海も暮れきる (講談社文庫)

著者 : 吉村昭
  • 講談社 (1985年9月9日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061835337

海も暮れきる (講談社文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 2011.12.13(火)¥136。
    2011.12.19(月)。

    2012.5.27(日)¥200。重複購入。

  • 俳人・尾崎放哉が最期を過ごした小豆島での生活を写す。
    南郷庵での生活はある程度、長期にわたったと思っていたが、わずか8カ月足らずの期間だと知る。
    病勢は肋膜炎から肺結核に移り、最後は咽頭結核にも苦しむ。食事や排便時の苦痛はほんとうに痛々しい。
    酒が入ると人が変わり、誰彼構わず、悪態をぶつける前半の描写とはあまりにも対照的だ。印象に残る作品。

  • 「咳をしても一人」の自由律俳句で有名な尾崎放哉(ほうさい)の最晩年を吉村昭のタッチで描く。孤独、酒乱に病が加わり苦しむ姿、死に対する恐怖、救いを求める俳句の世界。そして、最後に登場する妻と、妻が見せる愛情。鮮烈に描かれています。

  • 以前から尾崎放哉が気になっていたので、読む。

  • 自由律俳句の代表的俳人であった尾崎放哉の凄絶な生きざまを描いた小説である。
    ちなみに自由律俳句とは季語や定型音数(五七五)といった縛りをなくした、 自由な形式の俳諧のことである。
    河東碧梧桐が創作したことに始まり、荻原井泉水が俳誌『層雲』を主宰したことで確立された俳諧である。
    代表的な人物としては、尾崎放哉のほかに種田山頭火がよく知られている。

    尾崎放哉は一高・東大を卒業後は保険会社の要職につくという、エリートコースを歩んでいた。
    にもかかわらず、酒の失敗からその職を失い、妻とも別れ、京都、須磨、小浜の寺の寺男となって流浪の生活を送ることになる。
    そして最後は小豆島の西光寺の別院南郷庵で、41年という短い生涯を閉じた。
    この小説は小豆島に渡ってから死に至るまでの八ヶ月間にわたる放哉の姿を描いたものである。
    何もかも失い、無一物になった放哉は、俳誌『層雲』の同人たちの物心両面の支えだけを頼りに生きていく。
    そして若くして患った結核は確実に彼の肉体を蝕み、病状は日々悪化していく。
    死と隣り合わせのなかで、句作だけが唯一の生きる証であった。
    そしてそんな死を見つめる日々は、彼の句をますます研ぎ澄まされたものにしていく。


    之でもう外に動かないでも死なれる

    肉がやせて来る太い骨である

    障子しめきって淋しさをみたす

    雀等いちどきにいんでしまった

    白々あけて来る生きていた

    咳をしても1人


    底知れない孤独のなか、時には禁酒の誓いを破って酒の助けを借りて自らを慰めようとすることもあった。
    だが、ひとたび酒が入ると同席した人たちに罵詈雑言を浴びせて絡むという、悪い癖が頭をもたげ、同じ過ちをくりかえしてしまう。
    こうした失敗を重ねるたびに、支援してくれる同人たちも愛想を尽かしてしまう。
    度重なる謝罪と後悔、そして甘えと自己弁護のなかで、才能ある自分が何でこうした境遇にあるのか、といった悲痛な思いに苛まれる。
    さらにままならない貧しさと病の苦しさのなかで七転八倒を繰り返す。
    こうした人間、尾崎放哉の引き裂かれた思いと矛盾する心情は、限りなく悲しい。


    海が少し見える小さい窓一つもつ

    障子あけて置く海も暮れきる

    いつしかついて来た犬と浜辺に居る

    こんな好い月を一人で見て寝る

    海風に筒抜けられて居るいつも一人

    何か求むる心海へ放つ

    墓地からもどって来ても一人

    風吹きくたびれて居る青草

    やせたからだを窓に置きむせている

    大晦日暮れた掛け取りも来てくれぬ

    あすは元日が来る仏とわたくし

    足のうら洗へば白くなる

    なにがたのしみで生きているのかと問われて居る

    貧乏して植木鉢並べて居る

    とんぼが淋しい机にとまりに来てくれた

    火の気のない火鉢を寝床から見て居る

    自分をなくしてしまって探して居る

    迷って来たまんまの犬で居る

    いれものがない両手でうける


    そして最後に

    「春の山のうしろから煙が出だした」

    という句を残し、41年の生涯を閉じるのである。

    俳句を愛し、酒に溺れ、病と闘った壮絶な人生。
    世に受け入れられることもなく、悲惨ともいえる人生ではあるが、読後は静かな感動に包まれた。
    それはいかに惨めであっても、自らの人生と格闘し、そこから珠玉の言葉を紡ぎ出し、人生を確かに生き切ったということ、さらにこうした人生もあったのだという発見が、そうした感動を誘い出したのだと思う。
    読み応えのある一冊だった。

  • 尾崎放哉の人生を知った

  • 主人公は家族にも見捨てられるほどどうしようもないへっぽこだけど
    とても人間臭い人。俳句の才能と病を武器に弟子や周囲の人から
    お金を借りて過ごしている。

    前半は彼の甘えやだらしなさに腹が立ち、
    早く読み終えたかったが、後半は病がすすみ
    シゲという近所に住むおばあさんに助けられ、
    なんとか生きている様子が気の毒だったが
    生き様にふさわしい最期だったと思う。

  • 尾崎放哉の半生を書いた作品。淡々とまぁ・・・なんて暗い。せきをしても一人、という句なら聞いたことがあったが、こんな寂しい人だとは思わなかった。だいぶ変わった人間だったようだ。病気を抱えて無一文で流れ着いた小豆島。結核で命を落とすまでの最期をつづった作品。放哉は、無一文だったため、生きるためなら何をしてでも生きてやる、という態度だった。度々他人に金や食品を無心しては煙たがられる。あげく、酒癖は最悪で、禁酒は意志薄弱で全然できない。なんて生き辛い人間だ。
    金銭や厄介事が舞い込んできた時みせる、人間の冷酷さと温情がリアルだ

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