暗闇の中で子供 (講談社ノベルス マG- 2)

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (471ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061822061

作品紹介・あらすじ

模倣犯/運命の少女/そして待ち受ける圧倒的救済…。奈津川家きっての価値なし男にして三文ミステリ作家、奈津川三郎がまっしぐらにダイブする新たな地獄。

感想・レビュー・書評

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  • 『煙か土か食い物』の続編、奈津川家の三郎の物語。古書を入手し『煙』(3回目)を読み直して臨みました。
    2023年現在、受け入れがたい表現や設定(13歳と28歳はないだろ)が散見するのだが、読んでいる間ずっと、目を背けたくなるほど残虐な描写をこれでもかと読まされつつも、生きることの哀しみがひたひたと胸に押し寄せ、物語は嘘で、だから真実で祈りで愛なのだ、と力業で示す圧巻の最終章にはとことん打ちのめされてしまった。これ文庫化されてないけど舞城の最重要作品のひとつなんでは???
    ユリオは映像化するなら平手友梨奈かな、なんて思って読んでいたが、サイコな展開が加速すると、IWGPの加藤あいにも重なって、IWGPが2000年、これは2001年、時代の空気感みたいなものもしのばれたり。

  • 前作「煙か土か食い物か」の続きらしいが、いまひとつだった。
    期待しすぎたかな。

  •  舞城王太郎で一番好きな作品かも知れない。
    とにかくめちゃくちゃでグロいので、最初読み終わったときは困惑したけど、読了からしばらくしてからじわじわ好きになっていった。
     舞城王太郎がグロいしめちゃくちゃなのはいつものことなんだけど、最後に急展開で三郎が四肢を失ったのは、読み終わってすぐは流石にちょっとショックだった。
     三郎が四肢を失う理由を考えると今作の結末は前作「煙か土か食い物」のラストと対応しているということが関わってくると思う。
     前作は元から不和を抱えていた家族が、事件に見舞われめちゃくちゃになった後、医者である四郎が繋ぎ直すという「破壊と再生」の話になっている。一方で今作は三郎が四肢を失ったままで「再生」がない。初めは悲惨な状況と不自然に明るい三郎の態度から、三郎が現実逃避するバッドエンドかと自分は思った。
     しかし、作者の意図は三郎が明るく語ったままに三郎ドゥビドゥバなハッピーエンドなのだと思う。三郎は四肢を失った後、「失うことで得られるものがある」「想像の手足で踊る」と言うことを語る。失うことによって、却って無限に描ける可能性を得るということが、この結末で描かれたうちの最も重要なことのひとつだ。
     自分が使っていた教科書が一般的にどのくらい使われているものなのかわからないけど、私の高校生のときの教科書には「サモトラケのニケ」の評論が載っていた。曰く、サモトラケのニケは頭部及び両腕が欠損していることによって、感情を表現する部位を失っているが、それによって却って無限の可能性を想像出来る。その可能性の想像によってしか描けない美があるという(曖昧な記憶の要約)。今回の三郎が迎えた結末はまさしくサモトラケのニケの美と同じなのだと思う。
     舞城王太郎はたびたび、実現する・したかもしれない「可能性」について描いている。『好き好き大好き超愛してる』の有名な冒頭でも、「愛は祈りだ…」の後には「僕は世界中の全ての人たちが好きだ。(中略)なぜならうまくすれば僕とそういう人たちはとても仲良くなれるし、そういう可能性があるということで、僕にとっては皆を愛するに十分なのだ。」と続く。『暗闇の中で子供』は可能性と愛についてはじめに辿り着いた作品で、『好き好き大好き超愛してる』に繋がるアイデアが生まれた作品であるのだ。
     また、『煙か土か食い物』の結末では解決できなかった「現実に一縷の希望も残されていなかったときに、どうやって家族や世界を愛するのか」という課題に答えを出した作品なのだと言える。冒頭で三郎が同級生の指を切り落として語ったように、「これからどんどん悪くなる」果てのない喪失が存在するとしても、失った後には可能性を描くことができるという、潰えない愛と希望を舞城王太郎は描いたのだと自分は解釈した。ラストの様々な人が危機を救いに来てくれることを描く嘘のシーンの連続も、実際にそうならなくても、そうやって自分を助けてくれた可能性があるというだけで、「世界中の全ての人が好きだ」と言い切ったのだ。
     パラレルな可能性の想像によって世界に対する深い愛を持つことができる。そして、パラレルな可能性を描くために、そこには、嘘でしか描けない本当のことがあって、それは小説の役割である。
     以上が自分が『暗闇の中で子供』を読んで感じ取れたことだ。
     ただ、ラストシーンについては分からなかった部分もいくつかあり、特に奈津川家の無数の幽霊はどう解釈できるのか、いまいちわからなかった。今後何度か読み返していずれ分かるようになりたい。

  • 人生ベスト小説のうちの1冊。

    洗練された思弁的な文章も読んでいて心地よいけれど、内容も凄まじい。アンチ・ミステリーに止まらず、アンチ・フィクションの領域にまで到達している。至る所で自己矛盾を起こし、これこそが本当の愛なのだと涙を流した事実が、そのすぐ後には覆される。現実味と虚構の間をゆらゆら漂いながら、そこから何を受け取るのかと、そこまで自己言及してしまっていて、一体何がなんやら。

  • 中二病まっさかりの時に勧められた本
    ほんとにラノベみたいなもんだと思って読めばそれなり。
    しかし内容は頭に残らない。

  • この疾走感はたまらない!他の作者の本を読むには、舞城作品を読んだ後、1日何も読まないようにして、身体を慣れさせないといけない。

  •  物語としては破綻しているのだけれど、作者がその後も繰り返し取り組んでいくテーマがほとんど全て示されてもいいと思う。家族、子供、愛、運命、考えること行動すること、精神病、暴力、それぞれが提示されたまま投棄される様は、清涼院流水のジョーカーを彷彿とさせる。一つ一つのエピソードの破天荒さと面白さは本作の方が圧倒的に上ではあるけれど。虚構然としていることが却って現実味を帯びるという著者の言葉は、まったくその通りに作用していて、三郎はスーパーヒーローにはなれず、ユリオにも相手にされず、カエデは三郎がぼうっとしているから何度も妊娠して中絶して、本当に日常的に繰り返されていく救いのない現実がありありと描かれていくのは、読んでいてとてもつらい気持ちになる。狂ったような殺人者たちも社会の一員で、笑ってしまうようなトリックを次々に開陳してくれるのだけが唯一の救いなのだ。悪いことが起これば、どんどん悪くなっていくというのは本当にそうなのだなと思う。

  • 圧倒的救済はどこからもたらされるのか。偽物の言葉にそれは宿らないのか。「大丈夫大丈夫」とささやき続けた三郎はこれじゃいかん、と自分の身を動かすことで圧倒的救済を求める。というか、そういう風に四郎に言われる。偽物の言葉じゃ駄目なのに、でも「ある種の真実は、嘘でしか語れないのだ」嘘をつき続けるしか、ユリオは救えなかったのか。もっと大きく考えると、これらは全て虚構だったのか。行き場をなくしたユリオへの二次創作的救済なのか。ならばそれは“圧倒的”なのか。全てに疑問がつきまとう。なぜ、最初からフィクションとわかっている小説作品に、(主人公にとっての)現実と虚構が持ち込まれるのか。それらの区別に対してなぜ僕が興味を持ってしまうのか。当たっているかわからないが、この二つに関しては答えを持っている。三郎の抱える問題は可哀想に一生つきまとう問題なのだ。この世ならざる問題を生み出すときに、きっと一生ついて回るのだ。可哀想と思うと同時に、早くそのステージにたどり着きたいものです。

  • 次から次へと人が死にまくってるのに(それもとんでもなくひどい殺され方で)読んでて少し泣きそうになった。これが多くの人が考察してるように三郎の創作なら、なおのこと悲しい。コンプレックスの塊の三郎と言っちゃあなんだがメンヘラ全開のユリオ。そんな二人が一緒にいることで巻き起こる破滅的な結末。四肢を失ってトゥルーリーハッピー?んなあほな。三郎は高谷クリニックに行った方が良いって。
    でもどれだけ無茶苦茶でも私は奈津川家が好きだ。暴力にまみれてるのに光しか感じない。また書いてほしい。

  • 中毒性のある悪夢。

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著者プロフィール

1973年福井県生まれ。2001年『煙か土か食い物』でメフィスト賞を受賞しデビュー。2003年『阿修羅ガール』で第16回三島由紀夫賞を受賞。『熊の場所』『九十九十九』『好き好き大好き超愛してる。』『ディスコ探偵水曜日』『短篇五芒星』『キミトピア』『淵の王』など著書多数。2012年『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦著)の25周年に際して『JORGE JOESTAR』を刊行。近年は小説に留まらず、『バイオーグ・トリニティ』(漫画・大暮維人)の原作、トム・ジョーンズ『コールド・スナップ』の翻訳、短編映画『BREAK』や短編アニメ『龍の歯医者』『ハンマーヘッド』の原案、脚本、監督などを手掛けている。

「2015年 『深夜百太郎 入口』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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