環境の哲学―日本の思想を現代に活かす (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061594104

作品紹介・あらすじ

戦後半世紀、国土の相貌は激変した。在りし日の豊かな空間が急速に失われつつある今、わたしたちは環境の問題をいかに考えればよいのか。西行・慈円・熊沢蕃山の思想に改めて評価を与え、「空間の豊かさ」の本質を問い直すとともにそこから導き出されるアイデアを現代に活かす道を探る。混迷深い環境問題への示唆に富んだ提言の書。

感想・レビュー・書評

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  • はじめのほうな日本の昔の思想(和歌等)についての話で難解だったが、中盤あたりからぐんぐん面白くなった。後半はすらすらと。

    グローバル・ローカル、原生自然、空間の履歴・空間の豊かさ、道と法、身体空間・概念空間、ゾーニングと意味づけ、地名・住居表示、などいろいろと考えさせられた。

  •  おもしろかった!
     新幹線で「これ読んで眠くなったら寝よう」と思っているのに、おもしろくて眠る気になれなかった。
     そして議論の組み立て方が、非常にわかりやすかった。ついていけないところもたくさんあったけれど、親切な書き方だ。
     この方、社会的合意の形成に関わっている人で、土木工事などで地域住民どうしの争いや、地域住民と行政の争いなどにおいて、合意を形成するという難しいことをされている。
     その人の考える国土や、人間をはじめとした生命の置かれた環境というものはなんだろう、という話。
     この本だったと思うのだけれど「銭湯に富士が書いてあるのはこういう理由である」という理由の部分が、再読してもサッパリ見つからない……借景ではなく、自己がそこにいることがうんたら、みたいなのだったと思うのだけれど……松岡正剛さんの千夜千冊だったとしたら、もう探しようがない……


    p45 「空間の豊かさ」
     さびしさはその色としもなかりけり真木立つ山の秋の夕暮

     …略…つまり、「霧が立つ」とは「風が立つ」「煙が立つ」「雲が立つ」、それどころか「神が立つ」の「立つ」、すなわち「出現する」の意味である。「真木が立つ」というのは「村雨の」の歌で詠われる「霧が立つ」を斑点した状況である。秋の夕暮におおわれた山に、その霧が流れて、突然槙の木が出現する。一面におおわれた夕霧のなかでは、すべての色が消え去っているが、そのモノクロームの「さびしさ」のなかで、一瞬霧が切れて、槙が視覚的に出現するのである。

     和歌をこんなにおもしろく説明してくれるとは。とてもわかりやすくて、他の歌の説明も楽しかった。


    p91 「闇と静寂の風景」
     現代の風景に立ち戻れば、闇と静寂の風景を喪失することは、その風景を知覚する感性を喪失することにほかならない。そしてまた、その風景と感性とをむすぶ存在論を喪失することでもあるだろう。風景は人間と独立に存在し、それを知覚する感性とは別に存在することになる。すると、風景をつくりかえることは、人間そのものをつくりかえることとは関係の無いことになってしまうだろう。こうなると、風景の危機が人間の危機であることに気づかれない。しかし、これがいまわたしたちの直面する本当の危機である。

    p92
     たとえば、運動は視覚によっても触覚によってもとらえられる。霧の流れる松林では、霧の運動は、視覚でも、肌にあたる霧の冷たさによっても捉えることが出来る。こうした運動をとらえるのが共通感覚である。
     さらに、運動の感覚があるところには、時間の感覚もあるから、時間もまた共通感覚の対象である。
     「風景」という概念は、「風」と「景」というふたつのことばの組み合わせである。「景」とは「景色」であり、視覚の対象であるが、そこに「風」を加えることによって、景色に組み込まれた共通感覚がより明確になる。なぜなら、「風」は、じつは直接には目に見えないからである。わたしたちは、風を、目に見える木々の運ヅオや、水面に反射した光のゆらぎ、あるいは、音の変化によって知覚する。あるいは、頬にあたる空気の変化によってそれを知るのである。だから、「風景」の概念には、共通感覚が組み込まれている。

     長谷川等伯の『松林図』

     そうだった、霧って冷たいんだった。
     幸田文さんが書いていた「金色の風」の話を思い出した。風の出自がそのときはよくわかったと。木の葉や甍が金色に光っていたと。そこから風が生まれたのがよくわかったという随筆が、とても美しかった。



    p99
     わたしたちは世界に手を加え、変化を引き起こすことで、自己とはかかわりなく、風景をつくりかえているように思うかもしれない。しかし、風景が世界と自己との出会う場処であるとすれば、あるいは、世界と自己とを区分し、そしてつなぐところだとすれば、風景をつくりかえることは、同時にその風景に生きる自己をつくりかえることである。
     …略…つくりかえた空間が光の洪水、騒音の海であるとすれば、その風景には、闇もなく、静寂もない。嗅覚も味覚も働かなくなれば、その風景には匂いも味もなくなるのである。風景の豊かさは実は人間の感性の豊かさに呼応している。
     …略…風景をモノのように考える人は、富士の前に巨大な看板を立て、マンションをピンクに塗る。看板やマンションは所有者のモノだからである。


    p115 
     天地四時 天地四海
    p167 「山川草木国土論」
     朱子学の中心をなす朱キの哲学では、「天人合一」が説かれる。これが自然と人間の連続性を示すもっとも重要な表現である。このばあい「天」とは「天地」であり、「天地四時(しいじ)」であって、時間を組み込まれた空間であり、そのなかに存在するすべてのものであった。「四時」とは「春夏秋冬」のことであり、生命の諸相は、季節として循環する時間のうちに展開する。

    p205 「空間を貧しくするもの―物神化と概念化―」
     本章で論じたいのは、身近な自然にかかわる問題としての、また空気の豊かさを損なうものとして「物神化」と「空間と風景の概念化」の問題である。
     開発の計画がもちあがり、その是非について討論するとき、保護を主張する立場に立つひとびとには、その自然をなぜ守るかという論理が必要になる。その論理の要求のなかで、わたしたちは、その自然に含まれる価値を見出さなければならない。このとき、しばしば、空間の価値を空間に含まれるモノの価値によって代理させることになる。いいかえれば、モノをいわば神の地位に祭り上げることで、開発にともなう経済的利益という物神に対抗するのである。自然の保護は、このようにしばしば物神と物神の代理戦争の相貌を呈した。たとえば、長良川に堰をつくることによって得られる経済効果とそれによって失われるサツキマスによる代理戦争である。


    p266 「社会資本の整備と空気の思想」
     …略…たとえば、原発に依存している生活を享受しながら、原発を否定するような発言はおかしい、と非難するひとの論理に等しい。ひとびとは、空を飛べなかった時代に空を飛びたいと夢想したひとを笑ったかもしれないが、このようなひとびとは、価値のあり方について大きな誤解を犯している。わたしたちは、一朝一夕には実現不可能なものを不可能だからという理由で望んではならない、ということはできない。たとえ不可能なものであっても願望することはできるからである。人間の行為を理解するうえで、この願望というのは、きわめて重要なはたらきをする。人間が理想を求める存在であるかぎり、その理解は人間によって願望されるものだからである。したがって、原発からの電気を消費しているひとが原発の反対を唱えても、そのことを非難すべきではない。むしろ、そのような非難の存在は、清貧の思想を説くひとを笑うほど、ひとびとがモノの豊かさを心の豊かさから引き離すことがでいなくなってしまったことを表している。モノから心への転換とことばでいうのは容易だが、ひとびとの心のなかですら難しいのだから、政策レベルで実行に移すことはほとんど不可能にみえる。
     …略…
     わたしの提案は、「空間の豊かさとはなにか」と問いながら、社会資本の整備について考察することである。



    p275
     これまでモノづくりということで考えてきたのは、生産と消費までで、廃棄と処分については、「つくる」ということと別に考えてきたように思われる。…略…
     …略…それは、有限な地球環境の内部という、身体空間の行為であるから、つくるということは、こわす、解体するということをも含む行為でなければならない。…略…したがって、たとえば「原発をつくる」ということは、核廃棄物の最終的な処理から、原発施設の老朽化による飼いたい、解体後の処分等すべてを含む過程でなければならない。

  • 哲学の先生にして,この景観,風景の捉え方!何度もアンダーラインを引いてしまった,感動の一冊.

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