東と西の語る日本の歴史 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061593435

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  • 古本で購入。

    フォッサマグナを境とした東と西をそれぞれ独自のものとして捉え、如何なる相違が存在し、互いにどう関係してきたかを述べていく。
    環境考古学の成果によると、東西の文化の相違は既に2万年前にはその根を持っていたとか。
    細石刃文化から見ると、東には北方の亜寒帯的要素が、西には南方の温帯的要素が強く結びついていたという。
    こうした地域差は縄文時代に入ってからも歴然と受け継がれていく。

    東と西の相違は多岐にわたる。
    東の「畠作」と西の「水田」。
    東の「馬」と西の「船」。
    東の「馬を操る盗賊」と西の「海賊的武者」。
    東の「主従制・惣領制国家体制」と西の「座的結合・職能国家的性格」などなど。

    東国の独自性を主張し、在地領主のイエ的・家父長的な支配を強調してそれに基づく主従制原理に貫かれた武家政権を軸に中世国家を捉えようとする研究者たちの多くが東出身。
    対して、座的な構成を持つムラ、村落の平民百姓を支配下に置く荘園・公領の支配者、公家、寺社、武家などによって相互補完的に形成される権力として中世国家を理解しようとし、「日本国」意識を強調する研究者の多くが西出身。
    このように、中世史研究者の中においでも東と西の相違は鮮やかなのだという。
    ちょっとトンデモ説のようではあるが、話としてはおもしろい。

    また東国と九州、西国と東北の結びつき、というのもおもしろい。
    南北朝期の日本列島を巻き込んだダイナミックな動きが、これを前提にしていたというのは初めて知った。

    多くの研究を引きつつ(書かれたのが30年近く前なのでだいぶ古いが)展開される東西の相違・独自性は、実におもしろい。
    ただ、「なぜこれほど東西で異なるのか」というところまで言及されていないのが惜しい。

  • ・正月に餅を食べない民俗は、雑穀や畑作をその年の幸福や豊作を象徴しており、その根底に焼畑耕作がある(坪井洋文)。
    ・大型の前方後円墳は、4世紀後半には会津地方まで、5世紀には仙台平野から北上川流域に広がった。
    ・9世紀に官牧が生まれ、その中の馬牧は上野を除く関東と駿河、遠江に、天皇に貢進する勅旨牧は甲斐、武蔵、信濃、上野に設けられた。
    ・中世における東国の年貢はほとんど例外なしに繊維製品だった。陸奥は当初金と馬だったが布に変わり、出羽も絹に変わった。西国諸国の年貢は米だった。

  • 日本史を東と西の違いで分けてみるとこうも違うのか、という驚きと、いかに日本には多様な民族・部族が存在・関係しあっていたかを教えてくれる本だ。いわゆる教科書的な日本史が(シンプルなコンセンサスを記述する必要があるとは言え)いかに狭い範囲で記述されていたか思い知らされた。文庫だが、その中身の濃さには脱帽。

    日本列島の東西の違いは、旧石器時代にまで遡るという。例えば、狩猟採集が主軸であった縄文時代までは、ブナを中心とした冷温帯落葉広葉樹林の広がる東日本と、シイ・カシに代表される照葉樹林の西日本では、東日本の方が人口が多かったそうだ。また文化面から見ても、縄文土器は東の方が圧倒的に多様で複雑な文様だったという。ところが、いわゆる弥生時代になって、水稲文化が九州を経て西日本に入ると、西日本には数十年で一気に広まったが、おそらく稲の北限の問題で東日本には一向に稲の文化が馴染まなかった。ここで、東西の優勢が逆転するのだ。この時点で、北海道、東日本(東北、東国)と西日本(畿内、北九州)そして琉球列島という、地域に分かれてくると考えられるのだと言う。そして本書では、扱いきれないということで、北海道と沖縄は除外されているのだが、それにしても、東日本と西日本でこれほどまでに差が見えてくるとは驚きである。

    この後、著者の専門とする中世に至るまで、懇切丁寧な引用とともに、東と西の勢力図や民俗の違いが説明される。例えば・・・

    文化的に分裂した東日本と西日本も古墳時代になると、一斉に古墳が広まり、少なくとも古墳については東西の差が薄まる、という事態が起き、この時代が「日本人単一民族説」の原点になりやすいこと。西日本に大和王朝が成立する時期には、東国の蝦夷、九州南部の異民族・隼人(はやと)などがいたことが分かっていること。製鉄技術はタタラで有名な西国とは独立して東国にも起きていた可能性があること。豊かな馬の産地であることを背景に、弓馬で闘う東軍と、活発に用いられた海路(朝鮮・山陰・九州・瀬戸内など)とクス(紀伊半島・船の材料)などの木材のおかげで水軍が発達した西日軍、これが源平の違いに発展していく・・・。

    民俗的に見ても、興味深い。年貢を米と定めているのが西日本で、繊維・家畜・瓦・油、その他地元の名産品など多様性があるのは東日本。これは、稲作文化と畑作文化を反映しているという。また、職人のあり方についても、職人が一座を形成するムラ文化が西日本で、棟梁の名の下に一対一の主従関係を結ぶイエ制度が東日本。これは、昔、日本史で習った、東国武士のあり方と全く同じではないか、と驚いた。

    また、どの時代を見ても、常に、さまざまな地域で朝鮮半島と密接な交流があり、その結果、文化面でもよく似ていたことがよく分かる。朝鮮半島と日本列島の関係史を丁寧に見直しても良いのではないかと思った。

  • ようやく読み終わった。100頁頃まではダラダラだったが、そこから一気に読み進められた。やはり一気に読んだ方が、内容が掴みやすい。歴史に中立などありえない。歴史を叙述するということは、ある世界観や認識の体系に自ら与することである。東日本のイエ系社会、父系社会と、西日本のムラ系社会、母系社会の対比。韓国、中国、北方との、日本各地の地理的に対応している部分との交流の歴史、それが江戸時代の鎖国という体制下で閉ざされたこと。日本の政治家たちは、恐らく史観を持ち、大局を見据えた政治判断をしてきたのだろうと想像する。統一日本という形を作るには、鎖国はやむを得なかったのではないか。しかし、それが現代日本に至るまで、排他的風土を遷延させてきた一因かもしれない。一方で、交流というと聞こえが良いが、侵略を受ける可能性もあったのであろう。そして、現代でも、国際秩序という規範の下では、軍事増強、核問題、資源確保など、国の線引きを前提に派生する問題は山積している。地球的視野という考え方は、一人一人の地域住民が持ち得るのだろうか。

    そんなことに想像を巡らせた、読了後の感想。

  • 西と東で違うのはうどんやそばのスープの濃さだけじゃないのよ。

  • 網野善彦先生の本です。
    歴史や考古学、民俗学、社会学など、著者の意識の幅広さがよくわかります。
    文庫版前書きでも書かれていたとおり、琉球やアイヌは話題にしていませんが、それでもあまりある内容。
    日本の東西の文化の違いは、縄文時代から分かれていたとか凄すぎる。

  • 日本の東と西では、簡単には埋められない違いがあるのでは?ということを様々な例で提示してくる好著。例えば、関西の系図には女性の名前も、出自も嫁ぎ先も記載があるのに、東国ではほぼ男性のみ。家族のありかたにも東西の違いが明確にでているようです。

  • 購入済み

  • なくなったと思ってたら後輩君が返してくれた本。
    コメントは改めて。

  • 網野善彦さんの本で「日本の歴史をよみなおす」が面白かったので、読んでみることにした一冊。こちらは少し学術色が強いので、日本史を良く覚えていない僕には難しかった…が、読了後の気分はよいです。<BR><BR>
    この本で網野さんは、東と西では言語・社会・文化の成り立ちに違いがあり、現在僕らが思うような単一民族的な「日本」という感覚がなかったことを様々な資料を使って教えてくれます。<BR><BR>
    日本の歴史が面白いと感じられる一冊。また別の著作が読みたくなりました。

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著者プロフィール

1928年、山梨県生まれ。1950年、東京大学文学部史学科卒業。日本常民文化研究所研究員、東京都立北園高校教諭、名古屋大学助教授、神奈川大学短期大学部教授を経て、神奈川大学経済学部特任教授。専攻、日本中世史、日本海民史。2004年、死去。主な著書:『中世荘園の様相』(塙書房、1966)、『蒙古襲来』(小学館、1974)、『無縁・公界・楽』(平凡社、1978)、『中世東寺と東寺領荘園』(東京大学出版会、1978)、『日本中世の民衆像』(岩波新書、1980)、『東と西の語る日本の歴史』(そしえて、1982)、『日本中世の非農業民と天皇』(岩波書店、1984)、『中世再考』(日本エディタースクール出版部、1986)、『異形の王権』(平凡社、1986)、『日本論の視座』(小学館、1990)、『日本中世土地制度史の研究』(塙書房、1991)、『日本社会再考』(小学館、1994)、『中世の非人と遊女』(明石書店、1994)。

「2013年 『悪党と海賊 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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