邪魅の雫 (講談社ノベルス)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 417
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  • Amazon.co.jp ・本 (824ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061824386

作品紹介・あらすじ

「殺してやろう」「死のうかな」「殺したよ」「殺されて仕舞いました」「俺は人殺しなんだ」「死んだのか」「-自首してください」「死ねばお終いなのだ」「ひとごろしは報いを受けねばならない」昭和二十八年夏。江戸川、大磯、平塚と連鎖するかのように毒殺死体が続々と。警察も手を拱く中、ついにあの男が登場する!「邪なことをすると-死ぬよ」。

感想・レビュー・書評

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  • 「邪魅の雫」(京極夏彦)を詠んだ。

    うーん、複雑すぎて、半分くらい読んだところで最初に戻って読み直したよ。
    ちっとも進まなくて時間かかったなあ。

    読み終わって仕舞えばそれほどの憑き物でもなかったような気もするが。

    探偵はもらい事故的な。

  • 「鵺」の発売の知らせに慌てて未読だったこの
    「邪魅」を手にした。

    また、久しぶりにこのメンバーのストーリーを読める幸せを噛み締めながら。

    連続殺人ではなく、連鎖殺人だったという内容、
    このシリーズにしては分かり易い気がした。
    とは言うものの、前の本はもう記憶の彼方…

  • ★これは自分の事件だ――(p.485)

    3つの魅力

    (1)ストーリーというようなものは特にないので(プロットはたぶんあったでしょう)、個性的なキャラたちのうだうだした会話と、どこの誰か当初はわからなかったりする人物たちのうにゃうにゃした思考などが延々と続くのをひたすら楽しめます。妖怪成分や、ミステリ成分の味付けでより美味しくなったりしています。ただ、今回は関口や榎木津がいつもより若干物足りない気分も。ミステリとしては、半分あたりで真犯人とできごとの構図はわかるでしょうからあとは全体的なグダグダを楽しむべきかと。
    (2)自と他、誇大するエゴ・・・ガンダムですね。個の見ている世界と世間や社会。物事の様々な「相」を個別に見るということ。「事件」とはなんぞや。殺意とは毒殺とはなんぞや。そんな事々を登場人物たちにつられて考えたりできます。
    (3)混迷している「事件」を京極堂が一気に舌先三寸で収めてしまうところにはカイカンがあります。

    登場人物は大勢いますが警察以外で今回の事象に関わってる主要人物は

    澤井健一(商社社員)/来宮小百合(秀美の妹)/贋・真壁恵(死体)/赤木大輔(チンピラ)/江藤徹也(酒屋の店員)/大鷹篤志(元刑事)/来宮秀美(榎木津の縁談相手)/宇津木実奈(榎木津の縁談相手)/福山幸子(榎木津の縁談相手)/神崎宏美(榎木津がかつて交際していた)/真・原田美咲(画廊経営者)/贋・原田美咲/真・真壁恵(大鷹の依頼者)/大仁田良介(実奈を探している)/西田新造(実奈を描いていた画家)/松金あやめ(西田のとこの家事手伝い)/神崎礼子(乗馬場の調教師)

    未読やったことに気づきましたので「鵼」の前に読んどかんと、と。

    ■関口や京極堂や榎木津に関する簡単なリスト(周辺の話も含む)。

    【邪魅の雫 一行目】貴女は――。

    【相沢】神奈川県警察本部刑事と思われる。
    【愛情】《愛情は常に一方通行なのだ。そして一切の強要は出来ないものだ。そして無上の愛とは、対象を信頼することである。》邪魅p.140
    【青木文蔵/あおき・ぶんぞう】こけしのような頭の、警視庁刑事。木場衆太郎の後輩。降格させられて「邪魅」では当初交番勤務の制服警官。木場から教わったという「百聴いて一使えれば大収穫だ」という言葉を信条にしている(木場自身は覚えていないが)。組織の中に組み込まれて初めて機能するタイプという自己分析。中禅寺敦子に好意を抱いてはいるが恋愛感情と言えるかは微妙。敦子にとっては兄の友人の戦友の元部下。
    【赤木大輔/あかぎ・だいすけ】三十六歳のちんぴら。暴力団山代会の構成員。誰かを殺した可能性が高い。組の金を少額ちょろまかして女と一緒に逃亡。
    【敦子】→中禅寺敦子
    【石井寛爾/いしい・かんじ】津久井署の警察署長。どこかで関口や益田とからんでいたようだ。邪魅の画家の幼馴染みで奇妙な質問をされた。
    【石井四郎】戦時中、軍医中将だった。石井式濾水器を考案した。彼は伝染病予防のための部隊、防疫給水部隊「石井部隊」を設立した。医学を兵科と同等の地位に引き上げるため生物学的兵器、具体的には細菌兵器の研究もしていた。七三一部隊も率いていたようだ。
    【今川雅澄】骨董屋「待古庵」の主人。口元のしまりがないのと顎がほとんどないのを除けば男前らしい。ていねいな言葉遣いをする。
    【今出川欽一/いまでがわ・きんいち】榎木津礼二郎の従兄。礼二郎の探偵業には批判的で早く身を固めて堅実な仕事に就いてほしいと思っている・・・そりゃ無理というものでしょう。
    【宇都木家】榎木津の縁談相手の家。
    【宇都木実菜/うつぎ・みな】榎木津の縁談相手。行方不明?
    【絵】藤村《捜査に限らずどんな場合でも、出来過ぎた絵は思い込みだ。思い込みはどんな些細なもんでも、何の役にも立ちやせんぞ。》邪魅p.234
    【江藤徹也/えとう・てつや】真壁恵の第一死体発見者。酒屋の澤福の住み込み。自己に関係ないことには無関心。なにやらうだうだ考えている。《自分が生きていると云うことに対して鈍感なのだと思う。》p.430
    【榎木津総一郎/えのきづ・そういちろう】礼二郎の兄。商才がありホテルなどを経営している。
    【榎木津礼二郎★/えのきづ・れいじろう】天下無敵の薔薇十字探偵。って、なんじゃいな? 推理もへったくれもなく「いきなりわかってしまう」特殊能力を持つ探偵。具体的には見た相手の視覚的記憶が脳内に展開されてしまう。超美形でスタイルもよく見栄えは良いし、強い。ほぼ無敵。傍若無人・傲岸不遜な性格、粗暴で非常識で支離滅裂な言動がすべてを台無しにしている。作中でも最も印象の強いキャラクタではある。反社会的ではなく脱世間的。金持ちのボンボンだが現在実家の支援は受けていない。《榎木津にとって敵対者を除く凡ての人間は、下僕なのである》邪魅p.42。京極堂の友人だが《榎木津絡みの話は凡て遠慮する。》邪魅p.176。《榎木津の凄いところは――余り褒めたくはないのだけど――その非常識な能力自体ではなく、世界を社会や世間や個人と強引に接続してしまう生き方にこそあるのだと思う。》邪魅p.289
    【榎木津礼二郎の父】礼二郎と総一郎の父。財閥のトップで元子爵。
    【大垣喜一郎/おおごき・きいちろう】研師。連続辻斬りをした刀を研いだかもしれない。
    【大鷹篤志/おおたか・あつし】自分が莫迦だと気づいた元刑事。反応が遅れたり微妙にズレている発言のせいで他者からはまじめにやってないように見え、笑われるか、怒られるか、呆れられる。自暴自棄で楽天的。悪意なく厚かましい。凡百(あらゆる)局面に於て不適切な判断を下す男。
    【鬼】《兄に依れば、鬼とはないものだと云う。存在しないのではなく、ないという形であるものだと云う。ならば虚無こそが鬼だ。》『今昔百鬼拾遺 鬼』p.91
    【面白い】榎木津と思われる男が江藤に《面白くないのは面白がらないからだ。面白いと思えば大抵のものはオモシロい。面白がれない疾でもあるまいに》邪魅p.448

    【賀川太一/かがわ・たいち】玉川署刑事課捜査一係刑事。登場時二十九歳。青木とは同期のような間柄。
    【刀】大垣喜一郎《俺が研いでるのは、これは殺意だ》『今昔百鬼拾遺 鬼』p.149
    【片倉ハル子】呉美由紀の新しい学校での友人。一学年上でなぜか親切にしてくれた。実家は下谷の刀剣屋。連続斬殺魔「昭和の辻斬り」宇野憲一に斬殺された。片倉と宇野は交際していたらしい。「昭和の辻斬り」の話が出てきた頃から片倉家の女は代々斬殺されるのだと怖がっていた。母は勢子(せいこ)。
    【亀井/かめい】神奈川県警察本部の刑事。益田の後輩だった。
    【川島新造/かわしま・しんぞう】京極堂の知人のようだ。青木も面識があると書かれてあるのでどっかに出演してたっけ? 満州で映画を作っていたらしい。
    【神崎宏美/かんざき・ひろみ】榎木津が出征前に交際し、けっこう長続きしそのままだったら結婚したと思われる女性。現在消息不明。
    【稀譚月報】中禅寺敦子が記者をしている雑誌。怪しげだが科学雑誌なんだとか。
    【木下圀治/きのした・くにはる】警視庁の刑事。青木と同年齢で同じ課に配属され親しくしていた。
    【木場修太郎★】こわもてでガラッパチな刑事。通称「キバシュウ」。関口は「旦那」と呼ぶ。京極堂や関口の学友(だっけ?)。主要人物中もっともまとまな人。でも京極堂や榎木津にほぼ同等に対していられるのだからじつはかなりすごい人なのだ。警察の中では極めて異端。
    【京極堂】→中禅寺秋彦
    【来宮小百合/きのみや・さゆり】大磯で殺された女学生。榎木津の縁談相手の妹だった。
    【偶然】《世の中で起きることは凡て偶然だ》邪魅p.285
    【呉美由紀/くれ・みゆき】十四、五の娘。中禅寺敦子よりも背が高く手足が長い。甘味屋よりも駄菓子屋の「子供屋」が好み。『絡新婦の理』の登場人物と思われる。『今昔百鬼拾遺 鬼』にも登場。新しい学校での友人、片倉ハル子が交際相手である「昭和の辻斬り」宇野憲一に殺され、京極堂か榎木津に相談するつもりだったが彼らは別の事件に駆り出されていたので中禅寺敦子にお鉢がまわってきた。
    【苦労】《苦労は無意味なのだ。》邪魅p.288
    【月刊實録犯罪】カストリ雑誌の生き残り。金満家が趣味でやってるので廃刊にならない。鳥口守彦がいる。
    【豪徳寺】世田谷の寺で招き猫発祥の地で井伊家の菩提寺でもあるらしい。
    【五徳猫】7つの徳のうち2つを忘れているらしい。
    【言葉】《言葉は凡て嘘である。受け取る側次第で如何とでもなるものだ。真理ではあり得ない。発せられたあらゆる言葉は、受け取った者の数だけ別な意味を持つのだ。解釈は――遍く恣意的なものだ。/ だから。/ 言葉は便利だ。》邪魅p.143。京極堂《言葉は内側から発せられて、外側に向かうものだね。内側に於て言葉は全能だ。世界そのものでもある。しかし、外に出た段階でそれは世間と云う膜に吸収され、大した効果を持たないものになってしまう。社会にも届かない。勿論、世界になど届く訳もない。》邪魅p.173。京極堂《言葉と云うのは全部嘘だ。だから言葉で綴られた物語も全部嘘だ。現実じゃない。正邪や善悪と云った概念は、この嘘の世界にあるものなんだ。僕は最初に云った通り――世界を騙る者ですよ。》邪魅p.809
    【近藤有嶽/こんどう・ゆうがく】紙芝居の絵を描くことをなりわいとしている男でいかつい髭男。子供が泣き出すようなおどろおどろしい絵しか描きたくない。他人の年齢を値踏みするのが得意。

    【斉藤/さいとう】小松川署の新米刑事。背広を着ると弥次郎兵衛みたいだということで「ヤジ」と呼ばれている。
    【茶川/さがわ】平塚署の刑事。
    【崎坂/さきさか】神奈川県警察本部の刑事。
    【殺人】大垣喜一郎《「人が人を殺すな、どうしてだと思う」(中略)「簡単なことだ。殺せるからよ」》『今昔百鬼拾遺 鬼』p.145。《どれだけ理路整然とした骨子があろうとも、殺人は悪手でしかない。》邪魅p.298。・・・ということは殺人は結局殺したいから殺すということになるか?
    【郷嶋郡治/さとじま・ぐんじ】公安一課刑事。木場をして目付きの悪い悪党面と言わせる。戦時中は山辺機関に配属されており京極堂の同僚だった。中野学校設立を隠密裡に支援した。
    【里村】元気な人でも解剖したがる医師。
    【事件】《事件と云うものは、関わった人間凡てに対して起きている。当然、関係者の数だけ違った事件がある筈なのだ。》邪魅p.286。「犯罪」と「事件」は異なるものだ。当然犯罪者の検挙と事件の解決も異なるものだ。犯人は逮捕されても事件が終わらないことも多い
    【雫】『邪魅の雫』の「雫」とは具体的には青酸カリか何かその辺の毒薬のことと途中で察せられ、抽象的には殺意のことかと。そして、その毒薬が新たな殺意を呼ぶという京極夏彦さんふうの展開。妖怪をからめなければ『邪悪の雫』とかいう題でもいいのかもしれません。別の話『今昔百鬼拾遺 鬼』の「刀」みたいな位置づけか。
    【自分の真ん中】《自分の真ん中に、役立たずの砂粒がぽつんとひと粒あるだけなのだ。》邪魅p.9
    【渋沢】神奈川県警察と思われる管理官。
    【邪魅】妖怪のひとつ。《妖邪の惡氣なるべし》邪魅p.5
    【主夜神】夜の世界を司る神らしい。その使いは猫。
    【小説】京極堂《小説は読まれるために書かれるものだし、読んだ者の解釈は凡て正解だ。小説の場合、誤読と云うものはないからね》邪魅p.157
    【浄玻璃の鏡】神無月の一族が閻魔大王からもらったと言うやはり主人と同じくパチもんくさい魔鏡。
    【昭和の辻斬り】連続辻斬り事件。被害者は七人だが最初の三人は死亡まで至らず。だんだん上達しているようなので練習していたようにも見える。犯人は逮捕済みで旋盤工の宇野憲一という青年ということになっている。最後に殺された片倉ハル子は宇野と交際していたそうだ。そのときハル子の母がそばにいた。
    【書評】『邪魅の雫』の160ページあたりで関口センセは京極堂にあれこれ言われている。まあ、ぼくも常々、書評や評論は元の作品の何かを明らかにできるようなもんではなく、書評を書いた人による新たなフィクションだと思っているのでけっこう同意したりしました。書評はじつは解説とかそういうものではなく書評を書いた人自身の作品であり、その人自身のことを書いてるんやろうなと。で、やからうまくできたものは作品として面白いわけです。北上次郎さんの書評や、本に対してではないけど淀川長治さんの映画評なんか、つい元の作品を読みたくなったり、観たくなったりして鑑賞してみたら言うほどおもろなかったということもあるわけで、それは北上次郎さんや淀川長治さんが凄かったということになるでしょう。
    【青酸加哩】青酸加哩と呼ばれるものの中には別物である青酸曹達もかなりの率で含まれているが用途も近く同一視されることが多い。青酸加哩は非常に入手しにくい薬品であり工場などでも使われているものは青酸曹達であることが多い。どちらと判断するかによって入手経路の捜査など事件の様相は変化することもある。なお、毒薬として改良された「ニトリール」というものがある。と京極堂は言う。
    【世界】《人は皆、一人ひとり異った世界を見て、見たものを異った世間として理解している筈である。それでも、誰もが自分の見ているものは他人が見ているものと同じだと思い込んでいる。》邪魅p.86。京極堂《世界を遺すためには、世界は語られなくてはなりません。語られ、そして記されることなくして歴史は生まれない。語ることで世界は嘘になる。嘘になった世界こそが歴史なのです》邪魅p.694
    【関口巽★/せきぐち・たつみ】陰鬱な小説家。百鬼夜行シリーズの、個人的には主役かもしれない。情けなさが異常なまでに高まっているある意味すごい人。まったく無関係でも「お前が犯人やろ!」と言われたら「僕が犯人だったのかも」と思うような人。しかもそういうのを呼び寄せてしまう。一応作家で世間的には「先生」と呼ばれているところが恐ろしい。京極堂や榎木津の古い友人。学友だっけ? 超美形だったりするとさらにおもしろいんやけどな。なんと妻帯者。《歩いてるとこ見ただけで、駄目だなあと思うでしょうに。何だか攻撃しなきゃ悪いような気になる》by益田(百器徒然草風p.249)。《小説家であることに行き詰まっているようだった。それでなくとも関口は、能く人間で居ることに行き詰まるのだ。》邪魅p.397。《僕が駄目なのは、何もかも個人的なことに置き替わってしまうことなんだな》邪魅p.589。益田《関口さんは犯人顔なんですよ》邪魅p.590
    【関口雪絵/せきぐち・ゆきえ】関口巽の妻。どうやらとてもよくできた美人らしい。
    【世間】《世間は法で律することが出来ない。世間は興味で成り立っている。》邪魅p.34。《世間と云うのは実体がないものだからだ。》邪魅p.35
    【世間話】話芸の祖。伝説や昔話や、歴史の祖
    【相】すべてのものごとには多くの「相」があり、いっしょくたにはしにくい。それぞれの「相」を個別に判断するしかないとも言える。京極堂の憑物落しはそういう理を利用しているのかもしれない

    【大局】藤村《大局に立てと誰が云うた。そんな偉そうな場所には立てんよ。》邪魅p.237
    【大佐】京極堂が「あの男」と呼んで「世界一嫌っている」相手。伊豆騒動の黒幕だった。
    【多々良★】全国を行脚して民話や伝説を蒐集している。主役の話も持っている。
    【探偵】愉快なことならなにをしてもいいらしい。変装したりすんのも趣味でやってるということで。《榎木津曰く、探偵と云うのは世界の秘密を暴く特権的な立場にある者だけに与えられる、一種の称号なのだそうだ。》邪魅p.42。《探偵は――事件の主役にならなければいけないものなのである。》邪魅p.286。《探偵は個的な階層から社会的な階層まで、否、更にその上の階層に於てまで、遍く事件の中心に居なければならないもの》邪魅p.287
    【中心】藤村《中心ってのは何処にでもあるし、だから何処にもねえようなもんなんだ》邪魅p.226
    【中禅寺秋彦★】古本屋にして祓い師(家業が神主でで副業が憑き物落としの拝み屋)。博覧強記のクールな男。榎木津の対等な友人。百鬼夜行シリーズではの探偵役、というかコトを解決する役。悪魔的に弁が立つ。《まるで怪しい魔術のようである。》《いつも死ぬ程機嫌が悪そうな顔をしている。》(by本島 百器徒然袋 風p.81)。敦子は《兄は多分、言葉で出来ている。》と思う(今昔百鬼拾遺 鬼p.7)。《僕は嘘しか云いませんよ》邪魅p.809
    【中禅寺敦子★/ちゅうぜんじ・あつこ】京極堂=中禅寺秋彦の妹。雑誌『稀譚月報』記者。堅い性格で《何ごとにも杓子定規で何につけあそびのない人生を歩んでいる》『今昔百鬼拾遺 鬼』p.12。自分も若い娘だが若い娘が苦手。ついでに明治大正あたりの時代も苦手。京極堂のことを「お兄様」と呼ぶ。
    【中禅寺千鶴子/ちゅうぜんじ・ちづこ】はっきり覚えていないけど京極堂の妻やったかと。最近陶芸に凝っているらしい。関口の妻の雪絵と仲がいいようだ。
    【憑物落し】京極堂は言葉を重ね重ねてコトを治めてしまう。当事者(たち)を納得させてしまう。ある意味煙に巻いてだまくらかしている。それでも言葉程度でコトは解決するのだからよいのだ。《かの拝み屋は、社会と世間の、世間と個人の関係を一旦反故にして、事件の起きている場そのものを解体してしまうのだ。》《そして関係者個人に直接世界を見せ付けるのである。》《そうやって、個個の事件を限りなく無効にしてしまってから、拝み屋は再度世間を、社会を、個人個人に組み直してやるのである。そうすることで事件は全く別なものに変質してしまう。》邪魅p.290
    【伝説】《伝説の場合は真実(ほんとう)かどうかと云うことは問題にならないんです。事実として伝えられて売ること、そして伝えられていると云う事実の方こそが問題になるのですよ。》邪魅p.709。《信じられていたと云う事実を認めればいいのであって、信じる必要はありません》邪魅p.710
    【動機】関口《明快な動機は後付けだと思うのさ》邪魅p.408。《否、愛情も――時に凶器となるのさ》邪魅p.409。おー、関口さんがマトモや。青木《動機って――どんなに奇態に見えても、どれもみんな当たり前なんじゃないですか、山下さん。その人の――中では》邪魅p.762
    【徳】儒教では「温、良、恭、倹、譲」を五徳とする。部門では「暴を禁じ、兵をおさめ、大を保ち、功を定め、民を安んじ、財を豊かにする」を七徳とする。また徳とは「生まれつきそなわっている」という意味らしい。(by京極堂 百器徒然草 風p.167)
    【鳥口守彦/とりぐち・もりひこ】『月刊實録犯罪』の記者。大柄で逞しい。中禅寺敦子とは縁がある。元カストリ雑誌とはいえ、鳥口自身はけっこう誠実な記者。

    【長門】警視庁のヴェテラン刑事。腹芸の通じる人物。
    【奈美木セツ】気の強い娘。二十歳前。通いの家政婦。誰もが中華そばのどんぶりの模様の童子を想起するらしい。京極堂と知らない仲ではないらしいがどっかで出たっけ?
    【楢木/ならき】国家地方警察長野県本部警部補。
    【西田新造/にしだ・しんぞう】画家。西田豪造(ごうぞう)の長男。
    【人間関係】京極堂《僕等にとっての君は、君個人とはあまり関係のないものさ》邪魅p.154
    【沼上】アノ多々良大先生の助手ということになるか。
    【猫】猫肉は陸河豚と呼ばれて美味らしい。
    【呪い】《 信じた者の中では。/ 真実になる。》『今昔百鬼拾遺 鬼』p.217

    【羽田隆三】羽田製鉄の顧問で関西弁の助平そうな爺さんらしい。どっかの話に出てたみたいやけどどれやったっけ?鉄鼠あらり?
    【薔薇十字探偵社】神田神保町の一画に建つ堅牢な建物に入っている探偵社。所長は榎木津礼二郎。榎木津が特殊な仕事を受け、世間一般の探偵たちがやるような仕事は益田が勝手に受けて稼いでいる。榎木津自身の実績は高く、稼ぎも非常に大きい。
    【福山家】榎木津の縁談相手の家。
    【不思議】《この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君――》《謎とは解らないこと、不思議とは誤った解釈。解らないことを解らないと云うのは良いのです。しかし不思議だと云ってしまった途端――それは解釈になってしまう。》邪魅p.715
    【藤村】小松川署の古株刑事。署内で最も人望と信頼がある。
    【法律】《法律と云うのは、その社会とやらの中でのみ通用する約款であり、社会秩序とやらを維持するためだけにのみ貢献するものなのだ。》邪魅p.33
    【益田龍一/ますだ・りゅういち】薔薇十字探偵社の探偵見習い。実質は下僕。元神奈川県捜査一課一係の刑事だったが榎木津と出会い退職し、探偵社に勝手に入った。特に拒絶はされなかったのでそのまま居着いている。あらゆる暴力を嫌う。世間一般の探偵が受ける仕事を受けて調査し、報酬を得て、自分の給金を捻出している。幇間のように軽薄な振る舞いをしているが本来の下降指向を隠すためという面が強い。「マスカマ」と呼ばれている。《益田は、既に何かを諦めていたのである。》邪魅p.503

    【まとも】京極堂《まともな人間など居ません》邪魅p.805
    【招き猫】右手を上げていれば福を招き左手を上げていると人を招くのだとか。
    【民俗学】「記憶」されたものをひもとく学問。「歴史」とは異なり正反対の手法。
    【本島/もとしま】とある探偵の手下にして電気工事会社の図面描き。巻き込まれて被害を受けるタイプ。自ら小物とか雑魚とか三下とか小人物とか鈍感とか凡庸とか常識人とか思っている。会社を休んでまで警察に自分にとって不利な証言ををしにいく。京極堂の周辺にいる中で関口の次に弱そう(by益田)。

    【安和寅吉/やすかず・とらきち】薔薇十字探偵事務所の秘書兼給仕。榎木津の実家の使用人の息子で今は小間使い的存在になっている。それなりに堅実なタイプ。通称「和寅/かずとら」。
    【山下徳一郎/やました・とくいちろう】神奈川県警察本部の警部補。歌舞伎役者のような顔。後頭部に火傷の跡がある。榎木津は山下のことを「社長」と呼ぶ。
    【山辺機関】戦時中京極堂が関与していた内務省の極秘機関。伊豆の騒動の根源的なきっかけとなった。公安の郷嶋(さとじま)は京極堂の同僚に近い関係だった。京極堂は陸軍科学研究所付きで極秘だった十二研に配属されていたということなのでそこらへんと関係のある機関?

    【藍童子】霊感で悪人を暴いていた少年。
    【流行】京極堂《流行は世間が作る。厚みの全くない世間を無限の深さを持つ世界に見せかけることが出来る事象こそが流行だ。でもそりゃ勘違いだからすぐに廃れる。》邪魅p.168
    【量】《重要なのはひと粒の砂そのものではなく、その量なのだ。》邪魅p.7
    【凌雲閣】関東大震災で崩壊する以前からすでにほぼ廃墟となっていた。その廃墟にすまうものは虚無=鬼ではないかと敦子は考えた。消滅した後にもいまだ亡霊の塔として遺っているのではないかとも。
    【歴史】「公的」に「記録」されたもの。

  • 京極堂シリーズは最初の2作が衝撃的だった。それに比べると本作はだいぶ毛色が違う。ただ相変わらず饒舌で話は長く複雑で理解しがたい。

    榎木津がいつになく人間的で、ラストなどは今までの彼からは想像もできない。

    従来の京極堂を期待するとはぐらかされるかな。

  • 17年ぶりのシリーズ新刊発売ということで、慌てて未読だったこちらを。
    ちょうど阪神優勝も18年ぶりだそうで、ということは、同僚とお蕎麦屋さんで一杯やりながら観戦をしていたあの夜が、そんなに前ということなのか。こわすぎる。

    登場人物が多いので、誰だっけと首をひねってしまうこともあったが、中禅寺と関口が出てくるとやはり嬉しく、京極堂の世界の雰囲気を噛みしめる。
    榎木津礼二郎ファンなので、本作は少しさびしい。

    ところで、ノベルスの作品一覧に「鵺の碑」とあった。
    17年前から次作のタイトルが決まっていたのか、と思うといい意味でゾワッとした。

  • 再読。表題の妖怪の存在感が過去一薄く、不遇な作品。

  • 9月にシリーズの新作が17年ぶりに発売される前に予習として読む。
    この小説を発売時に読んだのか読んでないのか、はっきりおもいだせなかった。読みなながらもはっきりと思い出せず、最後の最後にようやく読んだことを思い出せた。忘れていたのも無理はない、やたらと長いがそれだけの長さにふさわしい結末ではない。それでも、ひさしぶりの京極ワールドは楽しめた。

  • シリーズの中で一番切ない…。

  • うん…………。
    いまいちでした。
    長いのはいつものこと。
    今までならありがたかったその長さが今回は辛く感じられた。
    楽しい時間は早く過ぎてしまい、辛い時間は長く感じる。
    そういうことなのだろう。
    よくわからない話でした。

    • 土瓶さん
      17年振りの百鬼夜行シリーズの新作「鵺の碑」発売に伴い、復習として再読。

      最初に読んだときよりもおもしろかった。
      なぜ京極夏彦さんの...
      17年振りの百鬼夜行シリーズの新作「鵺の碑」発売に伴い、復習として再読。

      最初に読んだときよりもおもしろかった。
      なぜ京極夏彦さんの本は再読の方が楽しめるのだろう。
      一読だけでは理解が及ばないからかな?
      2023/10/12
  •  刊行されたばかりの時に読んだのだが、再読すると驚くほど内容を覚えていなかった。

     真壁恵は望まぬ祝言から逃れてきた幼なじみを自身の名を騙らせて住まわせることで匿うが、元夫から被せられた借金の取りたてが来るにおよび偽・真壁恵の身を案じて、ひょんなことで知り合った大鷹に護衛を頼む。
     さて、本作は関口巽の他に、どこか精神的に欠けたところのある3人の胡乱な男が登場する。大鷹は『陰摩羅鬼の瑕』に登場した、ひどく気の利かない若い刑事だが、まるで本作での登場を準備するためだけに動員させられたかのように『陰摩羅鬼』ではあまり必然性のない登場人物だった。『陰摩羅鬼』の事件のため刑事をやめて、逗子あたりでボッとしていたところを恵に拾われたのだ。
     彼は決して知能は低くないのだが、ともかく思考がまとまらない。恵に頼まれた護衛は不審な観察者になってしまう。そのうえ偽・恵から目を離した日に偽・恵は殺されてしまう。
     「私」は画家だが、ちょっと異常なほど世間知らずだ。モデルを頼んだ女性につきまとう怪しい男がいることを知るが、警察では取り締まることもできないとわかり、殺意を覚える。しかし、そのモデルはある日、来なくなり、殺されたのではないかという情報が入る。
     江藤は酒屋の住み込み店員である。酒屋の店主が懇意にしている「真壁恵」におすそ分けを届けに行った際に、「真壁恵」が死んでいるのを発見する。彼は自分の関わりのないと思うことには急速に興味を失ってしまう。
     ひとつの殺人事件、かよくわからないのではあるが、別の視点から語られているのだ。

     しかもこれは連続殺人事件の1件と警察は見ている。それは青酸加里による毒殺だからだ。まず商社社員が殺され、次に良家の令嬢が殺されている。
     ここでさらに別の視点が登場する。『塗仏の宴』での服務不遵守で一時的に交番に左遷されている青木は社員の事件に不審を抱き、そのあとを追っている。他方、探偵見習い・益田のもとには榎木津の親戚筋から、榎木津に身を固めさせようと見合いを持ち込もうとすると相手方から断られてしまい、そのうちの1件では相手の妹が殺害されており、何が起こっているか調べろと言われるのだ。視点がありすぎて全体像が見えないというのが今回のキモなのである。

     邪魅という妖怪についての言及はちょっとあるが、邪魅の雫とは、戦中、京極堂が所属していた陸軍の研究所で作られた、1滴垂らすだけで人を殺せるVXガスみたいな猛毒のことである。
     本作は主に青木刑事と探偵見習い益田による刑事物語といった体をとる。となると憑き物落とし京極堂の出番がなさそうで、実際、京極堂の登場はいささか唐突な感じがする。他方、場をめちゃめちゃにする役割の榎木津も今回は関係者とあって、大暴れなしで、まあ、本書の印象が薄かったか。

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著者プロフィール

1963年、北海道生まれ。小説家、意匠家。94年、『姑獲鳥の夏』でデビュー。96年『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、97年『嗤う伊右衛門』で泉鏡花文学賞、2003年『覘き小平次』で山本周五郎賞、04年『後巷説百物語』で直木賞、11年『西巷説百物語』で柴田錬三郎賞、22年『遠巷説百物語』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『死ねばいいのに』『数えずの井戸』『オジいサン』『ヒトごろし』『書楼弔堂 破暁』『遠野物語Remix』『虚実妖怪百物語 序/破/急』 ほか多数。

「2023年 『遠巷説百物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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