- Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061837546
作品紹介・あらすじ
障害を持つ長男イーヨーとの「共生」を、イギリスの神秘主義詩人ブレイクの詩を媒介にして描いた連作短編集。作品の背後に死の定義を沈め、家族とのなにげない日常を瑞々しい筆致で表出しながら、過去と未来を展望して危機の時代の人間の<再生>を希求する、誠実で柔らかな魂の小説。大佛次郎賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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著者の本は前々から読んでみたかったのですが、やっとゆっくり読むことが出来ました❕
私には難しい本でしたが、文章のリズムや表現がとても素敵で、めちゃくちゃ良かったです❕
他の作品も読んでみたくなりました。
この本は、詩人ブレイクの作品と著者の思想をおり混ぜながら、障害をもつ著者の長男について、生まれてから成人するまでを描いた愛に溢れる作品です詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
初期の大江作品を特に愛好していたけど、この時期の短編集の充実度もすごい。装飾的な言葉を持て囃すのでなく、作家の根っこに基づいたブレイクとの共振が美しい
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『雨の木(レインツリー)』に並ぶ中期の傑作。
大江文学には、息子の光さんを題材とした作品に必勝の方程式があり、本作はその最たる成果。
度々引用されるウィリアム・ブレイクの詩は、大江の想いが強く乗りすぎて咀嚼し切れない部分あるが、本作の下に一本流れている息子への綺麗で比類ない愛情が随所に感じられる。
描かれる家庭内の危機を乗り越える度、家族っていいな、と単純ながら思わせられてしまう。 -
名作。
ウィリアム・ブレイクの詩の引用が多く出てくるせいか、難しいと思われがちだけど、熱意にと祈りに満ちていて、いい本。
引用どこかにたくさんメモしたような… -
大江健三郎には詳しくなく、耳にする本なので読んでみた。
障害を持つ息子イーヨー。マルカムラウリーとブレイクの詩。新約聖書。
ブレイクの詩と読んでいるときの状況、当時の息子の障害と親の心境を、言葉を変え、愛を持ちながら絶望し戸惑いながら人知を超えた存在として詩のイメージを重ね、接していく。
詩とは、選び抜かれた言葉の積み重ねで、それぞれの語にそれぞれの持つ文脈と想起させる要素があって表現するのだけど、それが障害を持つ息子に思いを馳せているタイミングと合うと、響きあい別のイメージを持って著者に解釈される。現実をよく見てないな、とも思うし、独特のイメージを生み出してるな、とも思う。
「いいえ、パパは死んでしまいました!」太文字で書かれる息子の敬語の言葉が、日本語なのにどこか文脈を外れ異様で不気味に感じる。あたかも彼の身体を通り越して別の何かが話しているかのような。 -
タイトルはウィリアム・ブレイクの詩の一節に由来するもので、各短篇のタイトルもブレイクの作品などから採られている。引用や独自の解釈なども作中で展開し、また作中の展開としてブレイクの詩について調べるシーンすらある。ここまでブレイクづくしだと、ブレイクについてまったく関心も智識もないわたしとしては面喰らってしまう。ブレイクの詩は現在の日本で広く読まれているとは言いがたく、そのためそれを軸に話が展開していても、どう読み解くべきか容易に答えを出せる読者はすくないのではないであろうか。そう思って読み終えたあと鶴見俊輔氏による「解説」を読むと、ブレイクの詩句と「イーヨー」の言動が随所でリンクしていると書いてある。なるほど、この作品はイーヨーの言動を中心に読み解き、ブレイクの詩を再構成してゆけば良いのである。はじめにこのことを知っておくべきであった。ブレイクを中心に読み進めてゆくとなかなか難解で行き詰ってしまうが、イーヨー自身は非常に魅力的で、時折笑える行動も登場する。イーヨーを主人公として捉えて読めば、ふつうにおもしろい小説なのである。ただ、その場合やはりブレイクの壁が立ちはだかる。智的障礙をもつイーヨーと各方面でマルチな才能を発揮したブレイクは本質的に異なるといってはあまりにも失礼であろうが、実際問題越えられない壁があることは明らかであり、そこを意図的にネグっているせいで、傑作が良作どまりとなってしまっている。あるいは、ブレイクの詩とイーヨーの発言を逆転させるべきであったろう。この感想もブレイクのことばかりになってしまったので、ある意味不幸な小説である。
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「個人的な体験」から続く一連の作品群の一つだと思う。自身の小説・体験を何度も再定義していく独特のやり方の中で書かれているので、主要作品を読んだ後に読むのがおすすめです。もちろん、単体でも分かる構成になっていますが、深く自身に浸み込ませようと思うと、他作品からスタートがやはりおすすめです。
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「読書力」文庫百選
2.この関係性は、ほれぼれする
→父子のコミュニケーション -
この本は2度読んでいます。現在は『水死』と平行して読んでいます。最新作は七十五歳、こちらの作品は、四十五歳、三十年前の作品で、且つ、ノーベル賞前の作品です。今もこの頃も、魂や、小説の輝きは、全く旧くありません。そして、四十五歳は時代の軽薄さに流される年齢でもないので、しっかりと、心の杖は失わず、大きな木(レインツリー)に表象される、息子さんへの愛情を描いています。一度目に読んだ時は、定評のある(笑)難解さに何度か軽い眩暈を起こしました。文字が蒸発しているように踊って見えることすらありました。本当に。けれど、二度目は簡単に思えました。ブレイクという古いイギリスの詩人をかなり引用して、知的障害の子どもを持つ父親の想いとシンクロさせながら、何気ない毎日の、幸せすぎる日々を描いています。
子どもの成長と対峙することは、命あることの衝撃、嬉しさを心から感じることです。
子どもに障害があれば、尚更です。
静かな息子さんの性格に影響された静かな世界で描かれているのと同時に、そんな幸せに深呼吸しているような、大江氏の心に触れることの出来る小説です。
著者プロフィール
大江健三郎の作品






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