花窗玻璃 シャガールの黙示 (講談社ノベルス)

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  • 講談社
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感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061826717

感想・レビュー・書評

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  • 芸術探偵神泉寺瞬一郎のシリーズ。
    ヨーロッパ旅行中での一事件を手記にまとめ、日本に帰って叔父がそれを読んで推理するという流れ。いつもながら漢字の表記にはじまりステンドグラスの云々などうんちくもたっぷりw
    で、内容は・・・まあいつも通りという感じでしょうか。うんちくを楽しみつつ事件の推理を楽しむ。そしていつもながらの完成度・・ではあるんですが。あの警部がでてこないとなんだかちょっとさみしく感じてしまいましたw

  • 瞬一郎がフランスに遊学していた頃の話し。作中作としてカタカナを使わないで記述するという目論みもあり。途中にあった「あいつら」の白痴的表現は確かに許しがたい。ルビも素晴らしいのに!色々面白く読めた。

  • 日本のルビって凄いなーと本作を読んで改めて痛感。建物の構造とか良く分からなくても、漢字表記だけで大体のイメージはできちゃうもんな(穹㝫天井とか、尖塔拱頂とか)。
    で、ルビに振られた本来の発音表記(日本語では限界あるだろうけど)でお仏蘭西なカホリが漂うし、読み始めの取っ付きにくさを乗り越えれば意外にスルスルと読めます( ^ω^ )

    明治の文豪達の偉大な功績を実感しながら、ルビ文化について熱く語る芸術探偵の語りに、うんうんと思わずうなずくのでした。

    さて、「芸術探偵が書いた、フランスを舞台としたにも関わらず、一切片仮名が出てこない野心作」の体裁を取った本作。
    いつもは伯父の海埜刑事相手にこれでもかも芸術講釈を垂れる瞬一郎探偵ですが、探偵自身が書き手となった今作では地の文で薀蓄が炸裂しています。
    いや〜、毎回毎回同じことを言っていますが、今回も読みながらまあwikiりました(笑)。
    前作までは題材が歌劇だったりオペラだったりしたので「(本作を)読みながら(ネット情報を)読む」という作業だったのですが、今作は題材がランス大聖堂やシャガールのステンドグラスという建物とその中の意匠だったので、「(本作を)読みながら(ネット情報の写真を)見る」という作業に勤しみました。うーん、楽しいし、読むスピードも上がったわ、写真だから(笑)。

    そんなこんなで、本作のミステリです。
    「大聖堂から男が落下して、直後に刑事が聖堂屋上の唯一の出入り口である階段に刑事が踏み込んだが、誰とも出くわさず、屋上にも誰にもいない!密室だ!」
    という密室の謎と、
    「続いて聖堂内で死んだ浮浪者と落下した男は、死ぬ直前にシャガールのステンドグラスを見ていた!呪いだ!←」
    という奇妙な符丁の謎がミステリテーマです。

    トリックその物は、それって実行可能かしらと訝らずにはいられないアクロバティック的手法と、それってやろうと思えば私でもすぐ出来てしまうんちゃうか…と心配せずにはいられない手法の二本立てです。
    ですが、その伏線は事前にしっかりと張られているんですねー。「天使を見た」という証言、犯人の特技・趣味・思想。これらを踏まえて明かされる真相に、成る程あれが伏線だったかー!と悔しくなるミステリです( ^ω^ )
    動機の部分も、「とある絵」の言われを知る人には意外とピンと来たかもしれません。
    犯人がその絵に入れ込む訳、そして「天使を見た」と言わしめたトリックは、哀しくも美しいイメージを浮き彫りにします。

    そして、もう一人の人物の、身勝手だけれど芸術を愛するものとしては一抹の理解を挟まずにはおけない動機。
    最後の最後に、「彼」を思い留まらせた、天啓にも似た「敵との対峙」は、これもまた心象風景を想像するだに哀しく、美しいものだったのでした。



    ランス大聖堂から、一人の男が転落死した。転落直後に「天使を見た」と吹聴していた男も、聖堂の中で謎の不審死を遂げる。彼等の共通点は、死の直前、聖堂内のあるステンドグラスを見ていたことだった…。

  • 薀蓄+ミステリ、舞台設定など、笠井潔へのオマージュか。
    ミステリ部分はかなり腰砕けな感じもするが、美術、歴史部分が面白いので、都度、画像検索しながら、総じて読める。7.0

  • 2013/7/24
    作者は独特な人だなと思う。
    作中作がちょっと読みにくかったけど、それもわざとなんだろうね。
    ツイッターでつぶやくのを見てるからそれを思い出してニヤニヤするとこもあり。
    そこまで漢字にこだわろうとは思わないけど何でも安易にカタカナにするの私も反対!
    確かに漢字表記は美しい。
    そしてどの文字で書くのかを選べる日本語は素敵だ。
    猫・ねこ・ネコ。どれもイメージが違うもの。
    日本に生まれてラッキーでした。
    日本に生まれて幸運でした。
    ほら、なんか深刻さが違う。
    今回は「ラッキーでした」がちょうどいい。

  • 力技すぎる物理トリックはどうかと思いますが、とにかくテキストが(いろんな意味で)実験的なのが面白い。聖堂のもたらす酩酊感を表現しようとしていたとは恐れ入ります。

  • 最近の好きな作家の一人が深水黎一郎。で、期待して読んでみた。
    なかなか実験的な推理小説。物語の中に別の物語があるという「作中作」の手法を使い、その「作中作」ではカタカナを一切使わないという実験的な試みも行っている。作者は他の著書のあとがきで述べているが、このカタカカナを使わない手法と言うのは、推理小説の持つ、ある種、独特の雰囲気を醸し出すのに有効とのこと。本書では成功しているのではないだろうか。

    また、本書では芸術論なども述べられているが、いろいろな事に造詣の深そうな作者の本領発揮ということか、なかなか勉強にもなる内容である。

    内容は・・・、仏・ランス大聖堂から男性が転落死した。地上81.5mにある塔は、出入りができない密室状態で、警察は自殺と断定。だが、半年後、また変死体が!二人の共通点は死の直前に、シャガールのステンドグラスを見ていたこと・・・。ランスに遊学していた芸術フリークの瞬一朗と、伯父の海埜刑事が、壮麗な建物と歴史に秘められた謎に迫る・・・。(裏表紙)

    裏表紙の紹介文では、この本の良さを伝えきれてないな。伏線も回収されており、事件(この場合は殺人だが)の動機も納得できるものだし、犯行の方法も、まぁ、有りうるかな、とは思わせる。
    ただ、犯行現場からの逃走の方法がいただけない。まるで、サーカスのようなアクロバットを使っての逃走である。これじゃぁ、現実感に著しく乏しい。自分の感覚では、ほぼ不可能。
    せっかく良い作品なのに、ここの部分で台無し。これが無かったら☆5個なんだけど・・・。

  • 片仮名を使わないことによる酩酊感の演出は古野まほろで実感しているだけに大いに頷きたいところなのですが、まほろに圧倒的された身としては本作では物足りなかったです。

    作中、ステンドグラスに関して瞬一郎が子供の頃、くすんだ“本物”よりも光り輝く“模造品”に目を奪われ、自分がその本当の価値を理解できていなかったことを知り、その経験が「とにかく一度、最高のものに触れなければいけない」という精神に繋がっているようなことを述べていたけれど、それはどうなんだろう。
    19世紀以降に造られた価値の低いコピーであろうがそれを綺麗だと思って何がいけないのかがわからない。そういった観光客たちの価値観を否定するのもおかしい。

    デュシャンの「泉」のようなトイレを置いただけのものを芸術作品として捉えようと思ったら、その背景の創作意図とそれまでの芸術の歴史まで理解しないと価値が見えてこないわけで。
    そういう意味では、くすんだステンドグラスも知識がないと理解できないという点でわけのわからん現代アートと同じなんですよ。
    そうなると今度は「芸術」を鑑賞するためにはまず、知識ありきということになりますよね? しかしそこまで敷居を高くしないと理解することができず、一般の人間にその良さがまったくわからないものだけを「芸術」とし、わかりやすく美しいものに「見るべきものはない」と烙印を押すのなら、果たして芸術って何なんでしょうか。美しいものを美しいと感じることを肯定しない芸術に意味はあるのだろうか。
    ――なんて、取り立てて芸術に明るいわけでもない癖に色々と考えてしまいました。

  • ミステリと芸術論の融合はさらに磨きがかかっている。
    芸術的なものの観光地化や、伝統的なもの、伝統的な芸術と現代芸術との対立、そしてそれを語る一人の老学者と主人公の語り合いが非常に魅力的であり、どちらの意見にもうなずけるものがある。
    そして、それを描くために事件が用意されたように思える。
    (これに関しては毎回そうだけど)
    メイントリックは、ある種の知識がないと解けないけど、犯人の動機とも上手く絡んでいて良かった。

    もう一つのメイントリックについては、現地を知らないと想像しにくいと思う。
    もちろん想像できるように描かれているのだから、読み取り不足と言われればその通りなんだけど・・・・・・。
    でも、このトリックと作中人物の奇妙な行動については膝を打った。

    芸術論が魅力的過ぎて、ミステリ部分が(悪くないのに)付け足しのような気がしてしまうのが残念。

  • 古野まほろ作品のパクリ?カタカナ系単語を全て漢字(当て字)にして、ルビをふっているのが、とても読みづらかった。

著者プロフィール

1963年、山形県生まれ。2007年に『ウルチモ・トルッコ』で第36回メフィスト賞を受賞してデビュー。2011年に短篇「人間の尊厳と八〇〇メートル」で、第64回日本推理作家協会賞を受賞。2014年、『最後のトリック』(『ウルチモ・トルッコ』を改題)がベストセラーとなる。2015年刊『ミステリー・アリーナ』で同年の「本格ミステリ・ベスト10」第1位、「このミステリーがすごい!」6位、「週刊文春ミステリーベスト10」4位となる。

「2021年 『虚像のアラベスク』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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