菊と刀 (講談社学術文庫)

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感想 : 130
  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061597082

作品紹介・あらすじ

第二次大戦中の米国戦時情報局による日本研究をもとに執筆され、後の日本人論の源流となった不朽の書。日本人の行動や文化の分析からその背後にある独特な思考や気質を解明、日本人特有の複雑な性格と特徴を鮮やかに浮き彫りにする。"菊の優美と刀の殺伐"に象徴される日本文化の型を探り当て、その本質を批判的かつ深く洞察した、第一級の日本人論。

感想・レビュー・書評

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  • ブクログ1700冊目は、前々から名前だけは知っていた、ルース・ベネディクトの『菊と刀』。
    戦争における情報収集目的で、アメリカ政府向けにまとめられたものだという印象が強く、自分で読むことになろうとは思っていませんでしたが、想像していたよりも難解ではなく、興味深い内容でした。

    歴史の教科書でも取り挙げられるように、アメリカが初めてまとめた日本文化論という、意義深いものです。
    文化人類学の専門家である著者が実際に来日して、調査執筆したような詳細さにあふれていますが、実際には日本文献をまとめ、日系移民と触れ合うことで、日本の文化の本質に迫ろうとしたものだそうです。

    「日本人は、好戦的なくせに平和思考、尚武的であると同時に審美的、傲慢にして丁重、融通が効かないくせに適応力があり、従順なのになめた真似をされると腹を立て、忠誠心があるくせに裏切り、勇敢だが臆病、新しい流儀に対して身構えるくせにそれを歓迎もする-こういう矛盾が最高度に達する国民だ」

    と書かれると、(そうなのかな)と思いながらも、(アメリカ人だってそうではないのかな)とも思います。
    外部からの指摘は、内部にいる者にはピンとこなかったりするものなので、客観的なまとめ方が新鮮。
    著者自身も訪れたことのない日本という未知なる島国について、何も手がかりがないところからここまでまとめあげるまでに、どれほどの資料収集と対面調査を繰り返したことでしょう。

    全く根も葉もないような噂もあったりして、おかしくなりますが、知らなかったこともいろいろと記載されていました。
    たとえば「日本には姓の種類が豊富」という項目には「4億5千万人の中国人の中で、姓はわずか470しかない」と紹介されており、その少なさに驚きました。

    「レジャーの行事として、日本人は料理が次から次へと際限もなく出てくる食事を楽しむが、一つ一つの料理の量はスプーン一杯分くらいで、その味に劣らず見かけも賞賛の対象になる」

    この表現も、なんだかおもしろい感じ。スプーン一杯分っていうのは誇張し過ぎかと思いますが。

    「彼らの小説や戯曲には『ハッピーエンド」が殆ど無い」
    「幸福の追求こそ人生の本当の目標だという考え方は、日本人には驚嘆すべき不道徳な原則なのだ。」

    という表現には「ええっ?」と思いましたが、先日中の日本人は、私達とはまた違う考えを持っていたのかもしれません。

    また「生まれてから3日の間は、赤ん坊は授乳されない。というのも、日本人は本当の乳が出るまで待つからだ。」という一文にも驚きました。
    今ではそんなことはないと思いますし、産後すぐに授乳できるように事前ケアが整っていますが、当時は赤ちゃんは生まれたてなのにお腹をすかせていたわけなんですね。

    アメリカの個人主義と比較しての日本の協調精神は、今でも提示される相違点。
    歴史の時間にこの本について習った際"「日本は恥の文化だ」と規定された"と学びましたが、該当の箇所には、

    「些細な事にこれほど敏感に反応し、痛ましいほどに傷つきやすい。アメリカだと、これは思春期の不良たちについての記録とかノイローゼ患者のカルテなどでしかお目にかかれまい。」

    という表現がされていました。
    武士の心得をベースとした、世界に誇れる堂々たる恥の文化だとばかり思っていたのに、思春期の不安定さに比べられたり、さらにはノイローゼの病人扱いされていたとは。
    意外に小者扱いされていたのが予想外でした。

    現在は、グローバル化が進み、習慣も考え方も、かなり世界の人間が共通化してきていますが、当時はまだまだ分かり合えない異文化民族同士でしかなかったアメリカと日本。
    その、異質な民族を、なるべく理解しようとするアプローチが、文章からにじみだしており、当時の調査の大変さを考えながら、ここまで詳細にまとめあげた著者の力量に舌を巻きました。

  • 日本の階層制度について言及。
    士農工商の商人が下の位であることは、アメリカ人からするの奇異なことであるが、商人が貿易によって金と力をつけないために徳川氏が制限をしていた。徳川家の支配を維持するためである。
    封建社会の崩壊後、異なるカースト層同士の結婚が許容されるようになり、裕福な商人が下層武士との間での階級移動が起こった。

    日本人は天皇を雲の上の人として尊敬しており、カーストの頂点と一般市民との結婚する事で階級がゆらぐかもしれないと、この本を読んで感じた。
    差別を行うのがタブーな現代で、階層によって結婚が認められないのはおかしいという視点と、皇室の階層を守るという視点、双方の折り合いは難しい課題である。

  • 日本人って外から見たらどうなのを知りたく読んだ一冊。戦時中アメリカ人によって書かれた本。
    階層社会による序列、恩の貸し借り、恥に対する恐れ、名前に対する義理と言ったトピックを元に日本人が解説される。
    現代の僕らでも恩と義理は大切にすべきものと言う認識はあるし、恥をかくことは死と同水準の苦痛という認識は残っている。
    外国人に自国の特性を評価されるとなんだかむず痒い気持ちになる。本書はジャパンアズナンバーワンでのベタ褒めみたいな感じではない。
    この本を読んでいる中で、自分はいち人間として日本人としての特性を保ったまま生きるのか、この特性に抗い生きるのか、と言ったことを考えていた。
    日本で感じる窮屈さが嫌で自由に生きたいと常々思っているが、自分が考える自由とアメリカ人が考える自由には隔りがあることを理解した。
    日本人であることからは逃れられず、今後も葛藤するんだろうなと思う。

  • 日本人論の古典中の古典。ようやく読み終えた。イザヤ・ベンダサンの「ユダヤ人と日本人」では日本人は日本教という教義に無意識に取り込まれていると言っていた。それほど日本人は異質なのだろうか。戦前の日本人の特質を分析したこの本では随分と異質であることが述べられている。戦前と戦後では価値観が百八十度変わってしまったので、現代の日本人にはこの分析がすべてに当てはまるとは思わないが、それでも特質の深いところには彼女の分析に合致するところが隠れているように思う。一度も日本の土地を踏まないでこれだけの分析を行った著者の能力は素晴らしい。そして、戦争中に、敵国の占領政策を立案するうえで、文化人類学者に研究させたという懐の深い米国に驚く。こんな国を相手に日本は無謀な戦争をしたのだな。

  • 何度も言及されていることではあるが、来日経験のまったくない著者が、これほど鋭い洞察を成し得たことにまず敬意を表する。わたしは明治〜昭和期の文学を現在よく読んでいるのだが、著者の見る「日本人」「道徳」「ふさわしい位置」等々が見え隠れしている。また、著者が解しきれずに本書巻末における川島武宜氏『評価と批判』にて指摘のある、それに抗しようという意思もこれらの文学に散見される。だが、やはりわれわれは、川島氏の仰るように、まずは著者の、物事を一気に決めつけずに敬意と細心の注意を払って分析するやり方そのものを見習うべきであると思う。そのうえで、われわれをわれわれたらしめる、また諸民族を各々その属すところの人間たらしめる「歴史」について考えをめぐらせることが肝要だろう。それにはやはり、敬意のある「対話」が必要である。


  • 日本文化を再考する上でこの本を読むように勧められたのが、10年以上前の学生時分に当時の教授から。こんなに月日が経ってしまいました。
    学問的価値が高い稀有な良書。
    一度も日本の地を踏んだことのないアメリカ文化人類学者による、日本人の行動と考え方の原理とを総合的に、また全構造的に記した一冊。驚愕です。

    恩、報、忠、孝、義、恥、徳。
    日本人の精神的体系、価値観は上記で表されるな。
    平成最後の年になる本年であるが、恐ろしい位に日本人の本質的なもの部分を捉えている。
    よく非日本人からは「武士道」という言葉が取り上げられるが、これはかなり近代になってから使われ始めた言葉で、階級的な武士のみが使用するものではなく士農工商からエタまで諸庶民の心根にも根付く義理(義務)が日本人のそれを表すのが本来の意ですね。
    しかし、これは本当に凄い一冊だな。

  • 一様に天皇を信じ、天皇は非難しなかった
    儒教的ヒエラルキー(家庭、士農工商)
    各々にふさわしい地位に甘んじる
    恩を受けることの恥
    忠の心 個人への干渉が家族の義務だった
    天皇が勅諭出したらみんな平和を願い始めた

    アメリカのような二元論ではない

    義理と忠…ときに自害も正当化され、かぞくをすてることも正当化

    網羅性重視…スピード遅くなるよねそりゃ
    軽率な結論を下さない
    恥の文化は外面的強制力にもとづいて善行を行う

    無我の境地

    嘲笑とからかいでつまはじきにされる恐怖心
    正しい道から逸れることへの恐怖・恥=いきづれー

  • 10年ほどまえに購入したものの、挫折していたが、久々に手に取るとぐんぐん読み進めてしまった。現代日本人である自分の行動や考え方と、合致する部分しない部分があり、なるほど戦後すぐの日本人よりは近代化しているようだ。とくに、恩・義務・義理のみごとな構造化(題名である「菊と刀」は、義務と反対義務とを表しているに違いない。)と、日本における伝統的な育児法については面白い。階層社会における「ふさわしい位置」を見つけようとしてしまうことに気づき、日本人らしい自分を自覚した。

  • いつか読もうと思いつつ、手がのびないまま年月が経ってしまう、「名著」と呼ばれる書籍の数々。
    「意識して読もう」という気持ちが強くなった機会を逃すまいと、以前から気になっていたこの本に、取りかかることにしました。

    執筆が開始されたのが1944年で、初版が発行されたのが1948年。
    アメリカ国家がこれまで敵対した相手の中で、もっとも「気心の知れない」敵だった、日本人。
    その日本人の行動と思考を研究せよというミッションを与えられた、アメリカ人文化人類学者による「日本人論」です。

    全体で13の章に分けて書かれています。
    その中でも多くのページが割かれているのが、日本人がどのような価値観を持ち、行動しているかという分析。
    「恩」「忠」「義理」「恥」といったキーワードを提示して、日本人の行動原理を解説しています。

    そして後半では、人材育成や子供の教育についての、日本人の目的と特徴についても、触れられています。

    全体を通じて感じたのは、日本人自身が(特別なこととして)自覚していないことを、よくここまで分析、整理出来たなあということ。
    ましてや著者は日本を訪れたことがなく(交戦中だったため)、文献のみを参考にしてこの本を書いたということに、ただただ驚いてしまいました。

    戦後70年以上が経過した21世紀の今になってみると、日本人にも変化した部分があるかと思います。
    しかし自分の1-2世代前の日本人のことを思い浮かべると、著者の指摘は急所をとらえた内容だなと、感じました。

    日本にいて日本人に囲まれて暮らしていると、意識しないこと。
    客観的な視点で、自らの思考・行動原理を見つめるということは、大変重要なことだと、気づかされた一冊でした。
     
    『昭和天皇伝』伊藤之雄
    https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/4167900645
     
     .

  • 10年ぶりくらいに再読。272ページの「恥を基調とする文化と、罪を基調とする文化とを区別することである」の言葉にこの本のエッセンスがつまっていると思う。
    言うまでもなく「恥を基調とする文化=日本」「罪を基調とする文化=アメリカ」である。
    どちらがより優れているか、ではなく、それぞれの違いを認め、理解することが、お互いを理解する第一歩なのだろう。
    TOEICで何点取るということではなく、この根本をいかに身につけるかが、グローバル化を決めるポイントなのではないか。

    もっとも印象に残ったのは「義理」の章。日常生活の中で、ふと気づけばよく使っている言葉である。
    「義理」といえば、「義理チョコ」。イベント好きの私も毎年たくさん配る。
    確かに面倒くさい。けれど、楽しい。楽しい義務感がある。

    本書で語られているニュアンスと、わたしが感じている「義理」の間には隔たりがある。
    私にとっての「義理」は、面倒くさいけれど、自分がやりたいから、自発的に選び取って行っている行為だ。
    毎年の「義理チョコ」。本当に嫌になったら、わたしは自分の意思でいつでもやめられる。やめても誰にも文句は言われない。

    本書が描かれた時代の「義理」は、その行為を行う本人に「選び取る、やめる」自由がなかったことが、つらく重苦しい生き方の原因だったのではないか。
    決して「義理」が悪いわけではなかったのではないか。

    「義理」に限らず、21世紀のいま、生きている私たちは、自分の行為・生き方を、自分が思うように選び取る「自由」がある。
    戦争が終わって半世紀以上。この長い長い年月の間に、先輩の日本人たちが、獲得してきてくれた「自由」。その恩恵にあずかれていることに感謝。

    日本式の「義理と人情」を自由に選び取り、しがらみにしばられず自発的に生き方を選択できる現在のわたしたちを、もし、ベネディクトが生きていたら、彼女はどう分析するだろうか。

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著者プロフィール

Ruth Benedict 1887―1948。アメリカの文化人類学者。ニューヨークに生まれ、コロンビア大学大学院でフランツ・ボアズに師事し、第二次世界大戦中は、合衆国政府の戦時情報局に勤務し、日本文化についての研究を深める。晩年にコロンビア大学の正教授に任じられる。主な著書に、『文化の型』『菊と刀―日本文化の型』など。


「2020年 『レイシズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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