卒業 (講談社文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784061844407

感想・レビュー・書評

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  • 東野圭吾作品のシリーズキャラクターとなる加賀恭一郎刑事が、まだ学生の頃に起きた事件を扱ったもので、最初に加賀刑事ありきで始まったのではないところに非常に好感を抱いた。
    恐らく東野氏は1作限りの主人公にするつもりだったのだろうが、加賀の、剣道を軸に鍛えられた律とした姿勢とまっすぐな生き方が気に入り、シリーズキャラクターに起用したように思われるふしがあり、非常に楽しく読めた(もちろん私も加賀のキャラクターにはかなり好感を抱いた)。

    さて事件は1作目同様、密室殺人&衆人環視の中での毒殺と本格ミステリの王道である不可能状況が用意されており、なかなかに、いやかなり難しい問題だ(よく考えると1作目の『放課後』も第1の殺人が密室殺人、第2の殺人が衆人環視の中の毒殺である。よほどこの手の謎が好きなのか、それともアイデアを豊富に持っていたのか)。

    最初の殺人は管理人が厳しく入場者を見張る女人禁制のアパートで起きる、一見リストカット自殺とも思える事件。死亡推定時刻にすでに被害者は部屋にいて手首を切っていたという状況だったのだが、その前の時間にたまたま隣人の女子大生が、扉が開いて明かりが点いていたとの証言を得て、密室殺人の疑いが強まる。
    これに使われたのが形状記憶合金を使ったトリック。
    いやあ、やられました。この手がありましたね。
    形状記憶合金に関しては私も高校生の頃に推理小説のトリックとして考えた事があるのだが、それをすっかり忘れてました。というよりも現在この名称すら死語になった感があり、久々に名前を聞いたような気がした。

    第2の殺人はもっと複雑で茶道の一種のゲームである「雪月花之式」という独特のルールの中で起こる事件で、本作のサブタイトルにもなっている。これがそれほど難しくは無いのだが、一口に説明できないルールで、混乱する事しばしばだった。
    しかし一見無作為に殺されたとしか思えないこの殺人が意図的に特定の人を絞り込むように操作されていたのは素晴らしい。ある意味、ロジックを突き詰めた一つの形を見せられたわけで、手品師の泡坂氏の手際の鮮やかさを髣髴とさせる。

    こういったトリック、ロジックもさることながら本書の魅力はそれだけに留まらず、やはりなんといっても加賀と沙都子を中心にした学生グループ全員が織成す青春群像劇にある。
    東野氏特有の青臭さ、ペシミズム、シニシズムが絶妙に溶け合っており、とても心に響くのである。熱くも無く、かといってクールすぎず、一人前を気取りながらも、あくまで大人ではない、大人には適わないと知りながらも斜に構えていたあの頃を思い出させてくれた。

    特に本作では彼らの青臭さ、未成熟さを際立たせるキャラクターとして、刑事である加賀の父親、そして彼らの恩師である南沢雅子の2人は特筆に価するものがある。

    あくまで前面に出ることは無く、置き手紙での参加でしかないのだが、加賀の父親が息子をサポートする場面は加賀にとって助けではありながら、しかし越えるべき壁である事を示唆している。

    また南沢雅子の含蓄溢れる台詞の数々はどうだろうか!
    大人だからこそ云える人生訓であり、生きていく上で勝ち得た知恵である。
    このキャラクターを当時28の青年である東野氏が想像したことを驚異だと考える。どこかにモデルがいるにしてもああいった台詞は人生を重ねないと書けない。東野氏が28までにどのような人生を送ったのか、気になるところだ。

    東野氏に上手さを感じるのはその独特の台詞回しだ。常に核心に触れず、一歩手前ではぐらかすような台詞はそのまま学生が云っているようだし、活きている言語だと思う。
    また祥子が自殺に及んだ真相についても、あえて婉曲的に表現するに留めている点も、読者に想像の余地を残したという点で好感を持った。

    実際、人生において真実を知ることは多くない。
    むしろ謎のままでいることの方が多いのだ。
    東野氏の作品を読むとその当たり前の事に気付かせてくれるように感じる。

    本作は彼のベスト作品の1つではないだろうが、胸に残る率直な思いに嘘は付けない。
    私にとってはベスト作品の1つであると断言しよう。

    • yhyby940さん
      こんばんは。「放課後」と言う作品が加賀恭一郎登場第1作なんですか。ありがとうございます。読んでみます。
      こんばんは。「放課後」と言う作品が加賀恭一郎登場第1作なんですか。ありがとうございます。読んでみます。
      2023/09/10
    • Tetchyさん
      yhyby940さん、コメント有難うございます!そうなんです。まだ加賀が刑事になる前の、いわばエピソード0的な作品です。ぜひ読んでみてくださ...
      yhyby940さん、コメント有難うございます!そうなんです。まだ加賀が刑事になる前の、いわばエピソード0的な作品です。ぜひ読んでみてくださいね♪
      2023/09/11
  • 「新参者」で有名な加賀恭一郎シリーズ第1作。
    就職を控えた大学4年生の秋、友人が死にます。
    密室や薬物を絡めて殺人が複数回起きるのは、
    前作の「放課後」と同じものの、剣道や茶道の話や、大学4年らしい過ち、若干の理系トリックが
    物語に上手く絡んでいる青春ミステリー。
    沙都子と加賀の目線が入れ替わる構成も面白い。

    犯人は予想ついたものの、動機が最後まで全く
    読めず夢中で読んで、すっかり寝不足です苦笑

  • これは3年前ぐらいに読んだけど今でもストーリーを覚えているぐらい面白かった。これ読んだら僕みたいに3年は確実に東野圭吾沼にハマる


  • 「まるで何かいいことでもあるみたいに思っているんだな。卒業したら過去が消えるとでも考えているのかい?」

    卒業を控えた大学四年の秋に一人の女子大生が亡くなり、親友の沙都子は仲間とともにその真相を探す。
    .
    『嘘をもうひとつだけ』の加賀刑事が大学生時代の話という所も見所。
    .
    一行目から彼らの青春に引き込まれた。事件と事件の関連性も、そう繋がるのかと物語終盤にようやく分かる精巧さ。自殺か他殺か分からない中で仲間と顔を合わせないといけなかったり、自殺だったとしても、自分には何も教えてくれてなかったと思ってしまう寂しさが切ない。
    .
    家の事や世間体や、色々考えてしまう大学生時代。卒業したらそれにとらわれなくて済むのか否か。それぞれの葛藤も描かれている。
    .

  • これまで読んだ東野圭吾さんの作品の中で一番好きかもしれない。大学の卒業間近という時期、行きつけの喫茶店や学生用の寮(アパート)という舞台設定が個人的に刺さったということもあるし、読み終わった後の余韻が爽やかなのが良かった!
    (人が殺されているのに爽やかという表現もどうかと思うけど汗)

    シリーズものだと知ったので読んでいきたい。

  • 東野圭吾さんのファンだが、今更、加賀恭一郎の第1作を読んだ。
    昭和61年に書かれたどのことだが、全く古さは感じず、今と変わらず読み進めずにはいられなかった。
    ここからシリーズ全作、並行してガリレオも第1作から読み進める決意をさせられる作品となった。
    解説に、若手、気鋭の、という類いの言葉が並び笑った。

  • 最後の伏線回収でスッキリ!一気に読んでしまった。
    犯人の予想してたけど動機も犯人も最後の最後まですべてびっくりスッキリな結末。
    やっぱりサクッと最後は謎解きがされるので
    面白かった。
    この加賀シリーズは赤い指から見てしまってたので加賀刑事の学生時代、イメージと違い青春してるなーと思う反面やっぱり、するどい推理力と観察力で、お見事に尽きる。

  • 〜あらすじ〜
    大学卒業を控えた仲良し大学生7人組。
    部活に励む者、就職活動に焦る者、研究に専念する者、皆各々の道を進んでおり、バランスのとれた7人だった。

    だがある夜、そのうちの1人の祥子が亡くなった。
    自殺か、他殺か、他殺なら誰が、どういう動機で。
    事件の真相も分からぬまま今度は波香が亡くなる。

    続けて起こる事件。
    加賀と沙都子は親友たちの死の真相を突き止めるために動く。

    〜〜〜


    これまでミステリーはそこまで読んできたことはなかったが「これがミステリー小説か」と思うような一冊だった。

    ところどころで散りばめられた伏線。
    「これ伏線だろうな」という場面が分かりやすくて、ミステリー初心者には易しい。
    そしてしっかり伏線を回収するから読んでいて気持ちがいい。

    2つの事件の繋がりは一見、というか最後の解説までまるで分からなかったが、トリックや動機が分かると納得、感心してしまった。

    ミステリー小説にハマる人の気持ちがよく分かった。

  • とにかく面白かった。
    物語全体に現実味もあり、心理描写もわかりやすい。
    久しぶりに東野圭吾作品を読んだが、さすがだと思った。

  • 加賀恭一郎シリーズ1作目。
    ここから彼の物語がはじまっていく。
    学生ながらの人間模様がミステリーを複雑にしていく。

著者プロフィール

1958年、大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業後、生産技術エンジニアとして会社勤めの傍ら、ミステリーを執筆。1985年『放課後』(講談社文庫)で第31回江戸川乱歩賞を受賞、専業作家に。1999年『秘密』(文春文庫)で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者χの献身』(文春文庫)で第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞、2012年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川書店)で第7回中央公論文芸賞、2013年『夢幻花』(PHP研究所)で第26回柴田錬三郎賞、2014年『祈りの幕が下りる時』で第48回吉川英治文学賞を受賞。

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