傾く滝 (講談社文庫 す 1-16)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (521ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061836181

感想・レビュー・書評

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  • 梨園は特殊な世界だと思う。今は隔離されているけど、もっと庶民の大衆娯楽と近しく役者という生き様自体が娯楽にされていたころの役者達を描く。
    主人公団十郎は母が父の別腹の子を殺した罪に苦しみ川に身を投げたところを浪人宮永に救われた。
    宮永は兄嫁と内通し娘をもうけ、兄を切り片輪にし、兄の息子に仇討ちされることを待つような気でいるが、盲目の娘、小菊の将来を考えるとどこへも身を振れないている。
    団十郎に恋乞われ、その弟や弟弟子も小菊に献身的な恋をして成田屋に先生として好まれるが、長屋の隣にすむ弥平次という錺職人には秘密を知られている。彼もまた、憎み抜いている男がいた。恋仲だった女の弟は、彼を騙して金を手にして姉を見殺し逃げた。見つけ出した弟に、弥平次はまぶたに十字の刺青をして餓死せぬ程度に飼っていた。弥平次の歪んだ心理を宮永は兄と同じととらえる。その弟が死んでから影で何も言わずに宮永を助ける。その援助が不気味。
    天保の改革で政府に干される歌舞伎界もめまぐるしく推移する、そんな中、成田屋長男の団十郎は二枚目として女性から圧倒的な人気を博すように。しかし潔癖なほど女嫌いで宮永だけを慕っている。
    小菊は誰の子か分からぬお産が悪く死んだ。また宮永が仇討ちに会い、その弔い旅で小菊を慕っていた団十郎の弟重蔵は別腹の弟猿蔵が小菊の犯人と知る。団十郎は自殺。重蔵は猿蔵を切って逃亡した。

    成田屋の母親が違う兄弟たちの派閥ではないけど、そんなのも怖く。兄弟という意味では、宮永も弥平次も兄や義弟と殺し合いをしているわけで、家族とは血とはこんなに禍々しいものかと首を傾げてしまう、濃密な人間関係が渦巻いた小説でした。

  • 終了日 2012・12・30、今年の帰省時に一気読み。実は長年探してて、ようやく出かけた先の古本屋でゲット。

    以下、当時の日記から抜粋。

    『とにかく壮絶、昼ドラ真っ青の愛憎劇でした。
    いやーお腹いっぱい超楽しかった。やっぱりいいねえ、こういうのは。
    同性愛をテーマにした一般書は趣旨替えって感じで新鮮。
    特に少し年代が古いものはさらにいいね。
    こう、容赦がない。特に杉本苑子女史は鋭い。
    宮永直樹という男の残忍さが非常に好ましかった。この媚びない、折れない、限りなくとらわれている感じがたまらないね。今時とかジャンルが違えば、きっと直樹は団十郎を想うようにでもなるんだろうが、彼の本質は全く違うところにある。貫き通してくれるのが逆に潔い。
    逆に団十郎の危うさ、若さ、倒錯と狂乱っぷり。読んでいてこうも不快さといじらしさの同居する人物にも読者としてのめり込まざるを得ない。
    重蔵と駒三の、これまたいじらしさ。この二人はどうしてこうもいい男に成長してもあんな悲しい末路に至ったかな。せめて駒さんが成功してくれればいいのだが。
    だが一番アレなのは猿蔵の憎たらしさ。こう、随所にちりばめられた不快の塊が最後にああなるか!と驚きもしたし納得もした。もっと惨い死に方でもよかったよ。と、それくらいに重蔵と駒さんに感情移入してしまう。

    結論:ドロドロ愛憎まみれの昼ドラ群像劇、ホモもあるよ!でも本質は人間の弱さとずるさを見据えた、重く、感慨深い一品。あるいは、一人の男に狂わされた江戸の歌舞伎界と、それぞれの執着の行く末。』

  • 若くして自殺した美貌の八世市川団十郎の破滅的な恋の苦悩と悦楽。恋人は仇持ちの浪人。・・・辛いけど最高に面白いよ。
    杉本苑子の本がほとんど絶版なのは本当に悲しい。

  • 十年ちかく前に読んだときは、まあ、それとかあれとかまあこの作品を一部の読者に有名たらしめている主役たちのからまりについてしか見てなかったような気がするんですが、あらためて読み返すと細部が、いい。
    わたしは、映像が浮かび、ひとが生きている姿がつたわり、なお文章としてうつくしい小説がすきです。筋を追うよりも。

  • 大名題の家に生まれ、類まれな美貌で“江戸の華”と謳われた八代目市川団十郎。

    その華やかな外見とは裏腹に、団十郎は肉親との葛藤に悩み、芝居町を弾圧するご政道(遠山の金さん出てくる!)に不安をつのらせ、ついには仇持ちの浪人・宮永直樹への破滅的な愛にのめりこむ。

    江戸歌舞伎の舞台を背景に、謎の死に至る団十郎の伝説的な悲劇を細やかに描いた長編作品。

    葬儀へ向かう団十郎を見て、「八代目・・・、きれいね」とため息をもらす女たちに向って、(あれはわたしのものだ!)と声にならない叫びを全身にめぐらす宮永先生。
    団十郎を裸にして、「うつくしい」「いつか必ず二人の仲は壊れる・・・そう予感しながらこのうつくしいものをわたしは傷つけた」とうめく宮永先生。
    「団十郎」「団十郎・・・」と二度くり返し息を引き取る宮永先生。

    いやー、宮永先生に大注目してしまいました。
    しかし昭和44年にこれが刊行されちゃうのがすごいわ。
    (現代ならBLと呼ばれてしまう事でしょう)
    でもきちんと大名題たちの事も書き分けられていて、読んでてとてもおもしろかったです。

    成田屋・高麗屋・音羽屋はもちろん、その妻・妾・子どもたち。下っ端の駒三や宮永先生の隣に住む弥平次、先生の妹(実は娘)小菊。それぞれの登場人物の人生を、事細かに見せられているような、そんな重みがある作品でした。

  • 後半こちらが期待しているほど内面に踏み込まずさらーっと流れていってしまう。

  • 八代目団十郎の死とその周辺の梨園のどろどろを描いた長編。今も引き継がれてる名が沢山出てきて今見るとどきどきします…
    八代目の自殺は謎らしいんですが創作としても十分読み応えあります。女性向けですね。少年時代の八代目(当時海老蔵)の女王様っぷりにときめく…!

  • (昔書いた感想を引っ張ってこようシリーズ)
    これはついこないだもちょろっと書いたような気がするけど・・・。
    BL、つかジュネ!!って感じの少年愛小説なんですけど(・・・)、歌舞伎役者の九代目市川団十郎が主人公。この団十郎がものすごい美少年っぷり。
    イメージとしてはすごい山岸凉子っぽい。「神隠し」て読み切りの美少年くんみたいな感じ。水も滴る美少年。線が細くて骨ばってて性格もどこか思いつめたとこがあって、何をしでかすか分からない危うさを秘めている、ってな感じ?
    まあ、そんな美少年くんが仇持ちの浪人への破滅的な愛にのめり込んでまっしぐらってな話です。
    しかしこの団十郎がけなげでけなげで泣けてくるわ!しかもツンケンした人かと思いきや結構他の人の心配まで焼いてたりしていい人だったりもして、かわゆさに身悶える。相手の男がムカつく(笑)もっと大事にせんかい!!
    本当に、本当に、本当に、団十郎ちゃんかわいいので!ホモ好き腐女子は是非読むように。ムダに歌舞伎の知識も身に付くぞ(笑)

  • 読んで30年以上経つのに、未だに折に触れて思い出す。(本筋とは全く絡みません…)

    主人公である宮永直樹の隣人・弥平次には、居候がいる。妹を騙して死なせた男の瞼に、弥平次は「くろす」を刺青したのだ。キリシタン禁制のご時世、外へ出られなくなった男。閉じ込められている訳でもないのに、自害する心意気もなく、1日2つ与えられる握り飯で命尽きる日を待つだけ。
    お屋敷暮らしで端の一室に置いてる…とかってんじゃない。職人暮らしの狭い空間で、四六時中憎悪の対象の気配、どうかするとその体温を感じるように接している生活。
    妹が喜ぶ訳でもましてや帰って来る訳でもないのに。そこまでエネルギーを、自分の人生を注力するか。憎悪というよりは、もはや情熱に近い。ストックホルム症候群が生じるでもなく、弥平次の一生を蝕む、なんて暗い情熱。逃亡も折檻もなく、無為に時が流れていくだけ。どんなメンタルが二人を支えてるんだ、一体?

    こういう隣家を看過するってエピソードも、宮永の横顔に厚みを持たせていたんだって今更ながら気づく、今日この頃。

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著者プロフィール

杉本苑子

大正十四(一九二五)年、東京に生まれる。昭和二十四年、文化学院文科を卒業。昭和二十七年より吉川英治に師事する。昭和三十八年、『孤愁の岸』で第四十八回直木賞を受賞。昭和五十三年『滝沢馬琴』で第十二回吉川英治文学賞、昭和六十一年『穢土荘厳』で第二十五回女流文学賞を受賞。平成十四年、菊池寛賞を受賞、文化勲章を受勲。そのほかの著書に『埋み火』『散華』『悲華水滸伝』などがある。平成二十九(二〇一七)年没。

「2021年 『竹ノ御所鞠子』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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