匣の中の失楽 (講談社ノベルス)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 890
感想 : 90
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  • Amazon.co.jp ・本 (478ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061815872

感想・レビュー・書評

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  • 現実か幻想か?ふと「あの場面は?」「あの意味は?」と考えをまとめる。思い起こすと合点がいく。なんてことはなく、妄想か虚構か?
    読書熱というのだろうか。はじめて読書のせいで発熱してしまった。そのくらい複雑で理解に時間をかけた。
    心理学、力学だったりと講義にページを裂き、物語の信憑性を歪めていく。
    密室殺人。推理合戦。繰り返される不確実な世界。作品に置いてけぼりにされる。酩酊感に身を任せるのだ。
    100回読み直したらもっと好きになるかも。散々引き込んどいて突き放されるこの感覚は異常だ。

  • 結局死んだのは誰だったのか事件とは一体なんだったのか、はっきりすっきりわからないままぼんやり読み終わった。でもこれくらい頑張って書いてもらった作品の方が好き。読むほうが苦労するような作品が好き。
    ただ、ミステリには耽美の香りがあったほうがいいタイプの私には萌えが足りなかったな。
    死が巻き起こる世界にはとびぬけて、あるいはじんわりと魅力的な青年は必須。
    それがあればこの作品はもしかしてパーフェクトに近かったかも。

  • ※ネタバレ甚だしいのでお気をつけ下さい(°_°)

    「あれ、どっちの世界であの人死んだんだっけ?」と何度ページを前に繰り戻したことでしょう。
    本作は奇数章と偶数章が入れ子構造になっており、「どちらが現実でどちらが虚構(小説)なのか」と読者を攪乱させる手法が取られています。そして、最後まで読んでも、結局どちらが現実世界なのか分からない\(^o^)/

    作品中、キャラクタにも「もし僕達の物語を読んでる読者がいれば、どっちが現実か分からないかもね」とメタ発言をさせていますが、精査すれば指摘できるものなのかしら…再読の機会があれば、奇数章と偶数章をそれぞれ分けて読んでみたいなあ。

    それぞれの章で発生する殺人の不可能性はもちろん、友人が亡くなったにも関わらず己の専門知識フル稼働で真相指摘を試みる学生達の衒学主義も最高にパンチが効いています。これぞ非人間的作品との誹りを受けるに値する王道本格推理小説!(笑)

    かといって、友の死体を尻目に真相に向かって推理を着実に展開しているかというとそうでもありません。キャラ達がそれぞれの専門領域を無理くり適用させて不可解現象を説明して(ここの内容も合理的とは言えないし非現実的…)、皆で「フフン、それはないね」と論破する、の繰り返し。(本筋とは関係ないけど、「フフン」「ははあ」「あっはあ」って感嘆詞?が出る度に、時代を感じてニヤついてしまいました(^o^)

    ただ、この作品は「私達読者がトリックを推理し、真犯人を指摘して楽しむ」ものではありません。
    「小説内現実」と「小説内虚構」のキャラ達が織り成す衒学趣味的推理と虚実入り混じる酩酊感に浸る、それに尽きるような気がします。

    終わらない不連続性。繰り返し姿を現す逆様(さかしま)の月。ところが、プロローグとエピローグの情景描写は一転、不気味な連続性を暗示しています。
    読後、思わずプロローグを再度通読してしまった私は、きっと作者の仕掛けた匣の中に閉じ込められてしまったのでしょう…。


    たーのしー\(^o^)/←←←


    探偵小説愛好家メンバーの一人が、奇妙な密室状況で殺害された。メンバーの一人であるナイルズは、自分が書いている実名小説の予言が現実になったのではないかと不安を覚えるが…。

  • 2017/07/18
    作中作。作中作中作。現実と虚構が互いに絡み合い交わりながら進む。
    死んだ者が推理し生きた者が死ぬ。

    意外と読みやすい。
    だけど理解は難しい。これはいつの証拠だとか誰の発言だとか。

  • 「ひとつのことを喋らないということが、こんなにも決定的な推理の喰い違いを招くものなのか」

    三大奇書にこれを追加し、四大奇書と呼ぶ場合もあるらしい。

    小説の中で小説を展開している。
    章ごとに前回の章を小説として扱っている。
    話の展開は面白かった。

    推理合戦は、虚無への供物の影響。
    小説の中での小説は、ドグラ・マグラの影響。
    専門知識の多さは、黒死館の影響。

  • (ネタバレが含まれます)
    これにて「四大寄書」、完全制覇となります。
    どうでしょう、今まで読んだ本の中で、これが最も「奇書」であった気もします。というより、総決算というような。
    『ドグラ・マグラ』の酩酊感、『黒死館』の衒学趣味、『虚無への供物』の推理合戦…それらの要素を内包して、一つの作品に仕立て上げた、という印象です。
    特に自分が気になっていた『虚無への供物』での推理合戦、その十戒作りの部分が再現されていたのには、ニヤリとしつつ。

    同じ作者の『汎虚学研究会』を読んだときには、文体・内容ともに正直あまり出来の良い作品だとは思わなかったので、読むのが不安だったのですが、いい意味で裏切られました。
    自分はどちらかというと、こういった若書きの文体の方が好みなのかもしれません。
    ただ正直、一気に十数人の登場人物が登場し、複雑な人間関係が一気に提示されるので、脳が少し足りない自分には理解が大変でした。あげく、作中作、作中作、という構成が続くので、それもまた理解に時間がかかりました。
    読後の酩酊感、作品世界の中に取り残される感覚はとても良かったのですが、しかし正直、一つの小説として読み進める魅力、次へ次への推進力があったかと言われると、微妙かなあ、という気もしました(構成上、仕方の無いことかもしれませんが)。

    さて果たして、第五の寄書は現れるのでしょうか?(自分の中には、もしかしたらこれがそうなのかもしれない、というものが幾つかあるのですが、それはさておき)

  • ふぅ、疲れた(苦笑)というのが、まず最初の感想。
    登場人物が共通する世界が並立し、どちらでも殺人事件が起こる。果してどちらが虚構でどちらが現実なのか。それも定かでないまま話は進み…と、よくわかったようなわからないような感じで私は読了しました。分からなくてももういいや…

  • あっは。

    奇書だと言われているけれど、予想より全然真っ当なミステリだった。
    「今」読んだせいかもしれないけど。

    ある年代でなければ書けない類いの小説というのはあると思っていて、適齢期とアイデアと集中力と技量が整って生まれた作品は幸運だと思う。
    本作品も、厨二を経て大学生になりちょっと人生経験積んだけどまだ社会の治外法権に居る22歳だからこそ書けた作品だろう。
    そりゃもっと推敲すればもっと無駄を削って分かり易い体裁にはできたと思うけど、ちょっとくらい散らかりっぱなしの方が瑞々しいじゃないか。

    ミステリ好きな大学生と高校生が集った「ファミリー」の一員である曳間が密室で胸をひと突きされて死んでいる。それが第二章に入るとまるっとナイルズの書いた実名小説の第一章になってて、しかもそれを殺された曳間が読んでいる。
    倒錯的展開に頭の中を整理し直すが、第二章では真沼が殺されたらしいけど姿が見えないという奇っ怪な密室事件が発生し、第三章の世界は第一章と地続きで(つまり曳間は死んでて)第二章までがナイルズの書いた小説ということになっている。
    再びの反転。
    どうやら奇数章の世界と偶数章の世界があって、互いが互いを虚構だと主張している。果たして現実なのはどちらか。
    でも第三章でも真沼は行方不明だし、第二章の最後に事故死した雛子の両親は第三章でも死んでて、ふたつの世界はちょっとずつ接近しはじめる。
    第三章では、メンバーが第一章の事件の推理合戦をするその会場で、ホランドの密室殺人事件が起こる。第四章はナイルズの書いた小説の第三章までを読むシーンから始まり、第二章の事件の推理合戦が行われる。
    ふたつの世界はこのままパラレルな関係を保つのだろうか。奇数章では二人も殺された上にメンバー同士が疑いの眼を向けて関係がギクシャクしてきたのに対し、偶数章は殺されたのは真沼だけでその真沼も結局消えたままということは実は生きてるかもしれないから、偶数章が現実の方がマシだなぁ…と思ってたら、第四章では倉野が殺され影山が行方不明になり甲斐が事故死して、一気に凄惨な展開と化す。
    そして、第四章までを小説として読む第五章では(第五章でも)、倉野が殺される。

    残り頁わずかなのに一向に終わる気配が無く、もしかしたらこの作品は事件の解決をゴールにしてないんじゃないかと一瞬不安になったが、最後にはちゃんと一応納得いく結末で終わって正直ほっとした(笑)。

    ワトソン探しというのが個人的に新鮮だった。
    ワトソン=記録者だと思ってたら、騙される者だった。
    騙されてるのは誰か、という視点からの推理合戦は読み応えあった。

    甲斐が倉野を殺してしまったのは結果論だとして、曳間の死が自殺だったと気づいた倉野が自らを殺人犯に仕立て、かつ連続殺人犯になるために曳間の自殺を知るホランドを殺した、という動機は、心理学的説明を読んだところで多感なミステリマニアでないと共感できないかもしれない。
    ましてそもそもが曳間の心理学的実験だったというのは、にわかには信じがたい。
    そのつもりで最初から再読すべきかも。

    現実と虚構が反転を繰り返し、読み手を混乱に陥れる構造は素晴らしい。
    本作品のオマージュ作品を知らず知らず読んできてしまった現代人にとっては驚きが薄かったが、当時波紋を呼んだのは分かる。
    さらに、多重解決的な場面もあり、衒学趣味的な要素も持つ、欲張りな作品だと思う。
    大学生達の差異が不明瞭で各個人の区別に苦労したとか、暗闇の中ヒトを絞殺してシャンデリアの上に乗せるなんて芸当無理だろとか、美少年真沼はもう少し登場して欲しかったとか、遁走した影山のアフターフォローがないとか、細かいことを言い出せばキリがないんだけど、一貫した雰囲気の漂う渾身作であることは確かである。

    ただ、披瀝される蘊蓄の、数学や物理学といった理系傾向も、心理学や呪術や悪魔学といった厨二重症者なら通ってきた道も、自分にはほぼ馴染みがなくて難しかったのが残念だった。
    でも、一見不必要に見える蘊蓄場面も、実は伏線や動機の補強説明になっているのは見事だった。


    新装版の文庫で読めば良かった(何となく)。

  • 三大奇書よりは読みやすいと聞いてこれから手を出したものの、全くのお手上げです。あれ?なぜ…と思って、あーそういうことか、あれ?これも?いや違うこの文章自体が?と何度か戻るもどっちがどっちか見極められず結局諦めてとにかくラストまで。ラストまで行ってもわからない。いやさかさまはそれもあり?…少なくとも再読が必要です。どうやら双葉文庫版には表のようなものがあり、再読の助けになるようですね。幸い図書館にあるので借りてみようと思います。

  • 章が変わるごとに「これまでの内容は作中の人物が書いた小説でした!」という展開が続くが、どうにも最後でまとめきれてない感じが否めない。いくつかの事件(架空のものも含む)が発生するわけだが、各人が様々な推理を繰り広げるわけで、結局どれが真相だったのかというのがあいまいな部分も多く、モヤモヤした印象が残る。しかし、本書がまっとうなミステリーではなく、アンチミステリーとか奇書と呼ばれる類の作品であるのであれば、それはそれとしてこの作品を十分成立させるものなのかもしれない。肌には合わなかったけど。

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著者プロフィール

竹本健治:
一九五四年兵庫県生れ。佐賀県在住。中井英夫の推薦を受け、大学在学中に『匣の中の失楽』を探偵小説専門誌「幻影城」上で連載。デビュー作となった同書は三大奇書になぞらえ「第四の奇書」と呼ばれた。
ミステリ・SF・ホラーと作風は幅広く、代表作には『囲碁殺人事件』『将棋殺人事件』『トランプ殺人事件』の「ゲーム三部作」をはじめとする天才囲碁棋士・牧場智久を探偵役としたシリーズや、自身を含む実在の作家たちが登場するメタ小説「ウロボロス」シリーズなどがある。近著に大作『闇に用いる力学』。

「2022年 『竹本健治・選 変格ミステリ傑作選【戦後篇Ⅰ】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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