・レビュー・書評

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  • 表題作2編はプラトンが2400年ほど前に、ソクラテス裁判やその後行なわれたソクラテスとその弟子クリトンとの対話の様子を書いたもの。
    本書には、プラトンと同じくソクラテスの弟子だったクセノポンによる「ソクラテスの弁明」も所収。

    私は最初、ソクラテスは自分が助かりたいからクドクドと言い訳をいっているのではないかという予断を持ったが全くそのようなことはなかった。
    真実を大衆に訴えるために丁寧に告発者の主張に対して反駁を重ねていくその姿勢はすばらしかった。
    また、「死を経験した者が死を語ったことはないのだから死は分からないものであり、害悪ではなくてむしろ良いものかもしれないので恐れるに足りない」という主張はシンプルではあるが、知を信頼するものとしての力強さのようなものが感じられる。
    そしてクセノポン版「弁明」やその解題において、ソクラテスがこの先老いて苦しむよりも今死んだ方がラクだという現実的な判断をしていたことが指摘されていて、そこには軽い驚きを覚えた。
    ほかにも、高校の倫理の教科書などでは分からないソクラテス独特の高言(自慢話)があったりして面白かった。

    講談社学術文庫版の本書は2人の訳者による。
    「弁明」2編は三嶋輝夫氏が、「クリトン」は田中享英氏がそれぞれ担当している。
    それぞれの作品の解題では、三嶋氏が比較的新しい他の解釈者の文献・解釈を多数引用して論じているのに対して、田中氏はテキストを読み込むことによってソクラテスその人と向き合い、やや主観的に論じているのが対照的だ。
    しかしいずれにせよ訳注・解題とも非常に充実しており、文庫本としては良書の部類に入るだろう。

  • 目次
    ・ソクラテスの弁明
    ・クリトン
    ・クセノポン『ソクラテスの弁明』

    一ページ当たりの文字数を見ると、もっと早く読み終わってもよかったのだけれど、思いのほか時間がかかったのは、プラトンだし、ソクラテスだからだと思いたい。
    がしかし、書いてある内容はシンプル。

    1.ソクラテスは若者を惑わす不敬の輩だと訴えられたのに対するソクラテスの弁明。
    2.死刑判決を受けてむざむざ死ぬくらいなら、脱獄して他国で生き延びよという親友クリトンとの対話。

    ソクラテスは、アテナイの法を悪法とは言っていない。
    自身が清廉潔白であるのは自明なのだから、訴えた方が不誠実であるというのみ。
    だけど、正論が必ず人の心に訴えるかというと、そういうわけではない。
    後ろ暗いところのある人は、自身の足を掬いそうな人を排除する。
    良薬は口に苦いし、耳が痛くなるような説教は誰しもが疎ましい。
    というわけで、ソクラテスは民衆の心をつかむことができなくて、死刑になる。

    あれだけ賢い人なのだから、自分の主張が人の心を打つかどうかなどわかりそうだけれど、正論原理主義のソクラテスは、アテナイの法の下、死刑を受け入れる。
    説得できないほうが負けだから。

    クリトンの主張は明確。
    いい加減なやつらのいい加減な主張のために死刑になるくらいなら、この国を出て受け入れてくれる国で真っ当に生きればいい。
    そのために動く人はたくさんいる、と。

    しかしソクラテスは、アテナイの法を受け入れたうえでアテナイに暮らしていたのだから、自分の意見が通らないからと言ってそれを無視するのは、遵法精神にもとる、という。
    それもわかるし、公務員として私も法を尊ぶのは当然と思うけど、命をかけますか?

    とはいえ、ソクラテスの立場になって見れば、70歳にもなって、今さら命を惜しむ姿を見せて、今までの自分の生き方を否定するのも違うよね。
    誰でもない、自分が自分を軽蔑するような行動は、彼には取れなかったのだろう。

    ということで、謎なのは彼を訴えた人たち。
    結局彼の命を奪うことで、ソクラテスの名前は後世までずっと残っているのだし、逆に彼を訴えた人たちもまた永久に名を残すことになったしまった。
    「人を呪わば穴二つ」という言葉を彼らに送ります。

    それにしても、プラトンの『ソクラテスの弁明』の参考資料にクセノポンの『ソクラテスの弁明』を収録しているとは、ややこしいやないかい!

  • 論理的だなぁ。
    頭が良いのはわかるけど、周囲にこういう人がいたら、ちょっと面倒かな。

  • 古典中の古典、やっと読めた。
    ソクラテスの弁明は裁判での弁明のみのシーンだが、メレトスとのやりとりが印象的。クリトンは投獄後のやり取り。生きるのではなくよく生きること、という部分にスポットライトが当たっているイメージ。
    深く理解するには読み込まないといけない気がしている。

  • 天才ソクラテス、
    秀才の原告、
    凡人の大衆
    という図がよくわかった。

  • WEDGE 2009年4月号で紹介されていた。
    論理的に考え尽くしていくことで煮詰まる。10年後の現代語訳で再読する。

  • 哲学
    生きるための古典

  • 831円購入2011-06-28

  • 2010/11/19

  • 訳出は平易で非常に読みやすい。ソクラテスの弁明とクリトンを両方読むことで、理解が深まる良書。

    ◆ソクラテスの弁明
    不敬神の罪で裁判にかけられたソクラテスの弁明の様子が書かれている。

    以下内容の雑理解と所感。

    ソクラテス「なんか神曰く、俺が一番知者らしい。マジで?」
    と言う感じで、いろんな知者に会いに行き、本当に自分が一番知者か確かめる。

    ソクラテス「こいつ自分では知者だと思ってるけど、知ったかぶりじゃん。俺は知ったかぶりしないと言う意味ではこいつより知者だわ(無知の知)」

    と自分の方が格上だと理解。相手にそれを伝えて激怒させまくって回る。

    裁判では正論でメレトスを綺麗に論破。
    ソクラテス「これってこうだよな?」
    メレトス「うん」
    ソクラテス「これもこうだよな?」
    メレトス「うん」
    ソクラテス「じゃあこれおかしいだろ」
    メレトス「えーと、それはこうこうこうで(あ〜ソクラテスうぜぇ)」
    「いやいやおかしいだろ矛盾してるだろ。なぁ?アテナイの諸君!」
    メレトス「(あ〜うぜぇ)」
    みたいな感じ。ソクラテスって、権力者からすごい嫌われそう。

    裁判では正論&持論で貫き通す。真理に対して誠実というか頑固というか。

    ◆クリトン
    「ぼくという人間は、ぼくの中にある他の何のものにも従わず、ただ論理的に考えてみていちばんよいと思われる言論のみ従う、そういう人間なのだ」
    この一言にソクラテスの全てが表れている気がする。

    ソクラテスにとっての、「よく生きる」こととは、「正しく生きる」ことであり、それはつまり論理的に正義なものにしたがって生きる、ということである。

    「よく生きる」ことの意味は、人それぞれ異なる。それは人の性格や価値観が異なるからである。ソクラテスの場合は、「よく生きる」こととは、論理的に正義なものにしたがって生きることであって、彼は超頑なまでに彼の理想とする生き方を貫いた(からこそ最後処刑を受け入れるのだが)。ソクラテスの弁明だけを読むと、ソクラテス頑固だな〜〜〜と思うのだが、クリトンを読んで、ソクラテスは自分の良しとする人生を生き抜いた人なんだな、と考えが改まった。

    ▶︎「悪法も法なり」に関して
    ソクラテスが処刑を受け入れる一つの理由に、たとえ無実の罪であっても、
    ・アテナイの法律を正す権利
    ・アテナイから出て行く自由
    (+アテナイに育ち長年住んでいる)
    を有した上で、国法によって裁かれるのだから、この国法に従わないことは不正であるという。

    もし国によって自分が損害を受ける立場になった時に、納得して悪法(もしくはその他の処置)を受け入れられるかな、と考えた。自分がその国のルール作りに真剣にコミットできているか、反省するよい機会になった。損害を受ける当事者になる前に、しっかりと国のあれこれを考える必要があるし、しっかりコミットできているのならば、「悪法に裁かれる」としても、納得感は少しばかりは増えるだろう。

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著者プロフィール

山口大学教授
1961年 大阪府生まれ
1991年 京都大学大学院文学研究科博士課程研究指導認定退学
2010年 山口大学講師、助教授を経て現職

主な著訳書
『イリソスのほとり──藤澤令夫先生献呈論文集』(共著、世界思想社)
マーク・L・マックフェラン『ソクラテスの宗教』(共訳、法政大学出版局)
アルビノス他『プラトン哲学入門』(共訳、京都大学学術出版会)

「2018年 『パイドロス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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