赤い人 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061832008

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  • 明治時代、囚人によって進められた北海道開拓の暗黒史。筆者の感想・意見は無く、淡々と史実が積み上げられていく。さすがは吉村昭氏。

  • 囚人によって開拓された北海道の歴史は、囚人の死によって果たされたことを詳らかに綴る。丹念な調査からの筆致に相変わらず脱帽。日本の脱獄王、五寸釘寅吉こと西川寅吉も登場。国家権力の横暴を描く良作。明治維新時における立場の違いが囚人と看守という差となって、対立構造を生んでゆく。
    大正8年の樺戸集治監廃監後、この地にまた刑務所が設置されていたというのも因果な話である。

  •  明治政府にとって北海道開拓は急務のことであった。未開の地に監獄を作り、囚人を収監しそこで開拓を行わせる政策をとる。道路を施設するために山野を切り開くことは、一般の労働者が容易くできるものではない。政府の資金難と合わせ、囚人を酷使することで北海道の開拓を軌道に乗せようとしたのだ。政府の狙い通りにことは運ぶのだが、その犠牲たるや言葉に絶するものがある。人の尊厳など微塵もない、この時代の囚人の待遇は目を覆いたくなるほどの苛烈さを極める。当時、北海道に収監される囚人は死刑を言い渡されたようなものだという、5年を経て生き残るものはいない。

  • 管見にして集治監という名称を知らず、増して北海道で初めて樺戸にそれが開かれたことも本書で知ることになった。明治という時代は、江戸の刑罰の悪い部分を踏襲して囚人に対応することが当たり前。囚人は過酷な環境と懲罰に晒され、それを命令されている下級看守も囚人に何かあれば減俸、免職。囚人と看守が反目し、それが脱獄を助長させる。囚人道路に象徴される強制労働は、ナチスの強制収容所やソ連捕虜収容所を思わせる劣悪な状況の下で北海道が開拓されたことを改めて思い知らされた。

  • 淡々とした筆致がひたすら続くなかにサラッとものすごいことが入っていたり、それでも淡々と続いていくうちにどっぷり引き込まれる

  • 北海道開拓史。
    明治時代の事、勉強したくなった。

  • 明治時代に政府がとった囚人への扱いは、とても人間に対するものとは思えないものだった。それを行う看守も、まるで使い捨てのように扱われていて、「そういう時代だったんだ」という言葉で片付けていいのか戸惑った。農村開拓とは別の過酷さを感じた。

  • 「本のフルコース」つながり。もうすぐなくなってしまう弘栄堂パセオ西店で印象的なポップがあって、多くの部数が売れたのだとか。◆樺戸集治監(現在の月形刑務所の前身)が主人公の物語。厳寒の中、足袋も手袋も支給されずに屋外作業に駆り出される囚人たち。凍傷から病気、死亡者の異様な増加。それを懲戒の為と意に解さぬ政府。極限まで憎み合う看守と囚人。隙あらば脱獄しようとし、皇族の消息に恩赦への微な望みをかける囚人たち。のちには、道路工事、炭坑へも駆り出され、囚人たちも命の危機が増し、素行も精神も荒れていく…。国の政策も二転三転し、労働による懲戒から技術を教え込むことによる教化へと転じ。最後は安価な払い下げを期待した地元からの廃止運動でなくなるまでが描かれる。北海道の初期のインフラ整備に大いに功績があったことは確かだが、囚人たちの扱いがあまりにも過酷で声を失う。

  • 安彦良和「王道の狗」とあわせて読むと良いかも

  • 日本の礎は囚人達の死体で出来ている。

    山田風太郎「地の果ての獄」も併せて読むといいです。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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