学生街の殺人 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 3940
感想 : 268
  • Amazon.co.jp ・本 (482ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061847217

作品紹介・あらすじ

学生街のビリヤード場で働く津村光平の知人で、脱サラした松木が何者かに殺された。「俺はこの街が嫌いなんだ」と数日前に不思議なメッセージを光平に残して……。第2の殺人は密室状態で起こり、恐るべき事件は思いがけない方向に展開してゆく。奇怪な連続殺人と密室トリックの陰に潜む人間心理の真実!

感想・レビュー・書評

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  • 著者の初期のミステリー。1987年の作品。

    うらぶれた学生街。大学卒業後も就職せずバイト生活を続ける津村光平の周りで、アルバイト同僚の松木、恋人の広美、身障児施設の堀江園長、と立て続けに3人が刺殺されてしまう。光平は、その全ての殺人現場の第一発見者となり、事件に巻き込まれていく。

    松木は光平にプライベイトを一切語らなかった。広美も、週1日の行動を光平に隠していて、謎の一面を持っていた。広美は何故殺されなければならなかったのか、自分なりに納得したい光平は、弘美の妹悦子と共に事件の謎解きに挑む。

    同僚や恋人の刺殺、産業スパイ事件、そして親友間の愛憎劇。重たい出来事を、著者は感情を排して淡々と描写していく。お陰で、(ドキドキしたり、悲しんだりといった)主人公への感情移入なしで読み終えた。純粋に謎解きを楽しみたい人向けの作品だった。とは言え、広美が殺されたマンション・エレベーター密室の謎は今一だったな。広美の過去に纏わる謎解きの方は面白かったけど。

    AIの最先端技術がエキスパートシステムというところに時代を感じた。

    主人公が雇い主、年配者、お年寄り等に対しタメ口なのが気になった。

  • '22年4月6日、読了。

    グッと、きました。今まで読んだ東野圭吾さんの小説で、最も好きかも。

    あえて、多くを書かずにおきます。未読の方、是非読んでみてください。

  • 1990年に発行されたとは思えないほど、AIなどのコンピュータ用語が出てきていたために古くささを感じず、スラスラと読むことができた。
    本の内容としては序盤から登場している伏線を余すことなく回収していてとても面白かった。
    学生街という閉鎖的な雰囲気のなかでおきる連続殺人。そして誰もが過去にとらわれながら生きている中で、それにどのように落とし前をつけ生きていくのかというところに焦点が当たり、その行動によって起きてしまう悲劇がとてもなんとも悲しく、切ないものだと思った。

    最後に、光平の父が光平に向けてかけた言葉を書いておきたい。この言葉はこの物語の神髄だと思う。
    「間違ったかどうかも、本当は自分で決めることだと思うがな。間違いだと思えば引き返せばよい。小さなあやまちをいくつも繰り返しながら、一生というのは終わっていくものではないかな」

  • 東野圭吾30作目。
    以前から気になっていた本書を手に取る。

    トリックや動機ももちろん良いが、それ以上に
    主人公光平の生き方がいいなぁと思える作品。
    別に褒められた生き方ではないかもしれないが、
    あんな風にじっくりと自分の道を見つけるのも
    良いと思う。

    うどん屋の父の言葉や広美のボランティアの笑顔は、
    この作品の数少ない明るいシーンで、かつ光平の人生の方向づけに強い影響を与えたシーンであり、印象的である。

    陽の「卒業」、陰の「学生街の殺人」って感じやな
    表紙のイラストの物々しさがたまらない

  • 東野圭吾さんらしい作品と言えるのではないでしょうか?ラストは映画のようで、ちょっと胸に滲みました。

  • 東野圭吾氏、初期の作品。
    1987年に発刊された小説なのに、もう「AI」(人工知能)の話題が出ているのがすごい。
    ミステリ小説に、まだ携帯電話が登場しない時代の作品なのに(この本にも携帯電話は出てこない)、よもやAIの話題が出るなんて。

    学生街という言葉自体が死語化しつつあるわけだけど、この本で舞台になるのは、過去に賑わっていた「旧学生街」。
    喫茶店、ビリヤード場、スナック、本屋、床屋などが登場する。
    80年代に大学生だった人には、なつかしのラインナップなんだろうか。

    事件、お話自体はとても練られていて、解決したと思っていても、まだ裏があって、という読み応えのある本だった。
    結構長い話(文庫で470ページほど)で、関係なさそうな話もちょいちょい挟んであるのかと思いきや、ラストで伏線が回収されてなるほど!納得。
    でも、密室の解決(密室で殺されたのではなかったというオチ)は、ちょっといただけなかったなぁ。
    自宅で刺されて、エレベーターまで必死で歩いたのだとしたら、その途中に全く血痕が残っていなかったということでしょう?それはさすがに現実的じゃないし、「エレベーター内での密室殺人」にミスリードするための出来すぎた設定に思えた。
    それに、犯人は広美を刺した後どこからどうやって逃げたのか?という謎は残ったままだよね。
    …と、文句を書きながら、私はふと、この本の一節を思い出した。主人公の光平が、アガサクリスティの本を読み終えて「トリックに少し疑問は残る」という感想を抱くところがあるのだ。
    もしかしてこれは、この本の密室の謎に疑問を抱くであろう読者への、作者からのエクスキューズ?アガサクリスティの本については、当時流行っていたという背景はあるにせよ、あまり本編と関係のないぶっ込みでもあったし、作者の遊び心としてあり得るかもね。
    そんなことされたら、文句言うのも無粋な気がするなぁ。

  •  本書を読むといつも、冬の暖房が効きすぎた淀んだ校舎内の一室をイメージしてしまう。淀んだ空気を、学生街という寂れた街に滞留している光平と重ね合わせてしまうのだと思う。
     気合が入ったらしいボリューミーな作品だが、犯人との対決シーンやクリスマスツリーの死体など陳腐に感じられる。殺意を簡単に持ち過ぎており、どうしても殺さなければという切迫感が感じられなかった。クリスマスツリーへの死体遺棄の理由もちょっと弱い。開かれた密室は面白いとは思う。色々思うことはあるが、東野作品なので嫌いではない。

  • 登場人物の会話の中で、教訓じみたことがたくさん書かれていて、気づかされたことが多かった
    1990年の作品だが、この頃からAIが出てきているのかあと思った。
    コンピュータを使っても使われるな。確かにそうだな。
    対照的に、障害のある子の施設の話が出てきている。

    「最初は罪の償いという意識が先行していたはずなんだ。だけどやがてそのことに喜びを感じられるようになったんだと思う。生きがいを求めるのではなく、与えられた局面を生きがいに転化してしまうわけだね。そういう道もあるということだ。」
    という光平の言葉が印象的だった。

  • 巧みなトリック!という一冊でした。そしてこんなにたくさんの人が死んでしまうなんて…と想像を絶する物語。犯人が分かっても、なおその背景の真相まで突き止めるところが面白いです。前作の『放課後』の学生街がでてきて個人的に興奮しました。

  • コンピュータソフトウェアの事で殺人が起き、それを利用して純子さんは広美を殺させてしまった。それを隠すために今度はホームの所長を殺してしまう。過去に純子と広美の二人がひき逃げをして女の子を結果的に死なせてしまったことが、広美にとっては罪悪感でホームに通い恋人の求婚を断りピアノが弾けなくなってしまい、純子は殺人を犯してしまう、悲しい話だった。そこにソフトウェアの件がはさまり上手く複雑になっている。初めは、寂れた風景を思い描いて地味な気分になってたけど、クリスマスツリーとか結婚式の教会とか、ところどころに華やかなシーンも出るのでさみしい中のアクセントになってて良かった。

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著者プロフィール

1958年、大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業後、生産技術エンジニアとして会社勤めの傍ら、ミステリーを執筆。1985年『放課後』(講談社文庫)で第31回江戸川乱歩賞を受賞、専業作家に。1999年『秘密』(文春文庫)で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者χの献身』(文春文庫)で第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞、2012年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(角川書店)で第7回中央公論文芸賞、2013年『夢幻花』(PHP研究所)で第26回柴田錬三郎賞、2014年『祈りの幕が下りる時』で第48回吉川英治文学賞を受賞。

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