占星術殺人事件 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (470ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061833715

感想・レビュー・書評

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  • 私がミステリをここまで本格的に読むようになったのは、この島田荘司氏との出逢いがきっかけであった。つまり島田氏のミステリが私にミステリ読者の道へと導いた。だから私にとって島田氏の存在というのはかなり大きく、神として崇めているといっても過言ではない。一生追い続けると決めた作家、それが島田氏だ。
    とはいっても本作が私にとって初めて触れる島田ミステリであったわけではなく、最初は『御手洗潔の挨拶』であった。その経緯については『~挨拶』の感想に譲るとして、本作はその次の島田作品だった。
    実際私は『~挨拶』を楽しく読み、面白いからもっと貸してとその友人に頼んだところ、持ってきたのが本書。まず最初の印象は、題名に引いたというのが正直なところ。いまどき『○○殺人事件』というベタなタイトルと、古めかしいイラストが描かれた文庫表紙は、もし私が本屋でその本を見ても手を伸ばさない類いのものだったし、本屋でその友達に「この作品面白いよ。お勧め。買って読んでみて」と云われても決して買わない代物だった。ちなみにこの時借りた文庫の表紙は最近新たなイラストでノベルス版が出版されたが、今現在でもそのままだったように思う。私が後に買った文庫版も同じ表紙だ。
    ということで、その表紙とタイトルのせいもあり、実は借りるのには前向きにならなかったのだが『~挨拶』が面白かったので読んでみるかと軽い気持ちで手に取った。

    本書を途中で断念した読者の中には冒頭のアゾートの話がかなり読みにくい文章だったという人がけっこういるらしい。しかし海外の古典を読んでいた私にとってはこのくらいの文章は全然大丈夫で、むしろ読みやすいくらいだった。前に挙げたブラウン神父シリーズと比べてみれば一目瞭然だろう。
    さてこの6人の娘のそれぞれ美しい部位を繋げて至高の美女アゾートを作るというこの冒頭の怪しくも艶かしいエピソードはいきなり私の読書意欲を鷲掴みにし、ぞくぞくとした。昔乱歩の小説で読んだ淫靡さを感じたものだ。
    その後、名探偵御手洗登場。この昭和11年に起き、その後何年間も解決できなかったという事件に御手洗が挑む。

    で、この本を読んだ当初、この事件は実際にあった話だったのかというのが友達の間で話題になった。本を貸してくれたO君は実際にあったと云っていたがその真偽は今でも定かではない。その後の島田作品にはこういう虚実を混同させるような叙述があるので、私は創作だと思っている。というのもその後乱歩、海外古典を読んでいくと、本作のように「明敏なる読者諸氏ならばご存知であろう、あの世間を騒がし、国民を恐怖のどん底に陥れた忌まわしい事件」という件が続々と出てくる。さながら探偵小説ならびに推理小説の枕詞として当然付けなければならないコピーのようだ。

    さてこのアゾート事件を捜査する御手洗は当初自信満々で、京都の人形師の許を訪れたりとかなり活発な動きを見せる。しかしやがて捜査は行き詰る。この辺の相棒石岡の絶望感をそそる語り口がいい。
    そして真相に思い当たり快哉を挙げ、狂喜乱舞する御手洗にかなり笑ってしまった。
    そして挿入された「読者への挑戦状」に戸惑ってしまった。なぜなら私はこのとき犯人までしか推理できていなかったのだ。

    私は何故かトリックやロジックが解らなくても、なぜか犯人が解るということがよくある。本作もどうしてか解らないが犯人は多分こいつだろうと解った。読んでいる最中に貸してくれた友達が「犯人誰か解った?」と訊いた時に「多分○○だと思う」といった時に、感心したような顔をしていたのを今でも覚えている。まあ、軽い自慢話だが。

    二度目の挑戦状でもまだ私は解らなかった。そして明かされるトリックの美事な事。私も思わず快哉を挙げた。これはすごいと本当に思った。
    そしてその後も物語は全ての疑問を回収し、決着を付け、犯人の手記で閉じられる。哀感漂う物語の閉じ方はブラウン神父の純粋にロジックとトリックの素晴らしさから得られるカタルシスに加え、物語を読むことの醍醐味が心に刻まれる思いがした。

    この作品で私は島田作品をもっと読みたいという衝動に駆られた。そして再び友達に次の島田作品を所望した。
    もし本作を読んでいない方、もしくは途中で諦めた方は是非とも読んで欲しい。彼によって新本格は作られ、今の本格ミステリの隆盛の創世となったのが本作なのだから。

    その方々に老婆心ながら注意点を云っておく。
    まず無造作にパラパラと本書を捲ってはいけない。本書の肝であるトリックの図解が目に入ってしまうから。
    そしてこれが一番重要なのだが、マンガ「金田一一の事件簿」は決して読んではいけない。なぜなら本書のトリックを丸ごとパクっているからだ。私はあの時大いに憤慨したものである。幸いにして本書を読むのが先だったが。
    しかし私が島田氏を神と崇めるようになったのは本作ではない。それについてはまた別の機会に。

  • 御手洗シリーズ1作品目。
    確かに今の技術があれば通用しないトリック。
    もっと警察ちゃんと調べようよ。
    昔はこういう捜査だったのかな。
    動機なんて後付けに過ぎないし、
    加害者以外の人間が納得しなければ真実にはならない。
    変人キャラは好きです。

  • トリックも伏線回収も素晴らしく大満足な傑作です。ただアゾートのトリックは、金田一で見たような…と思って調べたら過去に色々あったんですね。とりあえず最高な一冊でした!

  • いや~、私には文章難しかった。20ページ/日ペースで辛かったのですが、読友さんから「200ページ目以降は一気に動くよ」と教えていただき、頑張りました。本当に一気に行きましたね。何度も行ったり来たりして、読破まで1週間。トリック・動機については、「うむ!」と納得。しかし、実行可能性は「?」。もう一つ、御手洗のパーソナリティ、好きになれないなー。ちなみに私は「張宿」(有形無形の「援助運」に恵まれた宿。 小さなことにはこだわらず、周囲からの好感度は抜群、でも自信過剰で嫌われる)。うーん、でも気に入った!

  • 再読。だが記憶なし。40年前に起き迷宮入りになった殺人事件を解決!ある訳ない感じだが、関係者の手記がでてきた事により進展を遂げる。全ての証拠材料を見せて、さあ、説いてみなさいと…
    結局分からず。真相がわかってみればなるほど、トリックも面白くまあまあでした。

  • 占星術師の御手洗潔が、ある女性の依頼を受け、40年前の昭和11年に起こった伝説的な未解決猟奇殺人事件に挑む。問題の事件は梅沢一家に発生した三つの殺人が絡む。第一に、画家の梅沢平吉が自身のアトリエで殺害された密室殺人事件。第二に、一人暮らしをしていた平吉の長女、一枝の強姦殺人事件。最後が問題の事件で、平吉の娘や姪などの若い六名の女性が行方不明となった後に、その遺体が日本各地において発見され、六人の娘たちの殺害は、生前に平吉が残したとされる手記に正確に則って実行されていた。手記において平吉が目的としていたのは六名の処女たちの身体の各部を切り取って組み合わせることで、「アゾート」と呼ぶ人体模型を作りあげて悪魔に捧げるという狂気的な試みにあった。

    物語は平吉の病的な手記に始まり、御手洗の友人でミステリ好きのイラストレーター石岡によって梅沢一家殺害の詳細が解説される。これに依頼主である女性が御手洗に提示した、事件に間接的に関わった父が遺した未公開情報が加わり、一連の事件に関する情報が出揃う。ここまでで作品全体の約半分が経過している。

    探偵役の御手洗と助手役にあたる石岡の関係は、ホームズとワトスンのそれである。作中にも二人が探偵ホームズシリーズ作品について問答を繰り広げるシーンが存在する。インスピレーションを得て御手洗が事件の真相に気付く件や、物語全体が石岡の視点によって進む展開についても、ミステリにおける典型的な探偵と助手の役割を踏襲している。事件そのものは、40年前に設定した古めかしさや、悪魔崇拝や猟奇的な殺人内容のおどろおどろしさから、横溝正史作品を連想させられた。

    解決に必要な全ての情報が出揃う段階で、読者に向けられた挑戦状が提示される作品で、本作はその挑戦状が二段階となっていることも特徴である。謎解きを目当てにミステリを読む方にとっては、より楽しみが多い作品だろう。肝心のトリックについても基本的にフェアかつ、驚きもあり納得できる仕掛けだった。全体ついては、かなり過去の事件を扱うという設定上、手記や資料による情報が多いために机上での展開が多い。主人公コンビのやりとりについては紋切型の域を出ないもので、キャラクターにはあまり魅力を感じなかった。

    総じて、トリックについては楽しめたものの、味気ない経過を辿るためにページ数を長く感じる作品でもあった。要するに、トリックの披露に特化して短い紙数に収まっていれば、個人的にはもっと高く評価できる作品だった。時代の移ろいも感じさせる、エピローグにあたる最終章にはミステリを離れた小説らしい手触りもあり、好感をもった。

  • 悔しい!

    読書に対してもフェアに情報が提供されており、真相が明かされたときは「悔しい!」と声をあげてしまいました。
    本作品が名探偵御手洗の初登場とのことですが、いまいちキャラ設定がよくわからないのと、ワトソン役の山岡とセリフ回しが似ていてどちらのセリフが区別がつかず読み辛さを感じたこと、冒頭の手記が非常に読みづらかったのは残念でした。

    ただ、それを払拭できる、シンプルだけど難解というトレードオフを見事に成し遂げた非常に完成度の高いトリックでした。

    名作だと思います!

  • 約30年振りの再読。冒頭の手記の読み辛さ...懐かしい。
    トリックは忘れてしまっていたので楽しめた(某作品でモロパクリでしたね...)。たまにはこうして過去の名作に触れるのもいいものですね。切ないラストも好みです。

  • 最初に読んだ時の衝撃は忘れられない‼️それから何度再読したことか(≧∀≦) しかし、何度読んでも面白い!
    初めての方は絶対に後ろの方を見ないで、心を真っ白にして読んで欲しい。島田荘司さんは、トリックがとにかく面白いが、とはいえ、御手洗さんのキャラクターがまた良いのだわ〜。クールだけれど、実は心優しい。この作品から、シリーズをどんどん読み続けたのでした‼️

  • 島田荘司が名探偵御手洗潔とともに世に問うた新本格物の扉を開く傑作。
    アゾートを作りあげるための連続殺人とその驚くべき結末とは。
    ホームズを彷彿とさせる御手洗潔のキャラ設定とワトソン役の石岡さんとの会話、そして、衝撃的なトリックという古くて斬新な設定が、ミステリー界の新潮流を感じたものでした。
    かなり前の話だが、とある有名漫画がそのプロットを無断借用したとして、とある週刊誌で島田荘司が憤っていたっけ。(笑)
    ミステリーのロジカル面で初期御手洗物を超える驚きに、最近出会わなくなったなあ。

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著者プロフィール

1948年広島県福山市生まれ。武蔵野美術大学卒。1981年『占星術殺人事件』で衝撃のデビューを果たして以来、『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』など50作以上に登場する探偵・御手洗潔シリーズや、『奇想、天を動かす』などの刑事・吉敷竹史シリーズで圧倒的な人気を博す。2008年、日本ミステリー文学大賞を受賞。また「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」や「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」、台湾にて中国語による「金車・島田荘司推理小説賞」の選考委員を務めるなど、国境を越えた新しい才能の発掘と育成に尽力。日本の本格ミステリーの海外への翻訳や紹介にも積極的に取り組んでいる。

「2023年 『ローズマリーのあまき香り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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