凍りのくじら (講談社ノベルス)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 2599
感想 : 461
  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061824584

作品紹介・あらすじ

藤子・F・不二雄をこよなく愛する、有名カメラマンの父・芦沢光が失踪してから五年。残された病気の母と二人、毀れそうな家族をたったひとりで支えてきた高校生・理帆子の前に、思い掛けず現れた一人の青年・別所あきら。彼の優しさが孤独だった理帆子の心を少しずつ癒していくが、昔の恋人の存在によって事態は思わぬ方向へ進んでしまう…。家族と大切な人との繋がりを鋭い感性で描く"少し不思議"な物語。

感想・レビュー・書評

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  • ドラえもん…か…と、最初からずっとそんな感じだった。タイトルは、何故「くじら」なんだろうと、ずっと思っていた。
    でも、最後は心が震えた。心を閉じる不安と忍耐、心を開ける勇気を感じた。それまでのドラえもんの旅が終わって、ドラえもんに変わる芦沢光の旅が始まったと感じた。

    藤子・F・不二雄をこよなく愛する、有名カメラマンの父・芦沢光が失踪してから五年。残された病気の母と二人、毀れそうな家族をたったひとりで支えてきた高校生・理帆子の前に、思い掛けず現れた一人の青年・別所あきら。彼の優しさが孤独だった理帆子の心を少しずつ癒していくが、昔の恋人の存在によって事態は思わぬ方向へ進んでしまう…。家族と大切な人との繋がりを鋭い感性で描く“少し不思議”な物語。(「BOOK」データベースより)

    『ドラえもん』をキーワードだと読み終わるまでずっと思っていた。
    「SF」を、サイエンス・フィクションではなく「少し不思議な物語」と考え、『ドラえもん』が、これに属するなんてと感心することから始まったこの小説…の一方で、子供の見るテレビのイメージが強く、『ドラえもん』か…と、いう気持ちの方が大きく、少し侮りながら読み進める。

    主人公・芦沢理帆子は、頭が良くて、周囲が求めている行動を読み取り行動する器用で要領のいい子。しかし、ドラえもんをこよなく愛する彼女は、心の中では、尊敬する藤子不二雄先生の『SF』もじりを彼女の周りの人に対し『少し・何とか』と常に上から目線で評価している。
    これが人を小馬鹿にしているようで、読者としては生意気な高校生にうつる。

    しかし、それが父親失踪による愛情からの喪失感によるもので、人に対して器用なのは裏切りから逃げるための固執であることが、高校の先輩である別所あきらに言葉として自分の想いを伝えていくことで、理帆子への理解が深まり、だんだんと感情移入していく。
    つまり、別所あきらの存在は、読者が理帆子の性格変遷に対して理解をしめすことができるようになるだけでなく、読者が理帆子のとる言動を予測できるようにし一体感をもたらしている。そんな技法が心地いい(それ故に、後半に展開に不意打ちを食らったように感じる)。

    また、本作は『ドラえもん』がストーリー展開のキーとなっているのではなく、理帆子の元彼・若尾大紀であったと物語の終盤に気づく。『カワウソメダル』をつけているために容認してしまいがちである彼の幼稚で否定的な思考や行動に振り回される。
    脇役っぽく登場する若尾が、実は本作のストーリーを引っ張っている重要な人物なのである。

    そして、本作のストーリーが大きく方向転換するもう1人の人物が、別所である。
    それを匂わす箇所は、いくつもあったのに最後まで気に留めることなく進んでしまう。「別所さんは、この辺りにおうちがあるんですか?」と理帆子が尋ねた時に「そうか『おうち』か」と答えたのは思わせぶりな言葉は、本作を読み終えた時に、だからかと思い返してしまう。
    別所がなぜ理帆子をモデルにしたいのか、モデルにした時もカメラを持っているのが理帆子であるような不思議な描写が何故だったのか。そして、ようやくそれがわかるのが署名A.Ashizawaの署名。
    この別所の登場が、本作を『SF』だと感じさせ、また若尾の屈折した言動の後味の悪さを無かったことにしている。

    ただ、タイトルの『凍りのくじら』については、何故このタイトルが着いたのか、きっと大きな意味があると思うのではあるが、最後まで決定的な理由は、理解できなかった。
    タイトルに惹かれて手に取った小説で、そのタイトルの真意がわからないままに読み終えてしまったが、私の中では、オススメの一冊であった。

    [今日の事件]流氷に閉じこめられたシャチ事件]
    2月7日朝、北海道・知床半島の相泊漁港付近でシャチのの群れが流氷にはさまれ動けなくなっているとの連絡が羅臼町役場にあった。職員が確認したところ、計12頭が流氷に閉じこめられ動けなくなっていた。オス1頭、メス6頭、子ども5頭と判断された。メスの1頭は8日に自力で脱出に成功したが、他はすべて死亡した。
    死亡したもののうち、その後に陸揚げできたのは9頭。これらは解体され、臓器などが研究機関に引き渡された。
    (SOURCE:2005年3月6日朝日新聞(東京版)など)

  • なるほど〜「すこし不思議」か…

    ドラえもんはあまり詳しくないから、今作はどうかなぁと思ってました。
    ちょっと調べてみたら、辻村作品の順番はクジラだ!
    と…メロリン師匠あってますか?笑

    ドラえもんの道具も無知、主人公はちょっと苦手なタイプ、物語の着地点が分からず…そんな読み始めでしたが_φ(・_・

    あ〜〜別所くんってアレだなぁ…と途中から腑に落ちたら俄然面白くなりました(^ ^)

    18年前の作品なんですね…才能溢れる作品でした。


    わたしは何だろう…「すこし俯瞰」かな



    • ひまわりめろんさん
      あれ??
      途中どっかに『ロードムービー』がはさまったかも??
      そんで『ロードムービー』は短編集なので
      先に『冷たい校舎の時は止まる』を...
      あれ??
      途中どっかに『ロードムービー』がはさまったかも??
      そんで『ロードムービー』は短編集なので
      先に『冷たい校舎の時は止まる』を読んでないとわけ分からん短編がいくつかあって…みたいなってもうわからんわ!(ノ`Д´)ノ彡┻━┻
      2022/12/13
    • みんみんさん
      冷たい…読む事にしま〜す\(//∇//)
      冷たい…読む事にしま〜す\(//∇//)
      2022/12/13
    • みんみんさん
      でも年末年始は図書館避けた方がいいかな…
      辻村ワールドは来年のお楽しみだ(^ ^)
      でも年末年始は図書館避けた方がいいかな…
      辻村ワールドは来年のお楽しみだ(^ ^)
      2022/12/13
  • とにかく名作でした!きっかけは、芦田愛菜ちゃんの「まなの本棚」で、辻村さんの作品もいつか読みたいと思っていました。
    主人公は高校2年生の理帆子、父はカメラマンで5年前に失踪しており、母は病床についている…ドラえもん好きの父の影響もあって、理帆子もドラえもん好きに…ある日図書館で別所あきらと出逢い「写真を撮らせてほしい」と依頼される…。同時期、元彼との関係がこじれていき…様々な経験を積み結果的には理帆子が父と同じくカメラマンになる。
    序盤は主人公に共感できなくて読み進めるのに時間を要しましたが、中盤から後半にかけての展開が素晴らしいです!感動しちゃいましたし、涙もしました。「家族愛」を感じる素敵な作品だと思います。「スロウハイツの神様」も読みたいです。

  • やっぱり辻村深月さんの本は面白い!「ドラえもん」が好き過ぎるとこんな小説にもなるのですね♪ 幸か不幸か各章に出てくる道具のうち数個しか知らないけど知ってるつもりになってしまった 笑。主人公の理帆子がお得意だったスコシナントカ遊びも癖になりそう だと思いながら読了した少し不真面目(SF)なオジサンでした♪
    たまたま出先で某幼稚園のドラえもんバスに出逢いました!やっぱり 少し不思議(SF)な辻村深月さんの本です。

    • hiroki-musashinoさん
      面白そうですね!読んでみます
      面白そうですね!読んでみます
      2020/02/12
  • 私の数少ない読書経験の中でめちゃくちゃ、エンディングがしっくり来て読んで良かった…満足できたと充実出来た作品です。
    めちゃくちゃ感動しましたし、めちゃくちゃ緊張もしました。
    どんどん物語にひき込まれて…
    自分の予想が何故か悪くなる方ばかり想像してしまうんです…
    頼む‼︎頼むから絶対そうならないでって…
    ハラハラして読んでしまいました
    以前フォロワーさんから、学生の娘さんが非常に良かったとオススメ頂いたので…ミドル世代の男性(おっさん)でも、読んで大丈夫かなと、少し不安になりながら読み進めましたが…
    なんて事は無い…号泣確定でした。

    作品の中に主人公理帆子が好む、スコシ・ナントカ遊びが描かれます。
    人の個性をSとFで当てて、名前をつける遊びです。これは、藤子不二雄先生のSF作品は
    「スコシ フシギ(不思議)」な作品を描いてると主人公の理帆子が知り、それをきっかけに様々な人を(Sスコシ Fで始まるナントカ)に当てて、個性の名前をつける遊びをします。
    もし自分が、理帆子に
    スコシナントカで命名されるとしたら
    sukoshi (スコシ) futoris…(フトリ…文字数

    同世代の辻村さんの作品、大変大好きになりましたw
    他の作品も読んでみたいです。

  • 頭がよくて芯が強い芦沢理帆子、こういう女性大好きです。頭がよいというのは勉強ができるという意味だけではなく、状況を理解して空気が読めるという様なところ。
    作中で里帆子が「覚めてるね」と言われるシーンがあって、普通だったら「冷めてる」って表現されそうな所を「覚めてる」。なるほど…って感じでした。

    物語の一章毎に付けられた小タイトルがドラえもんの道具。これがまた内容と上手くハマっていって良かったです。理帆子が、SFという言葉を「S:スコシ」「F:フシギ」という概念に置き換えて、それぞれの個性を「スコシ…ナントカ」って見ていく感性も面白かったです。

    今回で辻村さんの作品は5冊目。何か仕掛けられているんじゃないかと期待して身構えていたせいか、割と早い段階で気が付く箇所が多々あって予想どおりの結末でした。
    伏線に気付いて読んでいくのも楽しい読み方のひとつですが、やっぱり最後に種明かしされた方が感動の振り幅は大きいですよね。

    辻村作品、次回からは何も考えずに読みたいと思います。

  • 少し不思議
    そういえばそんなインタビュー記事を自分もどこかで読んだ気がする
    藤子・F・不二雄先生への愛が溢れた少し不思議な物語

  • 「スロウハイツの神様」と、どちらを先に読んだらいいのか、意見が分かれる本。

    順番的には、この作品を先に読んだ方が、スロウハイツの神様をもっと楽しめたんじゃないかとは思います。

    スロウハイツでスーを救った写真家の話し。五十嵐くんと若尾を重ねながら読んでる人も多いと思う。

    ただ、前半を読むのが本当につらい作品でした。主人公は精神年齢が高く、周りを見下しながら生活を送っているのに、自分の考えを感情より優先させることができず、不快な描写が続きます。

    面白くなってくるのが250ページあたりからなので、そこまでに読むのをやめてしまう人も少なからずいると思われる作品です。

    なので、挫折のしにくさと言う点では、スロウハイツから入るのも一案かなと。

    ただ、最後まで読むと、読んでよかったと思う本。

    特に、ドラえもんをよく読んでいたミレニアル世代には嬉しい仕掛けがいくつかあり。

    別所あきらの好きな道具が「タイムマシン」って言うのも伏線になっているし、主人公が先取り約束機の説明を挟むのも、多分伏線になっている。全体的な話として、「のび太の大魔境」と重なるところも多いです。

    考えれば考えるほど、タイトルが素晴らしい。

    周りを流氷に固められて、身動きできなくなっていくクジラを、現代の人は助けることはできないんだけど、かつてそれを助けたいと思った写真家は、22世紀から道具を持ってきて、今度は助けることに成功します。

    あと、ドラえもんマニアだった僕も知らない道具が2つ出てきたけど、主人公が名前を思い出せない道具も2つ名前を覚えていたので、マニア度としては五分だったかな。

  • 自分の個性を「少し・不在」と定義する女の子のSF(少し不思議)なお話。
    冷たい校舎~に引き続き、このお話も少女の内面がしっかり掘り下げられてて、その成長もゆっくりと丁寧に描かれています。

    理帆子にも若尾にも自分の中に通じるところがあって、読みながら地味にダメージを受け続けましたヨ…。
    みんなと自分は違う、みんなの中にいてもどこか覚めた目でその中にいる自分を見ている。
    そういうとこ、ちょっとわかります。
    一生懸命に生きてる実感がする人が眩しくて、気後れしてしまう気持ちも。

    自分だけが頭が良い、人とは違う、理帆子はそう思って周りのみんな少し馬鹿にしているけど、それでも周りの人たちはみんなどうしようもないほど理帆子を愛している。
    写真集に添えられたお母さんの言葉に泣き、
    郁也が理帆子のために彼女が一番好きなドラえもんの曲を練習していたことに泣きました。
    理帆子がみんなのことを好きだったと認めたラストシーン、良かったねえ…。

    別所くんの正体は途中で何となく勘付いてはいたけど、写真撮ってるのが誰かわからない描写は読んでてちょっともどかしかったなあ…。それだけが難点か…。
    でも、彼がドラえもんの道具を真似して理帆子を救ってくれたラストはすごく好きです。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「その成長もゆっくりと丁寧に描かれています」
      それが、とっても素敵ですね。
      「その成長もゆっくりと丁寧に描かれています」
      それが、とっても素敵ですね。
      2013/01/18
    • 柳。さん
      コメントありがとうございます!
      辻村さんは心理描写がものすごく丁寧なところが魅力ですよね(*´▽`)
      コメントありがとうございます!
      辻村さんは心理描写がものすごく丁寧なところが魅力ですよね(*´▽`)
      2013/01/22
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「心理描写がものすごく丁寧」
      そうですね、抑えられた色々な感情が、無理なく納得出来るのが素晴しいですね。。。
      「心理描写がものすごく丁寧」
      そうですね、抑えられた色々な感情が、無理なく納得出来るのが素晴しいですね。。。
      2013/01/28
  • 自分以外を見下し、誰とでも打ち解けられるが、心から仲が良い友達はいない理帆子。
    海底鬼岩城、天の川鉄道の夜、どちらも好きなドラえもんの話です。
    海底でも宇宙でもどんな場所であってもテキオー灯で照らしてもらった理帆子は大丈夫。

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著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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