- Amazon.co.jp ・マンガ (290ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061732643
感想・レビュー・書評
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1968~1970年にプレイコミックに掲載された短編14作を集めた一冊。
各編に繋がりはないが、
いずれも、国籍にも世代にも関係ない人間の情愛や愚かさが表現されていて、
作品集としてビシッと纏まっている。
噛み合わない男女の想い「夜の声」、
許されぬ愛に身を焦がす兄と妹「暗い窓の女」、
閉ざされた人工楽園から踏み出すカップルを描いた「二人は空気の底に」など、
恋愛ネタが思いの外ツボで、ちょっと涙が出そうになった。 -
短編集。後味悪く、バッドエンドも多いが、生きていると、ニュースを見ると、いや、もう散歩している時でも。ふと、思い出すシーンが沢山。読んでよかった。精神を病んでいるのか、自分はまともで周りが変なのか・・みたいな話も、共感も理解もなにも出来ないけど、わからない世界に行けるのが面白くて、数ページの短編にその世界が広がっているのが、面白いんだよなぁ。
作品についての内容は、手塚治虫オフィシャルホームページの作品紹介文より抜粋。()は私の感想、メモ。
〇●ジョーを訪ねた男
1968/09/25 「プレイコミック」(秋田書店) 掲載
ベトナム戦争で戦死した黒人兵のジョーの臓器をもらって生き延びたオハラ隊長は、南部の出身で、人種差別主義者だった。彼は、自分の体内に黒人の臓器がある事を秘密にするために、その事を知っているジョーの家族をハーレムに訪ねるが……。
(実際ほんまにそうなんじゃないだろうか。これはリアルな話なのではないだろうか。)
●野郎と断崖
1968/11/25 「プレイコミック」(秋田書店) 掲載
フランスの西海岸に、「妄想の崖」と呼ばれる切り立った崖があった。その崖は穴だらけで、風がふくたびに古代楽器のような音を奏で、人間にあらぬ妄想を見させる……。監獄から脱走した男が、この崖に逃げて来た。パトカーのサイレンを聞いた男は、通りがかった家族連れを人質に取り、崖下へ逃げるが、崖の上では警官の話し声や、男を説得する警官の声が聞こえる。男は行き場のない崖の中腹から逃げる事も出来ず、家族連れを殺害し、崖の上の警官隊に突入するが……。
(脱走男はひどい。赤ん坊を救おうとするシーンも含めなんやねんコイツ感はすごい(のが面白い)。微笑みながら倒れるんじゃねぇっ!ぷんすか!それにしても、最初から・・全て幻聴、幻覚だったりするのだろうか。)
〇●グランドメサの決闘
1969/03/10 「プレイコミック」(秋田書店) 掲載
西部の町にすむスティーブは18歳になった。そこへ、父を殺したガンマン・マクラウドが町にやってきた。スティーブは、制止する母親をふりきってグランド・メサでマクラウドと決闘をするが、親指をつぶされて、命からがら町に逃げ帰る。銃ではマクラウドを殺せないと知ったスティーブは、東部へ行き、必死で勉強して法律家となって帰ってくるが……。
(おもしろかった!へぇー、そんな展開か!)
●うろこが崎 1967年
1969/06/10 「プレイコミック」(秋田書店) 掲載
取材のため、南紀州の小島の村に行った手塚治虫は、うろこが崎の伝説を聞く。昔、網元の嫁が、村の若い衆とできてしまい、怒った網元がふたりをうろこが崎の穴の中に閉じ込めた。何年か経って、その穴から人間の大きさの魚が2匹釣れた、という話である。そんな時、現代のうろこが崎の穴に、子どもが落ちてしまう。子どもを助けるために、ある会社が機械を提供したが、手塚治虫の調べでは、そのあたりの海にはその会社の工場から毒物が流れ込んでいた。そして……。
(こどもがつらい話はつらいなぁ。)
●夜の声
1974/10/25 「プレイコミック」(秋田書店) 掲載
青年社長の我堀は、やり手で仕事の鬼だったが、だだ一つ風変わりな道楽を持っていた。日曜だけ乞食になって道に座っているのだ。誰にも干渉されず、行き交う人々を見るのが彼の勉強でもあった。ある日我掘は、家出した若い女を助け、女は乞食の我堀のほったて小屋で生活するようになる。まじめで心が美しい彼女が気に入った我堀は、女を自分の会社に入社させ、奥さんにしようと考えるのだが……。
(言葉が変更された箇所あり。)
●そこに穴があった 1968年
1969/08/10 「プレイコミック」(秋田書店) 掲載
ヤクザを殺して森へ逃げこんだ男が、たまたま小型飛行機の墜落事故に遭遇して、怪我人と出会った。男はその怪我人を放置することができず、病院まで運んであげて輸血の血まで提供してしまった。そして一夜明けると、男はマスコミに取り上げられ、有名人になってしまっていた……。
●カメレオン
1969/12/13 「プレイコミック」(秋田書店) 掲載
盛岡化学に勤める月間は、カメレオンのように変わり身の早い男だった。 役員に信頼されていた彼は、ある女から産業スパイを頼まれ、会社から機密書類を盗み出した。 その書類には、動物の知能を上げる新薬の化学方程式が書かれていた。 書類を渡すために、離れ小島に行った月間は、そこで女の意外な正体を知る……。
●猫の血
1969/10/10 「プレイコミック」(秋田書店) 掲載
地方の映画館にフィルムを届けて回る男がいた。ある地方で、化け猫映画が妙に受ける所があった。そこでは猫が信仰されていたのだ。 男はその地方の農家の美しい娘を嫁にもらい、東京で暮らすが、娘は都会暮らしになじめず、ノイローゼ気味になり、東京が火の海になると言いだすしまつだった。 しかし、実はそれは動物的なカンであったのだ。中・ソの対立から東京に核爆弾が飛来したのである。男は旅行に出ていて助かるが、彼女は……。
●わが谷は未知なりき
1969/09/10 「プレイコミック」(秋田書店) 掲載
嵐の夜に、谷に男がやって来た。谷には父と息子と娘の一家3人が住んでいた。 一家はもう何代も谷から出た事が無かった。息子は、自分たちは宇宙移民の実験のためにここで暮らしている、と父から説明されていた。 谷の外から来た男は、その家の娘と恋愛関係に落ちるが、谷を追い出される事になり、それに付き添った娘は、初めて谷の外を見た。そこは……。
●暗い窓の女
1969/07/10 「プレイコミック」(秋田書店) 掲載
大学生の外山は、妹とふたり暮らしで、妹が働いて兄の学資を出していた。 ふたりは兄妹だが愛し合っていた。外山は、妹の勤めている会社のビルの窓から、妹の姿を見つめ、ふたりの間の壁の厚さを実感していた。 そして、妹の会社の専務が、妹を気に入ってプロポーズした時から、外山の精神は危険な状態になっていった……。
●カタストロフ・イン・ザ・ダーク
1970/02/14 「プレイコミック」(秋田書店) 掲載
深夜放送のディスク・ジョッキー田所満男は、ある晩、局へ向かう途中、自分に声をかけてきたファンが、その瞬間、マンホールに落ちるのを目撃した。 しかし田所は、関わり合いになるのが面倒だったため、そのまま放送局へ行ってしまった。 その後、そのファンが死んだというニュースが田所の耳に入り、良心に責められた田所は、放送中も彼女の幻覚に悩まされるようになる。
●電話
1969/11/10 「プレイコミック」(秋田書店) 掲載
大沢優は学園闘争の闘士だ。今もバリケードをはって、仲間と大学の校内にたてこもっている。 そこに、寺山博子という女性から電話がかかる。彼女は自由の無い女子寮住まいで、さみしい女性だった。 大沢は彼女に自由を得るために学校と戦うべきだと言い、デートの約束をした。 ところが約束の日時に行ってみると、代理の女性が来ており、寺山博子は1ヵ月前に死んだという。 だが、寺山博子からの電話は、いまだに大沢のもとへ毎晩かかってくるのだ。そして、彼女と本当に会える日がやってきた……。
●ロバンナよ
1970/03/14 「プレイコミック」(秋田書店) 掲載
大学時代の悪友の小栗を南伊豆に訪ねた手塚治虫は、世間とのつきあいを断った小栗が、メスのロバを可愛がっていることを知る。 その晩泊まった手塚は、小栗の奥さんがロバを殺そうとするのを止めた。 奥さんが言うには、小栗は動物の方が好きな変態だと言う。しかし小栗は、自分の実験の失敗によって、奥さんとロバの心が入れ替わってしまったためだと言うのだった。その実験とは……。
●ふたりは空気の底に
1970/04/11 「プレイコミック」(秋田書店) 掲載
ある熱帯魚の水槽に、愛し合う2匹のグッピーが棲んでいた。だが水槽にタバコの吸殻が落ちただけで、2匹は死んでしまった……。 19XX年、核戦争が起こり人類は滅びる。しかし、万博会場に展示された宇宙旅行用ユニット・カプセルの中で、男女ふたりの赤ん坊がスクスクと成長していた。 ふたりは狭いカプセルの中で大人になり、愛し合うようになる。だが、ふたりはカプセルの外の世界が気になり、外へ出てみたいと思うようになった。 -
大人の手塚治虫
一読の価値アリ -
手塚治虫の短編。
暗い窓の女が個人的には好きかな。
いろいろ考えさせられる話が多かったような。
SFものもあるけど、人間のあり様が見ていておもしろかった。 -
狂気や欲望、呪いやほどけない呪縛。
テーマは暗くとも手塚の根っこのようなものがどの作品にも見え隠れする。
素晴らしい短編は重厚な長編を一冊読んだときに匹敵するほど、重く深い余韻を残す。手塚の作品の中でもお気に入りの一冊となった。 -
1968年〜。プレイコミック連載。
プレイコミック、ビッグコミック創刊の年。
時代の背景を取り入れつつテイストを変えた作品群。 -
〈ジョーを訪ねた男、 野郎と断崖、グランドメサの決闘、うろこが崎、夜の声、そこに穴があった、カメレオン、猫の血 、わが谷は未知なりき、暗い窓の女、カタストロフ・イン・ザ・ダーク、電話、ロバンナよ、二人は空気の底に〉の14編が収められた短編集。
休日になると乞食に変装して息抜きをしている男が出てくる夜の声や、人種差別主義者の軍人が黒人の心臓を移植された話 ジョーを尋ねた男などが特に印象的だった。 -
ブラッドベリの火星年代記が好きだという手塚さんの「ああ、いかにも」って感じの短編がいくつかあり、特に「聖女懐妊」は、とても好きな一編です。最後のセリフは、他の人が描いてもステロタイプに安っぽくなるところ、まさにマンガの「神様」のみに許された決め台詞だと思います。
小学生の頃に読んであのラストシーンが本当、怖くて衝撃的でした。
以来「空気の底」を読む時は「...
小学生の頃に読んであのラストシーンが本当、怖くて衝撃的でした。
以来「空気の底」を読む時は「うろこが崎」だけは読まないようにしているんですがたまに怖いもの見たさで読むとあの時の恐怖が甦ってしまい……後で後悔しちゃいます。
大概のもの(丸尾末広とか)は耐性が出来たんですが、これは今だにダメなんです。
その頃の公害問題に物申す、ということだったんでしょうか。
オチが怖いですよね(>_<)予想ど...
その頃の公害問題に物申す、ということだったんでしょうか。
オチが怖いですよね(>_<)予想どおりと言えば予想どおりなんですけど(笑)
優しい画風の方が、ショッキングな描写が出てきたときのインパクトが
かえって強烈なのかもしれませんね(ブルブル)