魚食の民: 日本民族と魚 (講談社学術文庫 1469)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (295ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061594692

作品紹介・あらすじ

日本人は、魚を酒菜とよび真菜とよぶほどに遙かな昔から魚に親しんできた魚食の民であり、現代に伝わる豊かな魚食文化を築きあげてきた。魚食の民は漁りの民であり、魚食の歴史はすなわち漁りの歴史でもある。しかしかつて多彩な魚貝を育んできた豊饒の海はいまや危機に瀕し、魚貝は数も種類も少なくなった。日本人と魚のかかわりを、日本人‐魚食‐漁業という構図の中で考える。

感想・レビュー・書評

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  • 親父の本棚から持ってきた本。

    日本における魚食文化の話。
    魚に関することをあらゆる視点で考察していらっしゃいます。

    日本文化を語る上でやはり魚は外せないものでしょう。
    「文化」って大括りに捉えると、大きすぎるというか、曖昧としすぎて捉えにくいところがあるのですが、思い切ってその文化を構成するパーツパーツに注目して見るほうが分かりやすいような気がしてます。

    1個のモノを切り取ってみると、そこには人の生活が表れてくるので、ミクロな視点から歴史を感じてみたり、統計的なデータの推移からその時代時代の、経済的や社会的な様子を考えてみたり、そういうのはとても面白い。
    特に、食文化は面白いよねぇ。食文化だけが文化じゃあないけれど、食ってやはり根源的なものなので、そこにはその文化の本質がいろいろ表れてくるのだと思う。何を食べるかは当然のこととして、どう食べるかってことには調理法だけじゃなくて、例えば盛り付け方とか美的なものも入り込んでくるし、例えば保存法であれば気候的なものとか、誰がどれくらい食べるかという経済的なものとか、何を食べちゃいけないかという宗教的なものやら、とにかく色んなものが関わってくる。
    幅の広いことを考え出せば、何を切り出したってこれは言えるんでしょうけどね。とにかく食べ物の話は面白い。

    さて、で、この本。
    面白いところはいくつもありましたが、その中からいくつか取り出すと、
    まずそもそも日本人はそれほど魚を食べてこなかった、という話。

    最初に言った通り、日本文化と魚は切り離せないというのは誰もが認めるところです。
    日本食といえば「寿司」というのは世界的に通用する回答だし、四方を海に囲まれた地理的にも日本が昔から漁業を行ってきたのは誰もが知るところ。

    でもじゃあ本当に日本人は歴史的にずっと魚を食べてきたのかというと、むしろほとんど食べてなかった、と。
    食べたかったけど、食べれるようなものではなかった。
    一番は流通の問題。海から、川から離れた場所に魚を輸送することは難しい問題であった。
    塩干しされたものなど加工された状態での輸送はあったけど、今度は経済的な問題もある。

    コメが誰でも食えるものになったのは、わりと最近の話である、という方はそういえばよく聞くけど、
    よく考えて見れば魚も同じような状況だった。
    それでもコメと同じように憧れの対象で在り続けた、というのがすごい。

    ニシンの話。
    他に面白かったのはニシンの話。
    ニシン漁の盛衰というのは高校の日本史レベルでも多少は出てきますね。
    江戸時代における東北、北海道のニシン漁であったり、それを肥料として使用していたことであったり。
    そして戦後の北海道におけるニシン漁獲量の拡大と衰退。
    日本史でもやったし、北海道旅行したときには鰊御殿的な資料館みたいなのも見学した覚えが。

    ということでざっとした流れは知っていたけど、ニシンについてはその衰退の原因がはっきりとは解明されていないんですね。
    単純に漁獲過剰であったというわけではなく、海流や海水温の変化や森林伐採といった環境の変化などなどいろいろ言われているらしい。

    そしてニシン漁自体が衰退すればそれに関わる研究者も減っていき、さらに原因は説かれにくくなるだろう、と。この本2001年の刊行ですけど、確かに今でも状況にそう変わりはないらしい。

    そしてこのニシンの盛衰というのは、日本だけでなく世界的に見られる現象とのこと。なるほど乱獲以外の可能性もありそうというのも納得。

    ヨーロッパにおけるニシンの話も面白かった。
    ヨーロッパにおいてニシンはかなり親しみ深い魚であり、北欧を中心とした沿岸国では重要魚種の一つである。
    ただ、その移り変わりを見てみると、
    13世紀以降ニシン漁業の中心はあちこちと移動しており、一地方で永続的に生産を維持してきた例はほとんどみられない。そして魚群の消長と漁場の移り変わりは、中世、北西ヨーロッパに多くの新しい町を造ったと言われている。例えば、ハンザ同盟で最も中心的な都市であったルーベックは、ニシンで栄えたし、アムステルダムはニシンの骨の上に築かれた町とも言う。
    かつてニシンはヨーロッパに富と栄耀をもたらしたが、それは余りに変動的であり不安定であった。
    ハンザ同盟の解体の遠因ともなっていたに違いない。

    すげえ。やっぱ食から見る歴史面白すぎる。
    今度はヨーロッパ史やろうかな。

    以上。

    ということで。

    ちょっと長くなったのでもうやめますが、鯨の話も面白かったです。
    鯨漁の歴史。近世より前の話も面白いし、幕末周辺の歴史と鯨というのも関係深いものだし、そこら辺からの昨今の鯨論議へのつながりとか、興味のある人は考えてみるのも面白いと思います。

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