- Amazon.co.jp ・本 (541ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061836129
感想・レビュー・書評
-
日本が戦争に負けた1945年、都内で学徒出陣を免れ医学生だった筆者の1年間の日記(文学)。編集者の意向で一切手を加えていない点に価値がある。
ーー1月1日(月)薄雲のち晴れ
運命の年明く、日本の存亡この1年にかかる。
祈るらく、祖国のために生き、祖国のために死なんのみ。ーー
この記述で始まる日記は、前年の11月24日からB29による東京空襲が始まっていた。そして、人類初の原爆体験やソ連からの裏切りを経て終戦の翌日。
8月16日(木)の正午に玉音放送があるが、その日の午前中も大学で講義があり、講義中「休戦?、降伏?、(ソ連への)宣戦布告?」と書かれた紙が学生の間に回される。純真で単純な皇国学徒は「降伏」の選択などありえないと紙を書いた主を責める。「最後の一兵まで戦え」と。
ーー12月31日(月)大雪
運命の年暮るる。日本は亡国として存在す。われもまたほとんど虚脱せる魂を抱きたるまま年を送らんとす。いまだすべてを信ぜず。ーー
上記文章でこの日記は終わるが、あとがきで、筆者の小学校の同級生男子34人中14人が戦死、自分が出陣しなかったという事実は、現実世界での「通行人」どころか「傍観者」の記録だったと書く。
ーー人は変わらない、そして、おそらく人間の引き起こすことも。ーー
橋本治の解説も哲学的。
76年前に実際に日本と日本人に起こった目を背けてはならない庶民の記録です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
8月15日の日記がずっと心に残る…
-
昭和20年という激動の1年間を一人の医学生として克明に記録した日記文学。
文語体で書かれた文章は、初めは違和感があって読みづらかったですが、それ以上に当時の一人の若者の思いや考えが伝わってきて読み応えがありました。
医学生という立場から終戦まで幸いにも戦場に出ることがなかった著者が冷静に世の中を見つめている様子が感じられました。
そんな著者でも終戦直前には徹底抗戦に思いを馳せるところなどは、当時の若者でないと感じられないことなかと思いました。
この1年で大きく変わっていく日本に対し、四季の移ろいや天気などは今までと変わらない姿が描かれ、その対照的な様子から改めて現代の日本のあり方を考えさせられました。
「不戦派シリーズ」を今後もじっくりと読んでいきたいです。 -
大衆小説作家として人気を誇る山田風太郎の医学生時代の日記。第二次世界大戦の終焉の年として記憶される、昭和20年の日記をまとめたもの。市井の戦中日記というものは数あれど、聡明なる世界観や冷静な情勢分析のなかで戦時生活を見つめた記録は数少ない。その貴重な記録のひとつがこの山田風太郎の『戦中派不戦日記』。愛国に燃える気持ちはありながらも、どこかで「勝てるはずがない」という醒めた気持ちを絶えず持ち続けている、アンビバレントでニヒルな気持ちが、戦時中の我がちで身勝手な日本人のふるまいをも記述として残している。永井荷風の著名な『断腸亭日乗』が、荷風の主観によって軍国主義を信奉する市民を毛嫌いしているのと違い、山田青年は軍国主義の市民として社会に参加しながら、言葉と裏腹な市民の現実をそのまま記録している。そこにはインテリから見下ろした蔑みのような視線はなく、水平ながらのニヒルな観察眼が効いている。終戦までは冷静だった山田青年が、終戦後になって反米の気持ちに沸き立つのが興味深い。身替わりの早い日本人の節操のなさ、占領軍にいいなりになる日本人の卑しさを嘆いて、ひとり復讐を誓うあたりは、血気にはやる青年として若さに満ちている。永井荷風とはまた違った戦争の記録である。
-
作品といか、センセが戦中、学生時代に書いてたマジ日記。面白いか?といわれると微妙。
結構ボリュームあるし、ちと我慢して読み進めてたら、半分程経過したころからどんどん感化というか感情移入というか・・・。戦争が人格にあたえる影響みたいなのがチラーーーっとにせよ垣間見えてくるような。
普段から本は数冊同時に読んでるけど、この本の時は『罪と罰』を読んでた。世界的な名著だけど、この『戦中不戦日記』のが奥深いかんじがする。 -
昭和20年の丸一年分の日記。「風太郎が見た戦中・戦後」なんてテーマで論文が書けそうな一冊。色々興味深かった・・・それにしても、戦中にもかかわらず風太郎青年は大量の本を読んでるんですが、どっから持ってきたんだろう?(笑)
著者プロフィール
山田風太郎の作品





