御手洗潔の挨拶 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.47
  • (140)
  • (313)
  • (661)
  • (37)
  • (4)
本棚登録 : 2903
感想 : 250
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061849433

作品紹介・あらすじ

嵐の夜、マンションの十一階から姿を消した男が、十三分後、走る電車に飛びこんで死ぬ。しかし全力疾走しても辿りつけない距離で、その首には絞殺の痕もついていた。男は殺されるために謎の移動をしたのか?奇想天外とみえるトリックを秘めた四つの事件に名探偵御手洗潔が挑む名作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「犯罪研究が趣味の占星術師」から「星占いが趣味の犯罪研究家」となった、「私立探偵・御手洗潔」の名刺代わりとなる四つの事件……、という感じかな。

    『数字屋』
    「この光の底に、何千という孤独な魂が棲んでいる」
    孤独で純真な魂をもつ少年と、少年に対しての罪を背負ってしまった御手洗潔。悲しいクリスマスの夜のはずなのに、少年は幸せそうで。
    謎解きというよりも感傷的な余韻が強く残った、いちばん印象的だった作品。
    御手洗潔がコーヒーを飲まなくなった理由がここにある。
    高橋元吉の詩『十五の少年』が、ふと頭をよぎる。

    『疾走する死者』
    御手洗潔のすっごいギターテクニックが披露される嵐の夜。『数字屋』のときのセンチメンタルな御手洗潔は影を潜め、周囲の人たちに対してかなりぞんざいな態度である。

    『紫電改研究保存会』
    シャーロック・ホームズの『赤毛連盟』を彷彿させる。めちゃくちゃ悔しいのに、なんだか笑えて爽やかに終わる。これも「御手洗 潔」の名前のおかげか。

    『ギリシャの犬』
    いちばん面白く読めた。誘拐もの。誘拐を扱ったミステリは御手洗シリーズとしては珍しいらしい。
    犬好きな御手洗潔を思う存分見られる。
    御手洗のファンに女性が多いことに愕然とするワトソン役の石岡。御手洗が解決した事件を作家として執筆する彼は、いちばん身近で御手洗の変人ぶりを見てるので信じられないようである。
    御手洗自身は女性にはとんと興味を示さない。
    「結婚するなら犬の方がいい」

    以上をもちまして、「御手洗潔の挨拶」に代えさせていただきます……なんてね。


    昨年は全然読めなかったミステリを今年は読んでいこう。
    以前感想を書いたブックガイド『本格ミステリ・クロニクル300』では、1987年から1995年までの日本の本格ミステリ作品が300冊選定されている。時代は昭和から平成へ。
    さて、わたしは昭和の雰囲気が色濃く残るミステリが好きなので80年代作品から読んでいくとしようか。

    新本格元年といわれる1987年。
    紹介されているのは、『十角館の殺人』(既読)、『御手洗潔の挨拶』、『そして扉が閉ざされた』(既読)、『地獄時計』。

  • フォローしている方のレビューを読んで久しぶりに読みたくなった。
    実際に読んだのは単行本だが、文庫本しか登録出来なかったのでこちらでレビューを書く。

    雑誌掲載が1985年~1987年なので、もう四半世紀も前の作品なのだが良い作品は何度読み返しても時代が古くても楽しい。
    この頃の御手洗が一番好き。傲岸不遜でクセが強く周囲を振り回すという、いかにもな探偵キャラクターなのだが彼をフォローする石岡の存在もあって楽しく見守ることが出来る。

    「数字錠」
    3つの数字を組み合わせたリング状の錠前がネックとなり二人の容疑者を逮捕出来ないと嘆く刑事。しかしトリックは斜め上。現代ではルール上できないだろうが。
    だが事件の肝はトリックではなく、背景にある哀愁。これ程優しい御手洗はなかなか見られない。何しろこの事件を機に、コーヒーは飲まなくなるのだ。

    「疾走する死者」
    読者への挑戦状付き作品。台風の夜、マンションの十一階から駆け降りた筈の男が、僅かな時間で道路を隔てた高架線路上で他殺体となって発見される。
    こちらは純粋にトリックを楽しめる…筈が、台風が鍵だった。
    そうそう、御手洗はギターの腕も上等だったことを思い出す。事件をサクッと解決してチック・コリアのライブ放送に間に合わせるとは、さすが。

    「紫電改研究保存会」
    突然現れた謎の男に〈紫電改研究保存会〉から資料を送る宛名書きを頼まれた新聞記者。半ば強制的にやらされたあの半日の出来事は何だったのか…。
    シャーロック・ホームズシリーズの『赤毛同盟』を彷彿とさせる話なのだが、新聞記者の被害が意外で、そのためにここまでするかという設定が面白い。それにしても大事な情報はくれぐれも取り扱い注意。

    「ギリシャの犬」
    少年の誘拐事件に乗り出す御手洗。手掛かりは事件前に起きた、たこ焼き屋の店舗小屋消失事件と盲導犬毒殺事件と謎の暗号メモ。
    御手洗が一人先回りし、石岡や刑事たちはただ犯人と御手洗に振り回されている。事情が分かっているなら説明してあげたら良いのに…と思うが、それをやったら小説にならない。
    御手洗がもう一つ優しい相手が犬だということが分かる作品でもある。
    事件は少年探偵団シリーズみたいで面白い。

    • fuku ※たまにレビューします さん
      おじょーさん♪
      コメントありがとうございます。
      私もフォローしている方のレビューを読んで懐かしくて読んだのですが。やはりこの頃の御手洗は...
      おじょーさん♪
      コメントありがとうございます。
      私もフォローしている方のレビューを読んで懐かしくて読んだのですが。やはりこの頃の御手洗は良いですね。長編も良いですが、このような短編集も好きです。
      2022/02/20
    • 地球っこさん
      fukuさん、こんにちは。

      わたしはこの短編集が“初”御手洗シリーズでした。
      短編のミステリを、これだけ面白く描けるのはすごいですね。

      ...
      fukuさん、こんにちは。

      わたしはこの短編集が“初”御手洗シリーズでした。
      短編のミステリを、これだけ面白く描けるのはすごいですね。

      これからゆっくりシリーズを読んでいきたいと思います。
      2022/02/20
    • fuku ※たまにレビューします さん
      地球っこさん♪
      コメントありがとうございます。
      こちらが初でしたか。
      短編集から入るのも良いですね。
      私は確か『占星術~』だったよう...
      地球っこさん♪
      コメントありがとうございます。
      こちらが初でしたか。
      短編集から入るのも良いですね。
      私は確か『占星術~』だったように記憶しています。
      シリーズ作品を楽しんで下さい(^_^)
      2022/02/21
  • 「御手洗潔」を知る一冊。
    (数字錠)での「御手洗潔」に胸アツになりました。
    これまで占星術殺人事件、斜め屋敷の犯罪、異邦の騎士と順番通りに読んできましたが、私には何処となく、ぼんやりというかモノクロの人物でした。
    この一冊を読んで「御手洗潔」に温かい血が通って、色彩を持ったような感覚です。
    ダイナミックで一歩間違えると・・・なトリックの(疾走する死者)で石岡君に掛けた「懐かしかったろう?」の一言。 いいですよね。
    何処となく、かの有名な同盟を思い出す(紫電改研究保存会)や、犬好きが微笑ましい(ギリシャの犬)も楽しめました。

    「御手洗潔」が読まれる理由が判った気がします。
    あと、巻末の新・御手洗潔の志は必読です。

  • 御手洗潔「挨拶」代わりの読み易い作品。
    数字錠:密室殺人。コーヒーを飲まない理由。
    疾走する死者:建物から電車に飛込む死体
    ギリシャの犬:誘拐事件と暗号。スッキリ爽快。

  • シリーズ3作目。
    4つの短編からなる。
    どうやったのかを解くミステリ。
    殺人、詐欺、誘拐と幅広い。
    ホームズっぽかったです。

  • 御手洗シリーズ好きにはたまらない、奇抜なトリック、淡々とした名推理、愛すべき一冊になりました。

  • 御手洗潔先生と島田荘司先生の両翼から戴く名刺的小説。頂戴しました。

  • 絞殺死体が全力疾走して電車に飛び込む事件。全員がアリバイのある不可能密室殺人事件。会ったこともない男に、封筒の宛名書きをさせられる事件。犬と暗号とタコ焼き屋と子供の誘拐事件。奇想天外にして巧妙なトリックを秘めた事件に御手洗潔が挑む。

    御手洗潔シリーズ第三弾。今回は四つの事件に挑む短編集。四つの事件を通して、変人(?) 御手洗潔とは、どういう人物なのかを掘り下げたエピソードが揃っている。

    特にお気に入りの事件は、”数字錠”。いかに御手洗潔という人物が魅力的なのか、が詰まったお話。

    「こんな罪まで、暴かなければならなかったんだろうか。」

    御手洗潔の人柄、情の深さ、優しさの深さを知れるとともに、事件を解決することの苦悩や葛藤を見事に表現されている。御手洗潔がコーヒーを飲まなくなった理由も明らかに…!

    また、絞殺死体が全力疾走して電車に飛び込む事件のような想像するだけでワクワクできるような殺人事件もあれば、現場に残された暗号から子供の誘拐事件を解決するといった、探偵者っぽい内容のものも含まれていて、ミステリ作品として大満足の一作でした。

    「占星術殺人事件」、「斜め屋敷の犯罪」ときて、本作「御手洗潔の挨拶」まで読まれた方は、誰もが”御手洗潔”の虜になっていること間違いなしです。興味があれば、ぜひ、手に取ってみてくださいね。

  • 島田荘司全集より。御手洗シリーズ最初の短編集。女性にモテてギターも上手いスーパーマン御手洗潔のキャラクターが際立っている。
    疾走する死者は不可能犯罪ものの本格の代表作では。全集を読んでいると、島田荘司という作者の方が個性的だと感じる。

  • 御手洗潔シリーズ3作目は短編集。マンションの11階から消えた男が13分後に電車に飛び込む。しかも首には絞殺の痕。絶対に間に合わない距離を彼はなぜ移動したのか。『疾走する死者』など4作を収録。

    謎を追う面白さはもちろん、事件の中で御手洗の人となりが浮き彫りになるところが一番の魅力。権力には屈せず、弱き心に寄り添い、人よりも犬が大好きで、ギターの技術はプロ顔負け。破天荒だと思っていた彼の性格こそ、実は人々が忘れかけている大事な人間性ではないかと思った。

    『数字錠』で見せた御手洗の苦悩は味わい深い。東京タワーからの景色について語るこの言葉が好き。
    「あの光のひとつひとつが照らす場所に、それぞれ人間の生活がある。今夜、百万ものケーキにみなが向かい合っているだろう。しかし、ケーキなどとは無縁の場所で、悲鳴をあげている人間もいる。僕らの耳が貧弱だから、その声が聞けないだけだ」

    『疾走する死者』も驚きのトリックでそんなのあり?!ってなった(笑) 『斜め屋敷の犯罪』と同様、このトリックはずっと忘れられないインパクトがある。エキセントリックなトリックながら、それでもいいかと飲み込ませてくれる面白さもある。御手洗が推理を始めたきっかけも面白い。

    『紫電改研究保存会』は40ページほどの作品ながら、巧妙に張られた伏線が魅力。不可解すぎる来客・尾崎の謎は予想外のところでまとまって驚いた。読後感も爽やかで、気持ちよく騙される作品。

    『ギリシャの犬』はたこ焼き屋のお店が盗まれた事件に始まり、依頼者の息子が誘拐されるという大がかりな事件へと展開していく。川を舞台にした犯人との緊迫したやり取り、そこに効いてくる謎の暗号や犬の存在と二転三転する物語に引き込まれた。最後にキッチリと伏線回収もしてくれて清々しい読後感。

    ぼくは御手洗シリーズを順番に読んでるけど、『占星術殺人事件』から読んでもいいし、この作品から読み始めてもとっつきやすくていいと思う。それにしても、島田先生から挑戦状を毎度突き付けられるけど、ぼくには解ける気がしない(笑) 解ける人いるのかな。

全250件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1948年広島県福山市生まれ。武蔵野美術大学卒。1981年『占星術殺人事件』で衝撃のデビューを果たして以来、『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』など50作以上に登場する探偵・御手洗潔シリーズや、『奇想、天を動かす』などの刑事・吉敷竹史シリーズで圧倒的な人気を博す。2008年、日本ミステリー文学大賞を受賞。また「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」や「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」、台湾にて中国語による「金車・島田荘司推理小説賞」の選考委員を務めるなど、国境を越えた新しい才能の発掘と育成に尽力。日本の本格ミステリーの海外への翻訳や紹介にも積極的に取り組んでいる。

「2023年 『ローズマリーのあまき香り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

島田荘司の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×