ウロボロスの基礎論 (講談社ノベルス タD- 5)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (673ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061819801

作品紹介・あらすじ

実在のミステリ作家らを襲う奇妙奇天烈な"うんこ事件"。竹本健治の連載ミステリに混入する眩暈と戦慄の物語。綾辻行人、小野不由美、笠井潔、新保博久、法月綸太郎、麻耶雄嵩、山口雅也が推理合戦を展開、小説ジャックまで強行される。世界は擾乱され朦朧胡乱の淵に転落した。

感想・レビュー・書評

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  • 竹本健治によるウロボロスシリーズの第二弾。実名小説パートでは,うんこ事件の真相を推理することになる。うんこ事件とは以下のとおり

    ○ 第一のうんこ事件
     京都大学ミステリ研究会の部室で,「ブレード街の殺人」という本にうんこがされるという事件。この事件は15年ほどまえの事件
    ○ 第二のうんこ事件
     山口雅也の家で,「ビッグ・ボウの殺人」という本にうんこがされるという事件
    ○ 第三のうんこ事件
     新保博久の家で,「うんこ殺人事件」という作品にうんこがされるという事件
    ○ 第四のうんこ事件
     笠井潔の家で,「バーナビー・ラッジ」という作品にうんこがされるという事件
    ○ 第五のうんこ事件
     田中幸一がうんこまみれの死体で発見されるという事件

    実名パートとは別に「麻生邸」という館で,殺人事件が起こる。水樹という5歳の少年の殺人事件があり,火巳子という女性が自殺する。また,木羅という女性が死体で見つかる(事故とも目される)。これらの麻生邸には,「牧場智久」と名乗る少年や,矢吹駆と名乗る探偵が出てくる。
    実名パートには,うんこ事件の推理合戦や,法月,綾辻,麻耶などの原稿,物理などの雑学についての記載や,漫画まで含まれる。
    その後,竹本竜都が,チェーンの掛かった部屋から消失するという事件を経て,実名パートと麻生邸パートの事件が交錯する。麻生邸事件の謎は,矢吹駆と名乗っていた笠井潔が解明し,犯人は成海という女性ということで終わる。麻生邸パートを一人称で記述していた「冥王星」に当たる人物は,冥王星が惑星ではなくなってしまうことを予見するように,まるで物語に登場しなかったかのように消滅していく。
    実名パートは,第1,第2のうんこ事件については真相は語られず,第3,第4のうんこ事件は田中幸一の仕業であるとされ,第5のうんこ事件の犯人は,オリエント急行殺人事件のように,あまたのミステリ作家ということにされてしまう。
    そして,杉田朋江として竹本健治の周囲に現れていたのは小野不由美であったという真相で終わる。

    ウロボロスシリーズの雰囲気は大好きだし,竹本健治の文体は肌に合う。雑学部分も楽しく読めた。好みの作風で,好きな作家なので,ひいき目で見ているが,客観的に見ると,ウロボロスの基礎論は,優れた作品とは言えないと思う。もしかしたら,実名で登場していた作家達から横槍が入ったのかもしれないし,私の読解力が足りないだけかもしれないが,物語としては割り切れない部分が残ってしまっているように思う。
    うんこ事件の真相も,犯人の血液型といった物的な証拠が出てないので,いかようにも解釈できる。第5のうんこ事件の真相も,一応の推理はされているが唐突すぎる。杉田朋子=小野不由美という真相は,伏線もあり,納得し得るが,そもそも物語の本筋にあまり関係がないように思える。小説ジャックの真相も不明。
    総合的に見ると,甘くみても★3止まりだろう。

    ○ 実名パートの登場人物
    竹本健治
     本作品の著者。
    笠井潔
     ミステリ作家。うんこ事件の被害者のひとり。宇川邸での推理合戦にも参加する。矢吹駆という名前を騙り,麻生事件にも関わる。
    山口雅也
     ミステリ作家。「うんこ事件」の被害者のひとり
    乾敦
     ウロボロス偽書から登場人物のひとり。早稲田ミステリ倶楽部出身。
    中井英夫
     虚無への供物の作者。作中で死去する。
    宇山日出臣
     新本格の仕掛け人である講談社の編集者
    島田荘司
     ミステリ作家。ウロボロスの基礎論ではチョイ役。
    綾辻行人
     ミステリ作家。ウロボロスの基礎論では,一部,原稿を記載し,田中幸一が全く美青年でないことを書く。宇川邸での推理合戦にも参加する。竹本健治により,犯人探しのために採取されたうんこから,ガンであることが分かる。
    小野不由美
     作家。綾辻行人の妻。宇川邸での推理合戦にも参加する。杉田朋子として竹本健治の周囲に何度も現れ,酉つ九の名前で小説を書いて賞に応募したりしたのも彼女。
    法月綸太郎
     ミステリ作家。宇川邸での推理合戦にも参加する。
    麻耶雄嵩
     ミステリ作家。宇川邸での推理合戦にも参加する。
    竹本竜都
     竹本健治の息子。4歳。
    田中幸一
     ミステリ評論家。第5のうんこ事件の被害者。何もあんな殺され方をしなくても…。
    六反田良平
     京都大学の学生。ミステリ研究会に所属。
    新保博久
     ミステリ評論家。うんこ事件の被害者のひとり。証拠物件としてうんこを採取する。
    東海洋士
     竹本健治の友人。匣の中の失楽の「根戸」のモデルと言われる。
    橘田
     中井ファンで研究所に務める女性。うんこを検査する。

    ○ 麻生邸パート
    水樹
     麻生邸事件の最初の被害者。5歳の子ども。「水星」に位置づけられる。
    金江刀自
     「金星」に位置づけられる。
    月彦
     「月」に位置づけられる。
    火巳子
     水樹の母。自殺する。「火星」に位置づけられる。
    木羅
     麻生邸事件の第二の被害者。「木星」に位置づけられる。
    珂土
     「土星」に位置づけられる。
    天音
     「天王星」に位置づけられる。
    成海
     「海王星」に位置づけられる。
    日馬
     「太陽」に位置づけられる。
    牧場智久と名乗る少年
     本名江川欄。麻生邸事件のパートでは頭を殴られ,実名小説パートでは記憶を失い,「天使」として登場する。
    「冥王星」の位置づけのおとこ
     名前は出てこない。麻生邸事件パートの記述者。水樹を殺害する。


  • 長ぇ!
    700ページも訳のわからんことをくだくだと!

    とまぁひとまず文句を言いはすれど、
    単に自分の理解度と期間あけちゃった分前半抜けちゃってるのもあるし、
    難解さを求めて竹本作品読んでる節もあるし、
    ウロボロスシリーズに一応蹴り付けられた安堵感が徐々に上回ってきてるのでよしとします。

    以下感想。書評。的なモノ。

    バーリトウード(なんでもあり)。

    アルティメットが提案した極限まで縛りを削ったほぼステゴロな格闘技ルールのことだが、
    本書の説明は正にこの一言に尽きる。

    須く物語は終わる。
    ラストはラストラストしたラストが好まれる。
    伏線はまるっと回収したほうが評価される。

    評価されなければ職業として、商品として、
    存在意義を失う。

    だから作家は読者の望む形の、
    分かりやすく、派手に、万人受けする、キャッチーな、という縛りプレイを強いられる。

    どんなジャンルでもそうだ。

    ニュアンスマシマシの、
    抽象度の高いモノを提示すれば、
    離脱率は上がる。売れなくなる。

    誰にでも分かるが一番難しい。
    とは日本橋ヨヲコのG戦場ヘヴンズドアの中の言葉だが、確かにそうだ。

    他人が自分の頭の中とリンクしてない限り、
    文章や物語のニュアンスを伝えるのは困難だ。
    (↑のG戦場ヘヴンズドアを読んでいなければ、この言葉のニュアンスを100%伝えられないように)

    それはそうなのだが、
    だからと言って表現の自主規制を強いられた上での創作は余白を無くす分、博打が少ない。

    その博打の部分こそ人間的で、芸術性の表出する面白味の部分なのに。と思う。

    そんなこんなが長らく続いている昨今(なんなら全体的にはより拍車がかかってる気もするし、そうじゃない所もあるし、、、分断というか、棲み分けというか、、、な面はある)
    と20何年前も大して変わってないようで。

    作者が読者に憎しみにも似た感情を持つのも、
    わからなくもない。

    95年刊行の本書。

    前作の「偽書」と同じく、メタ路線。

    実名で有名ミステリ作家がバンバン登場しノンフィクション的に進むかと思いきや、原稿を乗っ取られ別の本格ミステリ的物語も進行し、更には登場する作家の原稿まで載せ、
    現実と虚構、本筋、伏線、何もかもが目まぐるしく展開され混沌の様相を呈する異常話。

    乖離していたものが次第に混じり出し、
    やがて一本糞のようにひりだされる。

    そして結末は一応の解決を迎えるが、
    何本かは未回収の投げっぱなしジャーマン。

    曲のコード進行の終わりはトニックに進行したがるが、そこをあえてサブドミナントで終えるような偽終止感。

    狐に摘まれたような、ケムに巻かれたような、
    釈然としない話をご丁寧にぶっきらぼうに、
    長々と極厚鈍器本に仕立て上げた氏の所業は、
    馬鹿でかい抽象画に通ずるものがある気がする。

    氏のやりたかった事、やりきれなかった事、
    全部が全部分かるわけではないし、
    どちらの立場をとっても、作中の法月と田中の評論の話みたいなことになる。

    面白さで言うと、個人的にはやっぱり筺>偽書>基礎論となってしまうが、基礎論の否定は竹本氏の憎む<読者>と同じ事なのかもしれない。

    ただ氏の本書の目論みには賛同しかないし、
    これを否定することは、それこそウロボロスの如く自分で自分を喰うような自己否定になる。

    乱打戦を繰り広げて延長して引き分ける試合的に、オチを綺麗に下げない。

    というのはオチがないと落ち着かない(洒落じゃなく)自分からすると胆力のいる作業ではあるが、逆に言うと、オチをつけなくても小説というのは成立?するという点は目から鱗。

    何にせよ物語は始まってしまえば、
    読者はリドル追い、トニック探しを強いられる。

    如何にしてページを繰らせるか。
    1行目は2行目を読ませるために、
    2行目は、3行目を読ませるために。
    そんなシュガーマン的文章術に、
    結局はやられてしまう。

    ニッチでコアでもいいのだ、という肯定。

    そんな本が1冊くらいあってもいい。

    いや、世には腐るほどあるだろうけど。

    君はお前はあなたは、この結末を肯定出来るか?面白がれるか?

    これを理解できないなんて、
    君はお前はあなたは、とんだうんこちゃんね。

    と僕は俺は私は思ってもないことを口にして、
    煽り立ててみれど、凪のように辺りは無干渉を決め込み、反応はない。

    そう、だから、そういうところだぞ、と、
    僕は俺は私は決め込みかかるが、
    決め込みかかったのは一体誰の仕業なのだろうか。

    僕は俺は私は違うと皆言うが、
    では誰が?

    答えは暗中。

    それでは結局同質の類。

    やっぱり僕も俺も私も<読者>の枠から逃れられないのかもしれない。

    それでも、と顔を上げると、
    弁財天が微笑んでいた。

    わけもなく。

  • <ネタバレ有り>



    ++++++++++++++++++++++++++++++++



    前作「ウロボロスの偽書」の続編。
    なんというクソ小説…色んな意味で。1冊の本でこんなに「うんこ」という単語が出てくる本があるだろうか。まじめな顔してうんこに関する推理を述べ合ってるのにふいた。ラブレー的うんこってなんだ…スウィフト的うんこってなんだ…(笑)笠井潔作品はまだ読んだことないのですが、今後読むことがあってもこのイメージが付きまといそうだ。
    元作品を知らないのにその作品の書評を読ませられるのは苦痛以外の何者でもなかった。わからないところは読み飛ばしで読了。わたしは作者のお眼鏡に適うような血の巡りの良い読者じゃないのでこの作品のよさは理解できませんでした。残念。ただ、前作よりは楽しめたかもしれない。(主にうんこネタに喜ぶ小学生的な意味で…)
    小野不由美さんの漫画が読めたのはよかった。絵も上手なんだなぁ。あと思わぬところで谷山浩子さんの名前が出てきてびっくり。

  • 麻耶さん目当てで(笑)。
    美青年の一文だけでおなかいっぱいです。
    あとはごった煮過ぎてただただ読み進めるだけというか。
    メタ系は合わないのかもしれない。
    読み終わってもう○こ事件しか脳みそに残らないってすごい。

  • 殺人「以外」で震撼する事態とは何か?
    うんこなんだな。

  • 偽書より更に酷い。いろいろな意味で。

    テーマ的には仕方がないとはいえ、私の酉つ九姐さんが和服以外で登場するのは許せん!我慢ならん!仕方ないけど!

    あと作家陣がかわいそうすぎる。ひどい。悲哀が紙面からにじみ出てる。いろいろな意味で。

  • 今回も前回と同じように実名作家が登場するのですが、今回はある意味前回よりも凄い事になっています。
    本書では主に2つの事件が進行します。
    ミステリ作家達を襲う奇妙奇天烈なうんこ事件ともう1つがとあるお屋敷で起る連続殺人事件です。
    そして、さらにそこに他のミステリ作家や評論家からの小説ジャックまで挿入されてきます。
    もう何が何だかです。
    さらに同人漫画や小野先生が描いた漫画や綾辻先生の落書きまであります。
    はっきり言ってカオスです。
    しかし、お屋敷の事件は良いのですが、うんこ事件って酷いですね。
    作者は何をどうしてうんこ事件なるものを考えてしまったんでしょうか。
    実名作家達が推理合戦を展開しますが、これは読んでいてとても楽しかったです。
    最後にこの本は謎の解決は必須という方にはあまりお勧め出来ません。

  • 09/04/** 読了

    やっぱり読んだのはハードカバー版だけど書影がないから(ry

    偽書に続くウロボロスシリーズ第二弾。
    偽書と同じく今回も作家が実名で登場、作中作やら脳内世界やらでこんがらがった構成になっています。
    途中何度も、ここは誰の視点だ?って考えたよ…。
    でもこれだけ大作で、耽美っぽさや残酷さも振りまき、めまぐるしく話を展開させ、それでも最終的に一番印象的なのが「うんこ」って…「うんこ」って…www
    作中でどんだけうんこ連発するんだよと。おまえは小学生男児かと。笑ったけど。
    それと見所は、小野不由美女史の漫画原稿(!)。いかにも昔少女漫画をたしなんでいました、って感じの線だなー。
    実名作家では麻耶雄嵩が登場したのが嬉しい。プロの二時創作おもしろいです(違う)

  • 実在のミステリ作家らを襲う奇妙奇天烈な“うんこ事件”。竹本健治の連載ミステリに混入する眩暈と戦慄の物語。綾辻行人、小野不由美、笠井潔、新保博久、法月綸太郎、麻耶雄嵩、山口雅也が推理合戦を展開、小説ジャックまで強行される。世界は擾乱され朦朧胡乱の淵に転落した。

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著者プロフィール

竹本健治:
一九五四年兵庫県生れ。佐賀県在住。中井英夫の推薦を受け、大学在学中に『匣の中の失楽』を探偵小説専門誌「幻影城」上で連載。デビュー作となった同書は三大奇書になぞらえ「第四の奇書」と呼ばれた。
ミステリ・SF・ホラーと作風は幅広く、代表作には『囲碁殺人事件』『将棋殺人事件』『トランプ殺人事件』の「ゲーム三部作」をはじめとする天才囲碁棋士・牧場智久を探偵役としたシリーズや、自身を含む実在の作家たちが登場するメタ小説「ウロボロス」シリーズなどがある。近著に大作『闇に用いる力学』。

「2022年 『竹本健治・選 変格ミステリ傑作選【戦後篇Ⅰ】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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