愛と幻想のファシズム(下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 2056
レビュー : 137
  • Amazon.co.jp ・本 (542ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061847408

作品紹介・あらすじ

世界恐慌を迎えた1990年、世界には奇妙な動きが相次いだ。日本でもパニックとクーデターが誘発する。暗躍する巨大金融企業集団「ザ・セブン」に全面対決を挑む政治結社「狩猟社」が企てたのだ。若きカリスマ、トージの意識が日本を動かし始める。この危険な小説に描かれた世界はすでに現実である。

感想・レビュー・書評

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  • システムに抗する主人公
    しかしながら、そのシステムに抗する為に作られた
    政治結社「狩猟社」は主人公を中心にシステム化されている。その事に気づき愕然とする主人公。
    「ザ・セブン」という明確な敵があるにも関わらず、ラストは主人公が一体何を目指すのかが良く分からなくなった印象。

    あとがきで著者が経済書の類を大量に読んだと述べていたように、読み応えのある作品だった。著者は以前からシステムに対して憎悪のようなものを感じておりそれがメインテーマとして経済とともに書かれたのが本作品。
    らしいが、単純な自分の感想では著者はアメリカがとても嫌いなんだなと思った。それとも経済の中心はやはり、アメリカということでアメリカ=システムということだったのだろうか。
    経済に関する人・金などの様々な動きにも興味を持ったが、それ以上に人が一人の人間として生きている意味というか、理由というか、価値というか・・・主人公の極端な発言を読んで深く考えた。


    日本はアメリカやソビエトと対等にものが言える国ではない。(中略)アメリカは強者だ、その強者のアメリカに気に入られようと愛想笑いをして、冷たくされるとヒステリーをおこして、アジアの同盟だと声高に叫ぶ、弱虫のやることだ

  • 2014.1.4
    90年以降の現実の世界情勢との符合がかなりあるね。ザ・セブンとかグローバル企業が国家よりも力があるとか、今そういう感じだもの。

  • 日本人のハンターが政治結社を作ってテロとかなんやかんやで独裁国家を作る話。

    そんな馬鹿なって展開もあるけど面白い。

    父親を乗り越えみたいなテーマがエバンゲリオンの元ネタらしい。

  • なぜ、この本に引き込まれたのか、ようやくわかった。トウジが、ぼくが敬愛するゲバラと被ったのだ。ゲバラは社会的格差を縮めるために、ブルジョワになるチャンスは幾度となくあったのにも関わらず、プロレタリアートとして巨大権力といつシステムと闘った。トウジは閉塞感、停滞、資本主義というシステムと闘った。もちろん、違いは多々あるし、むしろ類似点の方が少ないかもしれない。ただ、小規模集団が巨大勢力に果敢に挑む姿は同じだ。社会的弱者には希望に映っただろう。意図せずとも、それはたまらなくかっこいいのだ。

    ゼロ、フルーツには常にどこか、
    イノセンスなようなものを感じてて、フルーツは掴みどころのない透き通った水みたいにきれいなままだったけど、ゼロは汚れた、消えそうな存在から最期は本当に少年のようなきれいなイノセンスの印象を受けた。トウジは、やはり強烈なオスの印象が強かった。かなりピュアでイノセンスだったのではないかと思う。野生の捕食者のように。

    下巻は上巻に比べ、すごく暴力的な言い方をすると歴史的で史実を並べただけの印象が残るのだけど、それは規模が上巻は日本だけだったのが、物語が地球全体に展開して、ぼくが全体像をいまいち掴めてなくて、ぼんやりしていたからかもしれない。

    様々な面で世界が急速に繋がりだしている昨今の世の中、どんな思惑が世界を、日本を飛び交っているだろうと思った。繋がり過ぎて動くに動けないないのが現実なのか。相対的に個人に自由が認められているこの国は、そんな風に自由と言うと聞こえはいいが、簡単に動けずスピードがでないのでないか。まさに、閉塞感に包まれているし、停滞だ。シンガポールのように国民を淘汰して、言論の自由を奪った方が国際競争力という面で見るいいのかなあと読後の感想が残った。

  • 小説は、フィクションの形をとることでより鮮明に現実をあぶり出すものだ。ファシストが混乱の中で嫌悪・恐怖されながらも大衆に支持されていく過程が、戦前の歴史や大衆心理を考える上で大変勉強になった。描かれる政治・経済の世界の精緻さと現代との類似が読者に物凄いインパクトを与える。
    しかし、気分は悪い。まどろっこしい民主主義やヒューマニズムや弱者と根気良く付き合うことを苦痛に感じることは、誰しも確かにあるんだろうが、その感情を正当化するのは、同時に弱者である自分の首を絞めることだ。その事に多くの弱者が無自覚なのは、本当に何でなんだろ。若者の間でのニーチェ流行りも何でなんだろ。などなど、色々考えさせられる作品。

  • ただ一言、「”本当に”面白かった」。”本当に”面白いって言える小説は数少ない。まず、考慮すべきなのはこれが1987年に出版されたこと。当時は冷戦があり、資本主義⇔社会主義という二極化した世界にあった(まぁ終結しかかっていたけど)。「ザ・セブン」に描かれているようなアメリカの巨大企業が政治を牛耳るような世界観が描かれていた。日本にも不況の波が押し寄せ、ストライキが相次いでいた。そんな中で「テロ」という過激な手段を使い、ファシズムと罵られながらも、トウジをはじめとした狩猟社は日本の中枢に近づいて行く。
    これを読んでいる最中、自分は「Occupy Wall Street Movement」のことを思いながら読んでいた。当時の村上龍がここまで予想していたとは思えないが、『愛と幻想の〜』で描かれている世界観は非常に現状の世界情勢と似通っている部分が多い。"We are the 99%!"と声高に叫び、金融の中枢であるウォール街に多くの若者、失業者が押し寄せている。トウジは「弱者は滅べるべき」という、非常にシンプルなダーウィニズム的主張を唱える。それが仮に正しいのなら、Occupy Wall Streetに参加している人たちは弱者であり、いずれ淘汰される人ということになる。本当にそれは正しいのか?
    非常に残念ながら、この作品の結末は狩猟社がクーデターなどを経て、日本の中枢に達し、これから日本を動かして行くというところで終わっている。小説でも最終的に強者が弱者を駆逐し、世界がシンプルに二分されるところまで行っていない。現実は小説と違って、終わりが無い。だとするとこれから世界が進む方向こそ、この小説で描ききれなかった”続編”ということになるのかもしれない。

  • 作家の想像力は現実を超え、未来を先取りする。
    「ディープフェイク動画」も、そういう名称ではないが、すでに本作に登場している。

  • 5日くらいで下巻を読み終えたが、気持ちのいい読了感!
    難しい内容だけど、ちんぷんかんぷんじゃなかったのが嬉しい(^^)

    各国の情勢、民族性、歴史を学んで、知識を付けてその国々の人達の立場に立ったら、龍さんみたいに新しい歴史のストーリーを描けるのかなぁ、すごいなぁと圧倒された作品でした。

    でも、この作品ほど極端でないにせよ、
    国よりも企業が力を持つ社会や、初めは不快だが周りを巻き込む人間、とか
    最近の国際問題と近いものになってきていると思う。

    軍事や化学兵器だけじゃなく、情報操作も脅威になるとか、何も分からず踊らされちゃダメだなぁとか、
    基本的な事だけど、前よりも生活に危機感を持てるようになりました^^;

  • うーーーん。長かった割にはあまり面白く読めなかった。むしろよく読み切ったな自分という感じ。

    弱肉強食という徹底したネオリベ的思想の下での若者によるファシズム、世界経済を牛耳る企業集団ザ・セブン、などのコンセプトは面白いものの、その政治過程や経済メカニズムの中身や展開があまり充実していないというか。政治経済小説でありながら、知的興奮を伴うような政治経済のダイナミズムを感じることができなかった。
    『僕らの7日間戦争』をただスケールアップさせた結果密度がスカスカになった、というような印象。ゼロの役割もいまいち理解することができなかった。

  • 上巻に同じ

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著者プロフィール

1952年長崎県生まれ。76年に『限りなく透明に近いブルー』(第75回芥川賞受賞)でデビュー。2003年には、514の職業を紹介した『13歳のハローワーク』が125万部を超えるベストセラーに。財政破綻した近未来日本を舞台にした『半島を出よ』(05年)では野間文芸賞を受賞。10年には『歌うクジラ』(毎日芸術賞)を電子書籍として刊行。 近著に『55歳からのハローライフ』、『オールドテロリスト』などがある。16年に『日本の伝統行事 Japanese Traditional Events』を刊行。

「2018年 『収録を終えて、こんなことを考えた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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