- Amazon.co.jp ・本 (446ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061847156
感想・レビュー・書評
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浮世絵シリーズ第二弾。本作も歴史の謎を追う学術的な部分とミステリが半々といった構成。ミステリの部分は普通に面白いといった感じだが、北斎隠密説に虜にされた。今回の舞台、長野・小布施。本作は数十年前の作品なので隠密説ではない学術的な理由が判明しているはずだが、作者が書く学説が実に魅力的で、これを読むとそうとしか思えない。高橋先生らしいロジックの組み立てにファンとしては非常に満足だった。
実際にこの本を読んだ後、小布施に訪問してみた。作中に昔の街並みが残っていて風情があるのに何故人気が出ないのかしらといった描写があるが、現在は街おこしを頑張ったのか、観光地化されており、沢山の観光客がいた。それでいて古い街並みは残っており、もちろん高井鴻山記念館も北斎館も残っており、1日では足りない観光名所だった。
本作は時代がかなり違う(例えば長野まで東京から特急で半日かけていく、鰻はステーキよりはるかに安いなど)が、それでもすんなりと入り込め読めるのは名作たる所以かと思う。紙の文庫が絶版状態なので是非再版してほしい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
今回は葛飾北斎が実は隠密だったのでは、という謎に迫る物語。
研究の過程で発生する事件はひとつのエッセンスに過ぎず、作品の本質は膨大な調査に基づいていると思われる北斎の謎。
単なる小説とは思えない奥深さに感銘を受けました。
いつか小布施に行ってみたいな。 -
NO.1400
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北斎隠密説の説得力、考証が緻密で素晴らしい。元々資料が少ないらしいので、どうとでも書けると言えばそれまでかもしれ無いが、門外漢の私には、間違いない仮説のように思える。学会はどう評価しているのだろうか。一小説家の戯言と捉えているのかな。資料絶対主義からいけば黙殺しているんだろうな。
肝心のミステリーの部分も悪くはないのだが、この作品に限っては、余計な物にも思える。歴史ミステリーとして、隠密説だけを追う展開にしてもよかったのでは。 -
2014/01/25購入
2014/02/15読み始め
2014/02/18読了 -
東北地方などを舞台とした作品です。
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浮世絵三部作・「写楽殺人事件」「北斎殺人事件」「広重殺人事件」を総括して。
三作とも個別に独立した内容だが、通読して包括される世界と、伝わる願いがある。
浮世絵の蘊蓄と日本近世史の動向が絡み合い、生きた存在としての絵師を浮かび上がらせる。
基本的な構成は、三作通じて同様。
プロローグで当該作品の紹介、本編で絵師の実態についての仮説と調査の展開、死者からの手紙による告白、贋作判明後も残される仮説の有意性。
文化や研究の興隆よりも、私利私欲の我執に取り憑かれた愚挙に揺れ動く現実社会。
学者の曖昧な態度への批判、学問の怖さ、名声や商売に翻弄される研究者の哀しさ。
「北斎」で語られる観光学の土産意識や、日本と海外の色彩感覚の差異、嗜好による調整、虹彩の違いにまで言及しての比較文化論も面白い。
そして、「写楽」と「広重」の対比に見る、探偵視点の推移と、真相吐露側が入れ替わる、位置の相似性。
三部作読了後は、「ゴッホ殺人事件」で示唆される塔馬双太郎の過去にも思いを馳せる。 -
歴史ミステリをからめたミステリ。ボストンでの殺人事件と、北斎に関わる問題が同時進行する。当然といえば当然なんだけど、両方が結びつくってことはない。歴史ミステリは、殺人事件の方から見ればただのおまけである。が、そのおまけの部分がどれだけおもしろいかで、こういう小説の楽しさは変わってくる。この小説は、思い切り楽しかった。本編の殺人事件の話より、ずっと楽しかった。
が、本編の方もおもしろい。ある瞬間から、同じ場面がまったく別の意味を持って見えてくるような、気持ちの良さを感じた。ラスト、切なかった。主人公に感情移入ができる。彼の持つ感覚を、素直に自分のものと感じることができるような気がするのだ。
物語の話主がふらふらと変わっていくところが気になったけど、それをのぞけば傑作ミステリだと思う。おもしろかった。
著者プロフィール
高橋克彦の作品





