民藝とは何か (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061597792

作品紹介・あらすじ

「民藝」とは、民衆が日常に使う工藝品である。民家、民具、民画を総称して「民藝」と呼ぶ。「民藝品たること」と「美しく作りたること」には、固い結縁があり、質素こそが慕わしい徳である。このように清貧の美を説いた筆者の理念とは?昭和の初頭に創始され、現在にまで受けつがれる「民藝運動」の精髄を知るための格好の入門書。大文字版。

感想・レビュー・書評

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  • 改めて「民藝」の定義を本書にて。 日本民藝館に足を運びたい

  • 国立近代美術館で柳宗悦没後60年の「民藝の100年」という展示や、近所の日本民藝館に行ったことなどもあり、民藝に興味を持って手に取った。
    柳宗悦は、ロダンを中心とする汎神論的な芸術の受容からキャリアをスタートしているが、彼の民藝評には汎神論的な感覚を感じる。なぜ民藝が美しいかと言えば、それは「用」の美。なにかに用いられるということを想定された美しさなのである。近代の美術において評価されてきた貴族的な品物と民藝と比較すると、前者が有想(想像を巡らせ、意匠を凝らすこと)であるのに対して、後者は無想であり、より清い境地にある。また、前者が意識なら、後者は無心、前者が主我ならば後者は忘我の境地であるとも言われる。こうした無想・無心・忘我になぜ美しさがあるかと言えば、この世の中の叡智とは、1人の人間が作り出さんとするものではなく、集合的無意識のような個人の枠組みを超えたところに現れるからである。このような柳の考え方は、個人がオーサーシップを持ち、自由であることを基盤する近代的な考え方への超克を目指すものであるとも受け取れる。民藝は、製造過程で多くの人がかかわっており、さらにその後も誰かに使用されて洗練されていく。民藝が目の前に存在しているというタイミングまでに無数の人の手を介しており、個人のオーサーシップを重視する近代美術とは一線を画する。こうした観点では先日、SOMPO美術館で見た川瀬巴水の版画の製造過程も、多くの人間がかかわっている。川瀬巴水は日本中を周遊し、絵画の着想を得るが、作品が完成する過程にはかならず優れた版の彫師が存在している。そうした作者の複数性と言う観点では、そこから日本的美術の美しさを見出すことができるのではないかと考えた。

  • しばらく前に日本民藝館の展示を見に行った際、館内の売店で見つけた本。

    本書は、民藝運動の創始者である、柳宗悦(やなぎむねよし)による、民藝論の入門書です。
    著者自身が民藝学概論、と位置づける表題の小編と、やはり民藝の概念や良さについて、簡潔に語った随筆がいくつかおさめられています。
    原本は1941年に刊行されていますが、現代仮名づかいに改められ、文字の大きさや組み方も新しく、読みやすい仕上がりが有り難い。

    本書における著者の主張は終始一貫していて、民藝品は、大衆が用いる工藝品として、大量に、廉価に、簡単な手法で、実用的であるために不要な装飾を省き作られたことで、無心の健康的な美がやどっている、それはいにしえの茶人達が愛した美であるーーとしています。
    そして、「ここに用というのは、単に物への用のみではないのです。それは同時に心への用ともならねばなりません。」という言葉に、東京帝国大学哲学科を卒業した宗教哲学者でもある著者の人となりが、象徴されているように感じました。

    展示を見た後、たまたま売店で1つ700円くらいの湯呑みが気に入ったので買って帰ったのですが、帰宅後いつものマグカップでなくそれでお茶を飲んでみると、これまたいつものティーバッグの番茶が、自分比で3倍くらい美味しい。
    「私!いま!お茶を飲んでるーー!」という気分が腹の底から湧いてくるというか。
    「心への用」って、ひょっとするとこういう気分なのかな。

    本書が執筆されてから、80年近くが経過した現代には、無印良品も100円ショップもあり、民藝品が、廉価の、無名の品々であるとは、一概には言えません。
    でも、湯呑みで番茶を飲むことが、単に水分を補給するためだけでなく、ひと息つく時間になったり。
    団扇であおぐことが、ただ汗をひかせるためだけでなく、炎天下を歩いてきた自分への労いになったり。
    民藝の品々を見ていると、日々は単なる通過点ではなく、今を感じながら生きる喜びこそが大切なのだと、語りかけられている気がします。
    どれだけ経済、社会、生活が変化しても変わらないことは何か、本書の言葉が伝えてくれているように思いました。

  • まさに「民藝」の入門書として、提唱者の柳宗悦より平易な表現で、分かり易く解説されている。
    「民藝」は、明治近代化の中でしばしば登場する概念であり、その影響力から、言葉としては認識していたが、体系的に理解できたことは収穫。
    このように原則論を読んでいると、時代を超えた普遍性があり、現代においても意識すべき概念ではないかと思う。

    以下抜粋~
    ・用が生命であるため、用を果たす時、器は一層美しくなってきます。作り立ての器より、使い古したものはさらに美しいのではありませんか。

    ・廉価であるということが、実に美を増す大きな基礎なのです。安いものであるから、強いて美を盛ろうとは工夫していません。

    ・無銘の作に心が惹かれるのは、そこに一個性よりさらに大きな衆生の美があるからです。

    ・民藝品が特に注意されねばならない大事な理由の一つは民族性や国民性が一番素直にこの領域に現れてくるからです。
    民藝こそは国民生活の一番偽りなき反映なのです。

    ・ご承知の通り産業革命以来、工藝は二分野に分かれ、機械製品と手工藝とが対立するに至りました。
    前者はある意味では進歩した道ではありますが、不幸にも貪欲な商業主義と深く結合したため、品物を粗悪にしました。

    ・民藝の美の特質
    1実用性
    2常に多量に作られることと、廉価であること
    3平常性
    4健康性
    5単純性
    6協力性

    ・かくして私は民藝品の最後のまた最も重要な特色について語る場合に来ました。
    それは国民性ということです。
    民藝は直ちにその国民の生活を反映するものですから、ここに国民性が最も鮮やかに示されてくるのです。
    地方的工藝の存在は重大な意義を有ってくるのです。
    地方こそは特殊な材料の所有者であり、また独特な伝統の保持者なのです。国民的伝統の上にこそ、強固な国民的美が発露されるのです。

  • 大学のために読み始めたが、面白かった。
    私は生活用品に美しい物を選ぶことや日用品を美しく彩る事に興味があるが、自分の自然にしてきた考えに近い考えをしっかりと体系立てた話を見られてよかった。

  • 駒場にある日本民藝館を訪問し、何冊か購入した中の一冊。
    民藝が好きで、民藝運動を興した柳宗悦さんやバーナード・リーチ先生らが好きで色々な作品を見たり読んだりしてるけど、そもそも民藝とは、という事を柳宗悦先生より直接教えていただいている様な感じがして楽しかった。
    民藝の価値をここまで高めた功績は偉大だ、と感激します。

  • 途中で放棄。民藝の素朴な魅力には同意する自分でも本書の主張は理解しがたい。論理的にもめちゃくちゃな箇所が多い。

    1) 簡素・不作為であることをよしとして技巧優先の姿勢や個人の表現の発露を嫌い、上手物をこれでもかと腐してみせる。上手物のうちよいものは民藝のよさを持っているからという論法。これはもはや循環論法。また万人にとっての普遍的な美を信じる思想はちょっとナイーブが過ぎるのではないか。
    2) 簡素・不作為を褒め技巧重視や個人表現を貶める美意識はあまり突き詰めると機械工業生産になると思うのだが、現代の工業製品との違いは何か。どちらも作為や作家性には乏しく、機械は手段でしかない。機械は不作為の最たるものでもある。そこで機械生産は利を求めるから美と離れるなどという無茶苦茶な理論を展開している。結果や現実としての民衆の貧しさと精神としての清貧を混同しているのだろうか。
    3) 柳は「貧しい大衆の作」を手放しで褒めちぎる。大名物のような傑作が民衆一般から出たと信じて疑わず、名もなき名人から出たものとは決して思わない。民衆の中には現代の大量機械生産にも劣る駄作も多かろうに、柳のロマンは強すぎる。民衆の手に自然の美が宿るなんてもうスピリチュアルだ。
    4) 工芸において機能主義こそ美というが別に工芸と美術の両方をもつものがあってもいいではないか。不自由な考えをする人だ。そして機能美と言えば済む話を、工藝美という概念によるトートロジーというか循環論法というかよくわからないものでこねくり回す。
    5) 柳がロマンたっぷりに民衆が、貧しい人々が、と熱っぽく語る一方で「食物がきたなく盛られる時、食慾を減じ、したがって営養をも減ずる」とあっさり書いている。その浮世離れした貴族的精神は民衆とはかけ離れている。その意味では魯山人に同意。

  • 柳宗理を先に知って、彼のエッセイ読んだ後で彼の父である柳宗悦のこの本を読んだんだけど、もうあれね。父ちゃん圧勝!

    柳宗理もすごいけど、それとは比較にならないくらいの柳宗悦の思想の真剣さ、熱さよ。郷ひろみも真っ青の、アーチーチーアーチー具合。

    民藝とは関係はないですが、美術が何かわからないという理由で美術芸術を敬遠している方、読んでみてください。きっとあなたを励ましてくれるはずです(私は励まされた)。

  • 下手物の放棄→民藝・民器
    工芸美学
    ドイツ東アジア協会

    民衆的工芸と貴族的工芸

    ゴシックの心=伝統の心
    →ルネサンスの心=自由の心
    仏像の世俗化

    35 工藝の正史は民藝史
    =信仰史が宗教の正史

    74 安い器ほど安らかな器はない

    77 商業主義のもとに、正しい民藝品はあり得ないのです。私的な利と、公な美が一致することはあり得ないのです。

    モリス

    normal art あるいはnatural

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/19067

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著者プロフィール

柳宗悦(やなぎ・むねよし):1889-1961年。学習院高等科在学中に雑誌「白樺」創刊に参加。主に美術の分野を担当した。東京帝国大学哲学科を卒業後は宗教哲学者として活躍。濱田庄司、河井寛次郎、バーナード・リーチ、富本憲吉らと出会い、「民藝」という新しい美の概念を打ちたてた。眼の人として知られるが、柳のまなざしは、物の美しさだけではなく、物を生み出した人や社会にたえず注がれていた。

「2023年 『新編 民藝四十年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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