自動車絶望工場 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061830967

感想・レビュー・書評

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  • 鎌田慧は1936年青森県弘前市生まれ、まだご存命で、現在85歳だ。Wikiでの「職業」の紹介は、ルポライター・社会活動家となっており、数多くのルポルタージュを書かれている。
    本書はルポルタージュの古典的傑作として名高い作品だ。
    筆者は、1972年9月から1973年2月までの約半年間、トヨタのトランスミッション製造工場で期間工として働く。本書は、その間の経験を、日記形式で綴ったルポルタージュである。
    ベルトコンベアが流れるトランスミッション製造現場は、生産レートを限界まで上げているため、常に時間に追われ、肉体的に限界に近いくらいきつく、仕事は単純作業の繰り返しでやりがいはなく、生産を優先するために安全に難がある。給料は良いのだろうが、そこで働く人間は、日々、心身を削られ、退職率が高く、常に穴埋めのために人を募集している。ルポルタージュには、筆者自身や周囲の人たちが、日々消耗していく様子をリアリティを持って(体験しているのだからリアリティは当然ある)描かれている。読んでいて面白い話ではないが、職場・工場がどのようなところなのかが、手に取るように理解できる。
    筆者が期間工として体験的に工場勤務してから50年以上が経過している。今の職場の様子がどのようなものなのかは分からないが、50年前の自動車会社では、第一線の現場労働者を酷使することによって、利益が出ていたのだということが理解できる。

  • この本が学生時代の課題図書として読んだ本です。
    当時の期間工体験のルポルタージュです。
    日記帳になっており、作業の過酷な様や、職場のヒューマニズムなどを、著者の主観を織り込みながら描かれてます。
    良くも悪くもこの本は、自分の人生の影響を与えました。

  • トヨタの職工として働いた著者の体験ルポ。ここまでやるか、、っていうえげつないやり方で労働者の自由を奪い、いやならやめればいいじゃないかと言わんばかりに弱い立場の労働者たちを振り回す。弱肉強食というか、実際働いてる人は大変だなと思いました。今もこんな自体が続いているかはわかりませんが。大きくなりすぎた恐竜企業の軋みが垣間見える1冊だと思います。

  • 著者自身がTOYOTAの季節工となり体験した一部始終を綴った傑作ルポタージュ。
    これは昔のことなのか、今は無くなったのか。
    そうではないと思う。TOYOTAで無くなっていたとしても、効率化、改善の名の下に
    人間性を自ら否定することによってのみ勤まる仕事を続ける人はまだまだいるだろう。
    (頭と手足が完全に分かれている昨今ののほうがむしろ多い?)
    そのような企業が「社会貢献」「人間性の尊重」等と標榜するのには本当に笑えてしまう。

  • この本を見て思考停止になると思うな…

    まあわかるだろうけどこの手の求人が
    いまだにあるのは周知の事実。
    きれいな表面の裏には…ということで
    いまだにこれに類ずることはあると思うんだ…

    まさにその光景は地獄。
    まるでロボットのごとく、同じ作業を延々と…
    そして残業は日常茶飯事。
    事故も…

    あの場所は数多くの涙と血が流れてる…

  • 新自由主義に転換する前の体制という比較的な視点で読む。いわゆるフォーディズム・トヨティズム。しかし、この頃からすでに季節工、臨時工など、雇用の流動化が始まっている。組合が資本の側に取り込まれている様が書かれている。著者とその他の労働者が連帯しているところにまだ希望を感じる。今は、と考えると、孤立化され自己責任が内面化された新自由主義体制のもとで、Amazonやウーバーイーツの組合ができていることに、もっと注目しなければならないと感じる。

  • 著者が青森県弘前市出身ということで読んでみた。
    自分はいまブルーカラーではないけど、搾取される労働者として共感できる部分(「あるある」的な)はあった。

    ・優秀な人から辞めていく
    ・労組が機能していない
    など

    今となっては株式時価総額日本一となるために必要なことだったのだろうと考えるしかなく、また、今もなお世界のどこかで同じように労働している人がいるだろう。

  • ルポライターが取材のために半年間、季節工として経験した事実が書かれている。
    工場のラインに従事する者、したことのある者からは非常に共感できる。
    著者はこの現実を変えたいと強く願っているのでもなく、個人批判をしているわけでもない。純粋に多くの人に事実を知ってほしいという願いだと感じた。
    名著である大野耐一の「トヨタ生産方式」はこのような過酷な中で成り立っていたこともわかる。

    収容所という比喩を使われているが、大きな違いは自分の意志で逃げる自由がある。季節工の半分以上は契約満了前に去っていく。
    辞めていくほうが普通の人間なのだ。

    そして最下層からの視点で労働組合も語られている。もはや日本では本当に強い組合などなく、「強く見える組合」も会社に操作されているということになる。労働者の見方とは言い難い。
    正義感をもって会社にたてつこうとする者は、会社からも組合からも排除される対象になるということだ。

  • 面白かった。
    最近、経済の本をちょこっと読んでるけど、
    資本主義の行きつく先はここなのか?
    と思ったりもする。
    だからこそ、政治でうまくカバーするのが大事なんだろうけど

    ちなみに印象的だったのは、
    働いても何の技術も得られず、ほかの仕事に就こうとしてもなんのスキルがないということ
    あと、仕事がひたすらつらそうなこと
    そうやって考えると、
    私の今の仕事は恵まれてるし、ただ、言われたことをやるんじゃなくて、
    つねにプラスアルファを求めながらやることこそが、
    仕事を楽しめるんじゃないかと思う

  • いい本だった40年以上経った今でも色あせないルポ。ホワイトカラーと現場を支えるブルーカラーが対立するのではなく、ブルーカラー同士の対立軸を作る企業のトップダウンで決められる限界に追い詰められ単純作業のルーティンワーク。ヒエラルキーの典型という企業に身を潜め工員の指の切断や残酷な描写で描かれ危険と隣り合わせの限界の作業。現場に入り込まないと書けなかった体感が味わえた。秀逸の参与観察のなせる作品です。

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著者プロフィール

鎌田 慧(かまた さとし)
1938年青森県生まれ。ルポライター。
県立弘前高校卒業後に東京で機械工見習い、印刷工として働いたあと、早稲田大学文学部露文科で学ぶ。30歳からフリーのルポライターとして、労働、公害、原発、沖縄、教育、冤罪などの社会問題を幅広く取材。「『さよなら原発』一千万署名市民の会」「戦争をさせない1000人委員会」「狭山事件の再審を求める市民の会」などの呼びかけ人として市民運動も続けている。
著書は『自動車絶望工場―ある季節工の日記』『去るも地獄 残るも地獄―三池炭鉱労働者の二十年』『日本の原発地帯』『六ケ所村の記録』(1991年度毎日出版文化賞)『ドキュメント 屠場』『大杉榮―自由への疾走』『狭山事件 石川一雄―四一年目の真実』『戦争はさせない―デモと言論の力』ほか多数。

「2016年 『ドキュメント 水平をもとめて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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