グリーン・レクイエム (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061830943

感想・レビュー・書評

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  • 可愛くも軽やかな文体で語られる、時に切なく、時にユーモラスな物語。

    イメージとしては、一昔前の「ちゃお」や「りぼん」といった少女マンガのキャラの心象を、そのまま文章にしたような印象。
    その語り口は、さすがに時代を感じさせるものの、みずみずしさと、ストレートに伝わってくる語り手の心象は、時代を超えて読者の心に強い印象を残すのではないかと感じます。

    収録作品は三編。最も印象が強いのは表題作の「グリーン・レクイエム」
    SF的な設定を用いて、二人の男女の恋と過酷な宿命を描いた作品です。
    明日香と信彦のロマンチックで、どこかくすぐったさを感じるな恋模様。一方で明日香の出生に隠された秘密が明らかになると共に、物語は徐々に不穏な方向に動き出し……

    先にも書きましたが、文体が特徴的でここがうまくはまるかどうかが大きなポイントになりそう。
    受け取り方次第によっては、話のシリアスさが中和されそうな気もしますが、逆に言うと、この文体だからこそ、余計に明日香の哀しさが伝わってくるものがあるように思います。良い意味でデフォルメされた哀しさになってるという感じでしょうか。

    個人的に思うのは、読むのが後十年遅かったら、この文体の受け取り方は大分違っていたかもしれないということ。評判を見ていると、若い頃に読んで印象的だった、というものも多かったので、そのときの感性次第で読後の感情も結構変わってくる作品かもしれません。

    後の二編はシニカルな笑いだったり、ドタバタ系の作品で、こちらにも独特の文体がマッチしています。

    「週に一度のお食事を」は電車で突然立ちくらみを起こした女性が語り手。家に変えると、彼女の身体にある変化が起こり始めて……

    瓶に詰められた悪魔が招く騒動を描いた「宇宙魚顛末記」
    これは悪魔のキャラが良かった。全然悪魔らしくなく、どこか不憫さも感じる。個人的には主人公三人組より、この悪魔の方が気になってしまいました。

    二編とも文体が一種のギャグマンガのように機能したかと思いきや「宇宙魚顛末記」では、決意を表す上で、この文体がまたマッチしてくる。考えれば考えるほど、不思議な文体……

    物語と語り口の合わせ技で、作品全体の印象がより強くなった気がします。口語体が地の文になる作品は色々あると思いますが、約40年前の作品で、ここまで砕いた文体を、特に「グリーン・レクイエム」のような切ない話に落とし込んでしまうのは、スゴい感性だなあ、と思いました。

    第12回星雲賞日本短編部門〈グリーン・レクイエム〉

  • 新井素子の初期作品集。『グリーン・レクイエム』『週に一度のお食事を』『宇宙魚顛末記』の3篇を収録。


    いずれも作者が19歳のころに書いた作品とのこと。

    『グリーン・レクイエム』はSF的にはちょっと無理のある設定に感じたが、叙情感のある作風に惹かれる。

    『週に一度のお食事を』は小気味よいショートショートといった感じ。ここで息抜き。

    『宇宙魚顛末記』が本書では一番面白かった。裏に配置された壮大な設定をジュブナイル的なノリに収めてしまう作者の力量に感嘆。読後感が何よりも良き。

    個人的に初めての新井素子。
    内容よりも、文体の軽妙さにつられて読んでしまう感じが心地よい。いくつか作品を追ってみようと思う。

  • 日本SFの有名どころを調べると、必ず名前の上がる新井素子。いざ読もうと思うと書店で見当たらない。
    作者の18、19歳の時の作品で、みずみずしくて特徴的。あとがきの名付けて「ルンルン文体」まさにそうで、はすっぱというか等身大というか、一昔前の若い女性の喋り方をしていて読んでて若干むずがゆい。
    宇宙魚顛末記が面白かった。吸血鬼も悪魔も宇宙人も、日本の日常に溶け込んだ非日常だとこんな景色になるのか。
    グリーンレクイエムは、異種の明日香と信彦の、切ないお話だった。

  • 実家で再読。表紙絵が高野文子で可愛い。表題作は中編ながらやはり名作。長編になりそうな設定をギュッと凝縮したことでよりリリカルさが際立った感じ。光合成できる緑色の髪の少女・明日香の謎、彼女を実験台にしようとする研究者の卑劣さ、たとえ種族が違えども彼女を愛した青年・信彦。たしか続編も読んだのだけれどそちらはもう残していなかった。

    「週に一度のお食事を」は大変ライトな吸血鬼もの。現代でもこういう軽いノリで吸血鬼になってSNSで拡散して・・・とかありそうだなと思えるし、オチがちょっとブラックでいい。

    「宇宙魚顛末記」は、仲良し男女3人組が偶然海で拾った瓶から手紙ではなく悪魔の美少女が出てきて3つの願いを叶えてくれるというドタバタ風SF。失恋のやけくそで酔っぱらってとんでもない願い事をしてしまったばかりに地球に危機が・・・。このとき滅びたほうの地球の物語が「ひとめあなたに…」に繋がると思うと感慨深い。

    ※収録作品
    グリーン・レクイエム/週に一度のお食事を/宇宙魚顛末記

    • 淳水堂さん
      今年もよろしくお願いします!

      新井素子懐かしい。
      週に一度のお食事を は、ラジオ芝居になってました。
      話が終わったあとの日本は滅び...
      今年もよろしくお願いします!

      新井素子懐かしい。
      週に一度のお食事を は、ラジオ芝居になってました。
      話が終わったあとの日本は滅びてますよね‥。
      2018/01/07
    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、こちらこそ今年もよろしくお願いいたします(^^)/

      週に一度のお食事、小説は80年代なので吸血鬼の仲間募集は新聞広告なんで...
      淳水堂さん、こちらこそ今年もよろしくお願いいたします(^^)/

      週に一度のお食事、小説は80年代なので吸血鬼の仲間募集は新聞広告なんですが、今ならSNSであっという間に広まるだろうし、確実に日本の滅亡はやまりそうです…

      新井素子、実家にたくさん残っていたので(全部は読み切れなかった)デビュー作から順番に再読したのですが、ラストで実は地球が滅びるとか日本滅びるとかってオチの話が多かったかも(^_^;)
      2018/01/09
  • 少しムリがありますが全体的には面白いです

  • 短編集。
    文体に時代を感じて面白い。

    文庫版のタイトルにもなっている『グリーン・レイクエム』は、はかないロマンチシズムの作品。
    明日香にしろ信彦にしろ、自己陶酔の自分語りの傾向が強い。世界観の広さ・大きさののわりに重要な葛藤をコンパクトに中断させてしまった感があるが、それも二人のそれぞれの自己陶酔の世界を完全なものにしている。ある意味で主要な登場人物たちの内面の救いようのなさが一貫した作品。

    個人的には『宇宙魚顛末記』が面白かった。鬱屈とした内面から始まり、人間臭い超自然的な存在との出会いと引き起こされた災難を通して鬱々としていた主人公が前向きな開き直りを手にする。気取らずリアルな描写、なめらかなストーリー展開。

  • 以前読んだ時もそんなに好きじゃないなって思ったんだよね。
    なんか救いがなくて。。
    研究者たちが狂ってる。

  • 本書が出版された84-85年頃、NHK-FMのラジオドラマ「青春アドベンチャー」でも聴いた記憶がある。
    この物語ではピアノも重要な小道具なので、ラジオドラマも記憶に残っている。

  • これもいつ読んだかわかんないくらい前に読んだやつだけど、ずっとブクログ登録待ち積本の中に埋もれていたやつ。

    女の子が考えていることを考える。もひとつ言えば、女の子が考えていることを小説にすることを考える、で、も少し食い下がれば、女の子がSF的状況に遭遇した時にどうするのか何を考えているのか小説にすることを考える。ということ。

    この本はそういう意味ではもうばっちりです。それが本当に女の子の考えていることかどうかは、ぼくにはいつまでたってもわかりませんが、この本がばっちりなのは間違いないのです。

  • <br>
    <br>
    中学生の頃の私が、今まで読んだ中で一番好きだと言っていた本。
    なのに、大人になった今は、まったく内容を覚えていなくて、愕然とした。

    再読前の印象は、「洪水のようにあふれてくる本」。
    感想もずっと、それしかいえなかった。
    ・・・ずいぶんと、子供だったことを思い知らされた。

    なんだか、読まなきゃいけない気がしたんだ。
    あまり心に心地よくない、本を読んだからかもしれない。
    だから、どうしても読みたかった。
    でも、読み始めても本当に内容が思い出せなくて、
    正直苦笑いをしつつ、再度、新たな気持ちで読み始めた。

    信彦さん。
    明日香の、好きな人。

    明日香は、私自身の投影だったのかもしれない。
    すごく恥ずかしくて、思い出したくなかったんじゃないかと
    思われるほど、私の想いの影響を受けていることがわかってしまった。

    でも、やっぱり・・・うまく感想は書けそうにない。
    不満のない文章、感情の動き、どれをとってもどうしても勝手に
    心に染み込んでいく、想い、思い、オモイ、おもい。

    ああ、やっぱり無理。




    ・・・なんていいながら、ほんの少しだけ、突っ込みを。
    ネタばれというか、内容のことも少し書いてます。


    明日香は、植物の人、だよね?
    水分以外、受け付けない、植物が強い、植物の人で。
    だから、地球の植物に影響を与えないように注意しながら、
    日光浴をして、光合成をしないと生きていけない生き物。
    んで、自分は植物なので、植物が何の躊躇もなしに食べられる世界
    =地球は、明日香たち植物の人にとって、地獄だったはず。
    少なくとも、そう感じていた、はず。

    だよね?

    なのに、何でお茶、飲めるのかな?
    カプチーノの、シナモンスティック、大丈夫なのかなぁ。
    もう死んじゃってるものは大丈夫なの?
    それとも、人間ぽく暮らすためには、「共食い」するわけ?
    なんていうか、そこって、話の核心というか、
    そういう部分を題材にしてるのだから、そういう「うっかり」
    みたいなものがあると、なんだかずいぶんとがっかりしてしまうのです。


    もったいないんだよね。
    なんていうかなぁ、考え方とか、決着のつけ方、とか、
    すごく私にとっては考えられて書かれていて、
    ハッピーエンド、ではないけれど、とても嫌な終わり方だけど、
    でも、自分が明日香だったら、きっとそうしてしまうに違いない。
    って、多分ちょっと前の私だったら、確実に思っただろうし、
    後のⅡに繋げるには、こうするしかなかったのだと思う。

    けど。
    だからこそ。
    そういうとこ、突っ込みどころは、極力無くすか、
    新井さん、あなたならきっと、多分、気づいていたなら
    理由を書いてた、はず。
    だから、それだけが残念。
    そう、残念なの、あの世界に私は最後まで感情移入して、
    明日香の最後を号泣して見届けたかった。

    それが、大人の私には出来なかった。
    そして、今の私には出来なかった。
    私は、明日香のようにはならない。
    裏切られることは、とても怖くて、
    自分で想像しうる最低の結末を無意識のうちに選んでしまうけど。

    でも、現実は、ううん、マイナス思考は決して不幸じゃない。
    プラス思考で生きてる時こそ落とし穴は深い。
    それに気づけたら、きっと人は強く生きていける。


    信彦さんが、人類のために、私を引き渡したっていいの。
    私は、信彦さんが好きで、愛してて、うん、その事実が、
    たとえ、そんな風に愛してる人に、一番最低な、つらい事実を
    突きつけられたとしても、その気持ちが消えてしまうわけではないし、
    その理由を考えたら、私一人の命よりも、人類の命を自分勝手に
    私のことだけ考える信彦さんよりずっと、きっと、本当に正しいから、
    それがとっても痛くったって、私は受け入れなければいけなかったんだ。

    逃げることは、簡単なこと。
    向き合うことは、とても難しいけれど、
    もしかしたら、その苦しい中で感じた、

    「どうして?」


    の理由を知ることが出来る可能性を秘めてる。
    わかることは、わからないよりもずっと、心を強くする。
    人は、わかっていることだけを信じられるの。
    私は、信彦さんを好きで、好きで。
    だから、裏切られても好きでいられる自信を持つべきだったの。


    今の私は、こんな風に思うことが出来るようになってました。
    なんか、すごく自虐的で、ものすごく厳しいというか、
    当たり前なはずなんだけど、たいていの人が出来ていない、
    そんな、自分感情を突き詰めて昇華することを、
    自分と向き合って、少なくとも、しよう、したい、しなきゃ、って
    そんな風に思える自分になっていたことを、
    気づかせてくれた、再読、でした。

    Ⅱの感想はまた、かなり初読当時と違っているので、
    というか、やっぱり初読の頃のことって、おぼえていなくて。
    今の私のセキララ感想文を、また、書こうと思っています。
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著者プロフィール

1977年「わたしの中の・・・・・・」が奇想天外新人賞佳作に入賞し、デビュー。以後『いつか猫になる日まで』『結婚物語』『ひとめあなたに・・・』『おしまいの日』などを発表。1999年に発表した『チグリスとユーフラテス』が第20回日本SF大賞を受賞。

「2022年 『絶対猫から動かない 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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