チベットのモーツァルト (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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レビュー : 26
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061595910

感想・レビュー・書評

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  • 仏教におけるチベット・タントリズムと、ポスト構造主義におけるドゥルーズ的な生成の思想をつなぐ、著者の知的冒険が展開されている本です。

    著者は、みずからの思索の軌跡を説明するにあたって、ヤキ・インディオの呪術師のもとで修行した体験を記述したC・カスタネダの議論を参照しています。カスタネダは学生時代、シュッツの現象学的社会学をラディカルに推し進めたガーフィンケルのエスノメソドロジーを学んでいました。エスノメソドロジーでは、この現実は相互主観的に構成されたとみなされることになります。彼らにとって社会学調査は、人びとが当然視していることを疑問に付し、そこに亀裂を入りこまる「現象学的苦行」の場だと考えられます。しかしカスタネダは、あらゆる常識に対して疑問の目を向けるエスノメソドロジーとは逆に、呪術師との対話のなかでみずからのよって立つ足場が疑問の淵に投げ入れられるという体験を記述しています。

    とはいえ、意識変容の体験を通して「現実」の根底にある無意識の領域にめざめたとカスタネダが語っていると理解するならば、それは謝りといわなければなりません。むしろ、そうした二元論を宙吊りにし「世界を止める」ことの会得がめざされていたというべきでしょう。幻覚体験は根源的な世界経験などではなく、そうした二元論を抜け出すための「戦術」だと理解される必要があります。

    そして、チベット・タントリズムにおいてもこれとおなじことがめざされていると著者は考えています。チベット・タントリズムの修行を通して著者自身が獲得した経験は、クリステヴァのことばを用いて説明するならば、フェノ=テクストとジェノ=テクストのたえざる往還運動が起こっている意味生成の「場所」(khora)へと身を開き、さらにはみずからの身体をそうした「場所」とすることだということができるでしょう。

    著者は、本書のなかで仏教の中観を論じつつ、「誰でもできる脱構築」ということばを使っています。そのことばの安易さには正直なところ同意できないのですが、仏教の「戦術」的な性格をそれなりにうまくいいあてているように思えることもじじつであるように思います。

  • [ 内容 ]
    密教の実践的研究を通して、チベット高原の仏教思想と現代思想が幸福な邂逅をとげる―。
    物質に対する執着に眼を曇らされた闇を抜け、いまだ顕れ出ることのない純粋な未発の光に満ちたもう一つの夜を渡る旅へ。
    “精神の考古学”を駆使して新たな知の時代を切り拓き、思想の大海を軽やかに横断し続ける著者の代表作、待望の文庫化。

    [ 目次 ]
    本の調律
    孤独な鳥の条件―カスタネダ論
    チベットのモーツァルト―クリステヴァ論
    極楽論
    風の卵をめぐって
    病のゼロロジック―暴力批判論
    マンダラあるいはスピノザ的都市
    夢見の技法
    丸石の教え
    視覚のカタストロフ―見世物芸のために
    着衣の作法 脱衣の技法
    ヌーベル・ブッディスト
    砂漠の資本主義者

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 薬物、瞑想、精神分析その他いろいろ
    純粋理性へ直接アプローチするための方法論を並列させることで
    そこにむしろ多神教的な世界観を生じさせているような気も
    するような気もしないような気もしないではない

  • すべての学問がつながっているのを実感する。

  • チベット密教とか記号論とか色々、それはもう色々あるんでしょうが、『野ウサギの走り』とか、中沢新一のこのあたりの、雑誌掲載をまとめて一冊にしたものは、あまり考えずにぼーっと読んでいるとひとつひとつの境目がゆるくなって、一篇の小説を読んでいる気分になっておもしろかった。それ以来意識的にピカレスクロマンでも読むように読んでいる。なにがおもしろいのか、未だにわからないけど。

  • この手の本は「ふーん、なるほどねぇ」とか読むもんなのでムキに批判してるひとをみると滑稽ですね

著者プロフィール

一九五〇年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。明治大学野生の科学研究所所長。思想家。著書に、『チベットのモーツァルト』『雪片曲線論』『森のバロック』『カイエ・ソバージュ』シリーズ『アースダイバー』シリーズ『野生の科学』ほか多数

「2019年 『レンマ学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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